2024.01.09更新

 

CBD


このところ何度か大麻関連の話題がニュースになっています。美容業界でも大麻の成分のうち抗精神作用のないカンナビジオール(CBD)を含むコスメが次々に登場しています。

大麻由来成分というハンディキャップがありながら、CBDコスメが大きな顔で、好き勝手に効能を書き立てることができるのは、ひとえにカンナビジオール(CBD)が、内因性カンナビノイド受容体に結合して、内因性カンナビノイドシステムを作動させることができるから。

内因性カンナビノイドシステムというのは、おもに中枢神経系、免疫系で働きますが、皮膚でも表皮のメンテナンス、毛包、皮脂腺の制御に働いていて、アトピー性皮膚炎、皮膚癌などの皮膚疾患に関係しているとされています。内因性カンナビノイドシステムが健康な肌を支えていることから、CBDコスメにもきっと美肌効果があるはずという甘い(?)憶測が働いてしまうのです。

それにしてもなぜ内因性カンナビノイド受容体だの、内因性カンナビノイドシステムだのと命名されたのでしょう?もちろん身体がもともと大麻のために受容体を用意しているはずはありません。実はこれは単純に発見された順番の問題なのです。

大麻に含まれる化合物群はカンナビノイドと呼ばれ、幻覚作用などをもたらすことが知られていましたが、そのメカニズムの研究から、1980年代後半にカンナビノイドが結合する受容体が発見されました。それは当時無名だったため、「内因性カンナビノイド受容体」と名付けられました。その受容体に本来結合する物質が発見されのは1990年代に入ってからでした。

本来結合する物質が発見された後も、一度つけられた名称がそのまま使い続けられたことが、いかにもカンナビノイドが身体の中で重要な役割を果たしているかのような誤解を生む元になったのです。

ここからはカンナビジオール(CBD)の皮膚への作用についての正当な医学的評価を紹介します。現在臨床研究が行われているのは、
・掻痒症(かゆみ)
・炎症性疾患
・皮膚癌
に対してですが、この中では、痒みの治療がもっとも有望視されています。

コスメとして考えたとき、せいぜいウリになるのは抗炎症効果くらいで、保湿効果があるわけでも、美白効果があるわけでもありません。その抗炎症効果も「だから何だ!?」という話で、今のところどういう良い効果をもたらしてくれるか明らかではありません。少なくともCBDコスメが声高に宣伝する皮膚の健康に役立つかのような言い方は、故意か過失かはともかく完全に言い過ぎ。いくら内因性カンナビノイド受容体に結合できるとしても、実は受容体は結合するリガンドにより正反対の作用をもたらすこともあり、実際に生じる作用はさまざま。だから効果を謳いたいなら、まずは人での臨床試験で結果を出すことが先決で、作用機序は二の次なのです。

CBDコスメは、「内因性カンナビノイドシステム」という身に余る(?)命名を最大限に利用(悪用)したに過ぎないというのが、現状での私の結論です。どういう方になら勧められるか、まったく見当がつきません。 

 

(参考文献)
1) Cannabinoids for the treatment of chronic pruritus: A review
Avila C, et al.
J Am Acad Dermatol.
2020;82(5):1205-1212

2) The role of cannabinoids in dermatology
Mounessa JS, et al.
J Am Acad Dermatol.
2017;77(1):188-190

3) カンナビノイド受容体の内因性リガンドの発見
木村 敏行
ファルマシア
1993;29(11):1293

 

 

 

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投稿者: 美容外科・美容皮膚科 青い鳥

2023.05.12更新

美容クリニックでボツリヌス療法(ほんとうは製剤名で書いた方がわかりやすいですが)を続けていると、だんだん効きが悪くなったり、効果の持続時間が短くなったりすることがあります。それがボツリヌス療法の「耐性」問題。


この「耐性」については、以前から防ぐ方法はわかっていました。それはドイツのメルツ社が製造するゼオミンを使うこと。ゼオミンは神経毒素以外の余分なボツリヌス菌由来のタンパク質を含みません。そのため免疫を刺激して抗体を作ることがないとされ、実際ゼオミンのみを使用していて耐性が生じたとする報告はありません。


ただし、実際に美容目的でボツリヌス療法を続けて、中和抗体ができてしまう確率は、0.2~0.4%と高くはありません。「美容医療でのボツリヌス療法で使われる量は少ないから心配しなくてもよい」という楽観論が支配的でした。


そのため、美容医療業界では、ボツリヌス療法でどの製剤を使うかは、「耐性」問題が表面化しない限りどれでもいいが、「耐性」が疑われ出したらゼオミンに変更するというのが、これまでの「常識」でした。


ゼオミン自体はかなり前から市場に出回っている製剤ですから、日本でも扱っているクリニックは数多くあります。その他の製剤とともに製剤選択肢のひとつとして位置付けられているに過ぎません。


ところが、これまでの「常識」を見直す動きが出始めました。この動きを牽引しているのは、なんと米国形成外科学会(正確には米国形成外科学会の関連オープンアクセス誌)です。


背景にあるのは、ひとつは「美容医療でのボツリヌス療法で使われる量は少ないから」を言い訳にしていたのに、美容医療でのボツリヌス療法の適応が広がり、使用量も増えていること。もうひとつは美容医療以外でもボツリヌス療法が使われる疾患の増加。


ボツリヌス療法を取り巻く状況は大きく様変わりしています。ボツリヌス療法で検索すると、驚くほど多くの一般診療の医療機関が引っかかるご時世になりました。今のところボツリヌス療法が使われるのは一部の神経疾患ですが、その中には脳卒中の後遺症も含まれ、決して珍しい疾患だけとは言い切れません。今後さらに多くの病気治療に使われるようになることも予想されます。将来的には誰でも病気の治療のためにボツリヌス療法が必要になるかもしれません。


「耐性」の何が問題かと言えば、将来ボツリヌス療法が適応となる疾患になったときに、耐性ができていたらボツリヌス療法が使えなくなることなのです。


個人的な見解ですが、米国形成外科学会はその公的な立場上、あからさまに一社の製剤を勧めるわけにはいかない。それでも重大な問題であるからメッセージは発する必要がある。そこで学会直属の機関誌ではなく、学術誌としては格下になるけれども、逆にオープンアクセス誌だから誰にも見てもらえる姉妹誌から、「耐性」を扱う文献を掲載することにしたのではないでしょうか。昨年2回も。


その中では、「耐性の症状が生じる前から」、「初めてボツリヌス療法を受ける人にも」、「できるだけ耐性を生じにくい製剤(つまりはゼオミン)」を使うべきと結論づけられています。ボツリヌス療法のスタンダードを、これまでのように耐性を疑ってからゼオミンに変更するのではなく、初めから(!)使う方向へと変わることを促す内容です。


こうした文献を読んで、当院ではボツリヌス療法で使う製剤をボトックスからゼオミンに変更しました。厚労省承認製剤のボトックスか、耐性を作らないゼオミンか相当悩みましたが、美容でのボツリヌス療法で「耐性」を生じさせることは、何としても防がなければならないという思いが決め手になりました。

 

未来につなげるボツリヌス療法


ゼオミン(BOCOUTURE)を取り扱う代理店に発注した時に聞いた話では、まだ国内の美容クリニックで明らかな動きはないということでした。米国形成外科学会の関連オープンアクセス誌上で展開される啓蒙活動に、日本の美容医療界がどう反応するのか、それとも気づかずにスルーするのか、既読スルーするのか興味深く見守りたいと思います。

 

 

(参考文献)
1) Neurotoxin Impurities: A Review of Threats to Efficacy
Je-Young Park, et al.
Plast ReconstrSurg Glob Open
2020;8(1):e2627

2) Immunogenicity Associated with Aesthetic Botulinumtoxin A: A Survey of Asia-Pacific Physicians' Experiences and Recommendations
Je-Young Park, et al.
Plast ReconstrSurg Glob Open
2022;10(4):e4217

3) Emerging Trends in Botulinum Neurotoxin A Resistance: An International Multidisciplinary Review and Consensus
Wilson W S Ho, et al.
Plast ReconstrSurg Glob Open
2022;10(6):e4407

4) Immunogenicity of Botulinum Toxin Formulations: Potential Therapeutic Implications
Warner W Carr, et al.
Adv Ther
2021;38(10):5046-5064




 

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投稿者: 美容外科・美容皮膚科 青い鳥

2022.07.31更新

大局観


■専門家が情報を伝えるということ
ツイッターをはじめて1年が過ぎました。規則正しく1日3個つぶやき続けています。私の場合は美容医学、抗加齢医学に関連した文献から情報を切り抜いて紹介しているのですが、文献といってもピンキリで、怪しげな情報にもいくらでも出会いますが、誤りの「少ない」情報提供をいつも心がけています。

すべて正しいと言いたいところですが、神様ではないので、間違う可能性はいくらでもあります。実際に何を発信するかにはいつも頭を悩ませていて、その判断基準は長年の経験に基づく「大局観」としかいいようがありません。

■騒動一部始終
先日Twitterに、大学人としての華々しい経歴を掲載している先生が「レチノールを夏に使うのは控えた方がいい。皮膚癌のリスクが高くなるから。」とツイートしてちょっとした騒ぎになりました。まもなく別の皮膚科専門医の方が「デマに騙されないように!レチノールやディフェリンではなく、それはパルミチン酸レチノールの問題。」と火消し役を果して、この騒ぎは終息に向かったのでした。

■ほんとうの終息に向けて
ただ、「パルミチン酸レチノールの問題」なら一安心・・なわけはなく、やはり大問題。パルミチン酸レチノールを含有するコスメなんて日本はもちろん世界中にあふれています。

すべての始まりは、実験用に遺伝子操作された特殊なマウスに、パルミチン酸レチノールを塗って紫外線をあてると皮膚腫瘍が増えたという報告。米国FDA内の毒性を研究する機関が10年ほど前からポツポツ発表しています。

私の「大局観」からすると、パルミチン酸レチノールはシロ。そもそもFDAが人間での安全性を承認したから、さまざまなコスメ製品に使われているわけで、安全性に懸念があるというなら、しかも同じFDA内の機関が報告しているなら、10年もこの問題が放置されるわけがない。FDAがコスメメーカーに安全性の再調査を命じたという話は一向に聞こえてきません。

私の「大局観」では、みなさんが安心しないでしょうから、皮膚科領域での一流紙がこの問題をどう取り上げたか紹介します。American Journal of Clinical Dermatologyは2021年に出した総説でこう総括しています。
「十分に立証されていないし、(マウスの実験だけで)人では報告されてもいない。さらなる研究が必要である。」
紹介だけして、それ以上議論すらしていません。

American Journal of Clinical Dermatologyという虎の威を借りるのはイヤらしいですが、パルミチン酸レチノールの安全性には現時点で疑問の余地はないと結論づけさせていただきます。

■あらためて考えさせられること
自分のツイートを見て下さる方には少しでも有益な情報を提供したいという気持ちは誰でもあるから、ツイッターに勇み足で投稿した先生を非難する気にはとうていならないのですが、しいて反省点を探せば、情報の重大さに気づいて、情報の裏を取る努力をして欲しかった。専門家であっても、その専門領域のすべてを知り尽くすことはできないわけで、今回は専門家として情報をSNSで発信することの難しさを痛感させられました。

(参考文献)
1) Sunscreens and photoaging: a review of current literature
Guan LL, et al.
Am J Clin Dermatol.
2021;22:819-828

2) Photo-co-carcinogenesis of topically applied retinyl palmitate in SKH-1 hairless mice
Boudreau MD, et al.
Photochem photobiol.
2017;93:1096-1114

3) Vitamin A and its derivatives in experimental photocarcinogenesis: preventive effects and relevance to humans
Shapiro SS, et al.
J Drugs Dermatol.
2013;12(4):458-463

 

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投稿者: 美容外科・美容皮膚科 青い鳥

2022.06.25更新

■□■□■□■□■□■□■ニキビ治療の誤解「ブツブツが治ったら治療は終わり」

ニキビ診療での課題のひとつは「皮膚科受診の遅れ」ですが、もうひとつ「中途半端な治療」も課題といえます。

多くの方は、「ブツブツが治ったら治療は終わり」と考えがちですが、治療を止めれば当然またできてしまうわけで、ひどくなったときだけ皮膚科にかかることを繰り返しています。

ニキビ治療の終わりをハッキリ線引きするのは難しいですが、そう簡単に肌質が変わるはずもないので、治療は長期戦を覚悟しなければなりません。


ニキビ治療は長〜いお付き合い

■□■□■□■□■□■□■治療を継続することに意味はある!?

もちろん治療の継続をいうからには、続けることに意味がないといけないのですが、その点については、次のようなエビデンスがあります。

日本では未発売ですが、エピデュオ・フォルテ(アダパレン0.3%+過酸化ベンゾイル2.5%)を使った臨床報告です。

ニキビ患者を集めて、顔の半分にだけこのエピデュオ・フォルテを6ヶ月間塗って治療効果をみました。

この報告の最も画期的な点は、塗り薬であるエピデュオ・フォルテでニキビ瘢痕の数を減らしたことですが(もちろん炎症性ニキビの減少、テクスチャーの改善も)、効果は3ヶ月、6ヶ月と尻上がりに上がって、治療を継続するすることの重要性が示唆されました。

実はこの報告には続きがあって、調子にのった(?)研究者が、さらに治療期間を半年延長したのです。

するとフォルテを使用した半顔は、半年でニキビ痕は22%減少していたのですが、1年後には27%まで減少させることができました。

返す返すも残念なのは、日本ではエピデュオ・フォルテは使えず、アダパレン(ディフェリン)の濃度が低いエピデュオゲルしかないこと。

ただこのシリーズには、そのエピデュオゲルを使ったバージョンもあって、半年間使用してニキビ瘢痕を増加させなかったという結論が得られています。しかも新しいニキビ瘢痕ができるのを防ぐだけでなく、すでにあるニキビ瘢痕を、数としては減らせなかったけれど、目立たなくするに役立ったと評価されています。

ニキビ治療をまじめに半年、1年と続けられる人はほとんどいないのではないでしょうか。ぜひ1年は続けて、そのとき止める理由がなければさらに続けてはどうでしょう。新しいニキビが出来るのを防ぐだけでなく、すでにある瘢痕の数を減らせる可能性すらあるのですから。


■□■□■□■□■□■□■ニキビの正解とは!?

ニキビには治療のガイドラインがあって、そこでは急性炎症期の治療に続いて、「維持療法」が明記され、アダパレン(ディフェリン)やBPO製剤の外用療法が推奨されています。

ニキビは「ブツブツが治ったら治療は終わり」なのではなく、その後またできないように「維持療法」を続ける、それが正解なのです。

ガイドラインが掲げる基本方針なのに、そうしたことがなぜか一般には浸透していないように思われます。何か裏があるのでしょうか?

もしかしたら維持療法が一般化して、国民の医療費がさらに増えるのは避けたいという政治的思惑から、あまり声高には言わないことになっているとか・・さすがに考えすぎか。


(参考文献)
1)Adapalene 0.1%/benzoyl peroxide 2.5% gel reduces the risk of atrophic scar formation in moderate inflammatory acne: a split-face randomized control trial
Dréno B,et al.
JEADV
2017;31:737-742

2)Prevention and reduction of atrophic acne scars with adapalene 0.3%/benzoyl peroxide 2.5% gel in subjects with moderate or severe facial acne: results of a 6-month randomized, vehicle-controlled trial using intra-individual comparison
Dréno B,et al.
Am J Clin Dermatol.
2018;19:275-286

3)Long-term effectiveness and safety of up to 48 weeks' treatment with topical adapalene 0.3%/benzoyl peroxide 2.5% gel in the prevention and reduction of atrophic acne scars in moderate and severe facial acne
Dréno B,et al.
Am J Clin Dermatol.
2019;20:725-732



 

 

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投稿者: 美容外科・美容皮膚科 青い鳥

2022.06.18更新

ニキビには「早期から治療を!」と皮膚科の先生は言いますが、ほんとうに早期から治療したらメリットがあるのでしょうか?


結局、一番悪いのは


実はこれは簡単明瞭で、反対の意味の「治療の遅れ」がニキビが瘢痕化する有名なリスクファクターとして知られています。

リスクファクターの中でも特にこの「治療の遅れ」が重要視されるのは、これだけは自分でなんとかできるから。

そのほかのリスクファクターである「家族歴の有無」は、自分ではどうにも変えようがないし、「重症ニキビ」だって、そうなってからでは手遅れです。


ただ皮膚科の先生が一生懸命「早期からの治療」を叫んでも、実はそれを妨げている一因は皮膚科の先生自身にもある気がします。

日頃、ニキビのできている方には皮膚科受診をすすめるのですが、「時間がかかりすぎる」、「行っても治らない」、「ろくに診てくれない」、「話を聞いてくれない」と逆襲されることも多い。

そんなときは同業者の肩をもって「今の医療制度では、たくさんの患者さんを診ないと経営的に成り立たないから、皮膚科の先生も大変なんですよ」とフォローしますが、ほんとうにそうなのかどうかは定かではありません。

問題の多いニキビ診療の現状が、結局は美容皮膚科医につけいる余地を与えているわけで、うまい汁を吸ってる同業の先生方には「おぬし、ワルよの~!」と申し上げたい。



(参考文献)
1)Acne scarring: why we should act sooner rather than later
Dréno  B,et al.
Dermatol ther.
2021;11(4):1075-1078

2)Development of an atrophic acne scar risk assessment tool
Tan J,et al.
J Eur Acad Dermatol Venereol.
2017;31(9):1547-1554

 

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投稿者: 美容外科・美容皮膚科 青い鳥

2022.06.09更新

ニキビの文献を読んでいて、次のような言葉を見つけました。

「ニキビには重症度のいかんを問わず瘢痕化するリスクがある。皮膚科医はたとえ軽症のニキビ患者であっても、早期から継続的な治療で瘢痕形成を防がねばならない。」

ニキビ治療の究極の目標は、ニキビの瘢痕化を防ぐこと。これが皮膚科・美容皮膚科の共通の認識なのです。

ニキビ瘢痕こうできる



ただそうなると、どんなニキビが瘢痕化しやすいのか、あらかじめ予想がつくと好都合。ところがこれまではただ漠然と「重症のニキビ、炎症の強いニキビほど瘢痕化しやすい」と言われていただけ。

反論の余地はないように思えますが、でも実際の臨床ではそう簡単に割り切れないから前述のように、「重症度のいかんを問わず」、「たとえ軽症であっても」となるわけです。

そんな臨床上のモヤモヤを吹き払うかのような、顔のニキビのひとつひとつをキッチリ2週間毎に6ヶ月追跡した臨床研究が報告されました。

それによると、ニキビ瘢痕の83%は炎症後の赤みや色素沈着から生じていました。もっとも多いのが、赤ニキビ→炎症後の赤み→瘢痕とたどるコース。

また、あとで瘢痕になった丘疹(ブツブツ)は、ならなかった丘疹より経過が長かった(10.5日対6.6日)ことも判明しました。

結論自体は当たり前すぎます。経過が長く、ブツブツが平らになったあとも赤味が残るような重症のニキビ、炎症の強いニキビほど凹み(瘢痕)を作りやすい、というものですから。

しかし、この研究は「長い経過」、「赤み」が、瘢痕になるニキビを見分ける重要なポイントだと明らかにしました。

ということは、「長い経過」の間に、まだ「赤み」のうちに適切な治療を開始すれば、瘢痕になることを予防できる可能性がありそうです。できてから1週間以上たつもの、平らになってからも赤みの残るものを放置していてはいけません。


(参考文献)
1)Acne scarring: why we should act sooner rather than later
Dréno  B,et al.
Dermatol ther.
2021;11(4):1075-1078

2)Prospective study of pathogenesis of atrophic acne scars and role of macular erythema
Tan J,et al.
J Drugs Dermatol.
2017;16(6)567-573

 

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投稿者: 美容外科・美容皮膚科 青い鳥

2022.06.03更新

皮膚粗鬆症は、美容皮膚科の対象ではありません。しかし、それでは皮膚科領域かと言えばそうでもない。なぜなら皮膚粗鬆症というのは正式な病名とは認められていないから。

では、誰が診ているのか?誰も診ていません。

皮膚粗鬆症

実際に皮膚粗鬆症で皮膚が剥けたりして生活に支障をきたしているのは、ご高齢のとくに介護施設などでケアを受けている方々に多いと想像されます。そうした施設に行くと手足に痛々しく包帯を巻いている方をよく見かけます。

皮膚が剥けてしまうことが、どれだけ大変なことか。皆様の中にもヤケドを負ったりして、皮膚のありがたみを実体験した方もいらっしゃるでしょう。面倒でも毎日手当しないといけませんし、触るといたいし、入浴のさいにはさらにしみて痛い。

介護施設には痛くても、お世話をしてくれる方には気兼ねして正直に言えず、ただただ我慢している方がたくさんいらっしゃるに違いありません。

何もやりようがないなら、それは年をとることの「苦痛」のひとつとして割り切るしかありません。しかし、少しでも改善させる対処法があるなら、少しでも痛みがなく、穏やかに暮らせるようにしてあげたい。

理想的には1%中分子ヒアルロン酸、0.05%レチナールと5%ビタミンCを含んだ保湿クリームがあればベストですが、コストが高くなりすぎて現実味がありません。

もし、このブログがどなたか化粧品メーカーの方の目に触れることがあれば、せめて有効成分として中分子ヒアルロン酸とビタミンCがある程度含まれた保湿剤を作っていただけませんでしょうか。

それは決して大きな利益を稼ぐようなものではありませんが、現実に苦しまれている多くの高齢者の方に福音をもたらし、メーカーにとって会社としての存在価値は爆上がりするに違いありません。



 

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投稿者: 美容外科・美容皮膚科 青い鳥

2022.05.27更新

皮膚粗鬆症は、肌の「究極の老化」、ということは、皮膚粗鬆症に効果的な治療法こそが、ほんとうのエイジングケアといえるし、有効でない治療は、エイジングケアとして役立たずだということ。

皮膚粗鬆症の治療法が模索される中で明らかになったのは、ヒアルロン酸の重要性です。


美肌へのアプローチ


これまでの美肌術はコラーゲンをターゲットにすることが多く、バカのひとつ覚えみたいに「コラーゲンを増やします!」なんてアピールしていたわけですが、実はそんなことはそれほど大事じゃなかった。

ひとつの証拠になるのは、皮膚粗鬆症の治療において、いわゆる「コラーゲン」を増やす施術は結果を出せていないこと。

もうひとつの証拠は、ヒアルロン酸を使った美肌術で、たとえば厚労省御用達(?)アラガン社のボライトでは、1回注入して数週間で結果が出ていること。

「コラーゲンを増やす」施術では、その期間では顕微鏡で見たらコラーゲンが増えてるのがわかるくらいがせいぜい、肉眼的にはまだ効果が見えてくるはずがない。コラーゲンなんて増やそうとしなくても、ヒアルロン酸を増やすだけで十分に美肌効果は出るということがわかってしまった。

皮膚の老化において、確かにコラーゲンも減少しているのだけれど、一番本質的で、皮膚の萎縮に直接的に関与しているのはヒアルロン酸。だからこそヒアルロン酸を補充することで皮膚の萎縮は改善される。

これまでの美容業界全体で推進してきた「コラーゲン伝説(コラーゲンを増やせば肌にハリが戻る)」は誤りとまではいえないけれど、ずいぶんと本質を遠回りしている感が否めません。

美容医療業界は皮膚の「再構築」という言葉が好きですが、皮膚のヒアルロン酸が代謝される過程でのヒアルロン酸受容体の活性化が「再構築」のカギを握っています。皮膚のヒアルロン酸代謝を活発に、そして円滑に回し続けることが、皮膚の「再構築」、老化対策としてもっとも重要なポイントなのです。


レチノイドが皮膚の老化治療に有効な理由として、コラーゲンの分解を抑制し、生成を促進するという面が強調されますが、それももしかしたら本質を見誤っているかもしれない。レチノイドは、皮膚のヒアルロン酸量を増やし、またヒアルロン酸受容体も増やすので、そちらがレチノイドの抗老化作用として本質的なのかも。

ここ数年で美容医療業界にはヒアルロン酸を主成分とした美肌術が次々に登場していて、私はそれを「ヒアルロン酸充填療法」と勝手に分類しているのですが、ヒアルロン酸充填療法とレチノイドの組み合わせは、現状で最強のエイジング対策と確信しています。


 

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投稿者: 美容外科・美容皮膚科 青い鳥

2022.05.18更新

骨粗鬆症は知っていても皮膚粗鬆症は知らない人の方が多いに違いない。でもご安心(?)下さい。きっとあなたも身につまされるときがやってきます。

みんなの皮膚粗鬆症


皮膚粗鬆症とは、究極の皮膚の老化症状のこと。皮膚がペラペラにうすくなって脆弱になり、裂けたり、剥けやすくなります。ご高齢の方がケアされている施設にいくと、手足に包帯している方がたくさんいることに気づくことでしょう。


典型的な症状を紹介します。
①皮膚萎縮
皮膚がペラペラにうすく、透けて見えるようになること。日光に暴露されていた部分に生じます。

皮膚萎縮


②偽瘢痕
傷つけた覚えがなくても、自然に真皮に亀裂が生じて瘢痕化します。70歳以上の20~40%に見られ、女性に多いとされます。

偽瘢痕

③老人性紫斑
わずかな外傷でも、また外傷の覚えがなくても生じます。血管が破れてできることもありますが、血管から血液が漏れ出て生じるとも言われます。

老人性紫斑



こうした皮膚粗鬆症の根本原因は加齢。60歳前後から見られるようになり、70歳以上では多くの人で認められるようになります。ということは、人生100年時代にはきわめてありふれた、みんなに共通した肌トラブルになるはずです。

「皮膚粗鬆症」という言葉が生まれたのは2007年。まだ疾患名とは認められていませんが、
その存在が知られるようになり、予防することが一般的になれば、それはきっとご高齢の方のQOLの改善につながります。自分の肌がどうなるかということだから、誰にとっても人ごとではありません。

50歳をすぎたら、顔のスキンケアにかける熱意をぜひボディ(特に前腕、下腿)にも分けて下さい。乾燥とそれによるかゆみを防ぐ保湿ケアにとどめず、一歩すすめて皮膚粗鬆症ケアにしましょう。いつまでもピチピチの肌でいられるように。


 

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2022.04.27更新

診療をしていて、ときどきレチノイドはコスメの「食わず嫌い王」なのか!と嘆きたくなることがあります。

レチノイドをすすめても、「私、アレ無理です!」と何度即答されたことか。世間のレチノイドの印象は、「肌が乾燥する」、「荒れる」、「皮むけして使えない」とさんざん。

さらに悪いことに、日本を含め世界的に敏感肌を訴える方が増加しています。レチノイドにとって逆風が吹き荒れているのです。敏感肌、乾燥肌の人に刺激的なレチノイドが使えるわけがない!、そうした罵声、悲鳴が聞こえてくるようです。

しかし・・、それは誤解もはなはだしい!

本来、レチノイドを使うことで、皮膚のバリア機能、保水力は高まります。それなのに、なぜ誤解が生じるかというとレチノイド本来の効能とレチノイド反応が混同されているから。

レチノイドは使用をスタートすると多くの方が、皮膚の乾燥、赤み、ヒリヒリ感などに悩まされます。それがレチノイド反応。でも、それはレチノイド本来の効能ではありません。当たり前です。それが本来の効能だとしたら誰も使うわけがない。

残念ながら、多くの方が十分な説明を受けることなく、またフォローもなく使用しているため、レチノイド反応が出ると、途端にモチベーションが下がり、「自分には合わない」と決めつけてやめてしまいます。

その結果、残るのは「レチノイドは合わない」という累々たる不平不満の山。

この現状は何とか変えていかないといけないとは痛切に思いながら、自分の発信力、影響力のなさはどうにもならず、急な好転は望むべくもありません。それでも、まずは自分の足元からコツコツと西川きよし師匠のように頑張るつもり。

敏感肌、乾燥肌で悩まされている方でも、いや、そういう方にこそ使っていただきたいし、使える使用法を広めていきたい。

チャレンジ・アゲイン


(追伸)
世間ではレチノイド反応のことを「A反応」と呼ぶようです。AはビタミンAのことだとか。でもそうなら呼称としてふさわしくない。ビタミンAはレチノールなので、レチノールを使ったときの反応になってしまう。レチノールだけではなく、レチナールでもトレチノインでもディフェリンでも生じるわけで、これはレチノイド(retinoid)反応、つまりは「R反応」とするのが適切だと思います。相変わらず自分の発信力、影響力のなさを顧みず言ってますけど。


 

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