はじめに
「ニキビは治ったのに茶色い跡が残る」「虫刺されの跡が黒ずんで消えない」——それは炎症後色素沈着(PIH:post-inflammatory hyperpigmentation)かもしれません。
色素沈着は見た目の印象を左右しやすく、気にして触ったりこすったりすると、かえって長引いてしまうこともあります。
この記事では、炎症後色素沈着がなぜ起こるのか、どのくらいで治るのか、そして自分でできるケアと「治らないとき」の考え方まで、順を追って解説します。
1 炎症後色素沈着とは?
炎症後色素沈着は、肌の炎症がきっかけでメラニンが過剰につくられ、色素として残ってしまった状態です。
私たちの肌には、紫外線やダメージから細胞を守るためにメラニンをつくる「メラノサイト」という細胞があります。ニキビ・かぶれ・傷・やけどなどで肌が炎症を起こすと、このメラノサイトが刺激されて活発になり、炎症が治まった後もメラニンが過剰に残って、茶色〜こげ茶色に見えるのです。
よく似たものに「シミ(老人性色素斑)」がありますが、成り立ちは大きく異なります。シミは、長年浴び続けた紫外線のダメージによって、メラニンをつくる細胞の遺伝子レベルで“スイッチ”が入ってしまった状態です。特別なきっかけがなくてもメラニンを慢性的につくり続けてしまうため、いったんできると自然には消えにくく、その場所に居座り続けます。
一方、炎症後色素沈着は、ニキビ・虫刺され・傷などの「炎症」という一時的なきっかけに反応して、その時だけメラニンが過剰につくられたものです。あくまで一過性の反応なので、きっかけとなった炎症が治まり、紫外線や摩擦といった刺激を避けられれば、つくられた色素は肌の生まれ変わり(ターンオーバー)とともに少しずつ排出され、本来は時間をかけて薄くなっていきます。
「持続的にメラニン色素をつくり続けるシミ」と「一時的にメラニン色素がつくられた炎症後色素沈着」——この違いが、ケアの考え方を分けるポイントになります。
医学文献から
◉炎症後色素沈着は、炎症性皮膚疾患の一般的な後遺症であり、肌の色が濃い人に多く、重症度も高い傾向があります(文献1)。
2 炎症後色素沈着の主な原因
ニキビ(尋常性ざ瘡)
最も多い原因のひとつです。ニキビの炎症が強いほど、また繰り返すほど色素が残りやすくなります。ここで大切なのは、赤みが残る「赤いニキビ跡」と、茶色く残る「色素沈着型のニキビ跡」を区別して考えることです。赤みは炎症や毛細血管に由来し、茶色はメラニンに由来するため、適したケアの方向性が異なります。新しいニキビを繰り返さないことが、跡を増やさない一番の近道です。
医学文献から
◉アジア7カ国におけるニキビ患者について、炎症後色素沈着の有無について評価を行ったところ、58.2%(188/324)の人に炎症後色素沈着がありました(文献2)
虫刺され・掻き壊し
蚊やダニに刺されて強くかくと、その刺激でさらに炎症が悪化し、掻いた跡が茶色く・黒ずんで残ります。いわゆる「虫刺され跡の黒ずみ」「掻いた跡が茶色い」状態です。特に足やすねは色素沈着が長引きやすい部位で、掻かないこと・冷やすこと・早めに炎症を抑えることが何よりの予防になります。
アトピー性皮膚炎
医学文献から
◉アトピー性皮膚炎に見られる色素沈着は、皮膚炎が持続したことによって生じる「炎症後色素沈着」であり、色素沈着を防ぐためには、ステロイド外用薬などの抗炎症外用薬を早期に使用し、皮膚炎を十分に沈静化させることが重要です(文献3)。
傷跡・やけど・摩擦
やけどや擦り傷のあとも、治る過程で色素沈着が起こりやすい部位です。深い傷では色素沈着と瘢痕(はんこん:傷あとの盛り上がりやへこみ)が混在することもあります。かさぶたを無理にはがすと炎症が長引き、色素沈着のリスクが高まるため、自然に治る過程を妨げないことが大切です。
医学文献から
◉熱傷後の炎症後色素沈着発生率は、50〜60%で、特に肌の色の濃い人で生じやすい(文献4)。
◉入浴時のナイロンタオル等の慢性摩擦で「摩擦黒皮症」と呼ばれるパターンの色素沈着が生じます(文献5)。まずは摩擦習慣の中止が必要です。
接触性皮膚炎・かぶれ
化粧品・金属・植物などによるかぶれ(接触性皮膚炎)のあとにも色素沈着が残ります。原因となる物質に触れ続けると炎症と色素沈着を繰り返してしまうため、何にかぶれたのかを見極め、その物質を避けることが再発予防につながります。
医学文献から
◉化粧品による接触皮膚炎:刺激性/アレルギー性接触皮膚炎の後に炎症後色素沈着を残すことがあります(文献6)。原因特定と診断において、パッチテストが重要な役割を果たします(文献6)。
3 いつ治る?治るまでの期間
炎症後色素沈着の多くは、正しくケアをすれば数か月から1年ほどかけて徐々に薄くなっていくとされています。ただし、これはあくまで目安で、色素のある深さや肌質、ケアの仕方によって大きく差が出ます。次のような条件があると、治りが遅くなったり、かえって濃くなったりします。
⚫️紫外線を浴び続けている(メラニン生成が促される)
⚫️こすり洗いや衣類の摩擦など、刺激が続いている
⚫️ニキビや湿疹など、炎症そのものを繰り返している
⚫️色素が表皮より深い層にまで及んでいる(「色素失禁」)
反対に、紫外線と摩擦をしっかり避けられれば、自然な肌の生まれ変わり(ターンオーバー)とともに少しずつ薄くなっていきます。「半年以上たっても全く変化がない」という場合は、自然回復が止まっているサインかもしれません。
4 炎症後色素沈着が消えない・治りが遅いときに考えられる理由
4-1)「色素失禁」(文献7)
色素失禁は、本来表皮に存在すべきメラニン色素が基底膜を越えて真皮内に落ち込む現象です。
[1] 炎症が原因で、表皮と真皮の境界である基底膜が破壊される
[2] 表皮内のメラニンが真皮に落下
[3] 真皮内マクロファージ(メラノファージ)によって貪食される
[4] 青灰色で遷延すること:この真皮性色素沈着は、「青灰色の色合いを呈し、より遷延しやすい」とされています。
4-2)肌の色によるメラノソーム分解の違い(文献8)
メラニン色素は細胞内ではメラノソームという袋状の構造物に入っています。メラノソームが分解されることで、色素沈着をきたした肌が元の色に戻るわけですが、肌の色の濃い人では、メラノソームの分解が遅れる、つまり色素沈着からの回復が遅れることが指摘されています。
① 紫外線対策(最優先)
紫外線はメラニンの生成を促し、色素沈着を濃く・長引かせる最大の要因です。治療中はもちろん、治療後も継続的な紫外線対策が必要です。季節や天候を問わず日焼け止めを使い、跡の部分を必ず守りましょう。屋外で過ごす時間が長い日は、2〜3時間ごとのこまめな塗り直しが重要です。これが、もっとも効果が期待できるセルフケアです。
◉日焼け止めは毎日使用: SPF30〜50、PA+++以上の日焼け止めを毎日塗布してください。
◉ 酸化鉄を有効成分として含む日焼け止め:紫外線だけでなく可視光線(ブルーライト)からも肌を守ることができ、色素沈着の悪化防止に特に有効です。
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医学文献から
◉日焼け止めの使用は、炎症後色素沈着の予防という観点からも極めて重要です。ステロイドの外用も含め、ほとんどの予防法は限定的な有効性しか示していませんが、日焼け止めだけは、一貫して炎症後色素沈着の発生を減少させました(文献9)。
② 摩擦回避
摩擦は炎症を引き起こし、メラニン生成を促進します。以下の点に注意してください。
◎洗顔時は泡で優しく洗い、ゴシゴシこすらない
◎タオルで顔を拭く際は、押さえるように優しく水分を取る
◎ナイロンタオルでの体のこすり洗いを避ける
◎下着やマスクなどの締め付け・擦れに注意する
◎化粧品は手のひらで優しくなじませ、パッティングや強い摩擦を避ける
③ 市販ケア成分の基礎知識
ビタミンC誘導体、トラネキサム酸、ナイアシンアミドなどの美白有効成分が配合された化粧品が、色素沈着のケアに役立つことがあります。ハイドロキノンも市販されていますが、濃度や使い方によっては赤みや刺激が出ることもあるため、少量から様子を見て使いましょう。
処方薬を検討する場合、 炎症後色素沈着(PIH)の治し方|治療法〜外用剤もあわせてご覧ください。
④ やってはいけないNGケア
⚫️ゴシゴシ洗う・強くこする(摩擦はそれ自体が悪化要因)
⚫️自己流の強いピーリングで刺激しすぎる
⚫️ニキビや虫刺されをつぶす・かく
6 自然に治らない・長引くときは
セルフケアを続けても半年以上変化がない、跡が広い・濃い、ニキビを繰り返している——こうした場合は、医療機関での治療が選択肢になります。原因や肌質に合わせた外用薬やピーリング、レーザーで、薄くしていける場合があります。自己流で刺激を続けるより、早めに相談したほうが結果的に近道になることも少なくありません。
クリニックでの治療をお考えなら、 炎症後色素沈着(PIH)の治し方|掻いた跡・ニキビ跡の茶色い色素沈着治療もあわせてご覧ください。
7 抗がん剤治療による色素沈着について
抗がん剤や化学療法でも、顔や手足が黒ずむ薬剤性の色素沈着が起こることがあります。これは一般的な炎症後色素沈着とは原因・経過が異なり、ケアの考え方も変わります。詳しくは専用の記事で解説しています。
抗がん剤による色素沈着の解説なら、 抗がん剤のしみが消えない?色素沈着はいつ消えるかもあわせてご覧ください。
【参考文献】
1)Postinflammatory Hyperpigmentation: A Review of the Epidemiology, Clinical Features, and Treatment Options in Skin of Color
Erica C Davis, Valerie D Callender
J Clin Aesthet Dermatol
2010 Jul;3(7):20–31
2) Frequency and characteristics of acne-related post-inflammatory hyperpigmentation
Flordeliz Abad-Casintahan, et al.
J Dermatol
2016;43(7):826-828
3) アトピー性皮膚炎診療ガイドライン 2024
佐伯秀久, et al.
日本皮膚科学会雑誌
2024;134(11): 2741-2843
4) Inflammatory response: The target for treating hyperpigmentation during the repair of a burn wound." Chi Zhong, et al.
Front Immunol
2023 Feb 1:14:1009137
5) アミロイド沈着がみられたfriction melanosisの6例並びにアンケート調査によるfriction melanosisの頻度
馬場 安紀子, et al.
日本皮膚科学会雑誌
1986;96(12):1215
6) 化粧品開発とその障害の歴史 I
伊藤正俊
日本香粧品学会誌
2022;46(3):247–256
7) Postinflammatory Hyperpigmentation
Elizabeth Lawrence, et al.
StatPearls [Internet].
StatPearls Publishing, 2024
8) Keratinocytes from light vs. dark skin exhibit differential degradation of melanosomes
Jody P Ebanks, et al.
J Invest Dermatol
2011 Jun;131(6):1226-33
9) Prevention of Post-Inflammatory Hyperpigmentation in Skin of Colour: A Systematic Review
Kristie Mar, et al.
Australas J Dermatol
2025 May;66(3):119-126
制作・執筆:坂田修治(医師:美容外科・美容皮膚科 青い鳥 院長)
(最終更新日:2026年6月28日)



