2021.10.20更新

美容皮膚科にはサイエンスとビジネスの2つの側面がありますが、サイエンスの側から見たとき、美白剤のNo.1といえば、ここ数十年ハイドロキノンの王座は揺るぎないものがあります。美白剤のNo.2と目されていたロドデノールは、白斑症で大問題を引き起こし失脚しましたので、No.2は空席のまま。

No.1をハッキリさせることにどんな意義があるのか、No.2でもいいじゃないかという意見もあるでしょう。しかし、学問の世界では、No.1を越える結果を出すことが、その領域の進歩を証明することになります。実はNo.2以下こそどうでもよい存在なのです。

ところが驚くなかれ、美容皮膚科のビジネスサイドでは、「ハイドロキノンの4倍!」とか「ハイドロキノンの17倍!」という美白剤が存在します。


「ハイドロキノンの4倍!」と謳っているのは、シスペラ(一般名システアミン)。
最初に美白効果が報告されたのは1966年。強いイオウ臭があり、長らく商品化を見送られてきましたが、2010年に臭いを抑制する技術開発があり、ようやく日の目を見ました。

シスペラの問題は何より高すぎること。ハイドロキノンより10倍高い。高額な理由が効果があるからではなく、一社の独占販売だからとしかいいようがないことに「胡散臭さ」を感じます。

シスペラを取り扱うクリニックは、「世界的に権威のある学会で発表されている」と自慢していますが、学会発表はエビデンスのうちに入りません。美白剤の優劣は、ほとんどの場合、肝斑に対する有効性で競われ、その肝斑の最新の総説にどう記載されるかで、その美白剤の学問的評価がわかりますが、実はシスペラはひと言も触れられていません。

(余談ですが、最新の総説に登場する美白剤は、ハイドロキノン、アゼライン酸、ビタミンC、それから日本人にとって誇らしいルシノール。ポーラの関係者は喜んでいることでしょう。)

シスペラが本気で美白剤の王座を狙うのであれば、ケチのつけようのない競争の中で奪い取ってみせなければなりません。ただ、独占的に一社が供給する今の状況ではそれは難しいと言わざる得ません。


「ハイドロキノンの17倍!」と(恥も外聞もなく)謳うのは、ルミキシル。これにいたっては、もうハイドロキノンとの比較試験も見当たりませんでした。真面目に文献検索していて、ほとんど発狂しそうになりました。

でも、17倍の根拠は見つけることができました。実験で、ルミキシルはハイドロキノンより17倍強力にキノコのチロシナーゼを抑制したというもの。「17倍強力」の根拠は、なんと!キノコだったのです。もう絶句しました。

ルミキシルに必要なのは、キノコを相手にするのではなく、人を対象にしてハイドロキノンと正々堂々勝負して、有効性を実証すること。

ハイドロキノンの王座を狙う新参者からは、しばしばハイドロキノンのリスクが言及されますが、何十年にもわたり、リスクを回避する使用法が模索されてきました。使い方を知っている「医師」の指導の元で使えば安全な製剤です。私もその「医師」の一人ですと最後に付け加えておきます。他の医師より10倍詳しいと言いたいところですが、それはやめておきましょう。

 

 
(参考文献)
(肝斑に関して)
1)Melasma treatment: An Evidence-based review
McKesey J, et al.
2020;21:173-225

(シスペラに関して)
2)Clinical evaluation of efficacy,safety and tolerabirity of cysteamine 5% cream in comparison with modified Kligman's formula in subjects with epidermal melasma: A randomized, double-blind clinical trial study
Karrabi M, et al.
Skin Res Technol.
2021;27:24-31

3)Cysteamine cream as a new skin depigmenting product
Hsu C, et al.
J Am Acad Dermatol.
2013;68:AB189

4)Evaluation of the efficacy of cysteamine 5% cream in the treatment of epidermal melasma: a randomized double-blind placebo-controlled trial
Mansouri P, et al.
Brit J Dermatol.
2015;173:209-217

5)Efficacy of cysteamine cream in the treatment of epidermal melasma, evaluating by Dermacatch as a new measurement method: a randomized double placebo controlled study
Farshi S, et al.
J Dermatolog Treat.
2018;29(2):182-189

6)Evaluation of the efficacy of cysteamine cream compared to hydroquinone in the treatment of melasma: a randomized, double-blinded trial
Australas J Dermatol.
Nguyen J, et al.
2021;62:e41-e46

7)Significant therapeutic response to cysteamine cream in a melasma patient resistant to Kligman's formula
Kasraee B, et al.
J Cosmet Dermatol.
2019;18:293-295

(ルミキシルに関して)
8)A split-face, double-blind, randomized and placebo-controlled pilot evaluation of a novel oligopeptide for the treatment of recalcitant melasma
Hantash BM,et al.
J Drugs Dermatol.
2009;8(8):732-735

9)Short-sequence oligopeptides with inhibitory activity against mushroom and human tyrosinase
Abu Ubeid A,et al.
J Invest Dermatol.
2009;129(9):2242-2249

 

 

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投稿者: 美容外科・美容皮膚科 青い鳥