この文章は、私にシフトワーカーの健康問題を考えるきっかけを下さった、あるお客様に捧げます。看護師をされていたそのお客様と、この話題になった時、何もアドバイスできないばかりか、冗談めかして「早く婦長さんになって、この状況から脱却するしかないですよ!」としか言えなかったことが、今も痛恨の思いとして心に残っています。答えとして不十分ですが、今も考え続けていることをお伝えしたい。
ここ数十年くらいで日本の社会では急激に24時間化が進みました。
それ以前から生きている私は、家の近所にセブンイレブンができて、名前の通り朝の7時から夜の11時まで営業することに衝撃を受けたことを覚えています。社会が24時間化してから生まれ育った人には、「セブンイレブンの衝撃」は決して理解できないでしょう。
最近は人手不足の影響で、一部のコンビニが24時間営業でなくなったりしていますが、ではみんな「セブンイレブン」に戻るかと言えば、それも無理な話。最近、さまざまな「多様性」が議論されていますが、社会の24時間化が実現させているのは、生活、生き方の「多様性」。これからもそれを尊重する方向に社会は進歩していくはず。
ただし、24時間営業の現代社会を支えるシフトワーカーには、大きな身体的負担がかかっています。
シフトワークが睡眠障害をはじめ、肥満、脂質異常症、高血圧、糖尿病など生活習慣病や心筋梗塞、脳卒中、乳がん、前立腺がんなどの疾患リスクを上昇させることが多くの疫学研究から示されています。
なぜシフトワークが健康に悪いか・・不規則な生活は身体に悪いに決まっていると言えばそれまでですが、ではなぜそうなのでしょう?
人に限らず、地球上の生物には、体内時計が備わっています。地球の自転によって、およそ24時間周期で昼夜の環境が変化する地球上で生存競争に勝ち抜くために不可欠なシステムです。
体内時計を調整するメラトニンというホルモンは、驚くべきことにヒトはもちろん動物でも植物でも微生物でも共通。いかに生命にとって根源的なシステムであるかがわかります。体内時計は地球上生命体全般において、普遍で不変!な進化をとげたのです。
そして、そのシステムに従って、睡眠覚醒、代謝、ホルモン分泌などさまざまな生理現象が調節されています。
だから人はシフトワークのように地球の自転を無視した生活には適応できないのです。これが体内時計を研究する医学分野である「時間医学」的な解答になります。
その「時間医学」の新しい知見として、マウスの実験ではありますが、だんだん活動期を遅らせていくのと早めていくのでは、遅らせていく飼育条件の方が順応しやすいことが報告されています。
マウスの結果をヒトに当てはめるのも性急すぎますが、無理やり当てはめるなら、ヒトでも数日おきに活動時間をずらす、それも遅寝遅起きの方向にずらすのなら身体への負担も少なくできるかもしれません。
具体的には、日勤、準夜勤、深夜勤という3交代制のシフトワークでは、必ず数日おきに日勤→準夜勤→深夜勤の方向へずらしてシフトを組むのです。
不規則な生活を強いられるシフトワーカーですが、「規則的」に不規則な生活なら、まだ健康を害するリスクは小さくできる可能性があります。
今日も真夜中の街ではいろんな職種の方がシフトワーカーとして勤務されています。そのおかげで、社会は24時間稼働して、いつでも時間に関係なく好きなように生活することが可能になっています。
シフトワーカーの健康を守る取り組みは、差し迫った課題なのです。