2021.11.09更新

先日Twitterでつぶやいたツイート

洗いすぎると,かえって皮脂が増えるはホント?
(答)ウソ

Twitterなので字数制限もあり、あっさり書きましたが、ここはオイリースキンやニキビでお悩みの方にとって、スキンケアを考える上で重要なポイント。

ツイートの問いは、もう少し医学的な表現にすると
「皮脂分泌は、皮膚表面の皮脂の多寡(多い少ない)によるフィードバック調節を受けるのか?」ですし、突き詰めれば、「何が皮脂分泌をコントロールしているのか?」となります。

最初にタネあかしをしておくと、「皮脂分泌は、皮膚表面がサラサラだろうとギトギトだろうと影響を受けない」、「皮脂分泌は内分泌(ホルモン)、とくに男性ホルモンによって調節される」が正解。

さて、だとしても日常的にオイリースキンと闘っている方は、洗えば洗うほど皮脂がしみ出てくるという実感をお持ちでしょう。実はこの「実感」は、医学上の皮脂の研究の過程でも大きな問題になりました。

ちょっと時代をさかのぼりますが、およそ第二次世界大戦の頃まで、皮膚表面の皮脂は拭き取られると、皮脂の分泌が亢進し、表面の皮脂量が飽和すると皮脂の産生がストップすると考えられていました。

戦後になり、皮脂は表面の皮脂の量とは関係なく、ずっと産生が続いている、皮脂は皮膚表面をどこまでも広がるので、休止状態になっているように見えるだけという学説(ポジティブ・フィードバック説)が有力になります。

そして、そのとき立ちはだかったのが、「同じエリアから同じ時間内に皮脂を採取するとき、1回で採取するより、数回に分けた方が皮脂の採取量は多くなる」という多くの実験報告でした。

 

皮脂表1
(参考文献1から抜粋)


これが実際の実験データ。
3時間での皮脂の採取実験。左の1.5が1回で採取した量、右の2.2が30分毎に採取したときの合計量。もし、この結果を素直に受け入れるなら、やっぱり「顔を洗えば洗うほど皮脂は出てくる」説が正しいことになります。

 

皮脂表2
(参考文献1から抜粋)


ここでもうひとつ同じグループの別の実験データを示します。
4時間での皮脂の採取実験。左の2.8が1回で採取した量、右の2.7が30分毎に採取したときの合計量。3時間と4時間という違いはあれ、今度の結果からは「顔を洗おうが、洗うまいが、皮脂の産生量は同じ」説が正しく見えます。


なぜこうも違う結果になったのか・・
実はこのとき2つの実験には皮脂の採取方法に違いがあったのです。

 

皮脂図1
(参考文献1から抜粋)

その前に、謎解きに重要な「皮脂」の貯蔵について説明します。

皮脂はただ作られ、そのまま皮膚表面に出てくるという単純な話ではありません。美容で問題になる顔のTゾーンでは、作られた皮脂は、巨大な貯蔵庫である皮脂腺の導管(イラストの皮膚につながる管状構造)に蓄えられます。さらにもうひとつ貯蔵庫の役割を果たすのが、皮膚表面の角質。角質は「水を含んだスポンジ」のように皮脂をヒタヒタと蓄えています。角質の皮脂はなくなると、毛細管現象で貯蔵庫(皮脂腺導管)から吸い上げられ、つねに補充されます。

これで説明の準備ができました。

よく似た実験で結果が異なったのは、実験手技のわずかな違いでした。最初のときは皮脂を採取するさい、吸収紙にしっかり吸収されるよう圧をかけていたのです。このやり方だと皮脂採取のたびに角質にしみ込んだ皮脂までカウントされます。吸収された皮脂の分はしばらくすると貯蔵庫(皮脂腺導管)から補充されるので、限度内では採取回数を多くした方が総採取量は増えるというワケ。


しかし、後の実験では、圧をかけずにただ皮膚表面に吸収紙を置いて吸収させただけだったのです。皮膚表面にしみ出てくる皮脂だけを採取したのです。その場合は採取回数に関係なく総採取量は同じでした。このことから皮脂腺からはコンスタントに皮脂が分泌され続けていることもわかります。



今回のツイートでちょっと反省しているのは、ツイートで話題にするには複雑すぎたし、答えはどちらでも正解と言えること。

確かに洗顔で皮脂を洗い流しても、皮脂腺での産生量としての皮脂は増えません。ただ実際にはあらかじめ作られた皮脂が多量に蓄えられていて、洗顔のたびにそれが補充されるので、日常生活の範囲(貯蔵が尽きない範囲)においては、洗うほどにオイリーが余計にひどくなることはなくても、皮膚表面に出てくるトータルの量としての皮脂は増えると言えます。


(結論)
1 皮脂腺からコンスタントに皮脂は分泌され、皮膚表面の皮脂の量によるフィードバック調節は受けていない。
2 皮脂は、顔のいわゆるTゾーンでは分泌量に比べはるかに大きい貯蔵庫である皮脂腺導管に蓄えられている。
3 皮膚表面の角質も皮脂の貯蔵の役割を果たしている。

 

(参考文献)
1 An investigation of the human sebaceous gland
Kligman AM, Shelly WB
J Invest Dermatol
1958;30:99-125

2 Oily skin: an overview
Sakuma TH, Maibach HI
Skin Pharmacol Physiol
2012;25(5):227-235

 

 

 LINEバナー300225

 

 twitterへ

 

自由が丘ブログバナー  

 

投稿者: 美容外科・美容皮膚科 青い鳥