2021.11.09更新

先日Twitterでつぶやいたツイート

洗いすぎると,かえって皮脂が増えるはホント?
(答)ウソ

Twitterなので字数制限もあり、あっさり書きましたが、ここはオイリースキンやニキビでお悩みの方にとって、スキンケアを考える上で重要なポイント。

ツイートの問いは、もう少し医学的な表現にすると
「皮脂分泌は、皮膚表面の皮脂の多寡(多い少ない)によるフィードバック調節を受けるのか?」ですし、突き詰めれば、「何が皮脂分泌をコントロールしているのか?」となります。

最初にタネあかしをしておくと、「皮脂分泌は、皮膚表面がサラサラだろうとギトギトだろうと影響を受けない」、「皮脂分泌は内分泌(ホルモン)、とくに男性ホルモンによって調節される」が正解。

さて、だとしても日常的にオイリースキンと闘っている方は、洗えば洗うほど皮脂がしみ出てくるという実感をお持ちでしょう。実はこの「実感」は、医学上の皮脂の研究の過程でも大きな問題になりました。

ちょっと時代をさかのぼりますが、およそ第二次世界大戦の頃まで、皮膚表面の皮脂は拭き取られると、皮脂の分泌が亢進し、表面の皮脂量が飽和すると皮脂の産生がストップすると考えられていました。

戦後になり、皮脂は表面の皮脂の量とは関係なく、ずっと産生が続いている、皮脂は皮膚表面をどこまでも広がるので、休止状態になっているように見えるだけという学説(ポジティブ・フィードバック説)が有力になります。

そして、そのとき立ちはだかったのが、「同じエリアから同じ時間内に皮脂を採取するとき、1回で採取するより、数回に分けた方が皮脂の採取量は多くなる」という多くの実験報告でした。

 

皮脂表1
(参考文献1から抜粋)


これが実際の実験データ。
3時間での皮脂の採取実験。左の1.5が1回で採取した量、右の2.2が30分毎に採取したときの合計量。もし、この結果を素直に受け入れるなら、やっぱり「顔を洗えば洗うほど皮脂は出てくる」説が正しいことになります。

 

皮脂表2
(参考文献1から抜粋)


ここでもうひとつ同じグループの別の実験データを示します。
4時間での皮脂の採取実験。左の2.8が1回で採取した量、右の2.7が30分毎に採取したときの合計量。3時間と4時間という違いはあれ、今度の結果からは「顔を洗おうが、洗うまいが、皮脂の産生量は同じ」説が正しく見えます。


なぜこうも違う結果になったのか・・
実はこのとき2つの実験には皮脂の採取方法に違いがあったのです。

 

皮脂図1
(参考文献1から抜粋)

その前に、謎解きに重要な「皮脂」の貯蔵について説明します。

皮脂はただ作られ、そのまま皮膚表面に出てくるという単純な話ではありません。美容で問題になる顔のTゾーンでは、作られた皮脂は、巨大な貯蔵庫である皮脂腺の導管(イラストの皮膚につながる管状構造)に蓄えられます。さらにもうひとつ貯蔵庫の役割を果たすのが、皮膚表面の角質。角質は「水を含んだスポンジ」のように皮脂をヒタヒタと蓄えています。角質の皮脂はなくなると、毛細管現象で貯蔵庫(皮脂腺導管)から吸い上げられ、つねに補充されます。

これで説明の準備ができました。

よく似た実験で結果が異なったのは、実験手技のわずかな違いでした。最初のときは皮脂を採取するさい、吸収紙にしっかり吸収されるよう圧をかけていたのです。このやり方だと皮脂採取のたびに角質にしみ込んだ皮脂までカウントされます。吸収された皮脂の分はしばらくすると貯蔵庫(皮脂腺導管)から補充されるので、限度内では採取回数を多くした方が総採取量は増えるというワケ。


しかし、後の実験では、圧をかけずにただ皮膚表面に吸収紙を置いて吸収させただけだったのです。皮膚表面にしみ出てくる皮脂だけを採取したのです。その場合は採取回数に関係なく総採取量は同じでした。このことから皮脂腺からはコンスタントに皮脂が分泌され続けていることもわかります。



今回のツイートでちょっと反省しているのは、ツイートで話題にするには複雑すぎたし、答えはどちらでも正解と言えること。

確かに洗顔で皮脂を洗い流しても、皮脂腺での産生量としての皮脂は増えません。ただ実際にはあらかじめ作られた皮脂が多量に蓄えられていて、洗顔のたびにそれが補充されるので、日常生活の範囲(貯蔵が尽きない範囲)においては、洗うほどにオイリーが余計にひどくなることはなくても、皮膚表面に出てくるトータルの量としての皮脂は増えると言えます。


(結論)
1 皮脂腺からコンスタントに皮脂は分泌され、皮膚表面の皮脂の量によるフィードバック調節は受けていない。
2 皮脂は、顔のいわゆるTゾーンでは分泌量に比べはるかに大きい貯蔵庫である皮脂腺導管に蓄えられている。
3 皮膚表面の角質も皮脂の貯蔵の役割を果たしている。

 

(参考文献)
1 An investigation of the human sebaceous gland
Kligman AM, Shelly WB
J Invest Dermatol
1958;30:99-125

2 Oily skin: an overview
Sakuma TH, Maibach HI
Skin Pharmacol Physiol
2012;25(5):227-235

 

 

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投稿者: 美容外科・美容皮膚科 青い鳥

2021.10.20更新

美容皮膚科にはサイエンスとビジネスの2つの側面がありますが、サイエンスの側から見たとき、美白剤のNo.1といえば、ここ数十年ハイドロキノンの王座は揺るぎないものがあります。美白剤のNo.2と目されていたロドデノールは、白斑症で大問題を引き起こし失脚しましたので、No.2は空席のまま。

No.1をハッキリさせることにどんな意義があるのか、No.2でもいいじゃないかという意見もあるでしょう。しかし、学問の世界では、No.1を越える結果を出すことが、その領域の進歩を証明することになります。実はNo.2以下こそどうでもよい存在なのです。

ところが驚くなかれ、美容皮膚科のビジネスサイドでは、「ハイドロキノンの4倍!」とか「ハイドロキノンの17倍!」という美白剤が存在します。


「ハイドロキノンの4倍!」と謳っているのは、シスペラ(一般名システアミン)。
最初に美白効果が報告されたのは1966年。強いイオウ臭があり、長らく商品化を見送られてきましたが、2010年に臭いを抑制する技術開発があり、ようやく日の目を見ました。

シスペラの問題は何より高すぎること。ハイドロキノンより10倍高い。高額な理由が効果があるからではなく、一社の独占販売だからとしかいいようがないことに「胡散臭さ」を感じます。

シスペラを取り扱うクリニックは、「世界的に権威のある学会で発表されている」と自慢していますが、学会発表はエビデンスのうちに入りません。美白剤の優劣は、ほとんどの場合、肝斑に対する有効性で競われ、その肝斑の最新の総説にどう記載されるかで、その美白剤の学問的評価がわかりますが、実はシスペラはひと言も触れられていません。

(余談ですが、最新の総説に登場する美白剤は、ハイドロキノン、アゼライン酸、ビタミンC、それから日本人にとって誇らしいルシノール。ポーラの関係者は喜んでいることでしょう。)

シスペラが本気で美白剤の王座を狙うのであれば、ケチのつけようのない競争の中で奪い取ってみせなければなりません。ただ、独占的に一社が供給する今の状況ではそれは難しいと言わざる得ません。


「ハイドロキノンの17倍!」と(恥も外聞もなく)謳うのは、ルミキシル。これにいたっては、もうハイドロキノンとの比較試験も見当たりませんでした。真面目に文献検索していて、ほとんど発狂しそうになりました。

でも、17倍の根拠は見つけることができました。実験で、ルミキシルはハイドロキノンより17倍強力にキノコのチロシナーゼを抑制したというもの。「17倍強力」の根拠は、なんと!キノコだったのです。もう絶句しました。

ルミキシルに必要なのは、キノコを相手にするのではなく、人を対象にしてハイドロキノンと正々堂々勝負して、有効性を実証すること。

ハイドロキノンの王座を狙う新参者からは、しばしばハイドロキノンのリスクが言及されますが、何十年にもわたり、リスクを回避する使用法が模索されてきました。使い方を知っている「医師」の指導の元で使えば安全な製剤です。私もその「医師」の一人ですと最後に付け加えておきます。他の医師より10倍詳しいと言いたいところですが、それはやめておきましょう。

 

 
(参考文献)
(肝斑に関して)
1)Melasma treatment: An Evidence-based review
McKesey J, et al.
2020;21:173-225

(シスペラに関して)
2)Clinical evaluation of efficacy,safety and tolerabirity of cysteamine 5% cream in comparison with modified Kligman's formula in subjects with epidermal melasma: A randomized, double-blind clinical trial study
Karrabi M, et al.
Skin Res Technol.
2021;27:24-31

3)Cysteamine cream as a new skin depigmenting product
Hsu C, et al.
J Am Acad Dermatol.
2013;68:AB189

4)Evaluation of the efficacy of cysteamine 5% cream in the treatment of epidermal melasma: a randomized double-blind placebo-controlled trial
Mansouri P, et al.
Brit J Dermatol.
2015;173:209-217

5)Efficacy of cysteamine cream in the treatment of epidermal melasma, evaluating by Dermacatch as a new measurement method: a randomized double placebo controlled study
Farshi S, et al.
J Dermatolog Treat.
2018;29(2):182-189

6)Evaluation of the efficacy of cysteamine cream compared to hydroquinone in the treatment of melasma: a randomized, double-blinded trial
Australas J Dermatol.
Nguyen J, et al.
2021;62:e41-e46

7)Significant therapeutic response to cysteamine cream in a melasma patient resistant to Kligman's formula
Kasraee B, et al.
J Cosmet Dermatol.
2019;18:293-295

(ルミキシルに関して)
8)A split-face, double-blind, randomized and placebo-controlled pilot evaluation of a novel oligopeptide for the treatment of recalcitant melasma
Hantash BM,et al.
J Drugs Dermatol.
2009;8(8):732-735

9)Short-sequence oligopeptides with inhibitory activity against mushroom and human tyrosinase
Abu Ubeid A,et al.
J Invest Dermatol.
2009;129(9):2242-2249

 

 

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投稿者: 美容外科・美容皮膚科 青い鳥

2021.08.31更新

 もうあの講演を聴いてから10年は経っているかもしれません。演者は高名な皮膚科の先生。話の流れから、「皮膚の老化の80%は光老化」というのは、根拠のない作り話ではないかと言い出されました。

その理由は、いろんな論文に出てくるのに、参考文献を付けている論文を見たことがない、80%という数値を挙げながら参考文献がないなんて学術文献としてあり得ないと。疑問を持ち続け、元になる論文を探し続けて、最終的にたどりついたのは、皮膚ガンの原因の80%は紫外線という文献だったそうです。

おそらくそれがまわりまわって、いつの間にやら皮膚ガンの話が老化の話になり、参考文献は行方不明になってしまった、事の真相はこうだろうというのが先生の結論でした。

肝心の講演の本論はすぐに忘れたものの、この話は私の耳にこびりつき、以来ずっと論文でこのフレーズを見るたびに参考文献はないかと目を凝らすようになりました。そして、苦節10年、ついにその日が来ました!ある光老化のレビュー論文が、参考文献をつけて「皮膚の老化の80%は光老化」と書いていたのです。

その参考文献とは、Facial Plastic Surgery Clinics of North America にありました。さっそく該当論文を取り寄せると、「加齢に伴う顔の変化」という総論的な論文で、読み進めても一向に「皮膚の老化の80%は光老化」が出てきません。なんとどこにもない!

こんな参考文献の付け間違いなんてあるのかと憤慨しましたが、頭に上った血が下がり始めた頃に、またしても参考文献付きの「皮膚の老化の80%は光老化」を見つけました。今度、参考文献にあげられていたのは、the New England Journal of Medicine、泣く子もだまる医学界のトップジャーナルです。なんと「皮膚の老化の80%は光老化」の言い出しっぺは、ニューイングランドジャーナル誌だったのです。


「皮膚の老化の80%は光老化」は、臨床研究の結論ではありませんでした。何度も言いますが、医者なら泣く子も、口うるさいベテランの医者も黙るニューイングランドジャーナル誌のほとんど公式見解といえるエディトリアルに出てくるのです。そこには、anecdotallyとことわって「皮膚の老化の80%は光老化」と述べられていました。学術証拠には基づかない、経験則による「見解」だったのです。ただし、それは誰も逆らえないトップジャーナルの公式見解。


およそ10年にも渡る私の「皮膚の老化の80%は光老化」を探す旅は、こうして「泣く子とニューイングランドジャーナルにはかなわぬ。」で終わったのでした。


(参考文献)
Understanding Premature Skin Aging
Uitto J.
N Engl J Med.
1997;337(20):1463-1465

 

 

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投稿者: 美容外科・美容皮膚科 青い鳥

2021.07.31更新

■無名の存在だった「レチナール」
オーストラリアのダーマペンのメーカーが、レチナール・アクティブを出した時点では、私を含め、ほとんどの日本の美容ドクターは、レチナール(レチンアルデヒド)についてほとんど何も知らなかったと思います。レチノールの誤植だと勘違いした人もいたでしょう。

■天然レチノイド(ビタミンA誘導体)
お肌のビタミンとして知られるビタミンAの誘導体で知名度が高いのが、レチノール。これはビタミンAそのもので、日本でもコスメの成分として配合が認められています。もうひとつは、トレチノイン。皆さんが皮剥けしながら頑張るゼオスキンでの主成分のひとつ。

■レチナール(レチンアルデヒド)とは?
レチナール(レチンアルデヒド)は、どなたの身体の中にも微量ですが存在してします。お肌のビタミンであるビタミンAは、皮膚でトレチノインに変換されて効果を発揮しますが、ビタミンAとトレチノインの中間体が、レチナール(レチンアルデヒド)です。

■一歩手前がベストポジション!
レチナール(レチンアルデヒド)が、美容的に価値が高いのは、トレチノインとして十分な作用を発揮しながら、副作用である刺激反応が少ないこと。その秘密は、トレチノインの「前駆体」であることにあります。

レチナールは、それ自体は何ら皮膚に刺激作用をもたらしません。皮膚に塗ると、適度にトレチノインに変換され、トレチノインを塗ったときと質的に同じ効果をもたらします。それでいて、量的に過剰なトレチノインが作用することはないので、刺激反応は抑えられます。「優れた忍容性」とか、「敏感肌の方も」と言われるのはこのためです。

■トレチノイン療法の難題解決!?
これまでトレチノイン療法において、高い効果を求めれば、反動として刺激反応も強くなることを覚悟する必要がありました。レチナール(レチンアルデヒド)を使うことで、十分に高い効果と十分に低い刺激反応のトレチノイン療法が両立したのです。

 

 

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投稿者: 美容外科・美容皮膚科 青い鳥

2021.07.21更新

▶︎「老化」は病気!?
真面目な顔して「老化」は病気だと言ったら、笑いとばされそう。罹患率100%、致死率100%の現象を「病気」と言っていいのか。しかし、抗加齢医学に関心を持つ多くの医師は、そうなることを時間の問題と見ています。

▶︎世界の動き
「老化」を病気として捉えようとする動きはもう始まっています。WHO世界保健機構が定める国際疾病分類では、2019年の改訂で「老化関連」のコードを新設しました。米国FDAは、公式には老化を病気とは認めていませんが、老化の治療薬の臨床試験の開始にゴーサインを出しました。またFDAはすでに皮膚の「光老化」の治療薬としてトレチノインを承認しています。

▶︎ホントはもっと驚いて欲しい
もちろん「光老化」と皮膚の老化はイコールではありません。しかし、皮膚の老化のかなりの割合が「光老化」であると聞いたことがあるのではないでしょうか。「光老化」の治療は、皮膚の老化を治療することにニアリーイコールなのです。今のところ皮膚以外で「老化」を治療できる身体の臓器はありません。皮膚だけが「老化」を治療する手段があることに、まずは驚いて欲しいと思います。

▶︎トレチノインの作用
ちょっと専門的になりますが、読み飛ばされるのを覚悟で、トレチノインの作用を挙げると、
1)表皮の増殖、新陳代謝の促進
2)真皮でのコラーゲンの増生と分解の抑制
3)紫外線の悪影響の抑制
となりますが、これはまさに紫外線によって生じる皮膚の老化、「光老化」の進行を抑えるどころか、「老化」の針を逆戻りさせる作用と言えます。

▶︎レチナール(レチンアルデヒド)の登場!
ダーマペンに、レチナールアクティブが登場した当初は、私自身理解できていませんでしたが、勉強を重ねるほど、トレチノインの前駆体として機能するレチナールのポテンシャルの大きさに驚かされています。

もちろん、必ずしも今回の製品である必要はありませんが、レチナールという成分は、すべての成人女性にとってスキンケアに取り入れる価値があります。肌にエイジングが現れている方は、エイジングの針を逆戻りさせるために、エイジングが現れていない方は、ずっとそのままの肌でいるために。

 

 

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投稿者: 美容外科・美容皮膚科 青い鳥

2021.06.30更新

レーザーを使うのではなく、薬を飲んで治療するシミとして有名な肝斑ですが、このときの薬、トラネキサム酸が肝斑に有効であることを初めて報告したのは、紛れもなく日本人。ただし、その論文は日本語で書かれているため、世界的にはまったく認知されていません。

つい最近まで、肝斑にトラネキサム酸を使うのも日本だけの話で、アジアの美容皮膚科医からも不思議がられていたほど。ところが日本独自の風習(?)と思われていたそのトラネキサム酸の内服療法も少しずつ世界に知られるようになり、システマティック・レビューにも大きく取り上げられるまでになりました。ようやく日の目を見たことに、道を拓かれた先人には素直に敬意を表したいと思います。

ところが、そのシステマティック・レビューでも、よく見ると、日本人の論文はごく初期の研究として紹介されるだけ。現在この領域を牽引しているのは、韓国人やインド人の研究者で、この分野ですら、もう完全に日本は先を越されて、その姿が見えなくなってしまいました。

日本にも美容の専門医も多くいれば、大学にも美容の講座もありますが、世界的に見たとき、美容医学にまったく貢献できていません。学問的なレベルが、日本の美容医療のレベルを正直に物語ってしまっているようで残念でなりません。

以前、韓国と日本の美容関連の医師が集う合同のシンポジウムがあったとき、合同とは名ばかりで、実際には韓国の先生方の貴重なお話しを、日本人医師たちが、ただただありがたく拝聴する、一方的な会になったことを悪夢のように思い出しました。

 

 

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投稿者: 美容外科・美容皮膚科 青い鳥

2021.06.24更新

レーザートーニングは、日本美容医療業界の看板施術といってもいいでしょう。何しろ世界の趨勢から大きくズレていても、国内では相変わらず肝斑の標準治療として堂々君臨しているのですから。

でも、忖度なしにハッキリ言って、「レーザートーニングは質の悪い対症療法に過ぎない」。「質(しつ)の悪い」と読むか、「質(たち)の悪い」と読むかは読者におまかせします。

最近のレビュー論文では、レーザートーニングの問題点として、再発率の高さ、白斑の発生リスク、肝斑の特徴的所見である表皮基底膜の破綻をさらに悪化させかねないという懸念を挙げています。

日本の肝斑治療におけるレーザートーニングへの偏重は異様です。

先駆的な業績を残された先生には敬意を表しますし、真面目に取り組んでおられる先生もいらっしゃることは承知していますが、私からすれば、トーニングは「アリ地獄」のように見えて仕方ありません。レーザーでメラニンを叩くのだから一時的には効果が現れることはあります。しかし肝斑の本質に効いてないから、再発が避けられません。

続けていれば効果は続くかもしれないが白斑のリスクが高まる、やめたら再発が待っている、もがけばもがくほど治療費がかさんでいく。こうした「アリ地獄」の構図が透けて見えるから、トーニングは「質の悪い対症療法」としか言いようがありません。


最新のシステマティック・レビューで、レーザートーニングが、third-lineの治療と評価されたことは真剣に受け止めるべきでしょう。世界の潮流から外れるのは一向に構いませんが、世界から嘲笑の的にされるのは勘弁して欲しいと切実に思います。



(参考文献)

1) Melasma Treatment: An Evidence-Based Review.
McKesey J,et al
Am J Clin Dermatol
2020;21(2):173-225

2) Melasma: Updates and perspectives.
Kwon SH,et al
Exp Dermatol
2019;28(6):704-708

3) Melasma pathogenesis: a review of the latest research, pathological findings, and investigational therapies.
Rajanala S,et al
Dermatol Online J
2019;25(10):1-6

 

 

 

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投稿者: 美容外科・美容皮膚科 青い鳥

2021.06.15更新

肝斑の原因としては、日光、女性ホルモン、遺伝的素因を挙げるのが一般的ですが、日本では、以前からスキンケアでの「擦りすぎ」が肝斑の原因であると、高名な医師が主張されていて、その迫力に押し流されたのか、日本では、ほとんどの美容皮膚科医は、「擦りすぎ」が肝斑の原因、少なくとも悪化させる要因と考えるようになっています。

しかし、「擦りすぎ」が肝斑の原因というなら、色素沈着と同じになってしまいます。「擦りすぎ」でできるのは色素沈着であって、肝斑ではないという素朴な意見が、なぜ広がらないのか、長年この業界にいてもよくわかりません。

今回、クリニックでの肝斑治療の方針を改正するにあたり、ここ数年の主要な論文に目を通しましたが、大変不思議なことに、「擦りすぎ」を議論しているのは日本だけ。世界では誰も「擦る」ことなんて問題にしていません。


でも、確かに日本女性が「擦りすぎ」ていることは認めざるを得ません。スコープで肌理の状態を観察するようになってから、肝斑の好発部位である頬骨のあたりで、まともに肌理が残っている人にはほとんどお目にかかれません。実は日本女性の過剰なスキンケアは、世界的にも有名なのだとか。

「擦りすぎ」たら、色素沈着になるのは当たり前(もともとメラニン色素を多めに含む東洋人の肌は、炎症から色素沈着をきたしやすい)。おそらく日本女性では、肝斑と色素沈着は混在していることが多いのでしょう。

実際のシミ診療では、厳密に組織診断することはなく、見た目で判断して、治療をすすめます。そうなら日本の肝斑治療は、肝斑と色素沈着の「両面攻撃」でなければならない。今回の治療指針の改訂では、これまでのトラネキサム酸内服への偏重を改め、美白剤(ハイドロキノンなど)を早い段階から使用するようにしました。

 

 

 

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投稿者: 美容外科・美容皮膚科 青い鳥

2021.06.10更新


およそ6,000円もお金をかけて、ひとつの論文を入手しました。それが2020年に発表された肝斑のシステマティックレビュー。簡単に言えば肝斑の総まとめ論文。50ページにもなる大作ですが、レファレンス(参考文献)とまとめの表が多いので、私にも読み通すことができました。

およそ3年ぶりにクリニックの肝斑治療をブラッシュアップしようと、このシステマティックレビューを含め、2018年から2020年に発表された主要なレビュー(まとめ論文)を読みましたが、日本の現状と世界で議論されていることのギャップの大きさには、頭がクラクラしそうな衝撃を受けました。

1)日本では常識となっている「擦る」ことが肝斑の原因ないし、悪化する一因とする考え方は、世界的には問題とされていない。


2)日本で多くのクリニックが行っているレーザートーニングは、システマティックレビューでは、third-lineの治療と位置づけられ(ちなみにsecond-lineはピーリング)、治療の中心からほど遠い存在にすぎない。


3)日本人が発見し、日本ではじめて肝斑の標準治療となったトラネキサム酸の内服は、ようやく世界的にも認められるようになったのに、この分野でも日本はすっかり世界から置いてきぼりになっている。


4)従来からの3剤(レチノイド、ハイドロキノン、ステロイド)コンビネーション治療がベストと確認されている。

 

 

(参考文献)
1) Melasma Treatment: An Evidence-Based Review.
McKesey J,et al
Am J Clin Dermatol
2020;21(2):173-225

 

 

 

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投稿者: 美容外科・美容皮膚科 青い鳥

2021.06.08更新

 

コロナ禍で多少の時間の余裕もできたため、Amazonや神田神保町の大型書店で手当たり次第に美容関連の本を買い求めひたすら読み倒しています。そうした中で、肝斑のことを、「もやっと」とか「ぼんやりと」したシミと説明してある本が多いことに気づきました。

肝斑は決してそんな霞や雲のようなものではなく、むしろ境界はハッキリしていることが多いもの。もし、ほんとうに「もやっと」とか「ぼんやりと」したシミが頬にあったとしたら、肝斑というより、何らかの、おそらくコスメによる接触性皮膚炎やスキンケアでの擦りすぎで生じる色素沈着の可能性が高いでしょう。

だいたい本当に「もやっと」、「ぼんやりと」しているのなら、何のために治療するのかわかりません。大きさ、範囲がハッキリしないと、効果の判定ができないからです。効いているのか、いないのか後で判断できない治療は最初からするべきでない。

もしかしたら、美容業界全体で、肝斑の診断基準が甘くなっているのでしょうか?

3年ぶりに当院の肝斑の治療方針をブラッシュアップする作業に取りかかっています。肝斑は美容皮膚科医にとって難関ですから、気合いを入れて最近の主要文献を読み込んでいます。

1)日本人の特殊性を考慮しつつも、世界の標準治療に準拠する。
2)レーザートーニングに否定的なスタンスは変わらない。
3)これまでは1日3回のトランサミン内服が続けられない方には、「肝斑治療はあきらめましょう」と突き放してきましたが、それでは冷たすぎると反省して、手を取って導くほどでなくても、行く手を指し示してあげられるほどには優しい肝斑治療を目指す。

以上が改正の要点になります。

 

 

 

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投稿者: 美容外科・美容皮膚科 青い鳥

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