2025.11.16更新


はじめに

「筋トレでバストの下垂を予防できる」という考えは、美容・フィットネス業界で広く信じられています。

SNSやフィットネス雑誌では、「バストアップエクササイズ」や「美バストを作る筋トレ」といった情報が溢れています。

しかし、この考えは医学的に正しいのでしょうか。

筋トレの効果について最新の医学研究をもとに検証していきます。

筋トレでバストの下垂は防げるか?

直接的エビデンスはない

バストの下垂と筋トレの関係について、医学的なエビデンスは非常に限られています。

いきなり結論から言えば、健康な女性における胸部筋力トレーニングが将来のバスト下垂を予防するかどうかを直接検証した研究は、現時点では存在しません

美容の予防医学において重要な課題でありながら、科学的に未解明の領域となっています。


間接的エビデンスも一つだけ

バストの下垂に対する筋トレの効果を直接測定した唯一の研究は、2016年に発表された減量手術を受けた女性75名を対象とした無作為化試験です(文献1)。

減量手術を受けた女性75名を対象とし
a) 経皮的電気刺激と胸筋トレーニングの併用群
b) 胸筋トレーニングのみの群
c) 何もしない群
の3つにグループに分けて、乳房下垂の改善について検証したところ、経皮的電気刺激と胸筋トレーニングの併用群では乳房下垂は改善しましたが、胸筋トレーニングのみの群では改善は認められませんでした

ただ、この研究は大幅な減量後のバストの下垂に対する治療であり、将来のバスト下垂を予防できるかどうかを検証したものではありません。


なぜ筋トレが役に立たないのか?

バストの形状を維持している主要な構造は筋肉ではありません。バストを支えているのは「クーパー靭帯(Cooper’s ligament)」と呼ばれる繊維組織です。

クーパー靭帯は、乳腺組織を皮膚や胸筋膜につなぎ止める役割を果たしており、バスト全体に網目状に張り巡らされています。この靭帯が伸びたり損傷したりすることで、バストの下垂が起こります。残念ながら、一度伸びたクーパー靭帯は元に戻ることはありません。

大胸筋はバストの土台となる位置にありますが、バスト自体(乳腺組織と脂肪)とは直接的な構造的つながりはありません。つまり、筋肉を鍛えても、バストを持ち上げる効果は期待できないのです。

米国の形成外科医は、乳房の下垂をテーマにした論文の中で、筋トレがバストの下垂予防に役立たない理由を的確に説明しています。

「バストは皮膚とは強く結合していますが、筋肉(胸壁)とはゆるくつながっているだけです。筋トレをしても、バストは筋肉とともに上がる以上に、皮膚とともに落ちていくものなのです(文献2)」


まとめ:筋トレの現実的な位置づけ

バストの下垂予防における筋トレの効果について、医学的には「見た目の補正には役立つが、構造的な下垂の予防・改善を裏付ける証拠はない」という位置づけが適切です。

筋トレによって期待できる効果
✅胸部全体のボリュームアップによる見た目の改善
✅姿勢の改善によるバストラインの印象向上
✅上半身の筋力向上による全体的な体型改善

筋トレでは期待できない効果
✅クーパー靭帯の強化
✅構造的な下垂の予防
✅すでに下垂したバストの根本的な改善


バストの下垂を予防したい場合は、適切なブラジャーの着用、急激な体重変動の回避、禁煙などの生活習慣の改善が重要です。

筋トレは健康維持やボディメイクには有効ですが、バストの下垂予防に関しては過度な期待を持たず、現実的な効果を理解した上で取り組みましょう。


【あとがき】

このブログ記事は、2022年に書いたものをリライトしたものです。2022年と現在2025年で何が変わったかといえば、ズバリ「生成AI」。

今回の記事で、生成AIのなかった2022年には書けなかったことは「直接的エビデンスはない」、「現時点では存在しません。」の部分。


「ないものをない」という「非存在」の証明は極めて難しい。なぜならすべての文献を調べなければ言い切れないからで、そんなことは人間業ではありません。

それが言い切れるようになったのは、生成AIを使った文献検索ツールのおかげです。複数のツール(今回はElicit、Consensus、Connected Papersを使いました)で「非存在」ということになれば、そう言い切ってもいいだろうと判断しています。


【参考文献】

1. Ruiz-Tovar J, Llavero C. Effect of Pectoral Electrostimulation on Reduction of Mammary Ptosis After Bariatric Surgery. Surg Laparosc Endosc Percutan Tech. 2016 Dec;26(6):459-464.​​​​​​​​

2. Breast ptosis: causes and cure
Rinker B,et al.
Ann Plast Surg.
2010;64(5):579-584

 

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制作・執筆:坂田修治(医師:美容外科・美容皮膚科 青い鳥 院長)
(最終更新日:2025年11月16日)

投稿者: 美容外科・美容皮膚科 青い鳥