「骨粗鬆症」はよく知られていますが、「皮膚粗鬆症」という言葉は初めて聞く方も多いのではないでしょうか。しかし、これは年齢を重ねるすべての人に関わる、皮膚の究極的な老化現象です。
皮膚粗鬆症とは、加齢などにより皮膚が薄く(皮膚萎縮)、もろくなる(皮膚脆弱)状態を指します。皮膚が脆弱化すると、わずかな摩擦や刺激でも内出血によるアザができたり、皮膚が裂けやすくなります。
特に高齢者の手足に多く見られ、ケア施設で腕などに包帯を巻いている方がいるのは、それが原因であることが少なくありません。
ひどい場合は、皮下で大きく出血する「深部剥離性血腫」といった、重篤な合併症につながることもあります。
典型的な症状を紹介します。
①皮膚萎縮
皮膚がペラペラにうすく、透けて見えるようになること。日光に暴露されていた部分に生じます。
②偽瘢痕
傷つけた覚えがなくても、自然に真皮に亀裂が生じて瘢痕化します。70歳以上の20~40%に見られ、女性に多いとされます(文献1)。
③老人性紫斑
わずかな外傷でも、また外傷の覚えがなくても生じます。血管が破れてできることもありますが、血管から血液が漏れ出て生じるとも言われます。
こうした皮膚粗鬆症の根本原因は加齢。60歳前後から見られるようになり、70歳以上では多くの人で認められるようになります。ということは、人生100年時代にはきわめてありふれた、みんなに共通した肌トラブルになるはずです。
「皮膚粗鬆症」という言葉が生まれたのは2007年。まだ疾患名とは認められていませんが、
その存在が知られるようになり、予防することが一般的になれば、それはきっとご高齢の方のQOLの改善につながります。自分の肌がどうなるかということだから、誰にとっても人ごとではありません。
皮膚はなぜ脆弱になるのか?原因とメカニズム
◉皮膚粗鬆症の主な原因は加齢、長年の紫外線ダメージ、そしてステロイドの長期使用です。ステロイドを長く使用していると、副作用として皮膚萎縮が起こり、皮膚が薄くなることが知られています。
◉この病態の根底には、皮膚の表皮細胞(ケラチノサイト)の細胞膜にある「ヒアルロソーム」の機能不全が深く関わっていると考えられています(文献2)。
◉「ヒアルロソーム」は皮膚において「ヒアルロン酸工場」の役割を果たしています。ヒアルロン酸が減少することで、皮膚はボリュームを失い、皮膚脆弱性が高まってしまい、わずかな刺激でも傷つきやすい状態へと進行するのです。
皮膚粗鬆症・皮膚萎縮・皮膚脆弱の治療
最も重要なのは予防であり、紫外線対策や慢性的なステロイドの使用を控えること、喫煙を避けること、適切な栄養摂取(特にタンパク質やビタミンCの補給)が挙げられます。
また、日頃から手足のスキンケアを欠かさず行うことも重要です。
現在研究されている皮膚萎縮や皮膚脆弱に対する治療法には、以下のようなものがあります。
1. 中間サイズ(分子量80~150 kDa)のヒアルロン酸による治療:
皮膚粗鬆症では、肌のうるおいと弾力に欠かせないヒアルロン酸を生成する「ヒアルロソーム」がうまく機能しなくなります。
◉中間サイズ(分子量80~150 kDa)のヒアルロン酸を皮膚に塗布することで、この「ヒアルロソーム」の働きを活性化させ、皮膚の萎縮を改善し、ハリや厚みを取り戻す効果が示されています(文献2)。
◉中間サイズ(分子量80~150 kDa)のヒアルロン酸は、マウスにおいてステロイドによる皮膚萎縮を予防する効果も確認されています(文献2)。
◉皮膚粗鬆症の患者を対象とした研究では、1ヶ月間の中間サイズ(分子量80~150 kDa)のヒアルロン酸(1%)の局所塗布により、紫斑(青あざ)の減少や皮膚の萎縮状態の改善が見られました(文献2)。
2. レチナール(RAL)との併用療法:
◉レチナールはビタミンA誘導体の一種で、単独でもヒアルロン酸合成酵素を誘導することが知られています(文献2)。
◉中間サイズ(分子量80~150 kDa)のヒアルロン酸とレチナール(0.05%)を一緒に使用すると相乗効果を発揮し、皮膚萎縮の改善、老人性紫斑の減少により大きな効果が期待できることが示されています(文献2)。
3. ビタミンCの外用:
◉老人性紫斑の改善には、5%のL-アスコルビン酸を含むビタミンCの外用が有効であることが、臨床試験で示されています(文献3)。皮膚の弾力性および厚さの改善も認められています(文献4)。
まとめ
50歳をすぎたら、顔のスキンケアにかける熱意をぜひボディ(特に前腕、下腿)にも分けてあげて下さい。
乾燥とそれによるかゆみを防ぐ保湿ケアにとどめず、一歩すすめて皮膚粗鬆症ケアにしましょう。いつまでもピチピチの肌でいられるように。
【参考文献】
1) Dermatoporosis: a chronic cutaneous insufficiency/fragility syndrome.Clinicopathological features, mechanisms, prevention and potential treatments
Gürkan Kaya, Jean-Hilaire Saurat
Dermatology
2007;215(4):284-94
2) New therapeutic targets in dermatoporosis
G Kaya
J Nutr Health Aging
2012 Apr;16(4):285-8
3) Dermatoporosis. What We Know and What to Expect
Badea, M. A., et al.
Romanian Journal of Military Medicine
2025;128(3):242-247
4) Dermatoporosis - The Chronic Cutaneous Fragility Syndrome
Uwe Wollina, et al.
Open Access Maced J Med Sci
2019 Aug 30;7(18):3046-3049
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制作・執筆:坂田修治(医師:美容外科・美容皮膚科 青い鳥 院長)
(最終更新日:2025年9月16日)