2022.04.20更新


人生100年時代は、「見た目」の時代。そう予言します。年齢が上がれば上がるほど、個人差が大きくなり、実年齢はまったくあてにならなくなります。その結果、「見た目」の元気さ、若々しさで、その人が信用できるかどうか、大げさに言えば社会的信用度が判断されるのです。

「見た目」の時代

いつ「見た目」の時代が到来しても慌てないように、肌のエイジングケアをおすすめします。この頃「老化は病気」という見方も出てきていますが、実際にもっとも「老化」を治療しやすい臓器は皮膚に違いありません。しかも再生医療とかおおがかりなことをしなくても、自分のスキンケアの範囲で十分できるのですから、しない手はありません。

具体的には、今より光老化をすすめないよう日焼け止めを使うなど日光対策を尽くすことと、自分に合ったレチノイドを使いこなすこと、さしあたりこの2つで十分です。

ただ、レチノイドについて自分の診療で痛切に反省しているのは、ただすすめるだけで、どうしたら使い続けられるかまでの説明が不十分だったこと。レチノイド反応が出たら、こうしましょうではなく、ほとんどレチノイド反応が出ないような使用法を説明すべきではなかったか。続けられなければ、エイジングケアなんて絵に描いた餅なのだから。


レチノイド反応を抑え込む使用法は、大きく分けて2つの方法
1)レチノイドを塗る時間を短縮(ショートコンタクト法)
2)レチノイドを塗る間隔をあける(隔日、3日に1度など)
があります。

こうした使用法でレチノイド反応が出る最初の1~2ヶ月を乗り切ることが、レチノイド脱落者を出さないために必要なのです。

大まかな方針としては、タザロテンはショートコンタクト法、ディフェリン、レチナールは間隔をあける方法が適していると思います。

ディフェリンは日本でもニキビ治療薬として使われているので、もしかしたら頭の硬い(心の狭い、口の悪い)皮膚科の先生からは、エイジングケアとして使用することにエビデンスがあるのかとお叱りを受けるかも。

確かにエビデンスは不十分かもしれません。しかし、レチノイドとして同じカテゴリーのトレチノインとタザロテンは、光老化の症状への使用が米国FDAに承認されています。

ほとんどの日本人にとって使いやすいのはトレチノインやタザロテンよりディフェリンなのです。そのエビデンスが揃うのを待っていたら、今レチノイドが必要な人を見捨てることになってしまいます。

今ある限りのエビデンスから、ない頭をしぼって類推を働かせ、最適解に導くのが「臨床」だと批判には応えるつもりです。

 

 

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投稿者: 美容外科・美容皮膚科 青い鳥

2022.04.13更新

乾燥するとニキビができやすくなるので、特に大人ニキビ対策として保湿は重要。これ美容外科・美容皮膚科向けの医学雑誌でもよく見かけますし、実際診療において、私自身もそう説明したことがあります。

だから、今回の記事には反省の意味も含まれています。


ニキビと保湿


昨年出された日本美容皮膚科学会誌という、その名の通り美容皮膚科医向けの学会誌に皮膚科の大先生が、敢えて言えば「怒り」の投稿をされています。


「最近、乾燥がニキビを悪化させ、保湿がニキビを改善するという考え方が、メディア、美
容雑誌などで拡散され都市伝説のようになっているため、十分注意する必要がある。」

さすが大先生になると、あからさまに怒りを表現することはせず、あくまで控え目に書いていますが、ほんとうは「ちゃんとやれよ、注意しろよ!」と後輩を叱咤しているように読めます。

深読みすると、本来なら「美容雑誌などで拡散され・・」のところ、学術文献としては例として参考文献を上げるべきところですが、あえて(?)スルーしています。おそらくそれを書いたら、後輩に恥をかかせることになるし、それも一人、二人ではすまなくなるので、ここは大先生のお慈悲かもしれません。


「保湿をすることで、ニキビを発症させる毛穴の入り口の閉塞が防げるという「説」があるが、保湿でニキビが改善したというエビデンスはない。むしろコメド形成性のある保湿剤で悪化させている可能性がある。」

おそらく大先生がこれを書いたのは、過剰な保湿でニキビを悪化させているニキビの患者さんをよく見かけるからなのでしょう。


「保湿の本来の目的は、肌の乾燥に対するスキンケア、ニキビ治療薬の副作用軽減であり、ノンコメドジェニックなものを必要最小限使用するにとどめるべき。」

論文の全体を通して伝わってくるのは、自身の肌の状態に合わせてコスメを選び、スキンケアしなさいという大先生の教えです。

格言としてまとめれば、
「汝自身の肌を知れ!」

 

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投稿者: 美容外科・美容皮膚科 青い鳥

2022.04.06更新

コロナ禍で診療所の多くの診療科で患者数は減少しましたが、皮膚科では減少しておらず、マスク生活によって、新たな肌トラブルが起こっていることがうかがえます。それがマスクによる肌荒れ、ニキビ。

マスクを装着することで、肌にどんな悪影響を与えるか?結論から言うと、バリア機能崩壊による「乾燥」。

マスクで崩壊

マスクを着用すると、マスクにおおわれた肌では、皮膚温と湿度が上昇します。蒸れ蒸れになるわけですが、これが肌のバリア機能を低下させます。

なぜかというと、皮膚表面では、細胞同士がピタッとくっついてバリアを形成しているのに、過湿により表面の細胞が膨張すると、細胞間の接着が弛んでしまうから。

長時間のマスクパックでも同じことが言えます。保湿は大切ですが、過湿には要注意なのです。

ここでひとつ訂正があります。私はメルマガで「マスクをしているときは蒸れているというのに、それがバリア機能を崩壊させ、マスクを外したら、一気に乾燥する・・。」と書きました。

しかし、韓国の研究者が発表した論文によると、とくに口まわりの皮膚では、マスクの装着中から保水量は減少していました。蒸れているようで、皮膚は乾燥しているらしい。ここにお詫びして訂正させていただきます。


さて、もうひとつの問題「ニキビ」。

マスクを着用すると、皮膚温が上昇するため、皮脂の分泌が亢進して、これがニキビの原因になります。しかもマスク内だけでなく、おおわれていない額でも皮脂が増えるため、ニキビができてしまいます。

マスクでできたニキビの治療も従来のニキビ治療と変わりありませんが、以前は使用できた薬剤に刺激を感じる患者さんが増えているとか。皮膚のバリア機能が低下して、「敏感肌」になっているのです。

マスクの肌荒れ対策としては、保湿が重要とされていますが、同時にマスクで密封された状態では、かぶれが誘導されやすいことも指摘されています。またウレタンマスクの方が肌にやさしいようですが、感染効果が落ちないようにその上から不織布マスクをすると、ますます蒸れ蒸れになってバリア機能が壊れそう・・

人前に出るときは社会規範としてマスクが必要ですが、近くに人がいない中で仕事しているときなど、マスクが本当は意味のないシチュエーションも多いはず。そういうときは肌をいたわるためにも外して、お肌を休ませてあげてはいかがでしょうか。


(参考文献)

1)Effect of face mask on skin characteristics changes during the COVID-19 pandemic
Park SR,et al.
Skin Res Tcchnol
2021;27(4):554-559

2)Long-term effects of face masks on skin characteristics during the COVID-19 pandemic
Park SR,et al.
Skin Res Tcchnol
2022;28(1):153-161

3)新しい生活様式 スキンケアはどう変わる
川島眞、他
ベラペレ
2022;7(1):69-72





 

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投稿者: 美容外科・美容皮膚科 青い鳥

2022.04.01更新

数年前から植物由来のバクチオールというコスメ成分が話題です。「次世代レチノール」、「第二のレチノール」、「レチノールに代わる・・」などと、キャッチフレーズにはいつもレチノールがついています。

この場合、レチノイドの中でも「レチノール」を相手に選んだのがニクい。これがレチナールだと知名度が低いので、消費者の心に響かないし、トレチノインを選ぶとただではすまない。レチノイドはトレチノインを中心に学問的に発展してきました。「トレチノインに代わる・・」などと言われたら、いきなり本丸に土足で踏み込まれたようで、皮膚科医、美容皮膚科医が騒ぎます。

そこで、「レチノール」。これが感心するほどにちょうどよい。これだとたいていの医師からしたら、騒ぐのも大人気ないかなと思ってしまいます。そして、私がそうであったように、とくに調べることもしないで、バクチオール=レチノールで納得してしまいます。

レチノールのイメージを刷り込ませることで、説明するまでもなく、どんな効果か消費者に勝手に想像させますし、さらには効果のほどまで納得させてしまうのですから、メーカーのマーケティング戦略は見事です。

逆に決してほめられないのが、皮膚科領域では指折りのブリティッシュ・ジャーナル・オブ・ダーマトロジー(BJD)誌。バクチオールがレチノールと同程度の効果とした臨床研究は、BJD誌に掲載されています。

しかし、私ですら一読して、アレ?と思う箇所に気づきます。バクチオールとレチノールの比較試験ですが、バクチオールは1日2回塗るのに、レチノールは1日1回だけで、これでまともな比較試験になるのか?

これほどのジャーナルになれば、偉すぎるほどの専門家が複数で審査しているはずですが、きちんとした専門家からもきちんとした、そもそも研究デザインから間違っていて、結論をミスリーディングしていると批判される始末で、こんな臨床研究の根幹に関わるところで批判を受けるなんて、一流誌として恥ずかしいこと。

ただ、レチノールとの類似性を打ちだしたマーケティング戦略も見事なら、ついには世界で指折りのジャーナルまで巻き添えにしたという意味では、メーカーの努力は素直に賞賛すべきと言えるでしょう。

さて、肝心のバクチオールですが、言うほどにはレチノールに似ていません。そもそもバクチオールはレチノイド受容体には結合しないので、レチノイドとは言えない。まったくのニセモノ、いや、別物。

まったくの別物をレチノールに仕立て上げるわけですから、そこにはメーカーの涙ぐましい努力があります。近頃は「エビデンス」という言葉も一般的になり、コスメにもエビデンスが求められるわけですが、それを自作自演で自分たちの販売戦略に忠実に作り上げてしまいます。

バクチオールの光老化皮膚への有効性を論じた最初の論文は、メーカーの研究員が書いています。冒頭からバクチオールではなく、ひたらすらレチノイドの話が展開され、全体的にもレチノールとの類似性をこれでもかと強調しています。最初これを読み終えたとき、レチノールとの類似性を強制的に理解させられただけで、バクチオールの全体像はさっぱりわからないという、不思議な気分になりました。

バクチオールには、抗酸化や抗炎症作用があり、心臓や肝臓の臓器保護に有用ではないかという基礎系の論文もありますが、臨床的に使われる段階にはないので、まだまだ未知数。「美容には夢が必要」という持論を持っている私ですが、さすがにバクチオールは夢というよりまだまだ「幻」に近い。

コスメとしてのバクチオールは、レチノイドではないので当たり前ですが、刺激反応もなく使いやすいようです。現在気に入って使用しているなら、あえてやめることもありません。ただ、もし「使いやすい」レチノールをお探しなら、バクチオールに手を出すのではなく、あくまでレチノールで、ただその使い方を工夫すべきでしょう。


 

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(参考文献)

1)Prospective, randomized, double-blind assessment of topical bakuchiol and retinol for facial photoageing
Dhaliwal S,et al.
Br J Dermatol.
2019;180(2):289-296

2)Bakuchiol: a retinol-like functional compound revealed by gene expression profiling and clinically proven to have anti-aging effects
Chaudhuri RK,et al.
Int J Cosmet Sci.
2014;36(3):221-230

3)Cosmetic commentary: Is bakuchiol the new skincare hero?
Spierings NMK
J Costet Dermatol.
2020;19:3208-3209

4)Bakuchiol: A new discovered warrior against organ damage
Xin Z,et al.
Pharm Res.
2019;141:208-213



 

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投稿者: 美容外科・美容皮膚科 青い鳥

2022.03.24更新

大げさな言い方になりますが、人生100年時代には中分子ヒアルロン酸は必須です。使わなければ命が100年もっても、肌がもたないから。

みんなにとって必要なものなので、作り方を公開します。これを商品化して一儲けしようという人が出てこないように。

作り方は簡単、容器に水とヒアルロン酸粉末を入れて振るだけ! ポイントはヒアルロン酸の分子量。5万から40万のヒアルロン酸を選ぶこと。

使い方は、顔には化粧水として、ボディには保湿クリームと併用してお使い下さい。


100ccの3%ローションを作成する方法
*あくまで自己責任としてご使用下さい。
*防腐剤、保存料は入っていませんので、冷蔵保存とし、1週間以内に使いきって下さい。色やにおいなど変化があればただちに使用を中止し、破棄して下さい。


1)用意するもの
・中分子ヒアルロン酸粉末(分子量5万~40万程度)
*ここでは誰でも入手しやすいようにニチエーのヒアルロン酸粉末で紹介しています。楽天で買えます。食品用です。
・精製水
・ビーカー
・(滅菌)容器
・計量器
・薬包紙(計量器に載せておく)

準備

2)精製水をビーカーに50ccとり、容器に入れる

精製水

3)計量器に載せた薬包紙の上にヒアルロン酸粉末を3.0g取ります。

ヒアルロン酸粉末

4)ヒアルロン酸を容器に入れます

ヒアルロン酸を容器へ

5)容器にフタをしてよく振る

振る

6)もう一度ビーカーに精製水50ccをとり、容器に入れる
7)容器にフタをしてよく振る


ヒアルロン酸粉末は溶けにくいときは、
5')精製水をビーカーに20ccとり、容器に入れる
6')容器にフタをしてよく振る
7')精製水をビーカーに30ccとり、容器に入れる
8')容器にフタをしてよく振る
のように水を少しずつ加えてもいいでしょう。

また、時間が経てば溶解するので、一晩放置すればたいてい溶けています。


ヒアルロン酸濃度は1%あればいいのですが、1%だとほぼ「水」で使いにくいので、ここでは3%で紹介しています。

注)厳密に言えば、3%濃度にするには、ヒアルロン酸3gを精製水97gに溶かすことになりますが、実用上変わりませんから、ヒアルロン酸3gを精製水100ccに溶かしています。

注)防腐剤、保存料は入っていませんので、冷蔵保存とし、1週間以内に使いきって下さい。色やにおいなど変化があればただちに使用を中止し、破棄して下さい。



中分子ヒアルロン酸がなぜこれまで商品化されなかったか?

おそらくそれは皮膚の老化が相当に進んだいわゆる「皮膚粗鬆症」には効果を認めても、そこまで老化が進んでいない肌では効果が見られなかったから。

しかし、エイジングケアとして考えれば、意味がないとは思いません。若い頃から使うことで、「皮膚粗鬆症」の症状の出ることを大幅に遅らせたり、防ぐことができるはず。

中分子ヒアルロン酸ローションが今すぐに役立つのは、自宅や高齢者施設で介護を受けている高齢者の方々の肌ケア。

私の小さな試みが、そんな方々の手足から少しでも内出血のアザや傷を減らすことにつながりますように。

 

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投稿者: 美容外科・美容皮膚科 青い鳥

2022.03.20更新

ニキビ治療薬であるディフェリンが、エイジング治療薬にもなるのはちょっと不思議に思うかもしれません。しかも、どちらでも第一選択という治療戦略上重要なポジションを占めています。

10代、20代のまだ「老化」を想像すらできない人たちがニキビ治療でディフェリンを使い、そして時が経って、「老化」に直面した頃に、また再びディフェリンのお世話になるというわけ。

ディフェリンという塗り薬は、第3世代合成レチノイドに分類されます。ちなみに合成レチノイドの最新事情を紹介すると、第4世代トリファロテンはニキビ治療薬として米国FDAが承認しています。第4世代で、まだ未承認ですが、注目はセレチノイドG。塗ってラップ巻いて密封療法のようにして使用しても刺激症状が出ないらしい、つまり無刺激。

そもそも合成レチノイドは、「刺激症状がなくて、効果はトレチノイン以上」を目標として、開発がすすめられています。「効果はトレチノイン以上」については、タザロテン、トリファロテンが、「刺激症状のない」ことではセレチノイドGが登場したので、あとはひとつで両方の条件を満たす製剤が誕生するかに期待が集まります。

さて、レチノイドを使った老化治療ということに話を戻すと、現状で米国FDAが承認しているのは、トレチノインとタザロテンのみ。残念ながらディフェリンは承認されてはいません。しかし、同じニキビに効くレチノイドですから、老化に効かないわけはなく、実際いくつか臨床試験も行われ、結果を残しています。

興味深かったのは、皮膚科のトップジャーナル(米国皮膚科学会の公式ジャーナル)。さすがに敷居が高いところはいい加減な言い方は許さないというか、光老化全体の治療とは認めず、その症状である前がん病変、シミの2つに対象を絞ってディフェリンの効果をみた臨床研究になっています。

FDAもまだ公式には老化を疾病とは認めていないので、米国皮膚科学会としても他の安っぽいジャーナル(?)みたいに、すぐに雑な言い方をして光老化に有効とは意地でも言わせたくなかったのでしょう。

このときの臨床試験での使用方法というのが、夜1回、洗顔後に豆粒大(a pea-sized)を顔全体に塗る、1ヶ月後に刺激反応が収まっていれば、2ヶ月目以降は朝にも塗るというもので、ディフェリンをエイジングケアとして使うならこの使用法をおすすめしたいと思います。

どこまでも慎重な姿勢を崩さない米国皮膚科学会にかわって、どこまでも軽い私に言わせてもらえれば、ディフェリンは光老化、つまりは肌の老化に効果的です。

レチノイドでしばしば問題になる刺激反応も、すでにニキビ治療薬として広く使われているのですから恐れる必要はありません。日本で唯一の厚労省承認のレチノイド・ディフェリンは30代、40代のエイジングケアとして第一選択です(更年期が視野に入ってきたらレチナールをおすすめします)。


 

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投稿者: 美容外科・美容皮膚科 青い鳥

2022.03.13更新

その昔、中国の秦の始皇帝は、家来に命じて「不老不死の薬」を探させたとか。今の時代にあてはめれば、レチノイドはまさに、お肌の「不老不死の薬」というにふさわしい存在です。

ただし、レチノイドには、やっかいな副作用として刺激反応があります。そこで製薬メーカーは、「刺激作用のないトレチノイン」のような合成レチノイドを目指して新薬の開発に取り組んでいます。

今回、当院で取り扱いを開始したタザロテンは第3世代の合成レチノイド。日本でニキビ治療に使われるディフェリンと同世代になります。ディフェリンは繊細な(?)日本人にピッタリなマイルドなレチノイド。ハードなタザロテンが日本で承認薬として使える日はきっと来ないでしょう。

トレチノインとタザロテンはすでに米国FDAが、ニキビに対してだけでなく、光老化にも有効と認めています。そうなると、きっとゼオス〇ンをお使いの人など、どっちがいいの?と気になるのではないでしょうか。

結論からいうと、臨床試験では互角です。ただタザロテンの方が早期から効果を認めやすいので、使うならタザロテンでしょう。

ただ、ある文献で実際に臨床で使っている米国の医師が「ディフェリンは効果はマイルドだが、使い続けやすい」に続けて、「トレチノインは効果も使いやすさも中くらい」、「タザロテンはもっとも効果が強いが、もっとも続けにくい」と語っています。

米国人にも使い続けるのは大変と言わせてしまうとなると、日本人にとっては、タザロテンをアンチエイジング目的に毎日顔全体に塗るのはちょっときついかもしれません。

タザロテンで特筆すべきは「塗るだけのニキビ痕(アクネスカー)治療薬」であること!論文では、片顔はタザロテンを夜に1回3ヶ月間塗るだけ、片顔は月に一度、合計4回ダーマローラーをするという設定で、治療効果に差がなかったという衝撃的すぎる結末が報告されています。

さらにタザロテンは毛穴を小さくする効果も高いと評判です。ですから全体は無理でも、気になるところに部分的に使うのも十分ありだと思います。

もし不老不死の薬を捜索中の家来が私の前に現れたら・・バカバカしい空想話ですが・・、さっと私は「レチノイド」を差し出して、家来には始皇帝に献上するとき、こう耳打ちするように伝えます。「これで最期までお肌はピチピチです。」

きっと私はご褒美として酒池肉林に1年くらい招待されるに違いありません。

 

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投稿者: 美容外科・美容皮膚科 青い鳥

2021.11.09更新

先日Twitterでつぶやいたツイート

洗いすぎると,かえって皮脂が増えるはホント?
(答)ウソ

Twitterなので字数制限もあり、あっさり書きましたが、ここはオイリースキンやニキビでお悩みの方にとって、スキンケアを考える上で重要なポイント。

ツイートの問いは、もう少し医学的な表現にすると
「皮脂分泌は、皮膚表面の皮脂の多寡(多い少ない)によるフィードバック調節を受けるのか?」ですし、突き詰めれば、「何が皮脂分泌をコントロールしているのか?」となります。

最初にタネあかしをしておくと、「皮脂分泌は、皮膚表面がサラサラだろうとギトギトだろうと影響を受けない」、「皮脂分泌は内分泌(ホルモン)、とくに男性ホルモンによって調節される」が正解。

さて、だとしても日常的にオイリースキンと闘っている方は、洗えば洗うほど皮脂がしみ出てくるという実感をお持ちでしょう。実はこの「実感」は、医学上の皮脂の研究の過程でも大きな問題になりました。

ちょっと時代をさかのぼりますが、およそ第二次世界大戦の頃まで、皮膚表面の皮脂は拭き取られると、皮脂の分泌が亢進し、表面の皮脂量が飽和すると皮脂の産生がストップすると考えられていました。

戦後になり、皮脂は表面の皮脂の量とは関係なく、ずっと産生が続いている、皮脂は皮膚表面をどこまでも広がるので、休止状態になっているように見えるだけという学説(ポジティブ・フィードバック説)が有力になります。

そして、そのとき立ちはだかったのが、「同じエリアから同じ時間内に皮脂を採取するとき、1回で採取するより、数回に分けた方が皮脂の採取量は多くなる」という多くの実験報告でした。

 

皮脂表1
(参考文献1から抜粋)


これが実際の実験データ。
3時間での皮脂の採取実験。左の1.5が1回で採取した量、右の2.2が30分毎に採取したときの合計量。もし、この結果を素直に受け入れるなら、やっぱり「顔を洗えば洗うほど皮脂は出てくる」説が正しいことになります。

 

皮脂表2
(参考文献1から抜粋)


ここでもうひとつ同じグループの別の実験データを示します。
4時間での皮脂の採取実験。左の2.8が1回で採取した量、右の2.7が30分毎に採取したときの合計量。3時間と4時間という違いはあれ、今度の結果からは「顔を洗おうが、洗うまいが、皮脂の産生量は同じ」説が正しく見えます。


なぜこうも違う結果になったのか・・
実はこのとき2つの実験には皮脂の採取方法に違いがあったのです。

 

皮脂図1
(参考文献1から抜粋)

その前に、謎解きに重要な「皮脂」の貯蔵について説明します。

皮脂はただ作られ、そのまま皮膚表面に出てくるという単純な話ではありません。美容で問題になる顔のTゾーンでは、作られた皮脂は、巨大な貯蔵庫である皮脂腺の導管(イラストの皮膚につながる管状構造)に蓄えられます。さらにもうひとつ貯蔵庫の役割を果たすのが、皮膚表面の角質。角質は「水を含んだスポンジ」のように皮脂をヒタヒタと蓄えています。角質の皮脂はなくなると、毛細管現象で貯蔵庫(皮脂腺導管)から吸い上げられ、つねに補充されます。

これで説明の準備ができました。

よく似た実験で結果が異なったのは、実験手技のわずかな違いでした。最初のときは皮脂を採取するさい、吸収紙にしっかり吸収されるよう圧をかけていたのです。このやり方だと皮脂採取のたびに角質にしみ込んだ皮脂までカウントされます。吸収された皮脂の分はしばらくすると貯蔵庫(皮脂腺導管)から補充されるので、限度内では採取回数を多くした方が総採取量は増えるというワケ。


しかし、後の実験では、圧をかけずにただ皮膚表面に吸収紙を置いて吸収させただけだったのです。皮膚表面にしみ出てくる皮脂だけを採取したのです。その場合は採取回数に関係なく総採取量は同じでした。このことから皮脂腺からはコンスタントに皮脂が分泌され続けていることもわかります。



今回のツイートでちょっと反省しているのは、ツイートで話題にするには複雑すぎたし、答えはどちらでも正解と言えること。

確かに洗顔で皮脂を洗い流しても、皮脂腺での産生量としての皮脂は増えません。ただ実際にはあらかじめ作られた皮脂が多量に蓄えられていて、洗顔のたびにそれが補充されるので、日常生活の範囲(貯蔵が尽きない範囲)においては、洗うほどにオイリーが余計にひどくなることはなくても、皮膚表面に出てくるトータルの量としての皮脂は増えると言えます。


(結論)
1 皮脂腺からコンスタントに皮脂は分泌され、皮膚表面の皮脂の量によるフィードバック調節は受けていない。
2 皮脂は、顔のいわゆるTゾーンでは分泌量に比べはるかに大きい貯蔵庫である皮脂腺導管に蓄えられている。
3 皮膚表面の角質も皮脂の貯蔵の役割を果たしている。

 

(参考文献)
1 An investigation of the human sebaceous gland
Kligman AM, Shelly WB
J Invest Dermatol
1958;30:99-125

2 Oily skin: an overview
Sakuma TH, Maibach HI
Skin Pharmacol Physiol
2012;25(5):227-235

 

 

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投稿者: 美容外科・美容皮膚科 青い鳥

2021.10.20更新

美容皮膚科にはサイエンスとビジネスの2つの側面がありますが、サイエンスの側から見たとき、美白剤のNo.1といえば、ここ数十年ハイドロキノンの王座は揺るぎないものがあります。美白剤のNo.2と目されていたロドデノールは、白斑症で大問題を引き起こし失脚しましたので、No.2は空席のまま。

No.1をハッキリさせることにどんな意義があるのか、No.2でもいいじゃないかという意見もあるでしょう。しかし、学問の世界では、No.1を越える結果を出すことが、その領域の進歩を証明することになります。実はNo.2以下こそどうでもよい存在なのです。

ところが驚くなかれ、美容皮膚科のビジネスサイドでは、「ハイドロキノンの4倍!」とか「ハイドロキノンの17倍!」という美白剤が存在します。


「ハイドロキノンの4倍!」と謳っているのは、シスペラ(一般名システアミン)。
最初に美白効果が報告されたのは1966年。強いイオウ臭があり、長らく商品化を見送られてきましたが、2010年に臭いを抑制する技術開発があり、ようやく日の目を見ました。

シスペラの問題は何より高すぎること。ハイドロキノンより10倍高い。高額な理由が効果があるからではなく、一社の独占販売だからとしかいいようがないことに「胡散臭さ」を感じます。

シスペラを取り扱うクリニックは、「世界的に権威のある学会で発表されている」と自慢していますが、学会発表はエビデンスのうちに入りません。美白剤の優劣は、ほとんどの場合、肝斑に対する有効性で競われ、その肝斑の最新の総説にどう記載されるかで、その美白剤の学問的評価がわかりますが、実はシスペラはひと言も触れられていません。

(余談ですが、最新の総説に登場する美白剤は、ハイドロキノン、アゼライン酸、ビタミンC、それから日本人にとって誇らしいルシノール。ポーラの関係者は喜んでいることでしょう。)

シスペラが本気で美白剤の王座を狙うのであれば、ケチのつけようのない競争の中で奪い取ってみせなければなりません。ただ、独占的に一社が供給する今の状況ではそれは難しいと言わざる得ません。


「ハイドロキノンの17倍!」と(恥も外聞もなく)謳うのは、ルミキシル。これにいたっては、もうハイドロキノンとの比較試験も見当たりませんでした。真面目に文献検索していて、ほとんど発狂しそうになりました。

でも、17倍の根拠は見つけることができました。実験で、ルミキシルはハイドロキノンより17倍強力にキノコのチロシナーゼを抑制したというもの。「17倍強力」の根拠は、なんと!キノコだったのです。もう絶句しました。

ルミキシルに必要なのは、キノコを相手にするのではなく、人を対象にしてハイドロキノンと正々堂々勝負して、有効性を実証すること。

ハイドロキノンの王座を狙う新参者からは、しばしばハイドロキノンのリスクが言及されますが、何十年にもわたり、リスクを回避する使用法が模索されてきました。使い方を知っている「医師」の指導の元で使えば安全な製剤です。私もその「医師」の一人ですと最後に付け加えておきます。他の医師より10倍詳しいと言いたいところですが、それはやめておきましょう。

 

 
(参考文献)
(肝斑に関して)
1)Melasma treatment: An Evidence-based review
McKesey J, et al.
2020;21:173-225

(シスペラに関して)
2)Clinical evaluation of efficacy,safety and tolerabirity of cysteamine 5% cream in comparison with modified Kligman's formula in subjects with epidermal melasma: A randomized, double-blind clinical trial study
Karrabi M, et al.
Skin Res Technol.
2021;27:24-31

3)Cysteamine cream as a new skin depigmenting product
Hsu C, et al.
J Am Acad Dermatol.
2013;68:AB189

4)Evaluation of the efficacy of cysteamine 5% cream in the treatment of epidermal melasma: a randomized double-blind placebo-controlled trial
Mansouri P, et al.
Brit J Dermatol.
2015;173:209-217

5)Efficacy of cysteamine cream in the treatment of epidermal melasma, evaluating by Dermacatch as a new measurement method: a randomized double placebo controlled study
Farshi S, et al.
J Dermatolog Treat.
2018;29(2):182-189

6)Evaluation of the efficacy of cysteamine cream compared to hydroquinone in the treatment of melasma: a randomized, double-blinded trial
Australas J Dermatol.
Nguyen J, et al.
2021;62:e41-e46

7)Significant therapeutic response to cysteamine cream in a melasma patient resistant to Kligman's formula
Kasraee B, et al.
J Cosmet Dermatol.
2019;18:293-295

(ルミキシルに関して)
8)A split-face, double-blind, randomized and placebo-controlled pilot evaluation of a novel oligopeptide for the treatment of recalcitant melasma
Hantash BM,et al.
J Drugs Dermatol.
2009;8(8):732-735

9)Short-sequence oligopeptides with inhibitory activity against mushroom and human tyrosinase
Abu Ubeid A,et al.
J Invest Dermatol.
2009;129(9):2242-2249

 

 

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投稿者: 美容外科・美容皮膚科 青い鳥

2021.08.31更新

 もうあの講演を聴いてから10年は経っているかもしれません。演者は高名な皮膚科の先生。話の流れから、「皮膚の老化の80%は光老化」というのは、根拠のない作り話ではないかと言い出されました。

その理由は、いろんな論文に出てくるのに、参考文献を付けている論文を見たことがない、80%という数値を挙げながら参考文献がないなんて学術文献としてあり得ないと。疑問を持ち続け、元になる論文を探し続けて、最終的にたどりついたのは、皮膚ガンの原因の80%は紫外線という文献だったそうです。

おそらくそれがまわりまわって、いつの間にやら皮膚ガンの話が老化の話になり、参考文献は行方不明になってしまった、事の真相はこうだろうというのが先生の結論でした。

肝心の講演の本論はすぐに忘れたものの、この話は私の耳にこびりつき、以来ずっと論文でこのフレーズを見るたびに参考文献はないかと目を凝らすようになりました。そして、苦節10年、ついにその日が来ました!ある光老化のレビュー論文が、参考文献をつけて「皮膚の老化の80%は光老化」と書いていたのです。

その参考文献とは、Facial Plastic Surgery Clinics of North America にありました。さっそく該当論文を取り寄せると、「加齢に伴う顔の変化」という総論的な論文で、読み進めても一向に「皮膚の老化の80%は光老化」が出てきません。なんとどこにもない!

こんな参考文献の付け間違いなんてあるのかと憤慨しましたが、頭に上った血が下がり始めた頃に、またしても参考文献付きの「皮膚の老化の80%は光老化」を見つけました。今度、参考文献にあげられていたのは、the New England Journal of Medicine、泣く子もだまる医学界のトップジャーナルです。なんと「皮膚の老化の80%は光老化」の言い出しっぺは、ニューイングランドジャーナル誌だったのです。


「皮膚の老化の80%は光老化」は、臨床研究の結論ではありませんでした。何度も言いますが、医者なら泣く子も、口うるさいベテランの医者も黙るニューイングランドジャーナル誌のほとんど公式見解といえるエディトリアルに出てくるのです。そこには、anecdotallyとことわって「皮膚の老化の80%は光老化」と述べられていました。学術証拠には基づかない、経験則による「見解」だったのです。ただし、それは誰も逆らえないトップジャーナルの公式見解。


およそ10年にも渡る私の「皮膚の老化の80%は光老化」を探す旅は、こうして「泣く子とニューイングランドジャーナルにはかなわぬ。」で終わったのでした。


(参考文献)
Understanding Premature Skin Aging
Uitto J.
N Engl J Med.
1997;337(20):1463-1465

 

 

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投稿者: 美容外科・美容皮膚科 青い鳥

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