1:はじめに
日本国内での美白スキンケア市場は 2,000〜3,000億円規模と言われますが、さまざまな製品であふれかえっていて、何を選んだらいいか皆様もお悩みではないでしょうか。
そこでエビデンスという視点から見ることで、皆さんの選択をサポートできればという思いで「美白成分ランキング2025」というブログ記事を書きました。
それはかなりの時間と手間暇をかけた労作でしたが、その予備調査の中で最終的にはランキングから漏れたものの、将来有望と思われる成分もありましたので、今回はそれを紹介します。
*ただし、当院では取り扱っていません。宣伝広告の意図はありません。
2:注目成分の紹介〜Melasyl(メラジル)
今回ご紹介するのは、ロレアル社が18年もの研究を経て開発した独自の美白成分Melasyl(メラジル)です。
これまでの美白成分と何が違う?
従来の美白成分の多くは、メラニンを作る細胞(メラノサイト)にある「チロシナーゼ」という酵素の働きを阻害するものでした。
それに対してMelasyl(メラジル)は、メラニン色素の"材料"となる「メラニン前駆体」と結合して、メラニン色素になるのを妨害するという、新しいアプローチをとっています。これにより、メラニン色素を作る細胞にダメージを与えることなく、過剰な色素沈着だけを選択的に抑えることができます。
日本では「2-メルカプトニコチノイルグリシン」という化粧品表示名称で、整肌成分に分類されます。海外では、ラ ロッシュ ポゼの「メラ B3 セラム」などに配合されています。
3:Melasyl(メラジル)に注目する理由
この成分が注目される理由は、大きく分けて「有効性」と「安全性」の両立が期待できる点にあります。
a. 高い有効性
肝斑(かんぱん)治療において、ハイドロキノン4%との直接比較試験(3ヶ月)で同等(非劣性)の改善効果が示されました。さらに、肌への刺激反応はMelasyl(メラジル)群(6.0%)の方がハイドロキノン群(21.4%)より有意に少なかったと報告されています(文献1)。
近年注目されるブルーライト(HEVライト)による色素沈着モデルでも、ビタミンCでは効果が見られなかったのに対し、Melasyl(メラジル)は有意な改善を示しました(文献2)。
b. 非常に高い安全性・忍容性
Melasyl(メラジル)は、メラニンを作る機能を完全に止めてしまうわけではないため、肌への負担が少ない設計と考えられます。
臨床試験を通じて、強い刺激や有害事象の報告が目立たないのが大きな特徴です。特に、アジア人やラテン系、アフリカ系の肌(フィッツパトリックIV〜VI)を含む多様なスキントーンに対しても、良好な安全性と有効性が示されています(文献1〜3)
これにより、従来の成分で刺激を感じやすかった方や、長期間の継続使用(*)を目指す方にとって、現実的な選択肢となる可能性があります。
注意(*) ハイドロキノンには使用期間の制限があります。
4:Melasyl(メラジル)の課題・留意点
美白成分として高いポテンシャルを感じさせるMelasyl(メラジル)ですが、現時点での課題もあります。
a. 入手しにくさと価格
ロレアル社の独自特許成分であるため、2025年現在、配合されている製品はまだ限定的です。そのため、製品はプレミアム価格になりがちです。
b. 香りの問題は「製品次第」
Melasy (メラジル)が配合されたラ・ロッシュ・ポゼのメラ B3 セラムには特徴的な香料が配合されていて、香りに敏感な使用者にとっては強く感じられる可能性があります。ただし、これはMelasy (メラジル)の問題ではなく、製品の処方設計によるものです。
c. 長期的なデータの不足
これまでの試験成績は良好ですが、登場してからまだ日が浅いため、10年、20年といった超長期的な使用データはこれから蓄積されていく段階です。
5:まとめ
✅Melasyl(メラジル)は、従来とは異なるメカニズムで美白効果を発揮する新しい成分として、大きな可能性を秘めています。特に、ハイドロキノンと同等の効果を持ちながら、刺激が少なく、多様な肌質の方にも使用できる点は大きな魅力と言えるでしょう。
✅現時点では入手可能な製品が限られているものの、今後の製品展開次第では、敏感肌の方や長期的な美白ケアを望む方にとって、有力な選択肢となることが期待されます。
✅美白成分選びでお悩みの際は、エビデンスに基づいた情報を参考にしながら、ご自身の肌質に合った成分を選んでいただければと思います。当院でも、皆様の美白ケアをサポートするため、最新の情報収集と適切な治療提案を続けてまいります。
クリニックで取り扱う美白関連製剤
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【参考文献】
1) Efficacy and tolerability of a new facial 2-mercaptonicotinoyl glycine-containing depigmenting serum versus hydroquinone 4% over 3-month treatment of facial melasma
Thierry Passeron, et al.
Dermatol Ther
2025;15:2379
2) Topical prevention from high energy visible light-induced pigmentation by 2-mercaptonicotinoyl glycine, but not by ascorbic acid antioxidant: 2 randomized controlled trials
Virginie Piffaut, et al.
Front Pharmacol
202516:1651068
3) Efficacy of a 2-MNG-containing depigmenting serum in the treatment of post-Inflammatory hyperpigmentation
Ann Laure Demessant-Flavigny, et al.
J Cosmet Dermatol
2025;24(2):e16735



