2022.04.13更新

乾燥するとニキビができやすくなるので、特に大人ニキビ対策として保湿は重要。これ美容外科・美容皮膚科向けの医学雑誌でもよく見かけますし、実際診療において、私自身もそう説明したことがあります。

だから、今回の記事には反省の意味も含まれています。


ニキビと保湿


昨年出された日本美容皮膚科学会誌という、その名の通り美容皮膚科医向けの学会誌に皮膚科の大先生が、敢えて言えば「怒り」の投稿をされています。


「最近、乾燥がニキビを悪化させ、保湿がニキビを改善するという考え方が、メディア、美
容雑誌などで拡散され都市伝説のようになっているため、十分注意する必要がある。」

さすが大先生になると、あからさまに怒りを表現することはせず、あくまで控え目に書いていますが、ほんとうは「ちゃんとやれよ、注意しろよ!」と後輩を叱咤しているように読めます。

深読みすると、本来なら「美容雑誌などで拡散され・・」のところ、学術文献としては例として参考文献を上げるべきところですが、あえて(?)スルーしています。おそらくそれを書いたら、後輩に恥をかかせることになるし、それも一人、二人ではすまなくなるので、ここは大先生のお慈悲かもしれません。


「保湿をすることで、ニキビを発症させる毛穴の入り口の閉塞が防げるという「説」があるが、保湿でニキビが改善したというエビデンスはない。むしろコメド形成性のある保湿剤で悪化させている可能性がある。」

おそらく大先生がこれを書いたのは、過剰な保湿でニキビを悪化させているニキビの患者さんをよく見かけるからなのでしょう。


「保湿の本来の目的は、肌の乾燥に対するスキンケア、ニキビ治療薬の副作用軽減であり、ノンコメドジェニックなものを必要最小限使用するにとどめるべき。」

論文の全体を通して伝わってくるのは、自身の肌の状態に合わせてコスメを選び、スキンケアしなさいという大先生の教えです。

格言としてまとめれば、
「汝自身の肌を知れ!」

 

 LINEバナー300225

 

 twitterへ

 

自由が丘ブログバナー  

 

投稿者: 美容外科・美容皮膚科 青い鳥

2022.04.06更新

コロナ禍で診療所の多くの診療科で患者数は減少しましたが、皮膚科では減少しておらず、マスク生活によって、新たな肌トラブルが起こっていることがうかがえます。それがマスクによる肌荒れ、ニキビ。

マスクを装着することで、肌にどんな悪影響を与えるか?結論から言うと、バリア機能崩壊による「乾燥」。

マスクで崩壊

マスクを着用すると、マスクにおおわれた肌では、皮膚温と湿度が上昇します。蒸れ蒸れになるわけですが、これが肌のバリア機能を低下させます。

なぜかというと、皮膚表面では、細胞同士がピタッとくっついてバリアを形成しているのに、過湿により表面の細胞が膨張すると、細胞間の接着が弛んでしまうから。

長時間のマスクパックでも同じことが言えます。保湿は大切ですが、過湿には要注意なのです。

ここでひとつ訂正があります。私はメルマガで「マスクをしているときは蒸れているというのに、それがバリア機能を崩壊させ、マスクを外したら、一気に乾燥する・・。」と書きました。

しかし、韓国の研究者が発表した論文によると、とくに口まわりの皮膚では、マスクの装着中から保水量は減少していました。蒸れているようで、皮膚は乾燥しているらしい。ここにお詫びして訂正させていただきます。


さて、もうひとつの問題「ニキビ」。

マスクを着用すると、皮膚温が上昇するため、皮脂の分泌が亢進して、これがニキビの原因になります。しかもマスク内だけでなく、おおわれていない額でも皮脂が増えるため、ニキビができてしまいます。

マスクでできたニキビの治療も従来のニキビ治療と変わりありませんが、以前は使用できた薬剤に刺激を感じる患者さんが増えているとか。皮膚のバリア機能が低下して、「敏感肌」になっているのです。

マスクの肌荒れ対策としては、保湿が重要とされていますが、同時にマスクで密封された状態では、かぶれが誘導されやすいことも指摘されています。またウレタンマスクの方が肌にやさしいようですが、感染効果が落ちないようにその上から不織布マスクをすると、ますます蒸れ蒸れになってバリア機能が壊れそう・・

人前に出るときは社会規範としてマスクが必要ですが、近くに人がいない中で仕事しているときなど、マスクが本当は意味のないシチュエーションも多いはず。そういうときは肌をいたわるためにも外して、お肌を休ませてあげてはいかがでしょうか。


(参考文献)

1)Effect of face mask on skin characteristics changes during the COVID-19 pandemic
Park SR,et al.
Skin Res Tcchnol
2021;27(4):554-559

2)Long-term effects of face masks on skin characteristics during the COVID-19 pandemic
Park SR,et al.
Skin Res Tcchnol
2022;28(1):153-161

3)新しい生活様式 スキンケアはどう変わる
川島眞、他
ベラペレ
2022;7(1):69-72





 

 LINEバナー300225

 

 twitterへ

 

自由が丘ブログバナー  

 

投稿者: 美容外科・美容皮膚科 青い鳥

2022.04.01更新

数年前から植物由来のバクチオールというコスメ成分が話題です。「次世代レチノール」、「第二のレチノール」、「レチノールに代わる・・」などと、キャッチフレーズにはいつもレチノールがついています。

この場合、レチノイドの中でも「レチノール」を相手に選んだのがニクい。これがレチナールだと知名度が低いので、消費者の心に響かないし、トレチノインを選ぶとただではすまない。レチノイドはトレチノインを中心に学問的に発展してきました。「トレチノインに代わる・・」などと言われたら、いきなり本丸に土足で踏み込まれたようで、皮膚科医、美容皮膚科医が騒ぎます。

そこで、「レチノール」。これが感心するほどにちょうどよい。これだとたいていの医師からしたら、騒ぐのも大人気ないかなと思ってしまいます。そして、私がそうであったように、とくに調べることもしないで、バクチオール=レチノールで納得してしまいます。

レチノールのイメージを刷り込ませることで、説明するまでもなく、どんな効果か消費者に勝手に想像させますし、さらには効果のほどまで納得させてしまうのですから、メーカーのマーケティング戦略は見事です。

逆に決してほめられないのが、皮膚科領域では指折りのブリティッシュ・ジャーナル・オブ・ダーマトロジー(BJD)誌。バクチオールがレチノールと同程度の効果とした臨床研究は、BJD誌に掲載されています。

しかし、私ですら一読して、アレ?と思う箇所に気づきます。バクチオールとレチノールの比較試験ですが、バクチオールは1日2回塗るのに、レチノールは1日1回だけで、これでまともな比較試験になるのか?

これほどのジャーナルになれば、偉すぎるほどの専門家が複数で審査しているはずですが、きちんとした専門家からもきちんとした、そもそも研究デザインから間違っていて、結論をミスリーディングしていると批判される始末で、こんな臨床研究の根幹に関わるところで批判を受けるなんて、一流誌として恥ずかしいこと。

ただ、レチノールとの類似性を打ちだしたマーケティング戦略も見事なら、ついには世界で指折りのジャーナルまで巻き添えにしたという意味では、メーカーの努力は素直に賞賛すべきと言えるでしょう。

さて、肝心のバクチオールですが、言うほどにはレチノールに似ていません。そもそもバクチオールはレチノイド受容体には結合しないので、レチノイドとは言えない。まったくのニセモノ、いや、別物。

まったくの別物をレチノールに仕立て上げるわけですから、そこにはメーカーの涙ぐましい努力があります。近頃は「エビデンス」という言葉も一般的になり、コスメにもエビデンスが求められるわけですが、それを自作自演で自分たちの販売戦略に忠実に作り上げてしまいます。

バクチオールの光老化皮膚への有効性を論じた最初の論文は、メーカーの研究員が書いています。冒頭からバクチオールではなく、ひたらすらレチノイドの話が展開され、全体的にもレチノールとの類似性をこれでもかと強調しています。最初これを読み終えたとき、レチノールとの類似性を強制的に理解させられただけで、バクチオールの全体像はさっぱりわからないという、不思議な気分になりました。

バクチオールには、抗酸化や抗炎症作用があり、心臓や肝臓の臓器保護に有用ではないかという基礎系の論文もありますが、臨床的に使われる段階にはないので、まだまだ未知数。「美容には夢が必要」という持論を持っている私ですが、さすがにバクチオールは夢というよりまだまだ「幻」に近い。

コスメとしてのバクチオールは、レチノイドではないので当たり前ですが、刺激反応もなく使いやすいようです。現在気に入って使用しているなら、あえてやめることもありません。ただ、もし「使いやすい」レチノールをお探しなら、バクチオールに手を出すのではなく、あくまでレチノールで、ただその使い方を工夫すべきでしょう。


 

関連サイトもお楽しみ下さい

 

(参考文献)

1)Prospective, randomized, double-blind assessment of topical bakuchiol and retinol for facial photoageing
Dhaliwal S,et al.
Br J Dermatol.
2019;180(2):289-296

2)Bakuchiol: a retinol-like functional compound revealed by gene expression profiling and clinically proven to have anti-aging effects
Chaudhuri RK,et al.
Int J Cosmet Sci.
2014;36(3):221-230

3)Cosmetic commentary: Is bakuchiol the new skincare hero?
Spierings NMK
J Costet Dermatol.
2020;19:3208-3209

4)Bakuchiol: A new discovered warrior against organ damage
Xin Z,et al.
Pharm Res.
2019;141:208-213



 

 LINEバナー300225

 

 twitterへ

 

自由が丘ブログバナー  

 

投稿者: 美容外科・美容皮膚科 青い鳥

2022.03.20更新

「ディフェリンはニキビ治療薬」というイメージが強いかもしれませんが、実はアンチエイジングにも効果が期待できる薬剤であることをご存知でしょうか? 

本記事では、ニキビ治療薬として有名なディフェリンが、なぜエイジングケアの有力な選択肢となり得るのか、そのメカニズムや使用方法、そして最新のレチノイド事情までを詳しく解説します。


ディフェリンでエイジングケア


1.ディフェリンはアンチエイジングにも使える?


ディフェリン(一般名:アダパレン)は、「第3世代」に分類される合成レチノイドです。日本では主にニキビ治療薬として承認・使用されており、10代や20代で使った経験がある方も多いでしょう。

レチノイドはビタミンA誘導体の総称で、肌のターンオーバー(細胞の生まれ変わり)を促進したり、皮脂分泌を抑制したり、コラーゲン生成を促したりする作用があることで知られています。この「ターンオーバー促進」や「コラーゲン生成促進」といった働きが、ニキビだけでなく、シミ、しわ、ハリ不足といったエイジングサインにもアプローチできる理由です。

つまり、ディフェリンが持つレチノイドとしての基本的な作用機序が、エイジングケアにも応用できる可能性をもたらすのです。


2.ディフェリンがエイジングケアに有効な理由

米国FDAが老化(光老化)治療として正式に承認しているレチノイドは、現時点ではトレチノインとタザロテンのみです。しかし、ディフェリンを光老化治療に使う臨床試験も存在し、その効果が示唆されています。

3-1. FDA承認がすべてではない理由

医薬品の承認は、有効性だけでなく、製薬会社の開発・申請戦略や費用対効果なども考慮されるため、「承認がない=効果がない」と直結するわけではありません。ディフェリンが持つレチノイドとしての作用や、後述する臨床研究の結果から、エイジングケアへの効果は十分に期待できると考えられます。

3-2. ディフェリンの臨床試験

ディフェリンがニキビだけでなく、肌の老化にも効果を発揮する可能性は、実際の臨床研究でも示唆されています。

米国皮膚科学会の公式ジャーナルに掲載された研究では、ディフェリンを光老化の症状である「シミ」と「前がん病変(日光角化症など)」に絞って、その効果を検証し、これらの症状に対する改善効果が認められています。これは、ディフェリンが肌のエイジングサインに対して有効であることの間接的な証拠と言えるでしょう。

この研究で興味深いのは、さすがに米国皮膚科学会の公式ジャーナルともなると厳格で、光老化全体ではなく、その症状である前がん病変、シミの2つに対象を絞ってディフェリンの効果をみた臨床研究としていること。世間にいくらでもある安っぽい(?)ジャーナルみたいに、すぐに光老化に有効とは言わない!というプライドを感じさせます。

3-3. ディフェリンの使用上のメリット

比較的マイルドな刺激: 他のレチノイド(特にトレチノイン)と比較して、赤みや皮むけといった刺激反応(いわゆるA反応、レチノイド反応)が軽い傾向があります。これにより、レチノイド初心者でも始めやすい可能性があります。

光感受性のリスクが低い: トレチノインほど紫外線に対する感受性を高めにくいとされていますが、日中の紫外線対策は必須です。
日本での承認: ニキビ治療薬として厚生労働省に承認されており、医師の診察のもと処方を受けやすい環境にあります。(ただし、エイジングケア目的での使用は保険適用外となるのが一般的です)


4. ディフェリンの使用法と注意点

4-1. 基本の使用方法

・夜1回、洗顔後に豆粒大(a pea-sized)を顔全体に塗布
・1ヶ月後に刺激反応が落ち着いてきたら、朝にも塗布

4-2. 刺激症状(A反応)に注意

レチノイド全般にいえることですが、肌が赤くなったり、ヒリヒリとした刺激感が出る「A反応」と呼ばれる副作用が生じることがあります。ディフェリンはトレチノインに比べると刺激が穏やかですが、初期はとくに慎重に様子をみましょう。

4-3. 妊娠・授乳中の使用は避ける

レチノイドには胎児に悪影響を及ぼすリスクがあるため、妊娠中や授乳中、あるいは妊娠を希望している方は使用を控えましょう。

4-4.注意点

使用できない人: 妊娠中・授乳中の方、妊娠を希望している方は使用できません。
◉刺激反応: 比較的マイルドとはいえ、乾燥、赤み、ヒリヒリ感、皮むけなどの刺激反応が出る可能性があります。少量から、頻度を少なく(例:隔日など)始めるのがおすすめです。
◉保湿と紫外線対策: 使用中は肌が乾燥しやすくなるため、十分な保湿が重要です。また、日中は必ず日焼け止めを使用してください。
◉医師への相談: エイジングケア目的で使用する場合でも、必ず医師に相談し、適切な指導のもとで使用を開始してください。自己判断での使用は避けましょう。


まとめ

▶︎ニキビ治療薬として広く知られるディフェリンは、そのレチノイドとしての作用機序から、エイジングケア(アンチエイジング)にも効果が期待できる薬剤です。シミや肌の質感改善など、実際の臨床研究でもその可能性が示唆されています。

▶︎他のレチノイドに比べて刺激がマイルドな傾向があり、エイジングケア初心者にも比較的取り入れやすい選択肢と言えるでしょう。ただし、妊娠中など使用できないケースや、乾燥・刺激感といった注意点もあります。

▶︎30代、40代から本格的なエイジングケアを始めたいと考えている方にとって、ディフェリンは有力な選択肢の一つです。興味のある方は、まずは皮膚科医に相談し、ご自身の肌に合った使い方のアドバイスを受けてみてはいかがでしょうか。

 

 こちらのクリニックのサイトもご覧下さい

 

 おすすめの関連ブログ記事

 

 LINEバナー300225

 

バナー1

 

バナー2

 

 

制作・執筆:坂田修治(医師:美容外科・美容皮膚科 青い鳥 院長)
(最終更新日:2025年5月14日)

投稿者: 美容外科・美容皮膚科 青い鳥

2021.11.09更新

「洗顔しすぎると、かえって皮脂が増える」

洗顔でかえって皮脂は増えるのか!?

このような話を聞いたことはありませんか?実際、AI検索でも「洗顔のしすぎは皮脂の過剰分泌を招く」という回答が返ってくることがあります。

しかし、医学的にはこれは誤解です。

とはいえ、「洗顔しても皮脂がすぐに浮いてくる」と感じる方が多いのも事実。今回は、顔の皮脂が多いと悩む方へ、皮脂分泌の本当のメカニズムを医学的根拠とともに解説します。

皮脂分泌の真実:ホルモンが司る精密なシステム

皮脂の役割は、皮膚表面の保護ですが、その分泌量は、肌表面がオイリーだろうとドライだろうと変わるものではありません。皮脂分泌は皮脂腺内の細胞の分化、脂質の蓄積、そしてホルモンや環境要因など様々な要素によって複雑に調節されています(文献1)。

つまり、洗顔でたとえ皮脂を取りすぎたとしても、皮脂腺での「生産量」が増えることはないのです(文献1)。

なぜ「洗顔しすぎると皮脂が増える」説が生まれたのか?

もうずいぶん前の話ですが、興味深い実験結果が報告されました。同じ時間内で皮脂を採取する際、1回で拭き取るより複数回に分けた方が、より多くの皮脂が採取されたのです(文献2)。

この結果から「洗顔しすぎは皮脂の分泌量を増やす」という説が支持されました。しかし、これには別の理由があります。


皮脂の「貯蔵庫」システムが鍵

顔の皮脂には、巧妙な貯蔵システムが存在します。

2つの貯蔵庫の役割
1)皮脂腺の導管:Tゾーンなどでは、皮脂腺から皮膚表面へつながる管が巨大な貯蔵庫として機能
2)角質層:スポンジのように皮脂を蓄える第二の貯蔵庫

洗顔で表面の皮脂を取り除くと、毛細管現象により貯蔵庫から新しい皮脂が自動的に補充されます。これが「洗顔しても皮脂がすぐ出てくる」と感じる正体であり、また「1回で拭き取るより複数回に分けた方が、より多くの皮脂が採取された」理由だったのです(文献2)。


顔を洗いすぎるとどうなる?3つのポイント

1. 皮脂の生産量は変わらない
洗顔しすぎても、皮脂腺での生産量が増えることはありません。

2. 表面の皮脂は増えたように感じることも
貯蔵庫からの補充により、肌表面に出てくる皮脂の総量は一時的に増えたように感じられます。

3. 過度な洗顔は肌トラブルの原因に
肌に必要な保湿因子が奪われ、皮膚のバリア機能がダメージを受け、肌トラブルの原因となります。


まとめ:美肌のための正しい洗顔法

◉洗顔によって一時的に皮脂によるテカリやベタつきは抑えることができますが、過剰な洗顔、頻回な洗顔では肌がもちません。

◉ただ、洗顔が皮脂の分泌を刺激するというのは間違いです。


【参考文献】

1. Oily skin: an overview
Sakuma TH, Maibach HI
Skin Pharmacol Physiol
2012;25(5):227-235

2. An investigation of the human sebaceous gland
Kligman AM, Shelly WB
J Invest Dermatol
1958;30:99-125

 

 LINEバナー300225

 

バナー1

 

バナー2

 

 

制作・執筆:坂田修治(医師:美容外科・美容皮膚科 青い鳥 院長)
(最終更新日:2025年7月7日)

投稿者: 美容外科・美容皮膚科 青い鳥

2021.10.20更新


美容皮膚科にはサイエンスとビジネスの2つの側面がありますが、サイエンスの側から見たとき、美白剤のNo.1といえば、ここ数十年ハイドロキノンの王座は揺るぎないものがあります。美白剤のNo.2と目されていたロドデノールは、白斑症で大問題を引き起こし失脚しましたので、No.2は空席のまま。


美白剤の王座:イメージイラスト


No.1をハッキリさせることにどんな意義があるのか、No.2でもいいじゃないかという意見もあるでしょう。しかし、学問の世界では、No.1を越える結果を出すことが、学問の進歩を証明することになります。実はNo.2以下こそどうでもいい存在なのです。


ところで驚くことに、美容皮膚科のビジネスサイドに目をやると、美白剤の王者であるハイドロキノンの4倍とか17倍と謳われている美白剤が存在します。

「ハイドロキノンの4倍!」と謳っているのは、シスペラ(一般名システアミン)

最初に美白効果が報告されたのは1960年代。強いイオウ臭があり、長らく商品化を見送られてきましたが、2010年に臭いを抑制する技術開発があり、ようやく日の目を見ました(文献1)。

「ハイドロキノンの4倍の美白作用」などと宣伝されていますが、それを裏付ける臨床試験は存在しません。

美容皮膚科学的には、美白剤の優劣は肝斑に対する有効性で競われ、その肝斑の最新のレビュー論文にどう書かれるかで、その美白剤の評価がわかりますが、実はシスペラはひと言も触れられていません。

最新のレビュー論文(文献2)に登場する美白剤は、ハイドロキノン、アゼライン酸、ビタミンC、それからポーラが開発したルシノールです。

**追加補足2025年9月**
2024年のレビュー論文(文献3)には登場しましたが、「システアミンは、ハイドロキノンに比べて有効性が劣る可能性があるものの、軽度から中等度の肝斑に対してハイドロキノンに替わる治療の選択肢となりえる。」と書かれています。

 


「ハイドロキノンの17倍!」と謳われているのは、ルミキシル。これにいたっては、もうハイドロキノンとの比較試験も見当たりません。

しかし、17倍の根拠は見つけることができました。ルミキシルはハイドロキノンより17倍強力にマッシュルームのチロシナーゼ(メラニン色素を生成する反応の中で重要な酵素)を抑制したというデータが根拠です(文献4)。「17倍強力」の根拠は、なんと!マッシュルームだったのです。

こうしたチロシナーゼの実験では、マッシュルームのチロシナーゼが使われることが多いのは理解するにしても、それが実験と臨床効果の乖離を生んでいるという批判もあるので、ぜひヒトのチロシナーゼを使っていただきたい。

ルミキシルに必要なのは、マッシュルームを相手にするのではなく、人を対象にしてハイドロキノンと正々堂々勝負して、有効性を実証すること。


**追加補足2025年9月**

「17倍」と言い過ぎたからではないでしょうが、ルミキシルは、2024年に世界的に製造・販売が中止されています。

 

ハイドロキノンの王座を狙う新参者からは、しばしばハイドロキノンのリスクが言及されますが、何十年にもわたり、リスクを回避する使用法が模索されています。

使い方を知っている「医師」の指導の元で使えば安全な製剤です。

私もその「医師」の一人ですと最後に付け加えておきます。他の医師より10倍詳しいと言いたいところですが、それはやめておきます。



【参考文献】
1)Clinical evaluation of efficacy,safety and tolerabirity of cysteamine 5% cream in comparison with modified Kligman's formula in subjects with epidermal melasma: A randomized, double-blind clinical trial study
Karrabi M, et al.
Skin Res Technol
2021;27:24-31


2) Melasma treatment: An Evidence-based review
McKesey J, et al.
2020;21:173-225

3) An Update on New and Existing Treatments for the Management of Melasma
Christian Gan, Michelle Rodrigues
Am J Clin Dermatol
2024 Sep;25(5):717-733

4) Short-sequence oligopeptides with inhibitory activity against mushroom and human tyrosinase
Anan Abu Ubeid,et al.
J Invest Dermatol.
2009;129(9):2242-2249

 

 

 LINEバナー300225

 

バナー1

 

バナー2

 

 

制作・執筆:坂田修治(医師:美容外科・美容皮膚科 青い鳥 院長)
(最終更新日:2025年9月16日)

投稿者: 美容外科・美容皮膚科 青い鳥

2021.08.31更新

 

「皮膚の老化の8割は紫外線が原因」――この衝撃的なフレーズを耳にしたことがある方は多いでしょう。

しかし、この「皮膚の老化の8割は紫外線が原因」説、その根拠は一体どこにあるのでしょうか?長年、多くの専門家が引用しながらも、出典が不明確だったこの説。

本記事では、その起源を巡る探求の物語と、紫外線が皮膚の老化に与える影響、そして皮膚の老化防止のために私たちができることについて解説します。

肌の老化の8割は紫外線が原因


紫外線が引き起こす「光老化」とは

まず基本的な事実として、紫外線が皮膚の老化の主要な原因であることは広く知られています。太陽光に含まれる紫外線(特にUVAとUVB)は、皮膚の深層部にまで到達し、コラーゲンやエラスチンといった肌のハリや弾力を保つ線維を破壊・変性させます。これにより、シワ、たるみ、シミといった皮膚の老化のサインが現れます。この紫外線による老化現象は「光老化」と呼ばれ、加齢による自然な老化とは区別されます。日常的に紫外線を浴びることで、光老化は着実に進行していくのです。

「皮膚老化の8割は紫外線」説の起源を探る旅

ある高名な皮膚科教授の講演で、よく学術論文で引用される「皮膚の老化の8割は紫外線が原因」というフレーズに話が及びました。

教授が疑問に思ったのは、多くの文献では明確な出典が示されていないこと。そこで教授は自分で調査したのですが、見つかったのは、皮膚ガンの原因の8割が紫外線という文献で、もしかしたらこれが皮膚の老化の話にすり替わったのではないかと推測されていました。

この話が妙に心に残り、私も文献を読んでいて「皮膚の老化の8割は紫外線が原因」というフレーズを見つけるたびに、参考文献まで辿ることが習慣になりました。

そして、数年かかって、ついに「皮膚の老化の8割は紫外線が原因」の出典は、医学界のトップジャーナルである ニューイングランドジャーナル (NEJM) であることを発見したのでした。


「皮膚の老化の80%は紫外線が原因」という記述は、臨床研究の結果ではなく、この権威あるジャーナルのエディトリアルで "anecdotally"(経験的に、逸話として)という断り書き付きで述べられていました。

エディトリアルというのは、同じ号に掲載されている医学研究に関連して、編集部からその分野を代表する専門家にお願いして書いてもらう解説記事。

つまり、「皮膚の老化の80%は紫外線が原因」は、厳密な研究データに基づく数値ではなく、その方面の世界の第一人者の「見識」だったのです。(*文末に紹介あり)



データはなくとも無視できない紫外線対策の重要性

「皮膚の老化の8割は紫外線が原因」における8割という具体的な数値に厳密な科学的データがないとしても、紫外線が皮膚の老化の最大の外的要因であることに変わりはないでしょう。多くの皮膚科学的研究が、紫外線暴露とシワ、シミ、たるみなどの皮膚の老化との強い関連を示しています。

したがって、「8割」という数字の真偽はさておき、皮膚の老化防止のためには、紫外線対策が極めて重要であるという事実は揺るぎません。日焼け止めの使用、帽子や日傘の活用、紫外線が強い時間帯の外出を避けるなど、日常的なケアが将来の肌を守る鍵となるのです。

また、もう一つ強調したいのは、皮膚の老化の「8割」は予防可能だと言うこと。しかも、美容医療に頼ることなく、自分のケアでコントロールできると言うことにぜひ皆さんも勇気づけられて下さい。


まとめ

◉「皮膚の老化の8割は紫外線が原因」という説は、厳密な研究データではなく、権威ある医学誌の論説における経験的な見解として広まったものでした。しかし、この説の起源がどうであれ、紫外線が皮膚の老化(光老化)の主要な原因であることは広く認められています。

◉皮膚の老化防止のためには、紫外線対策の重要性を理解し、日々のUVケアを実践することが何よりも大切です。日焼け止めを塗る、帽子をかぶるなどの基本的な対策が、健やかで若々しい肌を長く保つための最も効果的な方法と言えるのです。

◉皮膚の老化は、スキンケアで予防できるのです。



(参考文献)
Understanding Premature Skin Aging
Uitto J.
N Engl J Med.
1997;337(20):1463-1465


*「皮膚老化の8割は紫外線」の発信源ヨーニ・ウイト(Jouni Uitto)教授について
ヨーニ・ウイト(Jouni Uitto)教授(1943年9月15日 – 2022年12月17/19日)は、1997年の ニューイングランドジャーナル (NEJM) 論説発表当時、ジェファーソン医科大学(トーマス・ジェファーソン大学)の皮膚科学・皮膚生物学科教授兼学科長、および生化学・分子生物学教授。結合組織生物学、分子遺伝学、そして皮膚老化の研究において国際的に認知された第一人者であり、コラーゲンやエラスチンなど皮膚の結合組織生化学と分子生物学の分野で業績を残し、特に遺伝性皮膚疾患や皮膚の老化に関する研究で世界的に著名でした。生涯で1,100編以上の学術論文(査読付き論文776編を含む)を発表し、総被引用数は7万件を超えるとも推定される非常に影響力の大きい科学者でした。

1997年に ニューイングランドジャーナル (NEJM) に寄稿した総説「Understanding premature skin aging(皮膚の早期老化の理解)」では、紫外線による真皮コラーゲン線維の損傷や異常なエラスチン蓄積(いわゆる日光弾性変性)が、自然老化とは異なる皮膚老化像をもたらすことを解説しました。この論考は、同号に掲載されたG.J.Fisherらの研究(紫外線による皮膚の分子病理pubmed.ncbi.nlm.nih.gov)を踏まえ、光老化の分子基盤を総括したもので、美容皮膚科学の観点からも極めて示唆に富む内容でした。

ヨーニ・ウイト(Jouni Uitto)教授は2022年12月、79歳で逝去されましたが、晩年まで研究と教育への情熱は衰えず、亡くなる年まで継続して論文を発表し続けていました。教授の死に際し、各国の皮膚科学会からは追悼記事が発表されました。

 

 おすすめの関連ブログ記事

 

 LINEバナー300225

 

バナー1

 

バナー2

 

 

制作・執筆:坂田修治(医師:美容外科・美容皮膚科 青い鳥 院長)
(最終更新日:2025年5月12日)

投稿者: 美容外科・美容皮膚科 青い鳥

2021.06.30更新

レーザーを使うのではなく、薬を飲んで治療するシミとして有名な肝斑ですが、このときの薬、トラネキサム酸が肝斑に有効であることを初めて報告したのは、紛れもなく日本人。ただし、その論文は日本語で書かれているため、世界的にはまったく認知されていません。

つい最近まで、肝斑にトラネキサム酸を使うのも日本だけの話で、アジアの美容皮膚科医からも不思議がられていたほど。ところが日本独自の風習(?)と思われていたそのトラネキサム酸の内服療法も少しずつ世界に知られるようになり、システマティック・レビューにも大きく取り上げられるまでになりました。ようやく日の目を見たことに、道を拓かれた先人には素直に敬意を表したいと思います。

ところが、そのシステマティック・レビューでも、よく見ると、日本人の論文はごく初期の研究として紹介されるだけ。現在この領域を牽引しているのは、韓国人やインド人の研究者で、この分野ですら、もう完全に日本は先を越されて、その姿が見えなくなってしまいました。

日本にも美容の専門医も多くいれば、大学にも美容の講座もありますが、世界的に見たとき、美容医学にまったく貢献できていません。学問的なレベルが、日本の美容医療のレベルを正直に物語ってしまっているようで残念でなりません。

以前、韓国と日本の美容関連の医師が集う合同のシンポジウムがあったとき、合同とは名ばかりで、実際には韓国の先生方の貴重なお話しを、日本人医師たちが、ただただありがたく拝聴する、一方的な会になったことを悪夢のように思い出しました。

 

 

 LINEバナー300225

 

 twitterへ

 

自由が丘ブログバナー  

 

投稿者: 美容外科・美容皮膚科 青い鳥

2021.06.24更新

レーザートーニングは、日本美容医療業界の看板施術といってもいいでしょう。何しろ世界の趨勢から大きくズレていても、国内では相変わらず肝斑の標準治療として堂々君臨しているのですから。

でも、忖度なしにハッキリ言って、「レーザートーニングは質の悪い対症療法に過ぎない」。「質(しつ)の悪い」と読むか、「質(たち)の悪い」と読むかは読者におまかせします。

最近のレビュー論文では、レーザートーニングの問題点として、再発率の高さ、白斑の発生リスク、肝斑の特徴的所見である表皮基底膜の破綻をさらに悪化させかねないという懸念を挙げています。

日本の肝斑治療におけるレーザートーニングへの偏重は異様です。

先駆的な業績を残された先生には敬意を表しますし、真面目に取り組んでおられる先生もいらっしゃることは承知していますが、私からすれば、トーニングは「アリ地獄」のように見えて仕方ありません。レーザーでメラニンを叩くのだから一時的には効果が現れることはあります。しかし肝斑の本質に効いてないから、再発が避けられません。

続けていれば効果は続くかもしれないが白斑のリスクが高まる、やめたら再発が待っている、もがけばもがくほど治療費がかさんでいく。こうした「アリ地獄」の構図が透けて見えるから、トーニングは「質の悪い対症療法」としか言いようがありません。


最新のシステマティック・レビューで、レーザートーニングが、third-lineの治療と評価されたことは真剣に受け止めるべきでしょう。世界の潮流から外れるのは一向に構いませんが、世界から嘲笑の的にされるのは勘弁して欲しいと切実に思います。



(参考文献)

1) Melasma Treatment: An Evidence-Based Review.
McKesey J,et al
Am J Clin Dermatol
2020;21(2):173-225

2) Melasma: Updates and perspectives.
Kwon SH,et al
Exp Dermatol
2019;28(6):704-708

3) Melasma pathogenesis: a review of the latest research, pathological findings, and investigational therapies.
Rajanala S,et al
Dermatol Online J
2019;25(10):1-6

 

 

 

 LINEバナー300225

 

 twitterへ

 

自由が丘ブログバナー  

 

投稿者: 美容外科・美容皮膚科 青い鳥

2021.06.15更新

肝斑の原因としては、日光、女性ホルモン、遺伝的素因を挙げるのが一般的ですが、日本では、以前からスキンケアでの「擦りすぎ」が肝斑の原因であると、高名な医師が主張されていて、その迫力に押し流されたのか、日本では、ほとんどの美容皮膚科医は、「擦りすぎ」が肝斑の原因、少なくとも悪化させる要因と考えるようになっています。

しかし、「擦りすぎ」が肝斑の原因というなら、色素沈着と同じになってしまいます。「擦りすぎ」でできるのは色素沈着であって、肝斑ではないという素朴な意見が、なぜ広がらないのか、長年この業界にいてもよくわかりません。

今回、クリニックでの肝斑治療の方針を改正するにあたり、ここ数年の主要な論文に目を通しましたが、大変不思議なことに、「擦りすぎ」を議論しているのは日本だけ。世界では誰も「擦る」ことなんて問題にしていません。


でも、確かに日本女性が「擦りすぎ」ていることは認めざるを得ません。スコープで肌理の状態を観察するようになってから、肝斑の好発部位である頬骨のあたりで、まともに肌理が残っている人にはほとんどお目にかかれません。実は日本女性の過剰なスキンケアは、世界的にも有名なのだとか。

「擦りすぎ」たら、色素沈着になるのは当たり前(もともとメラニン色素を多めに含む東洋人の肌は、炎症から色素沈着をきたしやすい)。おそらく日本女性では、肝斑と色素沈着は混在していることが多いのでしょう。

実際のシミ診療では、厳密に組織診断することはなく、見た目で判断して、治療をすすめます。そうなら日本の肝斑治療は、肝斑と色素沈着の「両面攻撃」でなければならない。今回の治療指針の改訂では、これまでのトラネキサム酸内服への偏重を改め、美白剤(ハイドロキノンなど)を早い段階から使用するようにしました。

 

 

 

 LINEバナー300225

 

 twitterへ

 

自由が丘ブログバナー  

 

投稿者: 美容外科・美容皮膚科 青い鳥

前へ 前へ