2025.12.02更新

はじめに

医療による処置のことを、日本語では昔から「手当て」と言います。

薬や高度な医療機器がなかった時代から、人は痛む場所や患部に「手を当てる」ことで、苦痛や不安が和らぐことを本能的に知っていたのでしょう。

今回は、 手という「愛」を伝える最高の医療器具について、少し科学的な視点からお話ししたいと思います。


大切な人に「愛」を伝える方法


皮膚は「第2の脳」。癒やしのスイッチ「C触覚線維」とは

受精卵がお母さんのお腹の中で成長していくとき、皮膚と脳は「外胚葉(がいはいよう)」という同じ細胞層から生まれます。つまり、皮膚と脳は兄弟のような関係であり、生物学的に「皮膚は露出した脳である」とも言われます。

私たちの皮膚には、痛みや温度を感じるセンサーとは別に、「優しく触れられることを専門に感知するセンサー」が存在することをご存知でしょうか?

それがC触覚線維(シーしょっかくせんい)と呼ばれる特殊な神経です。

このセンサーは、ただ触れるだけでは反応しません。スイッチが入る条件はとても繊細です。

⭐️柔らかいタッチであること(文献1)
⭐️毎秒1〜10cm程度の、ゆっくりとした速度であること(文献1)

例えば、泣いている赤ちゃんの背中をさするときや、愛しい人の頭を撫でるとき、私たちは無意識にこの「ゆっくりとした速度」になっていないでしょうか?

この条件で肌に触れられると、その信号は、通常の触覚とは異なる特別な経路を通って、情動を処理する脳の領域へ届き、深い幸福感や安心感がもたらされるのです。(文献2)。


オキシトシンは「愛情」ホルモン

C触覚線維というスイッチが入ると、脳内では「オキシトシン」というホルモンが分泌されます(文献3)。

オキシトシンは別名「愛情ホルモン」とも呼ばれ、ストレスを軽減し、情緒を安定させるために非常に重要な役割を果たします(文献4)。

現代社会で私たちは日々、多くのストレスにさらされ、知らず知らずのうちに「コルチゾール」というストレスホルモンが過剰になっています。 しかし、大切な人と触れ合い、オキシトシンが分泌されると、このコルチゾールの働きが抑えられることが医学的にわかっています(文献5)。

誰かに背中をさすってもらうだけで、張り詰めていた気が緩んで涙が出たり、肩の荷が降りたように感じたりするのは、決して気のせいではありません。「触れる」という行為そのものが、脳に対する抗ストレス薬のような働きをしてくれるのです。

年齢を重ねても衰えない「触れ合い」の感覚

医師として、私が特に感動を覚える人体の不思議があります。

それは、視力や聴力が加齢とともに低下していくのに対し、この「C触覚線維」の感度は、高齢になっても衰えにくいという研究結果があることです(文献6)。

さらに、年齢とともに皮膚に対する柔らかいタッチへの反応性が高まる(より心地よく感じられるようになる)とも報告されています(文献6)。

目が悪くなっても、耳が遠くなっても、「優しく触れられる心地よさ」や、それによって「愛されていると感じる能力」は、最期まで失われないと言えるでしょう。

これは、人間が社会的な生き物として、人生を通じて「他者との温かいつながり」を必要としているから……神様が私たちの身体をそのようにプログラムしたのではないか、とさえ思えます。


大切な人へ、言葉を超えた「手当て」を

ご家族やパートナーが、言葉によるコミュニケーションが難しい状況に——例えば、認知症が進んでしまったり、病気で会話がままならなくなったりすることもあるかもしれません。

そんな時、「言葉が届かないから」と諦めないでください。

ゆっくり背中をさする・・手を握って、じっと温かさを伝える・・その毎秒数センチの優しいタッチ(医学的に最適は毎秒3センチ)は、C触覚線維を通じて、言葉よりも確実なメッセージとして相手の脳に届いています。あなたが伝えたい「愛」や「感謝」の気持ちは、間違いなく伝わっています。


まとめ

私たちは医師として、薬を処方したり手術をしたりすることはできますが、ご家庭の中で皆様が大切な人にできる「手当て」の効果には及ばないと感じることも数多く経験しています。

マッサージの特別な技術は必要ありません。 ただ、あなたの想いを込めて、ゆっくりと手を当ててさすってあげましょう。


【参考文献】

1 CT afferents
Morrison I
Curr Biol
2012 Feb 7;22(3):R77-8

2 C-tactile afferent stimulating touch carries a positive affective value
R Pawling, et al.
PloS one
2017: e0173457

3 C-tactile afferents: Cutaneous mediators of oxytocin release during affiliative tactile interactions?Susannah C Walker, et al.
Neuropeptides
2017 Aug:64:27-38

4 Oxytocin: The love hormone
Harvard Health Publishing
Harvard Medical School, 2025.

5 The Yin and Yang of the oxytocin and stress systems: opposites, yet interdependent and intertwined determinants of lifelong health trajectories
Kerstin Uvnäs-Moberg, et al.
Front Endocrinol
2024 Apr 16:15:1272270

6 Evaluation of Affective Touch: A Comparison Between Two Groups of Younger and Older Females
Carina Schlintl, Anne Schienle
Exp Aging Res
2024 Oct-Dec;50(5):568-576





 

 


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制作・執筆:坂田修治(医師:美容外科・美容皮膚科 青い鳥 院長)
(最終更新日:2025年12月3日)

投稿者: 美容外科・美容皮膚科 青い鳥

2025.11.30更新

はじめに

現代の日本では、女性が脇毛を処理することはマナーや常識のように扱われています。しかし歴史を振り返ると、この感覚が生まれたのは実はごく最近のことです。

今につながる「女性の脇毛処理の常識」ができあがったのは、およそ1910〜1940年代のアメリカです。それ以前は、ごく一部の人だけが宗教的・文化的理由から体毛処理をしていました。

この記事では、1)脇毛の役割、2)古代〜19世紀の例外的な脇毛処理、3)1910〜40年代アメリカでの"常識"形成、4)医学的に検証する「におい」への実際の効果、を紐解いていきます。


本来、脇毛にはどんな役割があるのか

「いっそ全部なくなればいいのに」と思われがちな脇毛ですが、もともとはちゃんと意味があって生えています。

まず、脇毛は皮膚同士がこすれ合う部分で薄いクッションとなり、摩擦をやわらげます。また、汗腺が集中する脇では、脇毛が汗を拡散させることで体温調節や湿度調整に役立っていると考えられています。さらに、においを保持・拡散する役割や、紫外線から皮下のリンパ節を保護し免疫システムに影響を及ぼしている可能性も指摘されています(文献1)。

つまり脇毛は、摩擦・汗・においといった生理的なテーマに深く関わる「機能を持った毛」なのです。それなのに、なぜ私たちは「ない方がきれい」「ない方が女性らしい」と感じるようになったのか。そのギャップを理解するには、歴史をさかのぼってみる必要があります。


古代〜19世紀に見られた「例外的な脇毛処理」

「脇毛処理の歴史」は1910年代のアメリカがスタートとされますが、実際にはそれ以前から限られた人々の間で行われていました。

古代エジプトでは、神官や上流階級が宗教的・衛生的理由から全身除毛を行っており、脇毛もおそらく含まれていたと考えられます。古代ギリシアやローマでも、一部の女性が美意識や階級性と結びつけて脚やビキニラインの毛を処理していた可能性があります。

中世から近代ヨーロッパでは、宮廷社会や舞台芸術で肌を見せる女性たちが露出部位の体毛を整えていましたが、一般的な衣服は長袖で襟ぐりも高く、脇が人目に触れる機会はほとんどありませんでした。

つまり、古代から19世紀までの脇毛処理は、宗教儀礼、上流階級の美意識、特定の職業文化と結びついた、ごく限られた習慣でした。

脇毛処理はこうして常識化した


1910〜40年代アメリカで生まれた「脇毛処理の常識」(文献2)

現代につながる脇毛処理の習慣が誕生したのは、1910年代のアメリカでした。

ヨーロッパの白人文化では伝統的に体毛の除去を控える傾向があったため、ヨーロッパ系移民が多数を占めるアメリカ社会では一般的な習慣ではありませんでした。

しかし、わずか30年ほどで「処理すべきもの」として認識されるようになったのです。

ファッションと産業が作った新市場

この変化を生んだのは、三つの要因の収束でした。男性用カミソリ産業の女性市場への拡大、袖なしドレスなど女性ファッションの「大規模な公開(unveiling)」、そして女性誌の台頭です。

1915年5月、ハーパース・バザー誌に掲載された脱毛パウダー「X Bazin」の広告には、腕を頭上に挙げたノースリーブ姿の女性が描かれ、「夏のドレスとモダンダンスは、不快な毛の除去を必要とする」というメッセージが掲げられました。これは、脇毛処理がまだ「未知の習慣」だった消費者への「教育的」なアプローチでした。

同年7月、ジレット社が女性向け安全カミソリ「ミレディ・デコルテ」を発売。広告では「ファッションは、イブニングガウンはノースリーブであるべきだと述べている...脇の下は顔のように滑らかでなければならない」と訴えかけました。こうして1920年代には脇毛処理がアメリカ社会に浸透し、1940年代にはほぼ「常識」として確立されたのです。

デオドラント広告が煽った「におい不安」

もう一つの重要な要因が、デオドラント業界のマーケティング戦略です。

1919年のオドロノ社の広告「女性の腕のカーブの内側で」は、「女性が自分の体臭に気づかずに社会的に拒絶される可能性がある」という不安を巧みに煽り、売上を増加させました。

デオドラント広告は、無毛の脇と無臭をセットで理想化し、「体臭は社会的不利益」という新しい価値観を作り出したのです。

「無毛=女性らしさ」という新しい価値観

広告は、脇毛を「不快なもの」、「恥ずかしいもの」、「見苦しいもの」と否定的に表現する一方、毛のない女性を「魅力的」、「女性らしい」、「衛生的」、「清潔」と称しました。

脱毛製品の消費を通じて達成できる「新しい女性らしさ」のモデルが提示されたのです。この時期は、女性の身体認識に「深い変化」が起きた時代でもありました。歴史家Brumbergが述べるように、「1920年代には、身体そのものがファッションとなった」のです。女性は道徳や人格だけでなく、外見の提示にも焦点を当てるようになりました。

社会心理学の研究によれば、こうして形成された「無毛=女性らしさ・若さ・清潔」という意味付けは、広告・メディア・ファッション業界が一体となって作り上げた社会的構築物であることが、多くの学術研究で指摘されています。

つまり、女性の脇毛処理の「常識」は、生理的必然ではなく、産業界が主導して、上流階級の消費者の影響を受けて生まれた、比較的新しい規範なのです。


医学が証明する「におい」への実際の効果

脇毛を処理することで、脇の体臭を短期的には抑えることができるとされますが、その効果は24時間後までは持続するものの、その後急速に減少することが示されています(文献3)。

日本人女性82名を対象とした研究では「高頻度・中頻度・低頻度の剃毛群間で脇のにおいの強度に有意差は認められなかった」と報告されていて、剃毛頻度と腋のにおいの軽減の関連性は低いことが示唆されています。

こうしたことから実際的には、脇毛の処理でにおいの軽減を期待するのは無理と言えるでしょう。


おわりに:脇毛が“嫌われる”ようになった背景を知ることは、自分の選択を楽にする

脇毛は本来、「機能を持った毛」です。

一般の女性が「脇毛を処理するのが当たり前」と考えるようになったのは、20世紀に入ってから、アメリカのファッションと広告、デオドラント産業が連携するかたちで「脇毛=恥ずかしい」「無毛=女性らしさ」という物語を作り上げていったからです。

この歴史を知ることは、「だから毛を残そう」という単純な結論のためではありません。

ただ、「自分がいちばんラクで、気分よく過ごせる脇ケアは何か」を考えるきっかけとされてはいかがでしょうか。


【参考文献】

1)  A moat around castle walls. The role of axillary and facial hair in lymph node protection from mutagenic factors
Svetlana V Komarova
Med Hypotheses
2006;67(4):698-701

2)  Hair or Bare?: The History of American Women and Hair Removal, 1914-1934
Kirsten Hansen
https://history.barnard.edu/sites/default/files/inline-files/Hansen_HairOrBare_2007.pdf

3)  A comparative clinical study of different hair removal procedures and their impact on axillary odor reduction in men
Anthony Lanzalaco, et al.
J Cosmet Dermatol
2015 Dec 10;15(1):58–65

4)  Characteristics of Axillary Odor in the Modern Japanese Female
Ayumi Kyuka, et al.
J Soc Cosmet Chem Jpn
2017;51(2):147-152



 


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制作・執筆:坂田修治(医師:美容外科・美容皮膚科 青い鳥 院長)
(最終更新日:2025年11月30日)

投稿者: 美容外科・美容皮膚科 青い鳥

2025.11.29更新

【はじめに】冬の不調、実は「暖房病」かも?

暖房の効いたオフィスにいると、頭がぼーっとしたり、肌が粉を吹いたりしていませんか?

その症状、医学的な診断名ではありませんが、通称「暖房病」と呼ばれるものかもしれません。暖房病とは、暖房による「乾燥」と「頭寒足熱の逆転(のぼせ)」によって生じる不調の総称です(文献1)。

この記事では、多くの方が悩む「暖房病」の正体と、砂漠レベル(湿度30%以下)の過酷な環境から肌を守る「医学的な解決策」を、美容皮膚科医の視点から解説します。


【基礎知識】「暖房病」とは?肌と体に起きるSOS

暖房病は正式な疾患名ではありませんが、冬季に室内暖房の使用によって生じるさまざまな体調不良の総称として広く知られています。

暖房病の主な症状
⚫️皮膚の乾燥・かゆみ(最も多い)
⚫️鼻・喉の乾燥
⚫️頭痛・めまい・吐き気
⚫️倦怠感・集中力の低下

皮膚症状は、呼吸器症状と並んで最も多く見られる症状です。

暖房病

医学的視点
冬季には乾燥性皮膚炎(皮脂欠乏性湿疹)の患者が増加し、皮膚科外来で多く見られる疾患の一つとなります。特に高齢者では70%以上に皮膚乾燥が認められており(文献2)、加齢に伴い皮膚科を受診する患者数も増加傾向にあります。

呼吸器症状と並んで、乾燥性皮膚炎や「肌枯れ」リスクが急増する季節といえます。


なぜ暖房で肌がボロボロに?恐怖のメカニズム

オフィスの現実は砂漠以上
冬の空気はもともと含有できる水分量が少なく乾燥しがちですが、暖房によって空気を温めると相対湿度はさらに低下します。暖房使用時の室内湿度は20〜30%まで低下することも珍しくありません。これはサハラ砂漠並みの乾燥度です。

肌内部で起きていること
乾燥肌のケアは単なる美容の問題ではなく、炎症性皮膚疾患の予防という意味において重要な医学的意義を持ちます(文献2)。

適切な保湿ケアとスキンケアにより、皮膚バリア機能を維持することが、炎症の予防に直結します。

乾燥肌を放置すると、「乾燥→微小亀裂→炎症→かゆみ→掻破→さらなるバリア破綻」という「かゆみ‐掻破(そうは)サイクル」の悪循環に突入し、肌のダメージが進行してしまいます。

特にアトピー性皮膚炎や敏感肌の方、50代以降の女性(皮脂量低下)は、暖房環境下での肌ダメージを受けやすい傾向があります。


あなたは大丈夫?「暖房病」肌リスクチェック

以下の項目に当てはまるものはありませんか?

✅夕方になるとファンデーションが粉を吹く
✅室内に入ると顔がほてる(赤ら顔予備軍)
✅いつもの化粧水がしみる(敏感肌化のサイン)
✅唇が常に乾いている
✅水分をあまり摂らない(隠れ脱水のリスク)

複数当てはまる方は、暖房病による「肌枯れ」リスクが高い状態かもしれません。


【実践編】自分でできる「暖房病」の治し方・対策

環境対策

理想の湿度は40〜60%です(文献3)。この範囲は単なる快適性の問題ではなく、感染症予防や皮膚バリア機能の維持に重要な医学的意義を持ちます。

◉加湿器の活用:自動湿度制御機能付きがおすすめ。週1〜2回の清掃で雑菌繁殖を防止しましょう。
◉加湿器がない場合の裏技:濡れタオルをデスク近くに干す、デスクに水の入ったコップを置く、観葉植物を配置するなどの方法も効果的です。
◉換気も忘れずに:30分に1回程度、2方向の窓を数分全開にすることで、CO₂濃度を下げて倦怠感を軽減できます(文献4)。室内のCO₂濃度が1000ppmを超えると眠気や注意力低下が起こりやすくなります(文献5)。

スキンケア対策(保湿)
成分選び:「セラミド」、「ヘパリン類似物質」、「ナイアシンアミド」など、バリア機能を修復する成分を含む保湿剤を選びましょう。
回数:1日2回、全身に保湿剤を塗るのが保湿ケアの基本です。
タイミング:入浴後は皮膚からの水分蒸散が急増するため、素早い保湿が重要です。
日中のケア:オフィスでも乾燥を感じたら、こまめに保湿剤を使用しましょう。

インナーケア
冬は「喉が渇きにくい」のに「水分は失われやすい」ため、医学的にも隠れ脱水が増える季節です。特に暖房の効いた室内は湿度が20〜30%まで下がることもあり、皮膚や呼吸からの水分蒸散が進みます。

喉の渇きは脱水が始まった後に現れるため、"口渇前のこまめな飲水"は医学的にも推奨されます。ただし1日の必要量は個人差があり、目安は1.2〜1.5L前後が一般的です。


暖房病インフォグラフィック


【まとめ】「暖房病」から肌を守るために

暖房病はただの乾燥ではありません。肌のバリア破壊です。
「たかが乾燥」と放置せず、以下のポイントを意識しましょう。

⭐️室内湿度40〜60%を維持する
⭐️バリア修復成分(セラミド、ヘパリン類似物質、ナイアシンアミドなど)を含む保湿剤を使う
⭐️こまめな水分補給で「隠れ脱水」を防ぐ
⭐️肌とは直接関係ありませんが、換気してCO₂濃度を下げ、倦怠感を予防することも忘れずに
どうしても辛い症状が続く場合は、早めに医療機関でご相談ください。適切なケアで、冬の肌を守り抜きましょう。


【参考文献】
1  広報いけだ 2024年12月号
https://mykoho.jp/koho/272043/9031882/page/3

2 皮脂欠乏症診療の手引き (2021)
皮脂欠乏症診療の手引き作成委員会
日本皮膚科学会誌
2021;131(10):2255-2270

3 Indirect health effects of relative humidity in indoor environments
A V Arundel, et al.
Environ Health Perspect
1986 Mar:65:351-61

4 換気の悪い密閉空間を改善するための換気の方法
厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000618969.pdf

5 建築物環境衛生管理基準の検討について
厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/content/11130500/000771215.pdf

 

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制作・執筆:坂田修治(医師:美容外科・美容皮膚科 青い鳥 院長)
(最終更新日:2025年11月29日)

投稿者: 美容外科・美容皮膚科 青い鳥

2025.11.23更新

はじめに

1970年代から80年代にかけて、日本中を席巻した「小麦色の肌」ブームをご存じでしょうか。あるいは、懐かしく思い出される方もいらっしゃるかもしれません。こんがりと焼けた肌は、健康的でアクティブなライフスタイルの象徴として、多くの若者の憧れでした。

しかし、このブームの終焉は、単なる流行の移り変わりではありませんでした。それは、私たち日本人が科学的な知見に基づき、「太陽(紫外線)との付き合い方」を変化させてきた歴史の表れでもあったのです。


欧米文化への憧れと「小麦色の肌」の時代

そもそも、なぜあの時代にこれほどまで日焼けが礼賛されたのでしょうか。

1970年代から80年代にかけて、日本で「小麦色の肌」が流行した理由の一つは、欧米の文化の影響でした。海外旅行が一般的になり、アメリカやヨーロッパの健康的でアクティブなライフスタイルが注目され、日焼けした肌がその象徴として受け止められました。

特にファッション誌や広告では、日焼けしたモデルが登場し、サーフィンやテニスといったアウトドアスポーツも人気を博しました。これにより、日焼けは「健康的」「活発的」といったポジティブなイメージを持たれるようになったのです。

かつての「小麦色の肌」ブーム 


「日光浴」から「外気浴」へ:母子手帳が語る変遷

その後、私たちの日光に対する認識がどのように変化したのか、その歴史を端的に物語っているのが「母子手帳(母子健康手帳)」の記述です。

かつて、母子手帳には「日光浴」を推奨する項目がありました。「赤ちゃんは日光に当てて丈夫に育てよう」というのが、当時の常識だったのです。しかし、オゾン層の破壊や紫外線による皮膚がん、そして美容医療の分野でも重視される「光老化(シミ・シワ)」のリスクが科学的に明らかになるにつれ、この常識は覆されます。

そして1998年(平成10年)、母子手帳からついに「日光浴」という言葉が消え、代わりに「外気浴」という言葉が使われるようになりました(文献1)。「直射日光に当たる」ことではなく、「外の空気に触れる」ことへと推奨が変わったことは、日本人が「日焼け=健康」という認識を改め、紫外線防御へと大きく舵を切った好例と言えるでしょう。


2025年、再び見直される「適度な日光」の重要性

それから四半世紀以上が経ち、「徹底した美白・紫外線対策」が定着した現在、再びその揺り戻しとも言える動きが出てきています。過度な紫外線対策による「ビタミンD不足」が、新たな健康リスクとして懸念され始めたのです。

2025年3月、日本小児科学会誌において「乳児期のビタミンD欠乏の予防に関する提言」が発表されました(文献2)。この提言の中では、現代の子供たちのビタミンD欠乏が深刻化している現状を踏まえ、食事やサプリメントでの補給に加え、適度な紫外線を浴びることの重要性があらためて強調されています。

かつての「無防備に焼く」時代から、「徹底的に避ける」時代を経て、現在は「害(光老化)を防ぎつつ、恩恵(ビタミンD)を得る」という、より賢くバランスの取れた付き合い方が求められる時代に入ったのです。


サプリメントだけでは代替できない「太陽の恩恵」

これまで美容医療の現場でも「紫外線は徹底的に避け、ビタミンDはサプリメントで補う」という指導が主流でした。しかし、最新の研究からは疑問が投げかけられています。

2025年の専門家のレビュー(文献3)によれば、日光を浴びることで皮膚で生成されるビタミンDやその関連物質の健康効果は、サプリメントでは完全には再現できないことが示唆されています。

さらに太陽光はビタミンD合成以外にも、以下のような複合的な恩恵をもたらすことがわかってきています。

皮膚からの一酸化窒素(NO)放出による血圧低下作用
免疫系の調整
◉メンタルヘルスへの好影響

実際、紫外線対策の先進国であるオーストラリアでは、単なる「日光回避」から方針を転換しています。UVインデックス(紫外線指数)に基づき、紫外線が強い時は防御しつつ、弱い時は適度に浴びることを推奨する、リスクとベネフィットのバランスを重視したガイドラインが定着し始めています。


まとめ:美容医療の視点から考える「攻めと守り」のバランス

⭐️かつての「小麦色ブーム」から「徹底美白」へ、そして今は「賢い共存」へと、太陽との距離感は進化しています。

⭐️美肌を守るためには紫外線からの「完全防御」という古い考え方を変えることが必要です。そもそも健康な身体こそが「美しい肌」の前提であるということは忘れてはいけません。

⭐️紫外線対策の先進国であるオーストラリアと日本とでは、紫外線の強さや環境も異なるため、日本の気候や日本人の肌質に合わせた、日本独自の「太陽との付き合い方」のガイドラインが必要です。

⭐️ただ避けるだけではなく、光老化のリスクをコントロールしながら、太陽の恵みも賢く取り入れる。それが、これからの時代の美容医療が提案すべき「最適解」なのかもしれません。


 

 

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【参考文献】

1)国民のビタミンD不足を補うための日光照射の勧め(2017年4月10日)
国立環境研究所
https://www.nies.go.jp/whatsnew/20170410/20170410.html

2)日本小児医療保健協議会栄養委員会 "乳児期のビタミンD欠乏の予防に関する提言"
日本小児科学会雑誌
2025;129(3):494-496

3)Beneficial health effects of ultraviolet radiation: expert review and conference report
Uwe Riedmann, et al.
Photochem Photobiol Sci
2025 Jun;24(6):867-893

 

 

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制作・執筆:坂田修治(医師:美容外科・美容皮膚科 青い鳥 院長)
(最終更新日:2025年11月23日)

投稿者: 美容外科・美容皮膚科 青い鳥

2025.11.18更新

はじめに

「ランニングやジョギングをすると、バストの形が崩れて垂れてしまうのでは?」――こうした不安から、本来は健康に良いはずの運動をためらっている女性は少なくありません。

美容医療の専門家として、エビデンスに基づいた正確な情報をお伝えすることで、こうした不安を少しでも軽くし、安心して健康的なライフスタイルを送っていただきたいと考えています。

そこで今回は、「運動とバストの下垂」の関係について、現在わかっている科学的知見を整理しながら解説します。




ランニングでバストは垂れる?


バストの下垂が心配されるワケ

まず、なぜ「運動するとバストが垂れるのでは」と心配されるのでしょうか。

乳房は主に乳腺組織と脂肪組織で構成されており、それらを「クーパー靭帯」と呼ばれる結合組織が支えています。このクーパー靭帯は線維性の組織で、一度伸びたり切れたりしてしまうと、元通りに回復することはほとんどありません。

そのため、「ランニングなどでバストが大きく揺れるとクーパー靭帯が伸びてしまい、それが結果としてバストの下垂につながるのではないか」と考えられているのです。



バストの下垂のリスク要因

では、実際にバストの下垂にはどのような要因が関わっているのでしょうか。

米国の形成外科医による大規模研究では、バストの下垂に影響を与える要因として、次のような項目が挙げられています(文献1)。



主要なリスク要因:
✅加齢
✅22.7キロ以上の大幅な体重減少
✅肥満
✅大きなブラサイズ
✅妊娠回数が多い
✅喫煙歴

この研究では、「上半身の筋トレをしているかどうか」については、バストの下垂のリスク要因にはならないと明確に述べられています。一方で、「ランニングなどの有酸素運動が下垂の直接的な原因となるかどうか」については、はっきりした結論は示されていません。


エビデンスの現状

現時点では、ランニングのような活動が乳房の下垂を引き起こすことを、直接的に実証したエビデンスは存在していません。

本来であれば、「ランニングをしている女性」と「していない女性」を長期的に追跡し、乳房の下垂の程度を比較するような縦断研究が必要です。しかし、そうした研究は行われておらず、そのため「ランニングが原因でバストが垂れる」といった因果関係を断定することはできないのが現状です。


一方で、「運動中にバストにどのくらいの力やひずみがかかっているか」を調べた生体力学的な研究は少しずつ蓄積されてきています。次に、その内容を見ていきましょう。


運動が及ぼすバストへの影響


最近の生体力学研究によると、ランニング時のバストへの機械的ストレスは、バストの体積と強い相関関係があることが分かっています。

具体的な研究データ(文献2)
◉多くの女性:ランニング時のバストの皮膚のひずみは60%未満
◉バストが大きい女性:最大93%のひずみが発生する可能性

この数値が示しているのは、バストが大きい女性の場合、ランニング中に皮膚組織が理論的な耐性限界に近いレベルのストレスを受ける可能性があるということです。

したがって、適切なサポートなしで激しい運動を続けると、クーパー靭帯や皮膚への負担が増え、長期的には下垂のリスクを高める可能性があることは否定できません。

しかし、ここで誤解してはいけないのは、
「リスクがある可能性がある=必ず問題が起こる」
という意味ではない、という点です。

実際には、後述するように適切なスポーツブラを着用することで、これらのリスクを大幅に軽減できることが示されています。


スポーツブラの効果

そこで鍵となるのが、「どのような状態で運動するか」、つまりスポーツブラによるサポートです。

適切なスポーツブラを着用することで、運動時にバストへかかる負担を劇的に軽減できることが、研究によって明らかになっています。スポーツブラは、単なるおしゃれアイテムではなく、女性が安心して運動習慣を続けるため機能性下着”と言ってよい存在です。

研究データが示すスポーツブラの効果:
◉バストの伸展を約80%削減(文献3)
◉85%のケースで運動時の胸部の不快感を軽減(文献4)

つまり、バストサイズに関わらず、自分に合ったスポーツブラを正しく着用すれば、バストへの負担を抑えながら安心して運動を楽しむことができるということです。


体型維持の秘訣は「動くこと」

一方で、「バストが垂れるのが怖いから運動をしない」という選択は、体型維持という観点から見ると、むしろ逆効果になる可能性があります。

下着メーカーのワコールは、40年以上にわたり日本人女性の体型データ(延べ4万人以上)を収集・分析しています。その中で、歳を重ねても体型を維持している女性が約25%存在し、その共通点として「たくさん歩くなどの運動習慣を持つ」ことが報告されています(文献5)。

つまり、有酸素運動を避けることは、バストを含めた全身の体型維持にはマイナスに働く可能性が高いのです。

「揺れが怖いから動かない」のではなく、“適切なサポートをしながら動く”ことこそが、長い目で見たときのバストと体型の味方と言えます。


まとめ:正しい知識で美しく健康的な生活を

最後にポイントを整理します。

⚪️「バストが垂れるから有酸素運動は避けるべき」という考えを裏付ける、直接的な科学的証拠は現時点では存在しません。

⚪️バストが大きい女性では、ランニング時に皮膚やクーパー靭帯へのストレスが高くなる可能性がありますが、適切なスポーツブラを着用することで、その負担を大きく軽減できることが研究で示されています。

⚪️ワコールの長期データからも、体型を維持している女性ほど「よく歩く」「運動習慣がある」と報告されており、運動を避けることはかえって体型悪化やバストの下垂につながりうると考えられます。

⚪️ウォーキング、ジョギング、ランニングなど、できる範囲で身体を動かす習慣を持つことは、健康面だけでなく、長期的なボディラインの維持にも大きなプラスになります。

バストへの不安から運動をあきらめてしまうのではなく、「正しい知識」と「適切なサポート下着」を味方につけて、楽しく体を動かすこと。それこそが、美しく健康的な体型を保つためのいちばん現実的で、科学的なアプローチだと考えています。

 

 

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【参考文献】

1. Breast ptosis: causes and cure
Rinker B,et al.
Ann Plast Surg.
2010;64(5):579-584


2. Do static and dynamic activities induce potentially damaging breast skin strain?
Michelle Norris, et al.
BMJ Open Sport Exerc Med
2020;Jul 14;6(1):e000770

3. Vertical breast extension during treadmill running
J Scurr, et al.
ISBS-Conference Proceedings Archive
2011

4.The Impact of Breasts and Bras on Physical Activity Amongst Women and Girls: A Systematic Review and Meta-Analysis
G Gilmer, et al.
Journal of Women's Sports Medicine
2024;4(1):39-54

5. 日本女性の加齢による体型変化
坂本 晶子
アンチ・エイジング医学
2014;10(6):78-83

 

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制作・執筆:坂田修治(医師:美容外科・美容皮膚科 青い鳥 院長)
(最終更新日:2025年11月18日)

投稿者: 美容外科・美容皮膚科 青い鳥

2025.11.16更新


はじめに

「筋トレでバストの下垂を予防できる」という考えは、美容・フィットネス業界で広く信じられています。

SNSやフィットネス雑誌では、「バストアップエクササイズ」や「美バストを作る筋トレ」といった情報が溢れています。

しかし、この考えは医学的に正しいのでしょうか。

筋トレの効果について最新の医学研究をもとに検証していきます。

筋トレでバストの下垂は防げるか?

直接的エビデンスはない

バストの下垂と筋トレの関係について、医学的なエビデンスは非常に限られています。

いきなり結論から言えば、健康な女性における胸部筋力トレーニングが将来のバスト下垂を予防するかどうかを直接検証した研究は、現時点では存在しません

美容の予防医学において重要な課題でありながら、科学的に未解明の領域となっています。


間接的エビデンスも一つだけ

バストの下垂に対する筋トレの効果を直接測定した唯一の研究は、2016年に発表された減量手術を受けた女性75名を対象とした無作為化試験です(文献1)。

減量手術を受けた女性75名を対象とし
a) 経皮的電気刺激と胸筋トレーニングの併用群
b) 胸筋トレーニングのみの群
c) 何もしない群
の3つにグループに分けて、乳房下垂の改善について検証したところ、経皮的電気刺激と胸筋トレーニングの併用群では乳房下垂は改善しましたが、胸筋トレーニングのみの群では改善は認められませんでした

ただ、この研究は大幅な減量後のバストの下垂に対する治療であり、将来のバスト下垂を予防できるかどうかを検証したものではありません。


なぜ筋トレが役に立たないのか?

バストの形状を維持している主要な構造は筋肉ではありません。バストを支えているのは「クーパー靭帯(Cooper’s ligament)」と呼ばれる繊維組織です。

クーパー靭帯は、乳腺組織を皮膚や胸筋膜につなぎ止める役割を果たしており、バスト全体に網目状に張り巡らされています。この靭帯が伸びたり損傷したりすることで、バストの下垂が起こります。残念ながら、一度伸びたクーパー靭帯は元に戻ることはありません。

大胸筋はバストの土台となる位置にありますが、バスト自体(乳腺組織と脂肪)とは直接的な構造的つながりはありません。つまり、筋肉を鍛えても、バストを持ち上げる効果は期待できないのです。

米国の形成外科医は、乳房の下垂をテーマにした論文の中で、筋トレがバストの下垂予防に役立たない理由を的確に説明しています。

「バストは皮膚とは強く結合していますが、筋肉(胸壁)とはゆるくつながっているだけです。筋トレをしても、バストは筋肉とともに上がる以上に、皮膚とともに落ちていくものなのです(文献2)」


まとめ:筋トレの現実的な位置づけ

バストの下垂予防における筋トレの効果について、医学的には「見た目の補正には役立つが、構造的な下垂の予防・改善を裏付ける証拠はない」という位置づけが適切です。

筋トレによって期待できる効果
✅胸部全体のボリュームアップによる見た目の改善
✅姿勢の改善によるバストラインの印象向上
✅上半身の筋力向上による全体的な体型改善

筋トレでは期待できない効果
✅クーパー靭帯の強化
✅構造的な下垂の予防
✅すでに下垂したバストの根本的な改善


バストの下垂を予防したい場合は、適切なブラジャーの着用、急激な体重変動の回避、禁煙などの生活習慣の改善が重要です。

筋トレは健康維持やボディメイクには有効ですが、バストの下垂予防に関しては過度な期待を持たず、現実的な効果を理解した上で取り組みましょう。


【あとがき】

このブログ記事は、2022年に書いたものをリライトしたものです。2022年と現在2025年で何が変わったかといえば、ズバリ「生成AI」。

今回の記事で、生成AIのなかった2022年には書けなかったことは「直接的エビデンスはない」、「現時点では存在しません。」の部分。


「ないものをない」という「非存在」の証明は極めて難しい。なぜならすべての文献を調べなければ言い切れないからで、そんなことは人間業ではありません。

それが言い切れるようになったのは、生成AIを使った文献検索ツールのおかげです。複数のツール(今回はElicit、Consensus、Connected Papersを使いました)で「非存在」ということになれば、そう言い切ってもいいだろうと判断しています。


【参考文献】

1. Ruiz-Tovar J, Llavero C. Effect of Pectoral Electrostimulation on Reduction of Mammary Ptosis After Bariatric Surgery. Surg Laparosc Endosc Percutan Tech. 2016 Dec;26(6):459-464.​​​​​​​​

2. Breast ptosis: causes and cure
Rinker B,et al.
Ann Plast Surg.
2010;64(5):579-584

 

 

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制作・執筆:坂田修治(医師:美容外科・美容皮膚科 青い鳥 院長)
(最終更新日:2025年11月16日)

投稿者: 美容外科・美容皮膚科 青い鳥

2025.11.15更新


はじめに

判断の誤りの典型に「単なる前後関係なのに因果関係があると判断してしまう」というのがあります。

たとえば洗車をしたら雨が降ってすぐ汚れた経験をしたことから、「洗車をすると雨が降る!」と洗車が原因、雨が結果と思い込むこと。

これくらいバカバカしいとすぐに見透かすことができますが、では「授乳するとバストが垂れる」はどうでしょう?


授乳は乳房下垂の原因にはなりません

「授乳するとバストが垂れる」伝説

実際、世界中に「授乳するとバストが垂れる」伝説はひろまっています。

イタリアの女子高生の30%はそう信じていると回答していますし、ドミニカの女性が早めに母乳育児を切り上げる理由にもなっています(文献1)。

このように「授乳するとバストが垂れる」伝説は、世界中の育児に影響を与えているわけですが、医学的に見て、その伝説はほんとうに正しいのでしょうか?


形成外科・美容外科における「バスト」

バストは形成外科・美容外科における診療分野の大きな柱のひとつ。日本では圧倒的に胸を大きくする豊胸術が行われますが、米国では逆に大きく、垂れた胸を小さく、引き上げる手術がよく行われています。

肥満が社会問題になっている米国では、胃を小さくしたりする肥満に対する手術がよく行われますが、その結果大幅に減量してバストが垂れて、今度はバストの下垂の美容手術を受ける女性も多いそうです。


「何がバストを下垂させているか?」

そんなバストの下垂と日々向かいあう米国の形成外科医から、「何がバストを下垂させているか?」を検討した報告が出されました(文献1)。

それによるとバストを下垂させる原因とされたのは
加齢
22.7キロ(50ポンド)を越える体重減少
肥満
大きなブラサイズ
妊娠回数が多い
喫煙
でした。


「授乳はバストの下垂の原因にならない」


この報告は、「妊娠することで下垂したのであって、授乳したからではない」と、前後関係はあっても、原因と結果の因果関係にはないとしています。

報告した医師は、「授乳でバストが崩れる」ことへの懸念が、先進国で母乳育児する率が高まらない一因になっていると憂慮していますが、「妊娠回数が多いとバストが崩れる」なら、ますます少子化に拍車がかかるのではないかと私は憂慮しています。



(参考文献)
Breast ptosis: causes and cure
Rinker B,et al.
Ann Plast Surg.
2010;64(5):579-584

 

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制作・執筆:坂田修治(医師:美容外科・美容皮膚科 青い鳥 院長)
(最終更新日:2025年11月15日)

投稿者: 美容外科・美容皮膚科 青い鳥

2025.11.13更新

1:はじめに

日本国内での美白スキンケア市場は 2,000〜3,000億円規模と言われますが、さまざまな製品であふれかえっていて、何を選んだらいいか皆様もお悩みではないでしょうか。

そこでエビデンスという視点から見ることで、皆さんの選択をサポートできればという思いで「美白成分ランキング2025」というブログ記事を書きました。

それはかなりの時間と手間暇をかけた労作でしたが、その予備調査の中で最終的にはランキングから漏れたものの、将来有望と思われる成分もありましたので、今回はそれを紹介します。
*ただし、当院では取り扱っていません。宣伝広告の意図はありません。


新しい美白成分メラジル


2:注目成分の紹介〜Melasyl(メラジル)

今回ご紹介するのは、ロレアル社が18年もの研究を経て開発した独自の美白成分Melasyl(メラジル)です。

これまでの美白成分と何が違う?

従来の美白成分の多くは、メラニンを作る細胞(メラノサイト)にある「チロシナーゼ」という酵素の働きを阻害するものでした。

それに対してMelasyl(メラジル)は、メラニン色素の"材料"となる「メラニン前駆体」と結合して、メラニン色素になるのを妨害するという、新しいアプローチをとっています。これにより、メラニン色素を作る細胞にダメージを与えることなく、過剰な色素沈着だけを選択的に抑えることができます。

日本では「2-メルカプトニコチノイルグリシン」という化粧品表示名称で、整肌成分に分類されます。海外では、ラ ロッシュ ポゼの「メラ B3 セラム」などに配合されています。


3:Melasyl(メラジル)に注目する理由

この成分が注目される理由は、大きく分けて「有効性」と「安全性」の両立が期待できる点にあります。

a. 高い有効性

肝斑(かんぱん)治療において、ハイドロキノン4%との直接比較試験(3ヶ月)で同等(非劣性)の改善効果が示されました。さらに、肌への刺激反応はMelasyl(メラジル)群(6.0%)の方がハイドロキノン群(21.4%)より有意に少なかったと報告されています(文献1)。

近年注目されるブルーライト(HEVライト)による色素沈着モデルでも、ビタミンCでは効果が見られなかったのに対し、Melasyl(メラジル)は有意な改善を示しました(文献2)。

b. 非常に高い安全性・忍容性

Melasyl(メラジル)は、メラニンを作る機能を完全に止めてしまうわけではないため、肌への負担が少ない設計と考えられます。

臨床試験を通じて、強い刺激や有害事象の報告が目立たないのが大きな特徴です。特に、アジア人やラテン系、アフリカ系の肌(フィッツパトリックIV〜VI)を含む多様なスキントーンに対しても、良好な安全性と有効性が示されています(文献1〜3)

これにより、従来の成分で刺激を感じやすかった方や、長期間の継続使用(*)を目指す方にとって、現実的な選択肢となる可能性があります。
注意(*) ハイドロキノンには使用期間の制限があります。


4:Melasyl(メラジル)の課題・留意点

美白成分として高いポテンシャルを感じさせるMelasyl(メラジル)ですが、現時点での課題もあります。

a. 入手しにくさと価格
ロレアル社の独自特許成分であるため、2025年現在、配合されている製品はまだ限定的です。そのため、製品はプレミアム価格になりがちです。

b. 香りの問題は「製品次第」
Melasy (メラジル)が配合されたラ・ロッシュ・ポゼのメラ B3 セラムには特徴的な香料が配合されていて、香りに敏感な使用者にとっては強く感じられる可能性があります。ただし、これはMelasy (メラジル)の問題ではなく、製品の処方設計によるものです。

c. 長期的なデータの不足
これまでの試験成績は良好ですが、登場してからまだ日が浅いため、10年、20年といった超長期的な使用データはこれから蓄積されていく段階です。


5:まとめ

✅Melasyl(メラジル)は、従来とは異なるメカニズムで美白効果を発揮する新しい成分として、大きな可能性を秘めています。特に、ハイドロキノンと同等の効果を持ちながら、刺激が少なく、多様な肌質の方にも使用できる点は大きな魅力と言えるでしょう。

✅現時点では入手可能な製品が限られているものの、今後の製品展開次第では、敏感肌の方や長期的な美白ケアを望む方にとって、有力な選択肢となることが期待されます。

✅美白成分選びでお悩みの際は、エビデンスに基づいた情報を参考にしながら、ご自身の肌質に合った成分を選んでいただければと思います。当院でも、皆様の美白ケアをサポートするため、最新の情報収集と適切な治療提案を続けてまいります。



クリニックで取り扱う美白関連製剤

 

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【参考文献】

1) Efficacy and tolerability of a new facial 2-mercaptonicotinoyl glycine-containing depigmenting serum versus hydroquinone 4% over 3-month treatment of facial melasma
Thierry Passeron, et al.
Dermatol Ther
2025;15:2379

2) Topical prevention from high energy visible light-induced pigmentation by 2-mercaptonicotinoyl glycine, but not by ascorbic acid antioxidant: 2 randomized controlled trials
Virginie Piffaut, et al.
Front Pharmacol
202516:1651068

3) Efficacy of a 2-MNG-containing depigmenting serum in the treatment of post-Inflammatory hyperpigmentation
Ann Laure Demessant-Flavigny, et al.
J Cosmet Dermatol
2025;24(2):e16735


 

投稿者: 美容外科・美容皮膚科 青い鳥

2025.11.09更新

0 はじめに

「次世代レチノール」として注目を集めているバクチオール。今回は、バクチオールのマーケティング戦略から実際の効果まで、医学的な視点で客観的に解説します。レチノールが肌に合わなかった方、エイジングケアを始めたいけれど刺激が心配な方に、ぜひ知っていただきたい内容です。

バクチオールはレチノールの代わりになるか?

1 優秀すぎるマーケティング戦略

「バクチオール」というコスメ成分には、「次世代レチノール」、「第二のレチノール」、「レチノールに代わる・・」などのキャッチフレーズがついています。

そのおかげで初めて「バクチオール」を目にした人にも、いかにも効果があるような期待感を与えることに成功しています。

たとえその人がレチノールを知らなくても、少なくとも「従来より進んだ新しい成分」というポジティブなイメージを植え付けることができるでしょう。

この場合、レチノイドの中でも「レチノール」を相手に選んだのがニクい。これがレチナールだと知名度が低いので、消費者の心に響かないし、トレチノインを選ぶとただではすみません。レチノイドはトレチノインを中心にエビデンスが積み重ねられてきているから、すぐに医学論争に発展します。

そこで、「レチノール」。これが感心するほどにちょうどよい。たいていの医師も、「まあ、コスメだから好きなように言わせておくか・・」とスルーしてくれます。

レチノールのイメージを消費者に刷り込ませることで、細かく説明するまでもなく、その効果を消費者に想像させることができます。

実に見事なマーケティング戦略です。

バクチオールの医学的裏付けとなる学術文献(文献1)はメーカーの研究員が書いています。

その題名は
Bakuchiol: a retinol-like functional compound revealed by gene expression profiling and clinically proven to have anti-aging effects
で、タイトルでもレチノールに似た機能(retinol-like functional)を持つと強調しています。

本文に入ると冒頭からひたすらレチノイドの話が展開され、全体的にもレチノールとの類似性をこれでもかと強調しています。最初これを読み終えたとき、レチノールとの類似性を強制的に理解させられただけで、肝心のバクチオールについてはさっぱりわからないという、不思議な気分になりました。

この論文のタイトルにあるa retinol-like functional compoundから「次世代レチノール」、「第二のレチノール」、「レチノールに代わる・・」などのキャッチフレーズが生まれているのです。


2 本当にretinol-likeと言えるか!?

論文では、バクチオールとレチノールは皮膚に作用した時の遺伝子応答で重なる部分があるとして、両者の類似性を主張しています。

ただし、バクチオールとレチノールは構造的に類似性がないし、レチノールを含むレチノイドの特徴であるレチノイン酸受容体との結合は示されていないことから、薬理学的にはまったくの別物です。せいぜい作用機序的に「重なる部分がある」と言えるくらい。

なのでretinol-likeと言えるかといえば、医学的には言い過ぎであり、広告的にはよくできたコピーとなります。


3 実際の効果は?

構造的、薬理学的にはバクチオールとレチノールは別物ですが、以下に挙げた臨床効果における、a. アンチエイジング効果、b. ニキビへの効果は共通しています。


a. アンチエイジング効果
レチノールとの比較研究では、バクチオール0.5%クリーム(1日2回)とレチノール0.5%クリーム(1日1回)が12週間にわたって比較され、小ジワと色素沈着を同程度に減少させました(文献2)。

b. ニキビへの効果
軽度から中等度のニキビ患者を対象とした0.5%バクチオールクリームを12週間使用するパイロットスタディでは、炎症性病変の数が有意に減少し、炎症後色素沈着(PIH)も改善しました(文献3)。

c. 抗アンドロゲン作用
ジヒドロテストステロン(DHT)への変換に関わる酵素を阻害することで、皮脂分泌の増加と微小コメドの形成を抑制できる可能性が示唆されています(文献4)。ただし、人でのエビデンスは十分とは言えません。


4 副作用と安全性

バクチオールとレチノールの比較試験では、レチノール群に皮むけ・ヒリヒリ感が多く、バクチオール群では問題は少なかったと報告されています。バクチオール群で4週時に一時的に赤みが見られた人も8〜12週時には軽快していました(文献2)。

まれな有害事象として、アレルギー性接触皮膚炎が挙げられます。

なお、レチノールなどレチノイドは妊娠中には使用することができません。バクチオールはレチノールとの類似性を強調されていますが、実際には別物なので話は違いますが、妊娠・授乳中のデータは不足しています。製品の注意書きの指示に従って下さい。


5 どんな人におすすめ?

バクチオールは、レチノールの代替品というより、レチノールがどうしても肌に合わない方の「ひとつの選択肢」と位置付けるのが現実的です。

こんな方へ

  • 1.刺激反応のためどうしてもレチノールが使えない
  • 2.敏感肌で刺激を極力避けたい
  • 3.エイジングケアを始めたいが、まずは刺激の少ない製品から始めたい
    *ただし、「刺激の少ない」レチノールを求めてバクチオールに手を出すくらいなら、あくまでレチノールで、ただその使い方を工夫すべきです。



6 まとめ

⭐️バクチオールは「次世代レチノール」という魅力的なキャッチフレーズで注目を集めていますが、その実態はレチノールとは構造的・薬理学的に異なる別の成分です。

⭐️しかし、臨床研究ではアンチエイジング効果やニキビへの効果が確認されており、レチノールと比較して刺激が少ないという大きなメリットがあります。朝晩使用でき、他の成分との併用制限も少ないため、使い勝手の良さも魅力です。

⭐️バクチオールは「レチノールの代替品」ではなく、「レチノールがどうしても合わない方にとっての一つの選択肢」として理解するのが適切でしょう。


ご自身の肌状態に合わせて、適切な成分を選択することが、効果的なスキンケアの第一歩です。



クリニックで取り扱うレチノイド

 

【参考文献】

1 Bakuchiol: a retinol-like functional compound revealed by gene expression profiling and clinically proven to have anti-aging effects
Chaudhuri RK,et al.
Int J Cosmet Sci.
2014;36(3):221-230

2 Prospective, randomized, double-blind assessment of topical bakuchiol and retinol for facial photoageing
S Dhaliwal,et al.
Br J Dermatol
2019;180(2):289-296

3 Applications of bakuchiol in dermatology: Systematic review of the literature
Carolina Puyana,et al.
J Cosmet Dermatol
2022;21(12):6636-6643

4 The Use of Bakuchiol in Dermatology: A Review of InVitro and InVivo Evidence
J Greenzaid,et al.
J Drugs Dermatol
2022;21(6):624-629


 

 

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制作・執筆:坂田修治(医師:美容外科・美容皮膚科 青い鳥 院長)
(最終更新日:2025年11月9日)

投稿者: 美容外科・美容皮膚科 青い鳥

2025.10.09更新

はじめに

お母様やお父様の肌を見て、「少しぶつけただけで皮膚が裂けてしまった」、「紫色のあざができやすくなった」と心配になったことはありませんか?

これらは「皮膚粗鬆症(ひふそしょうしょう)」と呼ばれる、高齢者特有の皮膚脆弱化(皮膚脆弱)現象かもしれません。骨粗鬆症が骨をもろくするように、皮膚粗鬆症は皮膚を構造的に弱くし、わずかな外力でも深刻な損傷を起こすことがあります。

しかし、皮膚脆弱の対策や皮膚萎縮のスキンケアを正しく行うことで、このようなもろくなった皮膚を守り、高齢者の生活の質(QOL)を改善できます。

本記事では、医学的根拠に基づいた皮膚保護とスキンケアの実践法を、家庭でも実践できるようわかりやすく解説します。

高齢者の肌の守り方


なぜ高齢者の肌は“もろく”なるのか

加齢に伴い、真皮のコラーゲンや弾性線維が減少し、軽い摩擦やずれでも皮膚裂傷(スキンテア)や紫斑が生じやすくなります。

また、長期のステロイド外用や紫外線曝露も皮膚萎縮や皮膚脆弱化を促進します。こうした慢性的な皮膚の構造的脆弱性は、“dermatoporosis(皮膚粗鬆症)”として提唱されています(文献1)。

日本でも「スキンフレイル」という概念が導入され、乾燥や弾力低下を中心とした皮膚の予備力低下を全身フレイルと関連づけ、早期の皮膚脆弱対策と皮膚保護の重要性が強調されています(文献2)。


家庭で守る「5つの柱」

1)皮膚を“乾かさない・こすらない”(毎日のスキンケア)

皮膚脆弱スキンケアの基本は、「乾かさない」「こすらない」ことです。

洗浄(入浴)

✅ぬるめ(38~39℃)・短時間で行いましょう。
✅高温浴(40℃以上)は高齢者の失神・溺死リスクが指摘されています(文献3)。
✅石けん成分を含まない低刺激性洗浄料を使い、泡で包むようにやさしく洗います。

高齢者の皮膚はアルカリ性に傾きやすく、固形石鹸などの使用はバリア機能の低下を招きます。弱酸性環境を保つことが皮膚保護につながります。

保湿

日本皮膚科学会の報告によると、高齢者の70%以上に乾燥がみられ、これが皮膚脆弱化の主因とされています(文献4)。

✅入浴後すぐに全身へ保湿剤を塗布し、保湿剤は1日2回を目安に継続しましょう。
毎日の保湿ケアによりスキンテア(皮膚が裂けたり、めくれたりすること)の発生率が約50%減少したという報告もあります(文献5)。

✅保湿剤選びのポイント

有効成分主な製品例作用機序最適な使用状況注意点
ヘパリン類似物質 ヒルドイド 水分を角層に結合・保持 全身の乾燥 出血傾向のある方は慎重に
尿素 ケラチナミン、ウレパール 角質軟化作用 手足、かかとなど角質の厚い部位 傷や炎症部位では刺激感あり
ワセリン プロペト、白色ワセリン 皮膚表面に膜形成 重度の乾燥、敏感部位の保護 べたつきが強い

*保湿剤はこの3種類だけではなくたくさんあり、どれを選ぶかよりも、「塗る量」、「塗る頻度」が重要です。


✅「ティッシュペーパー法」で適量を確認すると、過不足のない塗布量が分かります。

1️⃣保湿剤をぬる
手や足など、かさついているところに、保湿剤をぬります。

2️⃣ティッシュをあてる
 ぬった場所に、ティッシュペーパーを軽くのせます。そっとあててください。

3️⃣ティッシュの様子を見る
すぐに落ちる → ぬる量が少ない
べったりくっつく → ぬる量が多すぎる
少しだけついて残る → ちょうどよい


2)摩擦・ずれ・打撲を減らす(皮膚が裂けたり、めくれたりしないために)

✅皮膚脆弱対策では、皮膚に力を加えない工夫が重要です。
✅衣服は長袖・長ズボン・膝下靴下を基本に、前腕・下腿はチューブ包帯などで保護。家具の角や手すりには緩衝材を装着しましょう。
✅移乗の際は「引きずらずに持ち上げる」ことが鉄則。介助者は指輪・長い爪を避けることも皮膚保護につながります。

これらはISTAP(国際スキンテア諮問委員会)の最新ガイドライン(2018)に基づいています(文献6)。


3)接着剤(テープ・ドレッシング)による皮膚損傷を回避

高齢者の皮膚萎縮対策として、医療用テープ選びは極めて重要です。

✅低外傷性シリコーン系テープを優先(文献7)
✅必要最小限の範囲に貼付し、剥がす際は「低い角度でゆっくり(low & slow)」を徹底
✅リムーバー・バリア膜の併用も有効です。皮膚表面を保護し、剥離時の外傷を軽減します。


4)生活習慣:栄養・水分・日光対策・“低温やけど”防止

✅皮膚の構造を守るには、体の内側からの皮膚脆弱対策も欠かせません。
✅たんぱく質摂取:高齢者は1.0–1.2g/kg/日(文献8)を目安に。
✅水分補給:脱水は皮膚の乾燥と脆弱化を進めます。
✅日光対策:SPF30以上・PA+++以上を使用し、外出中は2時間ごとに再塗布。帽子・衣服・日陰も活用。
✅低温やけど防止:湯たんぽ・カイロの長時間接触を避けましょう(文献9)。


5)服薬・併存症に配慮

✅ステロイド外用・全身投与は皮膚萎縮を助長します。使用部位や期間を最小限に(文献10)。
✅抗凝固薬内服者では紫斑・皮下出血のリスクが上がるため、環境整備による打撲防止が重要です。


まとめ

高齢者の皮膚は、加齢や紫外線、薬剤、慢性的な乾燥などによって構造的に弱くなり、皮膚脆弱・皮膚萎縮・皮膚粗鬆症といった状態を招きます。

しかし、日々の皮膚保護と生活習慣の見直しで、皮膚を守り、再びしなやかさを取り戻すことが可能です。

皮膚脆弱対策のポイントは以下の5つです。

1️⃣皮膚を乾かさず、こすらない
─ 弱酸性洗浄料と1日2回の保湿で皮膚バリアを守る。

2️⃣摩擦やずれを防ぐ
─ 服装・環境整備・介助方法を工夫してスキンテアを予防。

3️⃣テープ・ドレッシングによる損傷を防ぐ
─ シリコーン系製品・リムーバーを上手に活用。

4️⃣栄養・水分・日光・温熱の管理
─ 内側からの皮膚強化と、外的刺激からの保護を両立。

5️⃣薬剤・疾患への配慮
─ ステロイドや抗凝固薬による皮膚萎縮リスクを意識し、医師と連携。

高齢者の皮膚は、「老化だから仕方ない」と思われがちですが、適切なスキンケアと保護で再び強く、美しく保つことができます。ご家庭でのケアが、転倒やスキンテアなどの重大な事故を防ぎ、生活の質を支える第一歩です。


 

関連記事・サイトもお楽しみ下さい

 

【参考文献】

1) Dermatoporosis: a chronic cutaneous insufficiency/fragility syndrome. Clinicopathological features, mechanisms, prevention and potential treatments
Kaya G, Saurat JH
Dermatology
2007;215(4):284-94

2) 地域高齢者に対するスキンフレイルスクリーニングツールの開発と妥当性の評価
飯坂真司, et al.
日本創傷・オストミー・失禁管理学会誌
2018;22(3): 287-296.

3)Effects of Hot Bath Immersion on Autonomic Activity and Hemodynamics Comparison of the Elderly Patient and the Healthy Young
Y Nagasawa, et al.
Jpn Circ J
2001 Jul;65(7):587-592

4) 高齢者における皮脂欠乏性湿疹診療の手引き 2021
日本皮膚科学会
https://www.dermatol.or.jp/dermatol/wp-content/uploads/xoops/files/guideline/131_2255.pdf

5) The effectiveness of a twice-daily skin-moisturising regimen for reducing the incidence of skin tears
Keryln Carville, et al.
Int Wound J
2014 Aug;11(4):446-53

6) Best Practice Recommendations for Prevention and Management of Skin Tears in Aged Skin: An Overview
Kimberly LeBlanc, et al.
J Wound Ostomy Continence Nurs
2018 Nov/Dec;45(6):540-542

7) Overlooked and underestimated: medical adhesive-related skin injuries
Sian Fumarola, et al.
J Wound Care
2020 Mar 1;29(Sup3c):S1-S24

8) ESPEN practical guideline: Clinical nutrition and hydration in geriatrics
Dorothee Volkert, et al.
Clin Nutr
2022 Apr;41(4):958-989

9) 「低温やけど」の事故防止について(注意喚起)
独立行政法人製品評価技術基盤機構
https://www.nite.go.jp/data/000005074.pdf

10) Glucocorticoid-Induced Skin Atrophy: The Old and the New
Elena Niculet, et al.
Clin Cosmet Investig Dermatol
2020 Dec 30:13:1041-1050

 

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制作・執筆:坂田修治(医師:美容外科・美容皮膚科 青い鳥 院長)
(最終更新日:2025年10月10日)

投稿者: 美容外科・美容皮膚科 青い鳥

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