2022.08.15更新

正直に白状すれば、私は有酸素運動が好きではありません。ジムでバイクをこいだり、ランニングマシンで走っていると、ハムスターになったようで人間性を否定された気分になるし、単調さに耐えかねて「この時間を本や論文を読む時間に使った方が、自分の残された人生において有益ではないだろうか・・」というバカげた疑問に真剣に悩むことになります。

しかし、それでも有酸素運動には同情(?)するところもあって、それはほんとうのスゴさが十分に知れ渡っていないこと。有酸素運動のメリットというとたいてい心肺機能を強化できるとか、インスリン抵抗性や動脈硬化が改善するというのですが、そんな説明では人の心に響くわけがない。

有酸素運動のほんとうのスゴさは、今が健康だろうが、闘病中だろうが、長生きできるようになること。


米国には身体活動のガイドラインがあって、成人では週に有酸素運動を中強度(ウォーキングなど)なら150分以上、高強度(ランニングなど)なら75分以上、加えて筋トレを週2回以上することが推奨されています。

米国人はネコも杓子もランニングしている印象がありますが、実際にガイドラインを満たす身体活動をしているのは、成人全体の16%。有酸素運動だけ満たしたのは24%、筋トレだけは4.5%だとか。

そしてここからがスゴいのですが、50万人の成人米国人を対象に調査したところ、ガイドラインを満たす運動をしていた人は、全ての死亡原因をまとめた比較で、運動をしていない人に比べ、死亡率が40%、有酸素運動だけでもしていれば29%も減少していたのです。

死因を癌、心血管系、事故・ケガなどと8つの原因別に分けたとき、有酸素運動はすべての原因別死亡率を減少させていました。

そして、付け加えればこの効果は、健康人より基礎疾患のある人でより大きかったのです。


日本人でのデータもあります。それは糖尿病患者を対象にした研究ですが、1日30分程度のウォーキングで、なんと死亡率はほぼ半減しました。

この研究では、当初は心臓病による死亡率が減ることで、全体の死亡率を減少させるだろうと予想を立てていたようですが、実際は心臓病での死亡はそんなに減っていなくて、それではなぜ死亡率が半減までしたのかよくわからないという、何とも締まらない結末になるのですが、それにしても半減とはスゴい。

日頃、医者というのは、わずかな人数を対象にした研究で、吹けば飛ぶような数値の差を、統計式をこねくりまわして有意差があるとかないとかで大騒ぎしているのですが、それを思えば、何千、何万人単位で30%とか50%の差なんて、開いた口がふさがりません。

ここまで来ても、意気地のない私なんか「あまり膝に負担をかけると、膝関節症になるから・・」と駄々をこねたくなるのですが、最近講演で聞いた話では、ランニングしている人の方が、何もしていない人より膝関節症になりにくいとのことなので、残念ながら心配無用のようです。

「あんまり時間が・・」という最後の粘りにも、それなら筋トレは置いといて、まずは有酸素運動だけでもすべきというのが、エビデンスに基づく冷徹な結論。文献を読み過ぎたせいか、どうにも逃げ場がなくなって困ってしまいます。あとは朝の犬の散歩を何とか有酸素運動と呼べないかと、どこまでも図々しく考えているのですが、チンタラ歩いているだけなので、呼べるワケがない・・・。


有酸素運動とはいえないか!?


 

(参考文献)

1) Physical Activity Guidelines for Americans 2nd edition
https://health.gov/sites/default/files/2019-09/Physical_Activity_Guidelines_2nd_edition.pdf

2) Recommended physical activity and all cause and cause specific mortality in US adults: prospective cohort study
Zhao M, et al.
BMJ
2020;370:m2031

3) Leisure-time physical activity is a significant predictor of stroke and total mortality in Japanese patients with type 2 diabetes: analysis from the Japan Diabetes Complications Study(JDCS)
Sone H, et al.
Diabetologia
2013;56:1021-1030

 

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投稿者: 美容外科・美容皮膚科 青い鳥

2022.07.31更新

日頃、ネット上に流れる美容情報には、人を不安にさせるような情報があります。

「パルミチン酸レチニル(パルミチン酸レチノール)が入った化粧品を朝使うと、紫外線で皮膚がんになる」 、「朝レチノールは危険」などというのもその一つ。

パルミチン酸レチニル(パルミチン酸レチノール)は生体内におけるレチノールの貯蔵形態ですから、それと発がんが結びつくとは信じられませんが、一度と言わずに二度三度と目にすると不安になります。

以前、このブログでも「パルミチン酸レチニル(パルミチン酸レチノール)問題」について触れましたが、リライトするにあたり、改めて最新文献まで含めて調査しました。

結論を言えば、パルミチン酸レチニル(パルミチン酸レチノール)には、発がん性を心配する必要はなく、むしろ紫外線で傷ついたDNAを修復する「守護神」になり得るのです。

本記事では、ネット上で拡散されてきた「不安の根拠」である動物実験の意外な真実と、最新科学が明らかにした「DNAの修復」について解説します。

*パルミチン酸レチニルは慣習上パルミチン酸レチノールとも呼称されますが、以後は正式名である「パルミチン酸レチニル」で記載を統一します。

パルミチン酸レチニル問題


不安の正体:10年以上前の「マウス実験」に隠された真実


「レチノールを塗って紫外線を浴びると腫瘍ができる」という説の根拠は、実は古い報告書に由来しています。それは、2012年に米国国家毒性プログラム(NTP)が発表した「TR 568」という報告書です(文献1)。

この実験では、ヘアレスマウスにパルミチン酸レチニル入りのクリームを塗り、紫外線を当て続けたところ、皮膚腫瘍が増えたという結果が示されました。これだけ聞くと確かに不安になりますが、この実験には「重大な欠陥」がありました。


比較用の「ただのクリーム」でも腫瘍ができていた

科学実験では、薬効成分が入っていない「基剤(コントロールクリーム)」を塗ったグループと比較を行います。驚くべきことに、この実験では「パルミチン酸レチニルが入っていないただのクリーム」を塗っただけでも、何もしなかったマウスに比べて腫瘍の発生が早まり、数も増えてしまっていたのです。

後の検証により、クリームの材料として使われていた「アジピン酸ジイソプロピル」などの成分が、マウスの皮膚バリアを壊し、紫外線の害を増幅させていた可能性が高いことが判明しました。つまり、犯人はパルミチン酸レチニルではなく、「実験に使われたクリームそのもの」だった可能性が極めて高いのです(文献2)。

マウスとヒトの決定的な違い

さらに、実験に使われた「SKH-1ヘアレスマウス」は、人間と比べて皮膚が非常に薄く、紫外線による酸化ストレスを防御する能力が著しく低いことが分かっています。

欧州の安全性評価機関(SCCS)や米国の化粧品原料安全性評価委員会(CIR)は、この実験結果を精査した上で、「この結果を人間にそのまま当てはめることはできない」と結論付けました(文献3)。もし本当に危険なら、世界中の規制当局が日焼け止めへの配合を禁止しているはずですが、そのような規制は行われていません。


パラダイムシフト:2025年最新研究が示す「DNA修復」の力

これまでの議論は「パルミチン酸レチニルは危険ではない」という「守り」の姿勢でした。しかし、最新の研究はもっとアグレッシブです。「むしろ日中も塗るべきである」という強力な根拠が出てきています。

それは2025年に発表されたZhongらの最新研究です(文献4)。この研究では、パルミチン酸レチニルとレチノールの組み合わせが、紫外線(UVB)によって損傷したDNAを修復するメカニズムが解明されました。

具体的には、これらの成分が細胞内の「ATM-CHK2-p53」というシグナル伝達経路を活性化させ、壊れたDNAを修理する遺伝子(相同組換え修復遺伝子)のスイッチを入れることが分かったのです。 つまり、パルミチン酸レチニルは発がんを促すどころか、「がん化を防ぐための修復部隊」を指揮している可能性があるのです。


美容医療における「攻め」と「守り」の使い分け

では、私たちは明日からどうすれば良いのでしょうか? 最新の製剤学および皮膚科学の知見に基づき、レチノイドの特性に応じた正しい使い分けを提案します。

朝は「守り」のパルミチン酸レチニル

パルミチン酸レチニルは、純粋なレチノールと比較して分子構造が安定しており、皮膚への刺激性が極めて低いという特性があります。そのため、日中の紫外線下でも安定して機能します。

夜は「攻め」の純粋レチノール / トレチノイン

一方で、純粋レチノールや医薬品であるトレチノインは、強力なターンオーバー促進作用を持ちますが、光や熱に対して不安定であり、分解されやすい性質を持ちます。そのため「夜のみ」の使用が原則となります。

院長からのアドバイス:朝の最強ルーティン「朝レチノール」

「朝レチノール」を実践する場合は、以下の科学的根拠に基づいたルールを守ってください。

1️⃣ 成分を確認する: 朝使う製品には、安定性の高い「パルミチン酸レチニル(Retinyl Palmitate)」が配合されているものを選びましょう。

2️⃣ 日焼け止めは必須: パルミチン酸レチニルが紫外線を吸収しますが、それだけで全ての紫外線を防げるわけではありません。必ずSPF30以上の日焼け止めを併用してください。


まとめ

⭐️ネット上の古い情報や、不安を煽るだけの発信に惑わされないで下さい。パルミチン酸レチニルは、正しく使えば日中の過酷な環境からあなたの肌を守り、未来の美しさを育む頼もしい味方です。

⭐️当院では、最新の知見に基づき、科学的に理にかなったスキンケア指導を行っています。不安な点があれば、いつでも診察室でご相談ください。



クリニックで取り扱うレチノイド

 

【参考文献】

1 Photocarcinogenesis study of retinoic acid and retinyl palmitate [CAS Nos. 302-79-4 (All-trans-retinoic acid) and 79-81-2 (All-trans-retinyl palmitate)] in SKH-1 mice (Simulated Solar Light and Topical Application Study)
National Toxicology Program
Natl Toxicol Program Tech Rep Ser
2012 Jul:(568):1-352

2 Safety Assessment of Retinol, Retinoic Acid, and Retinyl Esters as used in cosmetics
CIR EXPERT PANEL MEETING JUNE 10-11,2013
https://www.cir-safety.org/sites/default/files/rp_buff_092012.pdf

3 SCCS (Scientific Committee on Consumer Safety), revision of the scientific Opinion (SCCS/1576/16) on vitamin A (Retinol, Retinyl Acetate, Retinyl Palmitate), preliminary version of 10 December 2021, final version of 24-25 October 2022, SCCS/1639/21

4 Synergistic effects of retinol and retinyl palmitate in alleviating UVB-induced DNA damage and promoting the homologous recombination repair in keratinocytes
Jiangming Zhong, et al.
Front Pharmacol
2025 Apr 24:16:1562244




 

 

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制作・執筆:坂田修治(医師:美容外科・美容皮膚科 青い鳥 院長)
(最終更新日:2025年12月1日)

投稿者: 美容外科・美容皮膚科 青い鳥

2022.06.25更新

 


ニキビ治療は長い付き合い

ニキビ治療の落とし穴:「治った」と思っても高いニキビ再発リスク


私が美肌治療を行う中でしばしば障害となるのが「ニキビ」です。


せっかく表面のブツブツが消えても、赤い炎症が長引いたり、茶色い色素沈着が残ったりして、それまでの美肌治療を台無しにしてしまうことがよくあります。

しかも驚くべきことに、大多数の方が皮膚科でのニキビ治療を受けていません。

日本の皮膚科診療における「ニキビ治療」には、以下の3つの大きな課題があります:
・受診率の低さ - 多くの方が自己治療に頼っている
・受診の遅れ - 症状が悪化してからようやく来院する
・治療の中断 - 「ブツブツが消えたら治療終了」という誤った認識


特に3つ目の「治療の中断」は深刻な問題です。「表面的な症状が改善したから」という理由で自己判断で治療を中止すると、待ち受けているのは残念ながらニキビの再発です。

ニキビができやすい肌質は簡単には変わりません。そのため、ニキビ再発防止には症状が落ち着いた後も長期的な治療継続が不可欠です。「ニキビがひどくなった時だけ皮膚科へ」という悪循環から抜け出すためには、この基本的な認識を改める必要があります。


ニキビ再発防止のために治療を継続する科学的根拠

ニキビ再発防止を目指した治療の継続には、明確な科学的根拠があります。エピデュオ・フォルテ(アダパレン0.3%+過酸化ベンゾイル2.5%)を用いて、患者に6ヶ月間この薬剤を塗布した研究報告があります。

この報告の特筆すべき点は、塗り薬を続けることで、ニキビ跡の数を減少させたことですが、もう一つ注目すべきは治療が3ヶ月、6ヶ月、1年と継続するにつれて効果が向上ていたこと。これは、治療を継続することで、ニキビの再発防止だけでなく、ニキビ跡の減少にもつながる可能性を示唆しています。


日本で実践できるニキビ再発防止対策

残念ながら日本ではエピデュオ・フォルテは未承認ですが、類似製剤であるエピデュオゲル(アダパレンの濃度が0.1%と低い)においても、半年間の継続使用で:

・新たなニキビ発生の防止(ニキビ再発防止)
・既存のニキビ跡の改善

という二重の効果が確認されています。やはりニキビ再発を防ぐための維持療法が、肌質そのものの改善につながる可能性が示唆されました。


ニキビ再発防止の観点からは、少なくとも1年間の治療継続を強くお勧めします。この期間を経て、中止する明確な理由がなければさらに継続することで、新規ニキビの予防と既存の瘢痕改善という二重のメリットが期待できます。


本当の「ニキビ治療」とは:再発防止のための維持療法が鍵

日本皮膚科学会のガイドラインでも明記されていますが、真のニキビ治療には2つのステップがあります:

⚪️急性期の炎症を抑える「急性期治療
⚪️ニキビが落ち着いた後の「維持療法

多くの方が見落としているのは、この2番目のステップです。ニキビ再発防止のための「維持療法」は、ニキビ治療に欠かせない最後の仕上げなのです。

具体的には、アダパレン(ディフェリン)やBPO製剤などの外用薬を継続的に使用することが推奨されています。つまり、「ブツブツが消えたら終わり」ではなく、その後もニキビ再発させないための「維持療法」を続けることが正しいニキビ治療です。

この維持療法の考え方はガイドラインで示されているにもかかわらず、一般には十分に浸透していません。もしかすると医療費増加への懸念から積極的な周知が控えられているのではと疑いたくもなりますが、維持療法の重要性は、皆さんの肌の健康のためにもっと広く認識されるべきではないでしょうか。皮膚科ドクターと相談しながら、あなたに最適な維持療法を見つけてください。

 

 おすすめの関連ブログ記事




(参考文献)
1)Adapalene 0.1%/benzoyl peroxide 2.5% gel reduces the risk of atrophic scar formation in moderate inflammatory acne: a split-face randomized control trial
Dréno B,et al.
JEADV
2017;31:737-742

2)Prevention and reduction of atrophic acne scars with adapalene 0.3%/benzoyl peroxide 2.5% gel in subjects with moderate or severe facial acne: results of a 6-month randomized, vehicle-controlled trial using intra-individual comparison
Dréno B,et al.
Am J Clin Dermatol.
2018;19:275-286

3)Long-term effectiveness and safety of up to 48 weeks' treatment with topical adapalene 0.3%/benzoyl peroxide 2.5% gel in the prevention and reduction of atrophic acne scars in moderate and severe facial acne
Dréno B,et al.
Am J Clin Dermatol.
2019;20:725-732


 

 

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制作・執筆:坂田修治(医師:美容外科・美容皮膚科 青い鳥 院長)
(最終更新日:2025年5月11日)

投稿者: 美容外科・美容皮膚科 青い鳥

2022.06.18更新

なぜ皮膚科医はニキビの早期治療にこだわるのか?

ニキビには「早期から治療を!」と皮膚科の先生は言いますが、ほんとうに早期から治療したらメリットがあるのでしょうか?


ニキビは早期治療



実はメリットはあります!「治療の遅れ」はニキビが瘢痕化(あとに跡が残ること)する有名なリスクファクターなのです。ニキビ治療において、このリスクファクターが特に重要視されるのは、これだけは患者さん自身の判断で改善できるから。


ニキビ治療を早期に始めるべき医学的根拠

ニキビのリスクファクターには様々なものがありますが、「家族歴の有無」は自分ではどうにも変えようがありません。また「重症ニキビ」になってからでは、効果的な治療が難しくなることもあります。ニキビ治療において「早期からの治療」が最も効果的であることは、多くの皮膚科医が同意する点です。


ニキビ早期治療の障壁とは?

しかし、皮膚科医が一生懸命「ニキビ早期治療」の重要性を説いても、実際に受診を妨げている要因が医療現場にも存在するようです。日頃、ニキビのある方に皮膚科受診をお勧めしていますが、「時間がかかりすぎる」、「行っても治らない」、「ろくに診てくれない」、「話を聞いてくれない」などという声をよく耳にします。

こうした意見を聞くと、同業者として「今の医療制度では、多くの患者さんを診ないと経営的に成り立たないから、皮膚科医も大変なのです」とフォローしたりしますが、実際のところは複雑な問題です。


まとめ:ニキビは早期治療

ニキビ治療は早期に適切な医学的アプローチで始めることが最も効果的です。
ニキビでお悩みの方は、適切な診療を受けられる皮膚科を見つけ、早期からの治療を始めることをお勧めします。それが最終的には肌トラブルの長期化を防ぎ、瘢痕などの後遺症リスクを減らす最善の方法なのです。

 

 おすすめの関連ブログ記事

 



(参考文献)
1)Acne scarring: why we should act sooner rather than later
Dréno  B,et al.
Dermatol ther.
2021;11(4):1075-1078

2)Development of an atrophic acne scar risk assessment tool
Tan J,et al.
J Eur Acad Dermatol Venereol.
2017;31(9):1547-1554

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制作・執筆:坂田修治(医師:美容外科・美容皮膚科 青い鳥 院長)
(最終更新日:2025年5月11日)

投稿者: 美容外科・美容皮膚科 青い鳥

2022.06.09更新

ニキビ跡ゼロを目指す!皮膚科医が警鐘を鳴らす「早期治療の重要性」


「すべてのニキビには瘢痕化するリスクがある。皮膚科医はたとえ軽症のニキビであっても、早期から継続的な治療で瘢痕形成を防がねばならない。」これは、ニキビ治療における皮膚科・美容皮膚科医の共通認識であり、究極の目標はニキビ跡を作らせないことです。

しかし、「すべてのニキビにリスクがある」という言葉は、裏を返せば、これまで具体的なニキビ跡化のメカニズムが明確でなかったことの現れでもありました。漠然と「重症のニキビほど、炎症が強いニキビほどニキビ跡になりやすい」と理解されてきたものの、具体的な指標は乏しかったのです。

そんな中、ニキビ跡に関する長年のモヤモヤを解消するような、執念とも言える詳細な臨床研究が報告されました。この記事では、その最新の研究結果を踏まえ、効果的なニキビ跡の予防とニキビ跡の治療のポイントについて解説します。


ニキビ瘢痕こうできる



ニキビ跡化の謎を解明!最新研究が示す「危険なニキビ」の見分け方

これまで「重症度」や「炎症の強さ」といった曖昧な指標で語られがちだったニキビ跡化のリスク。しかし、ある臨床研究が、顔のニキビ一つひとつを2週間ごとに6ヶ月間追跡するという徹底的な調査を行いました。この丹念な研究により、ニキビ跡になりやすいニキビの具体的な特徴が明らかになってきました。

研究によると、驚くべきことにニキビ跡(瘢痕)の実に83%が、ニキビが治った後の「炎症後の赤み」や「色素沈着」から生じていることが判明しました。特に多く見られたのが、「赤ニキビ」が発生し、それが「炎症後の赤み」として残り、最終的に「ニキビ跡」へと進行するケースです。

さらに、将来的にニキビ跡となったニキビは、そうならなかったニキビと比較して、症状が治まるまでの期間が明らかに長い(平均10.5日に対し6.6日)という事実も突き止められました。


「長引く赤み」がサイン!ニキビ跡 予防のカギは早期発見・早期治療

この研究結果は、従来の「重症のニキビ、炎症の強いニキビほど瘢痕化しやすい」という経験則を裏付けるものですが、さらに重要な示唆を与えてくれます。それは、「重症」や「炎症」といった多様な症状の中でも、特に「治癒までの期間が長いこと」そして「炎症後の赤みが続くこと」が、ニキビ跡化するリスクの高いニキビを見分けるための重要な指標になるということです。

つまり、ニキビができてから治るまでに時間がかかっているもの、そして一度落ち着いたように見えても赤みがなかなか引かないものは、ニキビ跡になる危険信号と捉えるべきなのです。

このことから、効果的なニキビ跡 予防のためには、ニキビの「長い経過」の途中、まだ「赤み」が目立つ段階で積極的にニキビ跡 治療を開始することが極めて重要であると言えます。具体的には、ディフェリンゲルや過酸化ベンゾイル(BPO)製剤といった外用薬による早期の治療介入が、その後のニキビ跡化を防ぐ可能性を高めます。

放置してはいけないのは、発生してから1週間以上経過しても改善しないニキビや、一度平らになった後も赤みが持続しているニキビです。これらはニキビ跡への危険なサインと認識し、速やかに皮膚科医に相談することが賢明です。


まとめ:ニキビ跡は予防できる!「赤み」を見逃さず、今日から始めるケア

ニキビ跡は、一度できてしまうとセルフケアでの改善が難しく、専門的なニキビ跡治療が必要となるケースも少なくありません。しかし、今回の研究結果が示すように、ニキビ跡は決して手の施しようがないものではなく、適切なニキビ跡 予防策を講じることで、その発生リスクを大幅に減らすことが可能です。

重要なのは、「たかがニキビ」と軽視せず、特に「治りが遅いニキビ」や「赤みが長引くニキビ」といった危険信号を見逃さないことです。これらのサインに気づいたら、自己判断で放置せず、できるだけ早い段階で皮膚科医に相談し、適切なニキビ跡治療(予防的治療を含む)を開始しましょう。

早期からの正しいケアと継続的な治療によって、ニキビ跡に悩まされることのない、健やかな肌を目指すことは十分に可能なのです。

 

 おすすめの関連ブログ記事


(参考文献)
1)Acne scarring: why we should act sooner rather than later
Dréno  B,et al.
Dermatol ther.
2021;11(4):1075-1078

2)Prospective study of pathogenesis of atrophic acne scars and role of macular erythema
Tan J,et al.
J Drugs Dermatol.
2017;16(6)567-573

 

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制作・執筆:坂田修治(医師:美容外科・美容皮膚科 青い鳥 院長)
(最終更新日:2025年5月12日)

投稿者: 美容外科・美容皮膚科 青い鳥

2022.04.13更新

「ニキビには保湿が大切」——この言葉、どこかで聞いたことはありませんか?

美容雑誌やSNSでは当たり前のように語られているこの考え方。しかし、皮膚科学の世界では、この「ニキビ 保湿」神話に対して警鐘が鳴らされています。

今回は、日本で広まった「ニキビの保湿」信仰の背景と、本当に正しいスキンケアについてお伝えします。

ニキビが保湿が足りないのか?


なぜ「ニキビには保湿」が広まったのか

敏感肌とニキビの"混同"

皮膚科学において、「ニキビ」と「敏感肌」は本来まったく別の概念です。ニキビは毛穴の炎症性疾患であり、敏感肌は肌のバリア機能低下による過敏状態を指します。

しかし、美容雑誌やSNSでは事情が異なります。

「敏感肌がゆらぐとニキビが出やすくなる」「バリア機能低下で赤み・乾燥・吹き出物が増える」——こうした表現が繰り返されるうちに、読者の間では「敏感肌=ニキビが出やすい肌」という認識が定着してしまいました。

*注意:ニキビ患者ではバリア障害があることが示されていますが、バリア障害はニキビの炎症により二次的に生じている可能性があり、必ずしもバリア障害がニキビの原因とは言えません(文献1)


化粧品マーケティングの影響

敏感肌向けブランドの多くが「敏感肌でも使えるニキビケア」というPRを展開していることも、この混同を助長しています。敏感肌ケアの基本は「保湿」ですから、「ニキビにも保湿クリームが効く」という連想が生まれるのは自然な流れだったのかもしれません。

結果として、ニキビで保湿クリームを求める方、ニキビの保湿ケアに熱心に取り組む方が増えました。


皮膚科の大家が指摘する“不都合な真実”

2021年、日本美容皮膚科学会誌に、ニキビとスキンケアに関する重要な論文が掲載されました(文献1)。

第一線で活躍する皮膚科の先生が、「ニキビには保湿」という考え方が一人歩きしている現状に対して、注意喚起を行っています。

この論文では、近年「乾燥がニキビを悪化させる」「保湿すればニキビが良くなる」といったメッセージが、メディアや美容雑誌を通じて広く拡散し、あたかも“常識”のように受け止められていることが指摘されています。そして、そのような情報をそのまま信じてしまうことには十分な注意が必要だ、という趣旨が述べられています。


保湿でニキビが治るエビデンスはない

論文ではさらに踏み込んだ論点として、「保湿をすると毛穴の入り口の閉塞が防げて、ニキビの発症を抑えられる」という“説”についても触れられています。

しかし現時点では、「保湿ケアそのものがニキビを直接改善させる」と明確に示した臨床エビデンスはありません。

むしろ、保湿剤の使用がニキビを悪化させている可能性すらある、と論文では懸念が示されています。

つまり、「ニキビにはとにかく保湿をすれば良い」と思い込んで行っているスキンケアが、実は逆効果になっているケースもあり得るのです。


保湿の“本来の目的”とは

では、ニキビ肌に保湿は一切不要なのでしょうか。

もちろん、そういうわけではありません。論文では、保湿の位置づけについても整理されています。

本来、保湿の主な役割は
⭐️肌の乾燥に対するスキンケア
⭐️ニキビ治療薬による乾燥や刺激といった副作用の軽減
といった点にあり、ニキビそのものを治す「主役の治療」ではない、とされています。

そのうえで、ニキビに保湿を行う場合には、「ノンコメドジェニックな製品を、必要最小限にとどめること」が望ましいとされています。


「汝自身の肌を知れ」

この論文から私たちが学べる一番大きなメッセージは、自分の肌の状態を正しく理解することの大切さです。

「ニキビには保湿が良い」「保湿クリームでニキビが改善する」といった、根拠があいまいな情報に振り回されるのではなく、

✅自分のニキビはどの程度の炎症なのか
✅どの治療薬を使っていて、どんな副作用が出やすいのか
✅どの範囲・どの頻度で保湿が本当に必要なのか

といった点を、一人ひとりの肌の状況に応じて見極めていくことが重要です。

それこそが、遠回りに見えて実は一番の「美肌への近道」と言えるでしょう。



【参考文献】

1 痤瘡外用療法の副作用への対処とスキンケア
林 伸和、佐々木 優
Aesthetic Dermatology
2021;31(1):7-14






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投稿者: 美容外科・美容皮膚科 青い鳥

2022.04.06更新

コロナ禍で診療所の多くの診療科で患者数は減少しましたが、皮膚科では減少しておらず、マスク生活によって、新たな肌トラブルが起こっていることがうかがえます。それがマスクによる肌荒れ、ニキビ。

マスクを装着することで、肌にどんな悪影響を与えるか?結論から言うと、バリア機能崩壊による「乾燥」。

マスクで崩壊

マスクを着用すると、マスクにおおわれた肌では、皮膚温と湿度が上昇します。蒸れ蒸れになるわけですが、これが肌のバリア機能を低下させます。

なぜかというと、皮膚表面では、細胞同士がピタッとくっついてバリアを形成しているのに、過湿により表面の細胞が膨張すると、細胞間の接着が弛んでしまうから。

長時間のマスクパックでも同じことが言えます。保湿は大切ですが、過湿には要注意なのです。

ここでひとつ訂正があります。私はメルマガで「マスクをしているときは蒸れているというのに、それがバリア機能を崩壊させ、マスクを外したら、一気に乾燥する・・。」と書きました。

しかし、韓国の研究者が発表した論文によると、とくに口まわりの皮膚では、マスクの装着中から保水量は減少していました。蒸れているようで、皮膚は乾燥しているらしい。ここにお詫びして訂正させていただきます。


さて、もうひとつの問題「ニキビ」。

マスクを着用すると、皮膚温が上昇するため、皮脂の分泌が亢進して、これがニキビの原因になります。しかもマスク内だけでなく、おおわれていない額でも皮脂が増えるため、ニキビができてしまいます。

マスクでできたニキビの治療も従来のニキビ治療と変わりありませんが、以前は使用できた薬剤に刺激を感じる患者さんが増えているとか。皮膚のバリア機能が低下して、「敏感肌」になっているのです。

マスクの肌荒れ対策としては、保湿が重要とされていますが、同時にマスクで密封された状態では、かぶれが誘導されやすいことも指摘されています。またウレタンマスクの方が肌にやさしいようですが、感染効果が落ちないようにその上から不織布マスクをすると、ますます蒸れ蒸れになってバリア機能が壊れそう・・

人前に出るときは社会規範としてマスクが必要ですが、近くに人がいない中で仕事しているときなど、マスクが本当は意味のないシチュエーションも多いはず。そういうときは肌をいたわるためにも外して、お肌を休ませてあげてはいかがでしょうか。


(参考文献)

1)Effect of face mask on skin characteristics changes during the COVID-19 pandemic
Park SR,et al.
Skin Res Tcchnol
2021;27(4):554-559

2)Long-term effects of face masks on skin characteristics during the COVID-19 pandemic
Park SR,et al.
Skin Res Tcchnol
2022;28(1):153-161

3)新しい生活様式 スキンケアはどう変わる
川島眞、他
ベラペレ
2022;7(1):69-72





 

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投稿者: 美容外科・美容皮膚科 青い鳥

2022.03.20更新

「ディフェリンはニキビ治療薬」というイメージが強いかもしれませんが、実はアンチエイジングにも効果が期待できる薬剤であることをご存知でしょうか? 

本記事では、ニキビ治療薬として有名なディフェリンが、なぜエイジングケアの有力な選択肢となり得るのか、そのメカニズムや使用方法、そして最新のレチノイド事情までを詳しく解説します。


ディフェリンでエイジングケア


1.ディフェリンはアンチエイジングにも使える?


ディフェリン(一般名:アダパレン)は、「第3世代」に分類される合成レチノイドです。日本では主にニキビ治療薬として承認・使用されており、10代や20代で使った経験がある方も多いでしょう。

レチノイドはビタミンA誘導体の総称で、肌のターンオーバー(細胞の生まれ変わり)を促進したり、皮脂分泌を抑制したり、コラーゲン生成を促したりする作用があることで知られています。この「ターンオーバー促進」や「コラーゲン生成促進」といった働きが、ニキビだけでなく、シミ、しわ、ハリ不足といったエイジングサインにもアプローチできる理由です。

つまり、ディフェリンが持つレチノイドとしての基本的な作用機序が、エイジングケアにも応用できる可能性をもたらすのです。


2.ディフェリンがエイジングケアに有効な理由

米国FDAが老化(光老化)治療として正式に承認しているレチノイドは、現時点ではトレチノインとタザロテンのみです。しかし、ディフェリンを光老化治療に使う臨床試験も存在し、その効果が示唆されています。

3-1. FDA承認がすべてではない理由

医薬品の承認は、有効性だけでなく、製薬会社の開発・申請戦略や費用対効果なども考慮されるため、「承認がない=効果がない」と直結するわけではありません。ディフェリンが持つレチノイドとしての作用や、後述する臨床研究の結果から、エイジングケアへの効果は十分に期待できると考えられます。

3-2. ディフェリンの臨床試験

ディフェリンがニキビだけでなく、肌の老化にも効果を発揮する可能性は、実際の臨床研究でも示唆されています。

米国皮膚科学会の公式ジャーナルに掲載された研究では、ディフェリンを光老化の症状である「シミ」と「前がん病変(日光角化症など)」に絞って、その効果を検証し、これらの症状に対する改善効果が認められています。これは、ディフェリンが肌のエイジングサインに対して有効であることの間接的な証拠と言えるでしょう。

この研究で興味深いのは、さすがに米国皮膚科学会の公式ジャーナルともなると厳格で、光老化全体ではなく、その症状である前がん病変、シミの2つに対象を絞ってディフェリンの効果をみた臨床研究としていること。世間にいくらでもある安っぽい(?)ジャーナルみたいに、すぐに光老化に有効とは言わない!というプライドを感じさせます。

3-3. ディフェリンの使用上のメリット

比較的マイルドな刺激: 他のレチノイド(特にトレチノイン)と比較して、赤みや皮むけといった刺激反応(いわゆるA反応、レチノイド反応)が軽い傾向があります。これにより、レチノイド初心者でも始めやすい可能性があります。

光感受性のリスクが低い: トレチノインほど紫外線に対する感受性を高めにくいとされていますが、日中の紫外線対策は必須です。
日本での承認: ニキビ治療薬として厚生労働省に承認されており、医師の診察のもと処方を受けやすい環境にあります。(ただし、エイジングケア目的での使用は保険適用外となるのが一般的です)


4. ディフェリンの使用法と注意点

4-1. 基本の使用方法

・夜1回、洗顔後に豆粒大(a pea-sized)を顔全体に塗布
・1ヶ月後に刺激反応が落ち着いてきたら、朝にも塗布

4-2. 刺激症状(A反応)に注意

レチノイド全般にいえることですが、肌が赤くなったり、ヒリヒリとした刺激感が出る「A反応」と呼ばれる副作用が生じることがあります。ディフェリンはトレチノインに比べると刺激が穏やかですが、初期はとくに慎重に様子をみましょう。

4-3. 妊娠・授乳中の使用は避ける

レチノイドには胎児に悪影響を及ぼすリスクがあるため、妊娠中や授乳中、あるいは妊娠を希望している方は使用を控えましょう。

4-4.注意点

使用できない人: 妊娠中・授乳中の方、妊娠を希望している方は使用できません。
◉刺激反応: 比較的マイルドとはいえ、乾燥、赤み、ヒリヒリ感、皮むけなどの刺激反応が出る可能性があります。少量から、頻度を少なく(例:隔日など)始めるのがおすすめです。
◉保湿と紫外線対策: 使用中は肌が乾燥しやすくなるため、十分な保湿が重要です。また、日中は必ず日焼け止めを使用してください。
◉医師への相談: エイジングケア目的で使用する場合でも、必ず医師に相談し、適切な指導のもとで使用を開始してください。自己判断での使用は避けましょう。


まとめ

▶︎ニキビ治療薬として広く知られるディフェリンは、そのレチノイドとしての作用機序から、エイジングケア(アンチエイジング)にも効果が期待できる薬剤です。シミや肌の質感改善など、実際の臨床研究でもその可能性が示唆されています。

▶︎他のレチノイドに比べて刺激がマイルドな傾向があり、エイジングケア初心者にも比較的取り入れやすい選択肢と言えるでしょう。ただし、妊娠中など使用できないケースや、乾燥・刺激感といった注意点もあります。

▶︎30代、40代から本格的なエイジングケアを始めたいと考えている方にとって、ディフェリンは有力な選択肢の一つです。興味のある方は、まずは皮膚科医に相談し、ご自身の肌に合った使い方のアドバイスを受けてみてはいかがでしょうか。

 

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制作・執筆:坂田修治(医師:美容外科・美容皮膚科 青い鳥 院長)
(最終更新日:2025年5月14日)

投稿者: 美容外科・美容皮膚科 青い鳥

2021.11.09更新

「洗顔しすぎると、かえって皮脂が増える」

洗顔でかえって皮脂は増えるのか!?

このような話を聞いたことはありませんか?実際、AI検索でも「洗顔のしすぎは皮脂の過剰分泌を招く」という回答が返ってくることがあります。

しかし、医学的にはこれは誤解です。

とはいえ、「洗顔しても皮脂がすぐに浮いてくる」と感じる方が多いのも事実。今回は、顔の皮脂が多いと悩む方へ、皮脂分泌の本当のメカニズムを医学的根拠とともに解説します。

皮脂分泌の真実:ホルモンが司る精密なシステム

皮脂の役割は、皮膚表面の保護ですが、その分泌量は、肌表面がオイリーだろうとドライだろうと変わるものではありません。皮脂分泌は皮脂腺内の細胞の分化、脂質の蓄積、そしてホルモンや環境要因など様々な要素によって複雑に調節されています(文献1)。

つまり、洗顔でたとえ皮脂を取りすぎたとしても、皮脂腺での「生産量」が増えることはないのです(文献1)。

なぜ「洗顔しすぎると皮脂が増える」説が生まれたのか?

もうずいぶん前の話ですが、興味深い実験結果が報告されました。同じ時間内で皮脂を採取する際、1回で拭き取るより複数回に分けた方が、より多くの皮脂が採取されたのです(文献2)。

この結果から「洗顔しすぎは皮脂の分泌量を増やす」という説が支持されました。しかし、これには別の理由があります。


皮脂の「貯蔵庫」システムが鍵

顔の皮脂には、巧妙な貯蔵システムが存在します。

2つの貯蔵庫の役割
1)皮脂腺の導管:Tゾーンなどでは、皮脂腺から皮膚表面へつながる管が巨大な貯蔵庫として機能
2)角質層:スポンジのように皮脂を蓄える第二の貯蔵庫

洗顔で表面の皮脂を取り除くと、毛細管現象により貯蔵庫から新しい皮脂が自動的に補充されます。これが「洗顔しても皮脂がすぐ出てくる」と感じる正体であり、また「1回で拭き取るより複数回に分けた方が、より多くの皮脂が採取された」理由だったのです(文献2)。


顔を洗いすぎるとどうなる?3つのポイント

1. 皮脂の生産量は変わらない
洗顔しすぎても、皮脂腺での生産量が増えることはありません。

2. 表面の皮脂は増えたように感じることも
貯蔵庫からの補充により、肌表面に出てくる皮脂の総量は一時的に増えたように感じられます。

3. 過度な洗顔は肌トラブルの原因に
肌に必要な保湿因子が奪われ、皮膚のバリア機能がダメージを受け、肌トラブルの原因となります。


まとめ:美肌のための正しい洗顔法

◉洗顔によって一時的に皮脂によるテカリやベタつきは抑えることができますが、過剰な洗顔、頻回な洗顔では肌がもちません。

◉ただ、洗顔が皮脂の分泌を刺激するというのは間違いです。


【参考文献】

1. Oily skin: an overview
Sakuma TH, Maibach HI
Skin Pharmacol Physiol
2012;25(5):227-235

2. An investigation of the human sebaceous gland
Kligman AM, Shelly WB
J Invest Dermatol
1958;30:99-125

 

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制作・執筆:坂田修治(医師:美容外科・美容皮膚科 青い鳥 院長)
(最終更新日:2025年7月7日)

投稿者: 美容外科・美容皮膚科 青い鳥

2021.10.20更新


美容皮膚科にはサイエンスとビジネスの2つの側面がありますが、サイエンスの側から見たとき、美白剤のNo.1といえば、ここ数十年ハイドロキノンの王座は揺るぎないものがあります。美白剤のNo.2と目されていたロドデノールは、白斑症で大問題を引き起こし失脚しましたので、No.2は空席のまま。


美白剤の王座:イメージイラスト


No.1をハッキリさせることにどんな意義があるのか、No.2でもいいじゃないかという意見もあるでしょう。しかし、学問の世界では、No.1を越える結果を出すことが、学問の進歩を証明することになります。実はNo.2以下こそどうでもいい存在なのです。


ところで驚くことに、美容皮膚科のビジネスサイドに目をやると、美白剤の王者であるハイドロキノンの4倍とか17倍と謳われている美白剤が存在します。

「ハイドロキノンの4倍!」と謳っているのは、シスペラ(一般名システアミン)

最初に美白効果が報告されたのは1960年代。強いイオウ臭があり、長らく商品化を見送られてきましたが、2010年に臭いを抑制する技術開発があり、ようやく日の目を見ました(文献1)。

「ハイドロキノンの4倍の美白作用」などと宣伝されていますが、それを裏付ける臨床試験は存在しません。

美容皮膚科学的には、美白剤の優劣は肝斑に対する有効性で競われ、その肝斑の最新のレビュー論文にどう書かれるかで、その美白剤の評価がわかりますが、実はシスペラはひと言も触れられていません。

最新のレビュー論文(文献2)に登場する美白剤は、ハイドロキノン、アゼライン酸、ビタミンC、それからポーラが開発したルシノールです。

**追加補足2025年9月**
2024年のレビュー論文(文献3)には登場しましたが、「システアミンは、ハイドロキノンに比べて有効性が劣る可能性があるものの、軽度から中等度の肝斑に対してハイドロキノンに替わる治療の選択肢となりえる。」と書かれています。

 


「ハイドロキノンの17倍!」と謳われているのは、ルミキシル。これにいたっては、もうハイドロキノンとの比較試験も見当たりません。

しかし、17倍の根拠は見つけることができました。ルミキシルはハイドロキノンより17倍強力にマッシュルームのチロシナーゼ(メラニン色素を生成する反応の中で重要な酵素)を抑制したというデータが根拠です(文献4)。「17倍強力」の根拠は、なんと!マッシュルームだったのです。

こうしたチロシナーゼの実験では、マッシュルームのチロシナーゼが使われることが多いのは理解するにしても、それが実験と臨床効果の乖離を生んでいるという批判もあるので、ぜひヒトのチロシナーゼを使っていただきたい。

ルミキシルに必要なのは、マッシュルームを相手にするのではなく、人を対象にしてハイドロキノンと正々堂々勝負して、有効性を実証すること。


**追加補足2025年9月**

「17倍」と言い過ぎたからではないでしょうが、ルミキシルは、2024年に世界的に製造・販売が中止されています。

 

ハイドロキノンの王座を狙う新参者からは、しばしばハイドロキノンのリスクが言及されますが、何十年にもわたり、リスクを回避する使用法が模索されています。

使い方を知っている「医師」の指導の元で使えば安全な製剤です。

私もその「医師」の一人ですと最後に付け加えておきます。他の医師より10倍詳しいと言いたいところですが、それはやめておきます。



【参考文献】
1)Clinical evaluation of efficacy,safety and tolerabirity of cysteamine 5% cream in comparison with modified Kligman's formula in subjects with epidermal melasma: A randomized, double-blind clinical trial study
Karrabi M, et al.
Skin Res Technol
2021;27:24-31


2) Melasma treatment: An Evidence-based review
McKesey J, et al.
2020;21:173-225

3) An Update on New and Existing Treatments for the Management of Melasma
Christian Gan, Michelle Rodrigues
Am J Clin Dermatol
2024 Sep;25(5):717-733

4) Short-sequence oligopeptides with inhibitory activity against mushroom and human tyrosinase
Anan Abu Ubeid,et al.
J Invest Dermatol.
2009;129(9):2242-2249

 

 

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制作・執筆:坂田修治(医師:美容外科・美容皮膚科 青い鳥 院長)
(最終更新日:2025年9月16日)

投稿者: 美容外科・美容皮膚科 青い鳥

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