「洗顔しすぎると、かえって皮脂が増える」
このような話を聞いたことはありませんか?実際、AI検索でも「洗顔のしすぎは皮脂の過剰分泌を招く」という回答が返ってくることがあります。
しかし、医学的にはこれは誤解です。
とはいえ、「洗顔しても皮脂がすぐに浮いてくる」と感じる方が多いのも事実。今回は、顔の皮脂が多いと悩む方へ、皮脂分泌の本当のメカニズムを医学的根拠とともに解説します。
皮脂分泌の真実:ホルモンが司る精密なシステム
皮脂の役割は、皮膚表面の保護ですが、その分泌量は、肌表面がオイリーだろうとドライだろうと変わるものではありません。皮脂分泌は皮脂腺内の細胞の分化、脂質の蓄積、そしてホルモンや環境要因など様々な要素によって複雑に調節されています(文献1)。
つまり、洗顔でたとえ皮脂を取りすぎたとしても、皮脂腺での「生産量」が増えることはないのです(文献1)。
なぜ「洗顔しすぎると皮脂が増える」説が生まれたのか?
もうずいぶん前の話ですが、興味深い実験結果が報告されました。同じ時間内で皮脂を採取する際、1回で拭き取るより複数回に分けた方が、より多くの皮脂が採取されたのです(文献2)。
この結果から「洗顔しすぎは皮脂の分泌量を増やす」という説が支持されました。しかし、これには別の理由があります。
皮脂の「貯蔵庫」システムが鍵
顔の皮脂には、巧妙な貯蔵システムが存在します。
2つの貯蔵庫の役割
1)皮脂腺の導管:Tゾーンなどでは、皮脂腺から皮膚表面へつながる管が巨大な貯蔵庫として機能
2)角質層:スポンジのように皮脂を蓄える第二の貯蔵庫
洗顔で表面の皮脂を取り除くと、毛細管現象により貯蔵庫から新しい皮脂が自動的に補充されます。これが「洗顔しても皮脂がすぐ出てくる」と感じる正体であり、また「1回で拭き取るより複数回に分けた方が、より多くの皮脂が採取された」理由だったのです(文献2)。
顔を洗いすぎるとどうなる?3つのポイント
1. 皮脂の生産量は変わらない
洗顔しすぎても、皮脂腺での生産量が増えることはありません。
2. 表面の皮脂は増えたように感じることも
貯蔵庫からの補充により、肌表面に出てくる皮脂の総量は一時的に増えたように感じられます。
3. 過度な洗顔は肌トラブルの原因に
肌に必要な保湿因子が奪われ、皮膚のバリア機能がダメージを受け、肌トラブルの原因となります。
まとめ:美肌のための正しい洗顔法
◉洗顔によって一時的に皮脂によるテカリやベタつきは抑えることができますが、過剰な洗顔、頻回な洗顔では肌がもちません。
◉ただ、洗顔が皮脂の分泌を刺激するというのは間違いです。
【参考文献】
1. Oily skin: an overview
Sakuma TH, Maibach HI
Skin Pharmacol Physiol
2012;25(5):227-235
2. An investigation of the human sebaceous gland
Kligman AM, Shelly WB
J Invest Dermatol
1958;30:99-125
制作・執筆:坂田修治(医師:美容外科・美容皮膚科 青い鳥 院長)
(最終更新日:2025年7月7日)