紫外線対策への意識が世界的に高まる中、日焼け止めは現代のスキンケアに欠かせないアイテムとなりました。世界の日焼け止め市場は2017年の15.5億ドルから、2029年には53.4億ドルに達すると予測されており(文献1)、驚異的な成長を続けています。
しかし、この市場拡大とともに「SPFは高ければ高いほど良いのか?」という疑問も浮上しています。
SPF100の日焼け止めは本当に必要なのでしょうか?そして、高SPF製品による肌荒れのリスクはどの程度なのでしょうか?
本記事では、SPFの最高値に関する国際的な規制状況と、日焼け止めによる肌荒れの関係について、最新の皮膚科学的エビデンスに基づいて詳しく解説します。
SPF最高値の国際規制:日本はなぜ50+なのか
日本における「SPF戦争」の歴史
かつて日本では「SPF戦争」と呼ばれる時代がありました。各メーカーが競ってSPF値を高め、ついにはSPF100を超える日焼け止めまで登場したのです。しかし、この競争には大きな落とし穴がありました。
高SPF製品の使用者から肌荒れの報告が相次いだことを受け、1999年に日本化粧品工業連合会(粧工連)は自主規制を導入。SPFの最大値を50+と定め、2025年現在もこの基準が継続されています。この決定は、効果と安全性のバランスを重視した結果でした。
世界各国のSPF規制状況
興味深いことに、SPFの最大値に関する規制は国によって大きく異なります。
アメリカでは現在もSPF値に上限規制がありません。市場にはSPF100の日焼け止めも流通していますが、FDA(米国食品医薬品局)は将来的にSPF60+を上限とする新規制を提案しています。
一方、EUでは公式な上限値は設定されていないものの、SPFが50を超える製品はSPF 50+と表示しなければならないという表示規制があるため、実質的にSPF50+が最大値として機能しています。
SPF100は本当に必要?科学的エビデンスから見る効果
SPF50とSPF100の実際の差
理論的には、SPF50の日焼け止めは紫外線の98%をカットし、SPF100は99%をカットします。わずか1%の差に思えますが、2018年の米国皮膚科学会誌に掲載された研究では興味深い結果が示されました(文献2)。
199名を対象とした比較試験において、SPF100+製品はSPF50+製品より有意に高い日焼け防止効果を示したのです。これは、実際の使用条件下では理論値以上の差が生じることを示唆しています。
なぜ理論と実際に差が生じるのか
多くの人は推奨量(2mg/cm²)よりも少ない量の日焼け止めしか塗りません。塗布量が不足すると、実際のSPF値は表示値を大きく下回ります。このため、高SPF製品を使用することで、塗布量不足による防御力低下をある程度カバーできる可能性があります。
高SPF日焼け止めと肌荒れの関係
SPF値と成分濃度の相関
SPFが上昇するにつれて、紫外線フィルターの成分濃度も必然的に増加します。一つのフィルター成分には配合上限があるため、SPFの高い日焼け止めでは複数のフィルターを組み合わせる必要があります。
その結果、高SPF製品は
●よりオイリーな使用感になりやすい
●複数の化学フィルターによる刺激リスクが上昇
●アレルギー反応や接触性皮膚炎の可能性が高まる
ことになります。
特に注意すべき成分
最も刺激性が報告される成分として、以下の3つが挙げられます:
⚫️アボベンゾン(高SPF製品の79%に含有)
⚫️オクトクリレン(77%)
⚫️オキシベンゾン(69%)
これらの成分は高SPF製品ほど高濃度で配合される傾向があり、肌荒れのリスクを高める可能性があります。
消費者の選択:規制がなくても選ばれるSPF値
アメリカ市場から見える消費者心理
規制のないアメリカ市場のデータは非常に興味深い示唆を与えてくれます。2024年の調査(文献1)によると、アメリカの消費者のSPF選択は:
●SPF50:25%
●SPF30:23%
●SPF15:6%
●SPF100:3%
注目すべきは、規制がないにも関わらず、SPF100の日焼け止めを選ぶ人はわずか3%という点です。消費者は本能的に「効果と安全性のバランス」を求めていることがわかります。
日本市場の特徴
日本では、SPF50+/PA++++製品がプレミアムセグメントを形成しています。日本のサンケア製品市場規模は2024年に約1,242億円、2033年には約2,044億円に達すると予測されており(文献3)、特に「軽い使用感」と「化粧下地との相性」を重視した製品開発が進んでいます。
美容クリニックからの推奨:最適なSPF選び
医学的コンセンサスに基づく選択
米国皮膚科学会(AAD)をはじめとする主要な皮膚科学会は、SPF30以上の広域スペクトラム日焼け止めを推奨しています。SPF30-50の範囲が「防御効果と刺激リスクのバランスが最適」という医学的コンセンサスが形成されています。
シーン別・肌質別の選び方
日常使い
⚪️SPF30、PA+++以上
⚪️軽い使用感の製品
⚪️毎日継続できる快適さを重視
屋外活動・レジャー
⚪️SPF50+、PA++++
⚪️耐水性のある製品
⚪️2-3時間ごとの塗り直しが重要
敏感肌・肌荒れが心配な方
⚪️酸化亜鉛・酸化チタン配合のノンケミカル製剤
⚪️SPF30程度でも十分な効果
⚪️パッチテストを行ってから使用
最後に:SPFの最高値より大切なこと
日焼け止めのSPF最大値は、各国の規制や市場の自主規制により異なりますが、重要なのは「高ければ良い」という単純な話ではありません。
SPF100の日焼け止めには確かに高い防御効果がありますが、同時に肌荒れのリスクも上昇します。日本でSPFの最高値が50+に規制されているのは、この効果とリスクのバランスを考慮した結果なのです。
最も大切なのは:
◉適切なSPF値(30-50)の製品を選ぶ
◉十分な量を塗布する(顔全体で小さじ1/2程度)
◉外にいる間は2-3時間ごとに塗り直す
◉自分の肌質に合った製品を選ぶ
これらの基本を守ることで、肌荒れのリスクを最小限に抑えながら、効果的な紫外線対策が可能になります。日焼け止めは毎日使うものだからこそ、「続けられる」製品選びが何より重要なのです。
【参考文献】
1) Market.us "Sunscreen Industry Statistics and Facts (2025)"
https://media.market.us/sunscreen-industry-statistics/
2) SPF 100+ sunscreen is more protective against sunburn than SPF 50+ in actual use: Results of a randomized, double-blind, split-face, natural sunlight exposure clinical trial. Williams JD, et al.
J Am Acad Dermatol
2018;78(5):902-910
3) IMARC Group "Japan Sun Care Products Market Price Trends, Report 2033" https://www.imarcgroup.com/japan-sun-care-products-market
制作・執筆:坂田修治(医師:美容外科・美容皮膚科 青い鳥 院長)
(最終更新日:2025年7月20日)