2025.08.18更新

はじめに

ニキビが治った後に残る茶色いシミ、虫刺されの跡がいつまでも消えない黒ずみ、レーザー治療後に現れる予期しない色素沈着…これらはすべて「炎症後色素沈着(PIH: Post-Inflammatory Hyperpigmentation)」と呼ばれる皮膚トラブルです。

特に私たち日本人を含むアジア人にとって、炎症後色素沈着は避けて通れない肌悩みの一つです。なぜなら、黄色人種の肌は構造的に色素沈着を起こしやすいからです。

本記事では、炎症後色素沈着のメカニズムから日常に潜む意外な原因、そして科学的根拠に基づいた治療原則まで、医学的エビデンスを交えながら詳しく解説していきます。


1)炎症後色素沈着とは?定義と特徴

炎症後色素沈着は、皮膚の炎症や外傷が治癒した後に、その部位に過剰なメラニン色素が沈着して生じる後天性の色素異常症です。

医学的根拠
◉炎症後色素沈着は、炎症性皮膚疾患の一般的な後遺症であり、肌の色が濃い患者に多く、重症度も高い傾向があります(文献1)。


2)なぜ色素沈着が生じるのか?そのメカニズム

[1] 炎症が起きる
ニキビ、傷、やけど、湿疹など様々な原因で皮膚に炎症が発生

[2] サイトカインが放出される
炎症が起きると、皮膚の細胞から「サイトカイン」という情報伝達物質が放出されます
これは細胞間の「連絡係」のような役割をします

[3] 色素細胞が刺激される
サイトカインがメラノサイトという色素を作る細胞に「もっと働け!」という指令を出します
通常より活発に働き始めます

[4] メラニン色素が過剰に作られる
活性化したメラノサイトが、メラニン色素を通常より多く生産。

ポイント
炎症の種類によって、放出されるサイトカインの種類や量が異なります
そのため、炎症後色素沈着の程度や治りやすさも炎症の原因によって変わります


3)炎症後色素沈着が生じやすい主な場面

第1位:ニキビ(尋常性ざ瘡)

医学的根拠
◉アジア7カ国におけるニキビ患者について、炎症後色素沈着の有無について評価を行ったところ、58.2%(188/324)が炎症後色素沈着を有していた(文献2)


第2位:アトピー性皮膚炎

医学的根拠
◉ステロイド外用薬の使用後に見られる色素沈着は、皮膚炎が持続したことによって生じる「炎症後色素沈着」であり、色素沈着を防ぐためには、ステロイド外用薬などの抗炎症外用薬を早期に使用し、皮膚炎を十分に沈静化させることが重要である(文献3)。


第3位:外傷・熱傷

医学的根拠
◉熱傷後の炎症後色素沈着発生率は、50〜60%で、特に肌の色の濃い人で生じやすい(文献4)。


4)見逃しやすいスキンケア由来の炎症後色素沈着

摩擦(こすりすぎ):ナイロンタオル等の慢性摩擦で「摩擦黒皮症」と呼ばれるパターンの色素沈着が生じます(文献5)。まず摩擦習慣の中止が必要です。

化粧品による接触皮膚炎:刺激性/アレルギー性接触皮膚炎の後に炎症後色素沈着を残すことがあります(文献6)。原因特定と診断において、パッチテストが重要な役割を果たします(文献6)。


5)炎症後色素沈着が消えない理由

5-1)「色素失禁」で遷延(文献7)

色素失禁は、本来表皮に存在すべきメラニン色素が基底膜を越えて真皮内に落ち込む現象です。

[1] 炎症が原因で、表皮と真皮の境界である基底膜が破壊される
[2] 表皮内のメラニンが真皮に落下
[3] 真皮内マクロファージ(メラノファージ)によって貪食される
[4] 青灰色で遷延すること:この真皮性色素沈着は、「青灰色の色合いを呈し、より遷延しやすい」とされています。


5-2)肌の色によるメラノソーム分解の違い(文献8)

メラニン色素は細胞内ではメラノソームという袋状の構造物に入っています。メラノソームが分解されることで、色素沈着をきたした肌が元の色に戻るわけですが、肌の色の濃い人では、メラノソームの分解が遅れる、つまり色素沈着からの回復が遅れることが指摘されています。


6)炎症後色素沈着の治療原則

原則1:原因「炎症」の鎮静化
ニキビ・湿疹・接触皮膚炎など基礎疾患の制御が最優先です。「炎症」が続く限り、色素沈着は治りません。

原則2:メラニン生成の抑制
ハイドロキノン(HQ):2%または4%のハイドロキノンは炎症後色素沈着の標準的外用薬の一つです(文献9)。
レチノイドもよく使われ、患者の64%(118名中)で部分的な色素沈着の軽減が見られたと報告されています(文献9)。

原則3:既存メラニンの排出促進
ケミカルピーリングは外用療法の補助として炎症後色素沈着改善に役立つことがありますが、肌の色の濃い人では術後炎症後色素沈着のリスクに配慮が必要です。


7)まとめ:炎症後色素沈着と正しく向き合う

・原因炎症の特定と鎮静化が最優先

・摩擦・刺激を避け、日々の遮光(UVケア)を徹底
日焼け止めの使用は、炎症後色素沈着の予防という観点からも極めて重要です。ステロイドの外用も含め、ほとんどの予防法は限定的な有効性しか示していませんが、日焼け止めだけは、一貫して炎症後色素沈着の発生を減少させました(文献10)。

・治療の中心は、ハイドロキノンやレチノイドなどの外用剤

・レーザー治療は慎重に

・時間はかかるが改善は見込める——基本的に「炎症」さえ収まれば、治るのは時間の問題(とはいえ半年から1年かかりますが)​​​​​​​​​​​​​​​​


クリニックでの美白治療

 

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【参考文献】

1)Postinflammatory Hyperpigmentation: A Review of the Epidemiology, Clinical Features, and Treatment Options in Skin of Color
Erica C Davis, Valerie D Callender
J Clin Aesthet Dermatol
2010 Jul;3(7):20–31

2) Frequency and characteristics of acne-related post-inflammatory hyperpigmentation
Flordeliz Abad-Casintahan, et al.
J Dermatol
2016;43(7):826-828

3) アトピー性皮膚炎診療ガイドライン 2024
佐伯秀久, et al.
日本皮膚科学会雑誌
2024;134(11): 2741-2843

4) Inflammatory response: The target for treating hyperpigmentation during the repair of a burn wound." Chi Zhong, et al.
Front Immunol
2023 Feb 1:14:1009137

5) アミロイド沈着がみられたfriction melanosisの6例並びにアンケート調査によるfriction melanosisの頻度
馬場 安紀子, et al.
日本皮膚科学会雑誌
1986;96(12):1215

6) 化粧品開発とその障害の歴史 I
伊藤正俊
日本香粧品学会誌
2022;46(3):247–256

7) Postinflammatory Hyperpigmentation
Elizabeth Lawrence, et al.
StatPearls [Internet].
StatPearls Publishing, 2024

8) Keratinocytes from light vs. dark skin exhibit differential degradation of melanosomes
Jody P Ebanks, et al.
J Invest Dermatol
2011 Jun;131(6):1226-33

9) Treatment of Post-Inflammatory Hyperpigmentation in Skin of Colour: A Systematic Review
Kristie Mar, et al.
J Cutan Med Surg
2024 Sep-Oct;28(5):473-480

10) Prevention of Post-Inflammatory Hyperpigmentation in Skin of Colour: A Systematic Review
Kristie Mar, et al.
Australas J Dermatol
2025 May;66(3):119-126



 



制作・執筆:坂田修治(医師:美容外科・美容皮膚科 青い鳥 院長)
(最終更新日:2025年8月18日)

投稿者: 美容外科・美容皮膚科 青い鳥