論理の誤りの典型に「単なる前後関係を因果関係と見誤る」というのがあります。たとえば洗車をしたら雨が降ってすぐ汚れたことから、「洗車をしたから雨が降った!」と洗車が原因、雨が結果と思い込むこと。
これくらいバカバカしいとすぐに見透かすことができますが、では「授乳するとバストが垂れる」はどうでしょう?
実際、世界の文化圏をまたいで、「授乳はバストの形を崩す」伝説はひろまっています。イタリアの女子高生の30%はそう信じていると回答していますし、ドミニカの女性が早めに母乳育児を切り上げる理由にもなっています。
このように「授乳はバストの形を崩す」伝説は、世界中の育児に影響を与えているわけですが、実は授乳がバストの形態にどう影響するか医学的な検証は行われていません。
バストは美容外科における大きな柱のひとつ。日本では圧倒的に胸を大きくする豊胸術が行われますが、米国では逆に大きく、垂れた胸を小さく、引き上げる手術がよく行われます。
肥満が社会問題になっている米国では、胃を小さくしたりする肥満に対する手術がよく行われ、その結果大幅に減量してバストが垂れて、今度はバストの下垂に対する美容手術の件数も伸びているとか。
そんなバストの下垂と日々向かいあう米国の形成外科医から、「何がバストを下垂させているか?」を検討した報告が出されました。
それによるとバストを下垂させる原因とされたのは
・加齢
・22.7キロ(50ポンド)を越える体重減少
・肥満
・大きなブラサイズ
・妊娠回数が多い
・喫煙
でした。
この報告は、「授乳はバストの下垂の原因にはならない」と結論づけています。「妊娠することで下垂したのであって、授乳したからではない」と、前後関係はあっても、原因と結果の因果関係にはないとしています。
報告した医師は、「授乳でバストが崩れる」ことへの懸念が、先進国で母乳育児する率が高まらない一因になっていると憂慮していますが、「妊娠でバストが崩れる」としたら、ますます少子化に拍車がかかるのではないかと私は憂慮してしまいます。
(参考文献)
Breast ptosis: causes and cure
Rinker B,et al.
Ann Plast Surg.
2010;64(5):579-584