2025.10.09更新

はじめに

お母様やお父様の肌を見て、「少しぶつけただけで皮膚が裂けてしまった」、「紫色のあざができやすくなった」と心配になったことはありませんか?

これらは「皮膚粗鬆症(ひふそしょうしょう)」と呼ばれる、高齢者特有の皮膚脆弱化(皮膚脆弱)現象かもしれません。骨粗鬆症が骨をもろくするように、皮膚粗鬆症は皮膚を構造的に弱くし、わずかな外力でも深刻な損傷を起こすことがあります。

しかし、皮膚脆弱の対策や皮膚萎縮のスキンケアを正しく行うことで、このようなもろくなった皮膚を守り、高齢者の生活の質(QOL)を改善できます。

本記事では、医学的根拠に基づいた皮膚保護とスキンケアの実践法を、家庭でも実践できるようわかりやすく解説します。

高齢者の肌の守り方


なぜ高齢者の肌は“もろく”なるのか

加齢に伴い、真皮のコラーゲンや弾性線維が減少し、軽い摩擦やずれでも皮膚裂傷(スキンテア)や紫斑が生じやすくなります。

また、長期のステロイド外用や紫外線曝露も皮膚萎縮や皮膚脆弱化を促進します。こうした慢性的な皮膚の構造的脆弱性は、“dermatoporosis(皮膚粗鬆症)”として提唱されています(文献1)。

日本でも「スキンフレイル」という概念が導入され、乾燥や弾力低下を中心とした皮膚の予備力低下を全身フレイルと関連づけ、早期の皮膚脆弱対策と皮膚保護の重要性が強調されています(文献2)。


家庭で守る「5つの柱」

1)皮膚を“乾かさない・こすらない”(毎日のスキンケア)

皮膚脆弱スキンケアの基本は、「乾かさない」「こすらない」ことです。

洗浄(入浴)

✅ぬるめ(38~39℃)・短時間で行いましょう。
✅高温浴(40℃以上)は高齢者の失神・溺死リスクが指摘されています(文献3)。
✅石けん成分を含まない低刺激性洗浄料を使い、泡で包むようにやさしく洗います。

高齢者の皮膚はアルカリ性に傾きやすく、固形石鹸などの使用はバリア機能の低下を招きます。弱酸性環境を保つことが皮膚保護につながります。

保湿

日本皮膚科学会の報告によると、高齢者の70%以上に乾燥がみられ、これが皮膚脆弱化の主因とされています(文献4)。

✅入浴後すぐに全身へ保湿剤を塗布し、保湿剤は1日2回を目安に継続しましょう。
毎日の保湿ケアによりスキンテア(皮膚が裂けたり、めくれたりすること)の発生率が約50%減少したという報告もあります(文献5)。

✅保湿剤選びのポイント

有効成分主な製品例作用機序最適な使用状況注意点
ヘパリン類似物質 ヒルドイド 水分を角層に結合・保持 全身の乾燥 出血傾向のある方は慎重に
尿素 ケラチナミン、ウレパール 角質軟化作用 手足、かかとなど角質の厚い部位 傷や炎症部位では刺激感あり
ワセリン プロペト、白色ワセリン 皮膚表面に膜形成 重度の乾燥、敏感部位の保護 べたつきが強い

*保湿剤はこの3種類だけではなくたくさんあり、どれを選ぶかよりも、「塗る量」、「塗る頻度」が重要です。


✅「ティッシュペーパー法」で適量を確認すると、過不足のない塗布量が分かります。

1️⃣保湿剤をぬる
手や足など、かさついているところに、保湿剤をぬります。

2️⃣ティッシュをあてる
 ぬった場所に、ティッシュペーパーを軽くのせます。そっとあててください。

3️⃣ティッシュの様子を見る
すぐに落ちる → ぬる量が少ない
べったりくっつく → ぬる量が多すぎる
少しだけついて残る → ちょうどよい


2)摩擦・ずれ・打撲を減らす(皮膚が裂けたり、めくれたりしないために)

✅皮膚脆弱対策では、皮膚に力を加えない工夫が重要です。
✅衣服は長袖・長ズボン・膝下靴下を基本に、前腕・下腿はチューブ包帯などで保護。家具の角や手すりには緩衝材を装着しましょう。
✅移乗の際は「引きずらずに持ち上げる」ことが鉄則。介助者は指輪・長い爪を避けることも皮膚保護につながります。

これらはISTAP(国際スキンテア諮問委員会)の最新ガイドライン(2018)に基づいています(文献6)。


3)接着剤(テープ・ドレッシング)による皮膚損傷を回避

高齢者の皮膚萎縮対策として、医療用テープ選びは極めて重要です。

✅低外傷性シリコーン系テープを優先(文献7)
✅必要最小限の範囲に貼付し、剥がす際は「低い角度でゆっくり(low & slow)」を徹底
✅リムーバー・バリア膜の併用も有効です。皮膚表面を保護し、剥離時の外傷を軽減します。


4)生活習慣:栄養・水分・日光対策・“低温やけど”防止

✅皮膚の構造を守るには、体の内側からの皮膚脆弱対策も欠かせません。
✅たんぱく質摂取:高齢者は1.0–1.2g/kg/日(文献8)を目安に。
✅水分補給:脱水は皮膚の乾燥と脆弱化を進めます。
✅日光対策:SPF30以上・PA+++以上を使用し、外出中は2時間ごとに再塗布。帽子・衣服・日陰も活用。
✅低温やけど防止:湯たんぽ・カイロの長時間接触を避けましょう(文献9)。


5)服薬・併存症に配慮

✅ステロイド外用・全身投与は皮膚萎縮を助長します。使用部位や期間を最小限に(文献10)。
✅抗凝固薬内服者では紫斑・皮下出血のリスクが上がるため、環境整備による打撲防止が重要です。


まとめ

高齢者の皮膚は、加齢や紫外線、薬剤、慢性的な乾燥などによって構造的に弱くなり、皮膚脆弱・皮膚萎縮・皮膚粗鬆症といった状態を招きます。

しかし、日々の皮膚保護と生活習慣の見直しで、皮膚を守り、再びしなやかさを取り戻すことが可能です。

皮膚脆弱対策のポイントは以下の5つです。

1️⃣皮膚を乾かさず、こすらない
─ 弱酸性洗浄料と1日2回の保湿で皮膚バリアを守る。

2️⃣摩擦やずれを防ぐ
─ 服装・環境整備・介助方法を工夫してスキンテアを予防。

3️⃣テープ・ドレッシングによる損傷を防ぐ
─ シリコーン系製品・リムーバーを上手に活用。

4️⃣栄養・水分・日光・温熱の管理
─ 内側からの皮膚強化と、外的刺激からの保護を両立。

5️⃣薬剤・疾患への配慮
─ ステロイドや抗凝固薬による皮膚萎縮リスクを意識し、医師と連携。

高齢者の皮膚は、「老化だから仕方ない」と思われがちですが、適切なスキンケアと保護で再び強く、美しく保つことができます。ご家庭でのケアが、転倒やスキンテアなどの重大な事故を防ぎ、生活の質を支える第一歩です。


 

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【参考文献】

1) Dermatoporosis: a chronic cutaneous insufficiency/fragility syndrome. Clinicopathological features, mechanisms, prevention and potential treatments
Kaya G, Saurat JH
Dermatology
2007;215(4):284-94

2) 地域高齢者に対するスキンフレイルスクリーニングツールの開発と妥当性の評価
飯坂真司, et al.
日本創傷・オストミー・失禁管理学会誌
2018;22(3): 287-296.

3)Effects of Hot Bath Immersion on Autonomic Activity and Hemodynamics Comparison of the Elderly Patient and the Healthy Young
Y Nagasawa, et al.
Jpn Circ J
2001 Jul;65(7):587-592

4) 高齢者における皮脂欠乏性湿疹診療の手引き 2021
日本皮膚科学会
https://www.dermatol.or.jp/dermatol/wp-content/uploads/xoops/files/guideline/131_2255.pdf

5) The effectiveness of a twice-daily skin-moisturising regimen for reducing the incidence of skin tears
Keryln Carville, et al.
Int Wound J
2014 Aug;11(4):446-53

6) Best Practice Recommendations for Prevention and Management of Skin Tears in Aged Skin: An Overview
Kimberly LeBlanc, et al.
J Wound Ostomy Continence Nurs
2018 Nov/Dec;45(6):540-542

7) Overlooked and underestimated: medical adhesive-related skin injuries
Sian Fumarola, et al.
J Wound Care
2020 Mar 1;29(Sup3c):S1-S24

8) ESPEN practical guideline: Clinical nutrition and hydration in geriatrics
Dorothee Volkert, et al.
Clin Nutr
2022 Apr;41(4):958-989

9) 「低温やけど」の事故防止について(注意喚起)
独立行政法人製品評価技術基盤機構
https://www.nite.go.jp/data/000005074.pdf

10) Glucocorticoid-Induced Skin Atrophy: The Old and the New
Elena Niculet, et al.
Clin Cosmet Investig Dermatol
2020 Dec 30:13:1041-1050

 

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制作・執筆:坂田修治(医師:美容外科・美容皮膚科 青い鳥 院長)
(最終更新日:2025年10月10日)

投稿者: 美容外科・美容皮膚科 青い鳥

2025.10.02更新

 

CBD


はじめに

美容業界でも大麻の成分のうち向精神作用のないカンナビジオール(CBD)を含むコスメが次々に登場しています。しかも、カンナビジオール(CBD)には

✅抗炎症作用
✅抗酸化作用
✅皮脂分泌抑制(抗ニキビ)作用
✅保湿作用
✅創傷治癒促進作用
✅アンチエイジング作用

が期待されている(文献1)というのですから、とてつもないスケールです。それがほんとうならカンナビジオール(CBD)コスメだけでスキンケアは全てまかなえそうです。


なぜCBDにこれほど期待が寄せられるのか

なぜこんなにもカンナビジオール(CBD)に期待が寄せられるかと言えば、カンナビジオール(CBD)が、内因性カンナビノイド受容体と結合できるから。

内因性カンナビノイド受容体は、おもに中枢神経系、免疫系で働きますが、皮膚でも健康な肌を支えている(文献2)ことから、CBDコスメにもきっと様々な美肌効果があるはずという甘い(?)期待が膨らんでしまうのです。


「内因性カンナビノイド受容体」とは何か

「内因性カンナビノイド受容体」が期待の根源にあるのですが、なぜ身体の中に大麻成分に対応する受容体があるのでしょうか?

別に人の身体は大麻のためにはじめから受容体を用意していたわけではありません。ただ身体の中に入った大麻の作用機序を調べる中で、大麻成分と結合する未知の受容体が発見され、「内因性カンナビノイド受容体」と命名されたのでした(文献3)。


受容体の作用とリガンドの関係

「内因性カンナビノイド受容体」が作動すると皮膚においては

✅抗炎症作用
✅抗酸化作用
✅皮脂分泌抑制(抗ニキビ)作用
✅保湿作用
✅創傷治癒促進作用
✅アンチエイジング作用

などの多彩な作用を発揮する可能性がある(文献1)のですが、リガンド(受容体に結合できる物質)はスイッチのようなもので、受容体をオンにすることもあればオフにすることもあるのです。


実際の臨床試験で確認された効果は?

なので外用薬としてのカンナビジオール(CBD)がどのような効果を持つかは、期待論だけを膨らませても無意味で、実際に臨床試験で確認するしかありません。

質の高い臨床試験(ランダム化比較試験など)が行われていることを条件にすると、効果が実証されたのは

◎乾燥性湿疹(文献2)
◎乾癬(文献4)

にとどまります。

これ以外では、ニキビに関してはランダム化二重盲検比較試験である第II相臨床試験が進行中とされ、途中経過で有望と報告されています(文献5)が、続報は途絶えています。

期待された慢性的な皮膚のかゆみについては、100名の患者を対象としたランダム化比較試験で、その効果が否定されてしまいました(文献6)。


まとめ

◉現状では、華々しい効果の期待は萎みつつあり、せいぜい保湿剤にしかならないと結論づけられます。

◉少なくともCBDコスメが声高に宣伝するような皮膚の恒常性の維持に関わっているかのような物言いは、故意か過失かはともかく完全に言い過ぎです。

◉CBDコスメは、「内因性カンナビノイド受容体」とそれが作動したときの「内因性カンナビノイドシステム」という身に余る命名を最大限に利用(悪用?)したに過ぎないというのが、現状での私の結論です。

 

 

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 *2025年10月1日調べ


【参考文献】

1) Therapeutic Potential of Cannabidiol (CBD) for Skin Health and Disorders
Sudhir M Baswan, et al.
Clin Cosmet Investig Dermatol
2020 Dec 8:13:927-942

2) Cannabinoid Signaling in the Skin: Therapeutic Potential of the "C(ut)annabinoid" System
Kinga Fanni Tóth, et al.
Molecules
2019 Mar 6;24(5):918

3) カンナビノイド受容体の内因性リガンドの発見
木村 敏行
ファルマシア
1993;29(11):1293

4) Cannabinoids and Their Receptors in Skin Diseases
Eun Hee Yoo, Ji Hyun Lee
Int J Mol Sci
2023 Nov 20;24(22):16523

5) Cannabinoids: Therapeutic Use in Clinical Practice
Cristina Pagano et al.
Int J Mol Sci
2022 Mar 19;23(6):3344

6) Cannabinoids for the treatment of chronic pruritus: A review
Christina Avila, et al.
J Am Acad Dermatol
2020 May;82(5):1205-1212

 

 

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制作・執筆:坂田修治(医師:美容外科・美容皮膚科 青い鳥 院長)
(最終更新日:2025年10月2日)

投稿者: 美容外科・美容皮膚科 青い鳥