2025.12.12更新

はじめに

「シミの原因」「美白の敵」——メラニン色素というと、美容の観点からはネガティブなイメージを持たれがちです。しかし、このメラニンこそが、私たち人類が太古の昔から紫外線と闘い、生き延びてきた証なのです。

本記事では、メラニン色素の起源から、肌の色が決まるメカニズム、そして進化から見た肌色の意味まで、科学的な視点で解説します。メラニンを正しく理解することで、より効果的なスキンケアや美容医療の選択につなげていただければ幸いです。

メラニン色素の起源


メラニン色素の起源

メラニン色素の歴史は、生命誕生の太古の海にまで遡ります。驚くべきことに、メラニンは細菌、真菌、植物、昆虫、魚類、爬虫類、哺乳類に至るまで、ほぼ全ての生物に存在する色素です。

原始の単細胞生物は、有害な紫外線から身を守るためにこの色素を発達させました。メラニンには紫外線を吸収する能力があり、細胞内のDNAへのダメージを防ぐ「天然のUVカット剤」として機能します。

生物が陸上に進出すると、この防御機構はさらに重要性を増しました。強い太陽光にさらされる環境では、メラニンを効率的に生成できる個体が生存に有利だったのです。動物界でも、メラニン量の調節は環境適応の要となっています。熱帯の動物は紫外線から身を守るためにメラニンを多く生成し、暗い毛色や肌色を持ちます。一方、寒冷地の動物は季節に応じてメラニン生成を抑え、白い体色で雪景色に溶け込みます。

2つのメラニン

ユーメラニンとフェオメラニン

メラニンには主に2種類あることをご存知でしょうか。

ユーメラニン(真性メラニン)

褐色〜黒色の色素で、紫外線から肌を守る力が強いのが特徴です。黒髪の主成分であり、アフリカ系の人々の肌にも豊富に含まれています。ユーメラニンは紫外線を吸収し、紫外線によって発生する活性酸素を消去する働きがあります。そのため、ユーメラニンが多い肌は紫外線にあたっても赤くなりにくく、皮膚がんのリスクも低くなります。

フェオメラニン(亜メラニン)

黄色〜赤色の色素で、ユーメラニンに比べて紫外線に対する保護効果が低いのが特徴です。金髪や赤毛の人に多く含まれ、白人の肌色を決定づける主要な色素です。注意が必要なのは、フェオメラニンは紫外線を浴びると逆に活性酸素を発生させてしまう点です。これが、白人に皮膚がんが多い理由の一つとされています。

生成のメカニズム

どちらのメラニンも、チロシンというアミノ酸から作られます。チロシンがチロシナーゼという酵素の働きでドーパキノンに変化するところまでは同じですが、その後の経路が分かれます。システインというアミノ酸が結合するとフェオメラニンに、結合しないとユーメラニンになります。この分岐点は、チロシナーゼの活性とシステイン濃度のバランスによって決まると考えられています。


ヒトの肌の色はこうして決まる


ヒトの肌の色はこうして決まる

私たちの肌の色は、ユーメラニンとフェオメラニンの量と比率によって決まります。

メラニンを作り出すのは、表皮の最下層(基底層)にある「メラノサイト(色素細胞)」です。興味深いことに、人種が違ってもメラノサイトの数自体はほぼ同じです。違いを生むのは、メラノサイトがどれだけ活発にメラニンを作るか、そして作られたメラニンがどのように分布するかという点なのです。

紫外線を浴びると、周囲の角化細胞(ケラチノサイト)がメラノサイトに「メラニンを作りなさい」という信号を送ります。メラノサイトは活性化してメラニンを生成し、樹枝状の突起を通じて周囲のケラチノサイトにメラニンを受け渡します。ケラチノサイトに取り込まれたメラニンは、細胞の核の上に傘のように集まり(核帽形成)、紫外線からDNAを守るのです。

通常、メラニンは肌のターンオーバー(約28日周期)とともに垢として排出されます。しかし、過剰に紫外線を浴びたり、加齢でターンオーバーが乱れたりすると、メラニンが排出しきれずに蓄積し、シミやくすみとなって残ってしまうのです。


肌の色の意味


肌の色が意味するもの

人類の進化の歴史は、紫外線とビタミンDとの絶妙なバランスを取る闘いの歴史でもありました。

約200万年前、アフリカのサバンナで体毛を失った初期人類は、強烈な紫外線から裸の皮膚を守るために、メラノサイトが活発にメラニンを生成する方向に進化しました。濃い肌の色は「天然の日焼け止め」として機能し、紫外線によるDNA損傷や皮膚がんから身を守ったのです。

しかし約6万年前、一部の人類がアフリカを出て北方のヨーロッパへと移住します。日照量の少ない高緯度地域では、紫外線を遮る黒い肌はむしろ不利に働きました。なぜなら、ビタミンDは紫外線を浴びることで体内で合成される栄養素だからです。ビタミンD不足は骨の形成に支障をきたし、くる病などの原因となります。そこで北方に移住した人類は、弱い紫外線でも効率的にビタミンDを合成できるよう、メラニン生成能力を低下させる方向に進化しました。これが、ヨーロッパ系の人々の白い肌の起源です。

つまり、「色が白い=紫外線防御力は弱いが、ビタミンD合成に有利」「色が濃い=紫外線防御力が強いが、低日照地域ではビタミンD不足のリスク」という、進化の過程で獲得されたトレードオフが、世界の多様な肌色を生み出しているのです。

そこに『優劣』はありません。それぞれの肌の色は、その土地で生きるための「最適解」として選ばれたものなのです。

現代では、人類は世界中を移動して暮らすようになりました。紫外線の強い地域に住む白人は皮膚がんのリスクが高まり、日照量の少ない地域に住む黒人はビタミンD欠乏症にかかりやすくなります。だからこそ、自分の肌タイプを正しく理解し、住んでいる環境に応じた適切なケアを行うことが大切なのです。


まとめ

メラニン色素は、単なる「シミの原因物質」ではありません。太古の昔から生物を紫外線から守り、人類が地球のあらゆる環境に適応するために進化してきた、生命の知恵そのものです。

ユーメラニンとフェオメラニンという2種類のメラニンのバランスが、私たちの肌の色を決め、紫外線への反応の仕方を左右します。適切な紫外線対策を行えば、健やかで美しい肌を保つことができます。

しかし現代では、過剰な紫外線曝露やホルモンバランスの乱れ、加齢によるターンオーバーの遅延などにより、メラニンが過剰に生成・蓄積し、シミや色素沈着といった美容上の問題を引き起こすこともあります。

メラニンの役割を正しく理解し、自分の肌タイプに合った紫外線対策を行うこと。そして、できてしまったシミには美容医療の力を借りて適切にケアすること。この両輪で、進化が私たちに与えてくれた「肌を守る力」を最大限に活かしながら、健康で美しい肌を目指していきましょう。


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制作・執筆:坂田修治(医師:美容外科・美容皮膚科 青い鳥 院長)
(最終更新日:2025年12月12日)

投稿者: 美容外科・美容皮膚科 青い鳥