2025.12.09更新

はじめに

この文章は、私にシフトワーカーの健康問題を考えるきっかけをくださった、あるお客様に捧げます。

看護師をされていたそのお客様と、この話題になった時、何もアドバイスできないばかりか、冗談めかして「早く婦長さんになって(通常、看護師長は日勤のみです)、この状況から脱却するしかないですよ!」としか言えなかったことが、今も痛恨の思いとして心に残っています。

答えとしてまだまだ不十分ですが、今も考え続けていることをお伝えしたい。

シフトワーカー(Shift Worker)とは、通常の朝から夕方までの日中勤務ではなく、シフト制(交代勤務制)で働く人々を指します。

時間医学がシフトワーカーを守る


シフトワーカーの現実


シフトワークが睡眠障害をはじめ、肥満、脂質異常症、高血圧、糖尿病など生活習慣病や心筋梗塞、脳卒中、乳がん、前立腺がんなどの疾患リスクを上昇させることがさまざまな疫学研究から示されています。

具体的な数字を見ると、その深刻さがわかります。

☑️心筋梗塞リスク:23%上昇(文献1)
☑️2型糖尿病リスク:30%上昇(文献2)
☑️うつ病リスク:33%上昇(女性では73%上昇)(文献3)

さらに、国際がん研究機関(IARC)は2019年、夜間シフトワークを「グループ2A(おそらく発がん性あり)」に分類しました(文献4)。これはホルムアルデヒドやグリホサート(除草剤)と同じ分類であり、無視できないリスクレベルです。

しかし悲観する必要はありません。時間医学の進歩により、体内時計のメカニズムを理解し、科学的根拠に基づいた対策を講じることで、リスクを大幅に軽減できることがわかっています。

なぜシフトワークは身体に悪い!?

なぜシフトワークは体に悪いのか

人に限らず、地球上の生物には、体内時計が備わっています。地球の自転によって、およそ24時間周期で昼夜の環境が変化する地球上で生存競争に勝ち抜くために不可欠なシステムです。

体内時計を調整するメラトニンというホルモンは、驚くべきことにヒトはもちろん動物でも植物でも微生物でも共通。いかに生命にとって根源的なシステムであるかがわかります。体内時計は地球上の生命体全般において、普遍で不変!な進化をとげたのです。

そして、そのシステムに従って、睡眠覚醒、代謝、ホルモン分泌などさまざまな生理現象が調節されています。

だから人はシフトワークのように地球の自転を無視した生活に適応することは難しいのです。これが体内時計を研究する医学分野である「時間医学」の答えになります。


シフトワークのコツ

時間医学が教える健康的なシフトワークのコツ

不規則な生活を強いられるシフトワーカーですが、「規則的に不規則な生活」なら、まだ健康を害するリスクは小さくできる可能性があります。以下に、科学的根拠に基づいた具体的な対策をご紹介します。

シフトスケジュールの原則

正循環シフトを守る

日勤→準夜勤→深夜勤の方向へ回す「正循環(時計回り)シフト」が推奨されます(文献5)。

人間の体内時計(概日リズム)の固有周期は約24.2時間です。このように地球の自転周期(24時間)よりもわずかに長いため、調整しなければ、体内時計は自然に毎日少しずつ遅れていきます。この「遅れる傾向」により、時間を後ろにずらす(夜更かし方向)調整は、体内時計の自然な傾向に沿っているため容易です。

逆循環(深夜勤→準夜勤→日勤)は体内時計を前倒しする方向への調整となり、極めて困難です。睡眠の質低下や疲労感増大と強く相関しています(文献5)。


勤務間インターバルと連続夜勤の制限

✅勤務間インターバル11時間以上を確保(EU労働時間指令の基準)(文献6)
✅連続夜勤は3回まで(3連続後で労働災害や事故のリスクが17%増加、4連続で36%増加)(文献7)
✅「準夜勤(深夜0時終了)」の翌朝に「日勤(8時開始)」を入れるようなシフトは絶対に避ける(文献8)

光のマネージメント


光のマネジメント


光は体内時計を動かす最強のスイッチです。その「量(照度)」と「質(波長)」、そして「タイミング」を管理することが、シフトワーク対策の核心です。

夜勤中の照明戦略(ライトセラピー)

夜勤前半(〜午前2時):高照度(1,000ルクス以上、理想的には2,500〜10,000ルクス)の白色LED照明で覚醒度とパフォーマンスを維持

*高照度光が夜勤中の覚醒度とパフォーマンスを維持することは科学的に確認されています(文献9)が、具体的な照度レベルには研究によって幅があります。

夜勤後半(午前3時〜):徐々に照度を落とし、暖色系の照明に切り替えてメラトニン分泌を促します。

*一般的には、最低体温時刻(多くの人で午前3〜5時頃)の前後が切り替えの目安となります。
*青色光は夜間のメラトニン産生を抑制しますが、赤色光は抑制しません(文献10)


退勤後の遮光戦略(ダークセラピー)

帰宅時:濃い色のサングラス(ブルーライトカット機能付き)を着用し、朝日を遮断(文献11)

*夜勤後に眠い場合、暗いサングラスは眠気を増加させ、居眠り運転のリスクを高める可能性があります。最も安全な方法は、他の誰かに運転してもらえる場合のみ、夜勤後に暗いサングラスを使用することです。外に出る前にサングラスをかけ、暗い部屋に戻るまで着用し続けてください

寝室:遮光等級1級のカーテン、完全遮光のアイマスクで真っ暗に

*医学的には「できるだけ暗い環境(8ルクス以下)」が推奨されています(文献12)。


時間栄養学

時間栄養学(クロノニュートリション)

シフトワークを乗り切るためには、光の管理と共に食事のコントロールも欠かせません。「何を食べるか」だけでなく「いつ食べるか」が代謝に決定的な影響を与えます(文献13)。

夜食は脂肪蓄積と糖・脂質代謝の障害を引き起こします(文献14)。

夜勤時の食事戦略

1️⃣ 夜勤時でも、できるだけ夜勤前の夕方〜夜にメインの食事を摂る(文献15)
2️⃣ 深夜(特に午前0時〜6時)の食事摂取は最小限にする
3️⃣ 深夜に食事をとる場合は、低カロリー・低脂肪・低GI食品を選ぶ
推奨食品:野菜スープ、無糖ヨーグルト、ナッツ、全粒穀物、果物


夜勤明けに推奨される食事は?

夜勤明けは
✅帰宅後すぐ〜1時間以内に
✅軽め〜普通量の「朝食スタイル」の食事(炭水化物+たんぱく質中心)

*揚げ物・こってりラーメン・甘いスイーツ・アルコールはルーティーンから外す。
*カフェインは「夜勤中の前半」で使い切るイメージで、それ以降は控える。


戦略的仮眠の活用

身体の負担を軽減するためにも、上手に仮眠をとることは大切です。

夜勤前:90分程度の予防的仮眠で睡眠の「貯金」を(文献16)

夜勤中(2〜4時):眠気のピークに合わせて20〜30分のパワーナップ(文献17)
⚠️注意:30分超の仮眠は深い睡眠に入り、覚醒後に強い睡眠慣性(ボーッとする状態)が生じるため避ける(文献17)


カフェインの利用法

徹夜のためにコンビニでカフェインドリンクを買って飲んだ経験がある方もいらっしゃるでしょう。カフェインをうまく活用すれば、眠気を抑えることができます。

1 )カフェインナップ

200mgのカフェイン(約350mlのコーヒー1杯、またはエスプレッソ2ショットに相当)を摂取した直後に20分仮眠を取ると、仮眠後1時間を通じて注意力と主観的疲労が有意に改善することが実証されています(文献18)。ただし、就寝予定の8時間以内には行わないでください。

2)少量・頻回摂取

☑️シフト開始時から使用開始
☑️就寝予定の4〜6時間前に停止
☑️「少量を頻繁に」(1〜2時間ごとに50mg程度)
☑️1日上限300〜400mg(文献19)


まとめ:自分の体を守る「戦略」を持ちましょう

シフトワークは、私たちの遺伝子に刻まれた体内時計に逆らう過酷な働き方です。しかし、医療や介護、インフラを支える現場において、夜勤はなくてはならないものです。

だからこそ、精神論で乗り切るのではなく、「時間医学」という科学の力を借りてください。

今回ご紹介した対策は、決して難しいことではありません。ポイントは「光」と「食事」のコントロールです。それにより体内時計をうまく調整することで、生活習慣病や発がんリスク、そして疲労感を軽減できる可能性があります。

冒頭でお話しした看護師のお客様に、当時の私は何も言えませんでした。しかし今の私なら、こうお伝えします。

「患者様を守るのと同じくらい、ご自身の体も大切に守ってください。そのための具体的な方法が、ここにあります」と。

この記事が、昼夜を問わず社会のために働く皆様の、健やかな毎日のヒントになれば幸いです。





シフトワークに負けない肌を作る!

 

【参考文献】

1 Shift work and vascular events: systematic review and meta-analysis
Manav V Vyas, et al.
BMJ
2012 Jul 26:345:e4800

2 Association between night shift work and the risk of type 2 diabetes mellitus: a cohort-based meta-analysis
Fei Xie, et al.
BMC Endocr Disord
2024 Dec 18;24:268

3 Shift Work and Poor Mental Health: A Meta-Analysis of Longitudinal Studies
Luciana Torquati, et al.
Am J Public Health
2019 Nov;109(11):e13-e20

4 International Agency for Research on Cancer. (2020, June 2). IARC Monographs Volume 124: Night Shift Work. https://www.iarc.who.int/news-events/iarc-monographs-volume-124-night-shift-work/

5 Comparison of Sleep and Attention Metrics Among Nurses Working Shifts on a Forward- vs Backward-Rotating Schedule
Marco Di Muzio, et al.
JAMA Netw Open
2021 Oct 1;4(10):e2129906

6 Directive 2003/88/EC concerning certain aspects of the organisation of Working Timehttps://employment-social-affairs.ec.europa.eu/policies-and-activities/rights-work/labour-law/working-conditions/working-time-directive_en

7 Modeling the Impact of the Components of Long Work Hours on Injuries and ''Accidents''
Simon Folkard, David A Lombardi
Am J Ind Med
2006 Nov;49(11):953-63

8 Systematic review of the relationship between quick returns in rotating shift work and health-related outcomes
Øystein Vedaa, et al.
Ergonomics
2016;59(1):1-14

9 Working Time Society consensus statements: Evidence based interventions using light to improve circadian adaptation to working hours
Arne Lowden, et al.
Ind Health
2019 Apr 1;57(2):213-227

10 Lighting Interventions to Reduce Circadian Disruption in Rotating Shift Workers.
Mariana G. Figueiro, David Pedler
NIOSH Science Blog. 2020-12-18.
https://blogs.cdc.gov/niosh-science-blog/2020/12/18/lighting-shift-work/
(参照 2025-12-08)

11 The Effectiveness of Light/Dark Exposure to Treat Insomnia in Female Nurses Undertaking Shift Work during the Evening/Night Shift
Li-Bi Huang, et al.
J Clin Sleep Med
2013 Jul 15;9(7):641-6

12 米国国立労働安全衛生研究所 (NIOSH). "Improve Sleep by Avoiding Light (Module 6)." NIOSH Training for Nurses on Shift Work and Long Work Hours. CDC, 2020年3月31日更新https://www.cdc.gov/niosh/work-hour-training-for-nurses/longhours/mod6/07.html
(参照 2025-12-08)

13 Daytime eating prevents internal circadian misalignment and glucose intolerance in night work
Sarah L Chellappa, et al.
Sci Adv
2021 Dec 3;7(49):eabg9910

14 Association of night eating habits with metabolic syndrome and its components: a longitudinal study
Junko Yoshida, et al.
BMC Public Health
2018 Dec 11;18(1):1366

15 交代制勤務者の食生活に関する留意点
健康日本21アクション支援システム ~健康づくりサポートネット~
厚生労働省
https://kennet.mhlw.go.jp/information/information/food/e-04-004
(参照 2025-12-08)

16 UCLA Health. "Coping with Shift Work Sleep Disorder". Sleep Medicine.https://www.uclahealth.org/medical-services/sleep-medicine/patient-resources/patient-education/coping-with-shift-work
(参照 2025-12-08)

17 Can a quick snooze help with energy and focus?
Restivo, J. (2024, December 4).
The science behind power naps (S. Javaheri, Rev.)
Harvard Health Publishing
https://www.health.harvard.edu/staying-healthy/can-a-quick-snooze-help-with-energy-and-focus-the-science-behind-power-naps
(参照 2025-12-08)

18 The alerting effects of caffeine, bright light and face washing after a short daytime nap
Mitsuo Hayashi, et al.
Clin Neurophysiol
2003 Dec;114(12):2268-78

19 "Sleep and Caffeine." Sleep Education
American Academy of Sleep Medicine.
https://sleepeducation.org/sleep-caffeine/
2018年1月29日更新
(参照 2025-12-08)

 

 LINEバナー300225

 

バナー1

 

バナー2

 

 

制作・執筆:坂田修治(医師:美容外科・美容皮膚科 青い鳥 院長)
(最終更新日:2025年12月9日)

投稿者: 美容外科・美容皮膚科 青い鳥