2022.04.13更新

「ニキビには保湿が大切」——この言葉、どこかで聞いたことはありませんか?

美容雑誌やSNSでは当たり前のように語られているこの考え方。しかし、皮膚科学の世界では、この「ニキビ 保湿」神話に対して警鐘が鳴らされています。

今回は、日本で広まった「ニキビの保湿」信仰の背景と、本当に正しいスキンケアについてお伝えします。

ニキビが保湿が足りないのか?


なぜ「ニキビには保湿」が広まったのか

敏感肌とニキビの"混同"

皮膚科学において、「ニキビ」と「敏感肌」は本来まったく別の概念です。ニキビは毛穴の炎症性疾患であり、敏感肌は肌のバリア機能低下による過敏状態を指します。

しかし、美容雑誌やSNSでは事情が異なります。

「敏感肌がゆらぐとニキビが出やすくなる」「バリア機能低下で赤み・乾燥・吹き出物が増える」——こうした表現が繰り返されるうちに、読者の間では「敏感肌=ニキビが出やすい肌」という認識が定着してしまいました。

*注意:ニキビ患者ではバリア障害があることが示されていますが、バリア障害はニキビの炎症により二次的に生じている可能性があり、必ずしもバリア障害がニキビの原因とは言えません(文献1)


化粧品マーケティングの影響

敏感肌向けブランドの多くが「敏感肌でも使えるニキビケア」というPRを展開していることも、この混同を助長しています。敏感肌ケアの基本は「保湿」ですから、「ニキビにも保湿クリームが効く」という連想が生まれるのは自然な流れだったのかもしれません。

結果として、ニキビで保湿クリームを求める方、ニキビの保湿ケアに熱心に取り組む方が増えました。


皮膚科の大家が指摘する“不都合な真実”

2021年、日本美容皮膚科学会誌に、ニキビとスキンケアに関する重要な論文が掲載されました(文献1)。

第一線で活躍する皮膚科の先生が、「ニキビには保湿」という考え方が一人歩きしている現状に対して、注意喚起を行っています。

この論文では、近年「乾燥がニキビを悪化させる」「保湿すればニキビが良くなる」といったメッセージが、メディアや美容雑誌を通じて広く拡散し、あたかも“常識”のように受け止められていることが指摘されています。そして、そのような情報をそのまま信じてしまうことには十分な注意が必要だ、という趣旨が述べられています。


保湿でニキビが治るエビデンスはない

論文ではさらに踏み込んだ論点として、「保湿をすると毛穴の入り口の閉塞が防げて、ニキビの発症を抑えられる」という“説”についても触れられています。

しかし現時点では、「保湿ケアそのものがニキビを直接改善させる」と明確に示した臨床エビデンスはありません。

むしろ、保湿剤の使用がニキビを悪化させている可能性すらある、と論文では懸念が示されています。

つまり、「ニキビにはとにかく保湿をすれば良い」と思い込んで行っているスキンケアが、実は逆効果になっているケースもあり得るのです。


保湿の“本来の目的”とは

では、ニキビ肌に保湿は一切不要なのでしょうか。

もちろん、そういうわけではありません。論文では、保湿の位置づけについても整理されています。

本来、保湿の主な役割は
⭐️肌の乾燥に対するスキンケア
⭐️ニキビ治療薬による乾燥や刺激といった副作用の軽減
といった点にあり、ニキビそのものを治す「主役の治療」ではない、とされています。

そのうえで、ニキビに保湿を行う場合には、「ノンコメドジェニックな製品を、必要最小限にとどめること」が望ましいとされています。


「汝自身の肌を知れ」

この論文から私たちが学べる一番大きなメッセージは、自分の肌の状態を正しく理解することの大切さです。

「ニキビには保湿が良い」「保湿クリームでニキビが改善する」といった、根拠があいまいな情報に振り回されるのではなく、

✅自分のニキビはどの程度の炎症なのか
✅どの治療薬を使っていて、どんな副作用が出やすいのか
✅どの範囲・どの頻度で保湿が本当に必要なのか

といった点を、一人ひとりの肌の状況に応じて見極めていくことが重要です。

それこそが、遠回りに見えて実は一番の「美肌への近道」と言えるでしょう。



【参考文献】

1 痤瘡外用療法の副作用への対処とスキンケア
林 伸和、佐々木 優
Aesthetic Dermatology
2021;31(1):7-14






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投稿者: 美容外科・美容皮膚科 青い鳥