ハリ・小ジワ・肌痩せ

若々しい素肌の源泉。肌の「ハリ」とは?


⚪️ふとした瞬間に鏡を見て、「なんだか肌に元気がない…」、「目尻や口元の小ジワが目立ってきた気がする」、「指で押したときの、跳ね返すような弾力がなくなった」、「頬全体がふっくら感を失って肌痩せしてしまった」と以前との違いに気づく・・


⚪️多くの方が抱えるこれらのお悩みは、肌の「ハリ」が失われ始めているサインかもしれません。

⚪️そもそも、私たちが「ハリがある」と感じる肌とは、一体どのような状態なのでしょうか。


⚪️医学の世界では、肌の「ハリ」は「粘弾性(ねんだんせい)」という言葉で説明されます。

⚪️これは、肌に加わった力に対して「元に戻ろうとする弾力(弾性)」と、「形を保とうとする張り(粘性)」を合わせた性質のことです。小ジワや肌痩せは、まさにこの粘弾性が低下することで現れる典型的な症状といえるでしょう。

⚪️例えば、みずみずしい赤ちゃんの肌を指でそっと押すと、ぷるんと押し返し、すぐに元の状態に戻ります。このしなやかな力が、まさに「粘弾性」であり、ハリの正体なのです。

 

ハリの本質 細胞外マトリックス(ECM)


肌のハリの本質は、「細胞外マトリックス(Extracellular Matrix, ECM)」と呼ばれる緻密なネットワーク構造です。


主に以下の要素によって構成されています。

⚪️コラーゲン(構造を支える鉄骨): 強靭な線維で、鉄骨のように肌全体の構造を支え、強度と安定性を与えます。

⚪️ エラスチン(弾力性を生むバネ): コラーゲン線維を束ねる伸縮性に富んだ線維です。表情の変化などに合わせてしなやかに伸び縮みし、元の形に戻るためのバネの役割を果たします。

⚪️ヒアルロン酸(空間を満たす保水クッション): コラーゲンやエラスチンの隙間を埋めるゼリー状の物質。驚異的な保水力で組織の水分量を維持し、内側から肌をふっくらと持ち上げるクッションとして機能します。

⚪️線維芽細胞(ECMを作り維持する): コラーゲン、エラスチン、ヒアルロン酸といったECMの構成成分をすべて作り出します。古くなったECMを分解し、新しいものを作り出す新陳代謝をコントロールします。

⚪️皮膚幹細胞(線維芽細胞を生み出す): ECMを作る線維芽細胞を生み出しているのは、皮膚幹細胞です。この細胞こそが、肌が自ら生まれ変わり、長期的に健やかな状態を保つための鍵を握っています。

これらすべての要素が完璧なバランスで連携し、機能することで、私たちは「ハリのある肌」を実感できるのです。




こうして「ハリ」は失われる


年齢とともにハリが失われるとは、この緻密で精巧な細胞外マトリックスの構造が、内外からの様々な要因によって崩壊していく現象に他なりません。その原因は、大きく2つに分けられます。



1. 内側からの変化(内因性老化)
加齢による避けられない変化で、ECMの「生産能力の低下」と言い換えることができます。

細胞機能の衰え: 年齢を重ねると、ECMを作り出す「線維芽細胞」や、その源となる「皮膚幹細胞」の働きが鈍くなります。新しいECMの生産量が減少し、古くなったECMの分解と再生のサイクルも滞るため、徐々に構造が弱体化していきます。

ホルモンバランスの変化: 特に女性の場合、閉経期に女性ホルモン(エストロゲン)が急減します。エストロゲンはコラーゲンの産生を促進する働きがあるため、その減少はECMの主成分であるコラーゲンの質の低下と量の減少に直結し、ハリの急激な喪失につながります。


2. 外側からのダメージ(外因性老化)
生活習慣や環境要因が、ECM構造を直接的に「破壊・変質」させてしまうプロセスです。

紫外線(光老化): ECMにとって最大の敵です。紫外線は、コラーゲン線維を直接切断・分解してしまう酵素(MMP)の産生を促します。これは、建築物の鉄骨を無理やり破壊するような行為であり、ハリの喪失を劇的に加速させます。

 糖化: 過剰な糖がECMの主成分であるコラーゲンなどのタンパク質と結びつき、「糖化最終産物(AGEs)」を生成します。AGEsが蓄積すると、コラーゲンやエラスチンは本来のしなやかさを失い、硬くもろいものに変質してしまいます。これは、鉄骨やバネがサビついて劣化するようなものです。

◉ 酸化ストレス(喫煙・大気汚染など): 喫煙や大気汚染物質は、体内に活性酸素を発生させ「酸化ストレス」を引き起こします。この酸化ストレスは、ECMの構成成分だけでなく、線維芽細胞や皮膚幹細胞そのものにもダメージを与え、ECMの生産から維持、再生に至るすべてのプロセスを妨害します。

このように、私たちの肌のハリは、細胞外マトリックスという精巧なシステムによって支えられています。その構造がなぜ損なわれるのかを深く理解することは、失われたハリを取り戻し、未来の肌を守るための、最も確かな一歩となるのです。

 




肌の「ハリ」をとり戻す治療


◉ 1. ジャルプロ・スーパーハイドロ

◎推奨理由: ジャルプロ・スーパーハイドロは、低分子および高分子のヒアルロン酸、強化された7種のアミノ酸、そして3種の生体模倣ペプチドを独自にブレンドした製剤です。靭帯(皮膚支帯)や脂肪パッドなどの支持組織をターゲットとしてその再生を促するとともに、肌の土台である細胞外マトリックス(ECM)をリモデリング(再構築)します。

◎期待される効果:
• 肌全体のハリ・弾力性の向上
• 小ジワやたるみの改善、リフトアップ効果
• 水分補給と肌質の改善

◎特徴: ジャルプロ・スーパーハイドロは、ECM治療製剤の中でも最も先進的な処方の一つです。内側からハリが蘇ることで、たるみや構造的な老化にアプローチし、自然で引き締まった若々しい印象へと導きます。


◉ 2. 炭酸ガスフラクショナルレーザー

◎推奨理由: レーザーで皮膚に微細な穴を開け、意図的に傷を作ることで、肌本来が持つ創傷治癒能力を引き出します。この過程で、真皮層の線維芽細胞が活性化され、肌のハリを支える細胞外マトリックス(コラーゲンやエラスチン)の産生が強力に促進されます。肌が内側から再構築され、ハリと弾力が回復します。

◎期待される効果:
•小ジワ、ちりめんジワの改善
•肌のハリ、弾力アップ
•毛穴の引き締め
•ニキビ跡の改善

◎特徴: ダウンタイムは赤みが数日、ザラつきが1週間程度続きます。治療は1〜2ヶ月ごとの間隔を推奨します。特に目元のたるみやシワに特化した「マドンナリフト」としても知られる施術です。


◉ 3. プラズマ

◎推奨理由: プラズマエネルギーを皮膚の深層部にまで届けることで、熱エネルギーによる刺激を与えます。この熱作用が線維芽細胞を刺激し、細胞外マトリックスの主成分であるコラーゲンとエラスチンの新生を促します。肌の構造が再構築されることで、内側から湧き上がるようなハリ感が生まれます。

◎期待される効果:
•肌全体のハリ、弾力性の向上
•小ジワの改善
•肌質改善、トーンアップ
•ニキビの改善

◎特徴: 表皮へのダメージを最小限に抑えつつ、真皮層にアプローチできるため、ダウンタイムが短いのが利点です。治療間隔は1ヶ月ごとが目安です。


◉ 4. リジュラン(スキンブースター)

◎推奨理由: サーモン由来のポリヌクレオチド(PN)を有効成分とし、皮膚に直接注入します。このポリヌクレオチドが線維芽細胞を直接活性化させ、細胞外マトリックス(コラーゲン、エラスチン)の産生を促進します。肌細胞の成長をサポートし、ダメージを受けた皮膚を修復することで、根本的な肌質の改善を目指します。

◎期待される効果:
•目元や口元の小ジワ改善
•肌のハリと弾力の回復
•肌の保水力向上、乾燥改善
•皮脂バランスの正常化

◎特徴: 自身の肌細胞を活性化させるため、効果の持続性が高く、自然な仕上がりが期待できます。2〜3週間おきに3〜4回の治療が推奨されます。


◉ 5. エクソソーム療法

◎推奨理由: 細胞間の情報伝達物質であるエクソソームを肌に導入する治療法です。エクソソームには細胞の修復や再生を促す多くの成長因子などが含まれており、老化した線維芽細胞を活性化させます。これにより、新しい細胞外マトリックス(コラーゲンやエラスチン)の産生が強力にサポートされ、肌の若返りを根本から促します。

◎期待される効果:
•総合的なエイジングケア(シワ、ハリ、弾力)
•肌の再生能力の向上
•肌荒れ、アトピー性皮膚炎の改善
•くすみの改善、透明感アップ

◎特徴: 細胞レベルでの若返りを図る次世代の再生医療です。他の施術との組み合わせで、相乗効果も期待できます。


◉ 6. ペプチド・スキンブースター

◎推奨理由: ペプチドは、私たちの体内に存在するアミノ酸が結合した成分で、細胞の働きをサポートする重要な役割を担っています。このペプチドを肌に補うことで、肌のハリや弾力を支える細胞外マトリックスの再生を促します。

◎期待される効果:
ペプチドは、皮膚の真皮層にある線維芽細胞に働きかけ、コラーゲンやエラスチンの産生を促す信号を送ります。細胞外マトリックスの主成分であるこれらの物質が増えることで、肌の密度が高まり、内側から押し上げるようなハリと弾力の回復が期待できます。これにより、小ジワの軽減や肌質の改善に繋がります。

◎特徴:

ペプチドは分子量が小さいため、
1) アレルギーリスクが少なく、安全性が高い
2) 皮膚への浸透性が優れているため、注入する必要がない
ことが特徴です。お悩みに合わせ、3〜4週ごとに数回の治療を推奨しており、目元などのデリケートな部位へのアプローチも可能です。
 




細胞外マトリックス治療について


「細胞外マトリックス(ECM)治療」という言葉を耳にしたことはありますか?


これは、肌のハリや弾力を司る細胞外マトリックス(ECM)という、肌の土台を注射によって再生・活性化させる、新しい美容医療のアプローチです。

従来の美容治療とは異なり、単にシワや凹みを一時的に埋めるだけでなく、肌そのものが持つ再生能力を引き出し、肌を内側から若返らせることを目指します。エイジングケアの新たなスタンダードとして注目を集めています。


1. 従来の美容治療との違い

細胞外マトリックス(ECM)治療は、従来の美容医療と大きく異なるアプローチを取ります。

1-1. 従来のフィラー(充填剤)との違い

従来のヒアルロン酸フィラーは、主に特定の部位にボリュームを加えて深いシワを修正したり、顔の輪郭を形成したりすることを目的とします。一方、細胞外マトリックス(ECM)治療製剤は、ヒアルロン酸が主成分である点は似ていますが、肌そのものを若返らせることを目指す点が異なります。細胞外マトリックス(ECM)治療は、細胞外マトリックスを再生することで、肌全体の質感を改善し、より自然な若返り効果を提供します。


1-2. 従来の美肌術(レーザーなど)との違い

従来の美肌術では、レーザーなどで皮膚に侵襲を与え、創傷治癒反応を惹起させてコラーゲンを増やす、いわば「ムチ」のアプローチでした。これに対し、細胞外マトリックス(ECM)治療は、皮膚幹細胞や線維芽細胞といった肌再生の主要な細胞の環境を整える「アメ」のアプローチを取ります。

これにより、線維芽細胞の働きを最大限に発揮させ、コラーゲンだけでなく細胞外マトリックス(ECM)の構造そのものを再構築する「ECMリモデリング」を実現するのです。


2. イタリアでの誕生と科学的根拠

イタリアは、注射による肌再生治療のパイオニアとして知られています。

2-1.「バイオリバイタリゼーション」の誕生

1990年代末から2000年代初頭にかけて、イタリア人科学者によって純粋なヒアルロン酸を少量ずつ肌に注入する「バイオリバイタリゼーション」という技術が発見され、実用化されました。これは、肌の水分補給と潤いを取り戻すことを目的とした治療法でした。


2-2. アミノ酸の重要性の発見

しかし、イタリアの美容医療の専門家たちは、単に水分を補給するだけでなく、肌のハリや弾力の源であるコラーゲンやエラスチンを根本から増やせないかと考えました。そこで注目されたのがアミノ酸の力です。「必要なアミノ酸を肌に補給すれば、弱った線維芽細胞を活性化し、コラーゲンを再生できるのではないか」というアイデアが提唱され、2004年には世界初のアミノ酸とヒアルロン酸を組み合わせた注射によるスキンブースター「Jalupro(ジャルプロ)」がイタリアで誕生しました。


2-3.  ヒアルロン酸の分子量による作用の違いの解明

さらにイタリアの研究者たちは、ヒアルロン酸は分子量の違いによって肌への作用が異なるという重要な点にも気づきました。

高分子量のヒアルロン酸(HMWHA)は、主に肌の表面で水分保持や組織の構造維持に寄与し、潤いを与えてバリア機能をサポートします。
低分子量のヒアルロン酸(LMWHA)は、肌の奥深くまで浸透しやすく、細胞シグナル伝達や炎症反応の調節に関与し、線維芽細胞を刺激してコラーゲンやエラスチンの産生を促す効果が示唆されています。
*ヒアルロン酸の分子量による分類は研究者によって異なり、ここでは高・低分子量に分けていますが、さらに細かく高・中・低分子量に分けることもあります。


このように、アミノ酸によるコラーゲン産生のサポートに加え、ヒアルロン酸の分子量を使い分けることで、より効率的に肌の再生を促せるという考え方が確立されました。

イタリア発の主要製剤


ジャルプロの誕生以降、ヒアルロン酸の分子構造やアミノ酸の配合などを改良しながら、様々なメーカーが独自の技術を開発し、新しい細胞外マトリックス治療製剤が次々と登場しました。


Jalupro(ジャルプロ)

◉誕生:2004年にイタリアで誕生した世界初のアミノ酸とヒアルロン酸を組み合わせた注射によるスキンブースター。世界で100万件以上の施術実績を誇り、「世界で最も支持されているスキンブースター」と評価されています。

◉成分:非架橋ヒアルロン酸に、コラーゲン産生に必要な特定アミノ酸(グリシン、プロリン、リシン、ロイシンなど)を配合。

◉種類と特徴:

⚪️ジャルプロ・クラシック:低分子HAと4種のアミノ酸。初期の老化サインや軽度から中程度の肌老化、くま、水分補給、肌の輝き改善に適しています。

⚪️ジャルプロHMW:高分子HAと4種のアミノ酸。より成熟した肌や重度の光老化、深めのシワ、ボリュームロス、弾力性・水分補給の強化が必要な部位に適しています。

⚪️ジャルプロ・スーパーハイドロ:低分子および高分子ヒアルロン酸ブレンド、7種の強化アミノ酸、3種の生体模倣ペプチドを配合した最先端製剤。特に靭帯(皮膚支帯)支持組織の再生を促し、肌の引き締め(タイトニング)やリフトアップ効果が期待できます。

⚪️ ジャルプロ・ヤングアイ:目元専用に調合されたHA、アミノ酸、ペプチドを配合。目の周りの小ジワ、くま、むくみをターゲットとし、コラーゲンを刺激し微小循環を改善することで皮膚の質と密度を向上させます。


Profhilo(プロファイロ)


◉誕生:2015年にIBSA社が開発。


◉成分・技術:高分子と低分子のヒアルロン酸をNAHYCO技術という特許取得済みの熱処理法で結合させたハイブリッドな製剤で、化学架橋剤を使用していません。


◉ 作用機序:肌のバイオリモデリングを促進し、コラーゲンとエラスチンの産生を刺激することで、肌の水分量、弾力性、ハリを改善します。皮膚の深層組織や脂肪層に特に作用するよう設計されています。少ない注入箇所で広範囲に拡散する特徴があります。


Sunekos(スネコス)

◉誕生:2017年にProfessional Dietetics社が発売。


◉成分:ヒアルロン酸と6種類の必須アミノ酸(グリシン、L-プロリン、L-リジン、L-アラニン、L-バリン、L-ロイシン)を独自の特許処方で配合。


◉作用機序:コラーゲンとエラスチンの産生を包括的に促進し、ECMの再生を刺激します。肌の弾力性、ハリ、シワの軽減に焦点を当てています。


◉種類:低分子量HAを使用するSUNEKOS 200SUNEKOS Performa、高分子量HAを含むSUNEKOS 1200があります。


Hydro(ハイドロ)


◉誕生:2018年頃にPromoItalia社が開発。


◉成分:分子量の異なる3種類のヒアルロン酸を組み合わせたハイブリッド製剤で、保水力と組織再生を目的としています。Neauvia Hydro Deluxeのように、ヒドロキシアパタイトカルシウムやアミノ酸(グリシン、L-プロリンなど)を含む製剤もあります。

◉ 作用機序:肌に深いうるおいを与え、肌の弾力性や水分補給を改善し、自然な肌再生プロセスを刺激します。

当院で受けられる細胞外マトリックス(ECM)治療

院長コラム 〜細胞外マトリックス(ECM)治療のメカニズム〜


ここのところ、「ジャルプロ」、「スネコス」、「ハイドロ」、「プロファイロ」と、いずれもヒアルロン酸を主成分とした製剤が、細胞外マトリックス(ECM)ブースターと称してしのぎを削っています。



細胞外マトリックス(ECM)とは、ヒアルロン酸の海の中をコラーゲンやエラスチンといった線維成分や線維芽細胞が漂っているようなもの。そのため細胞外マトリックス(ECM)ブースターの製剤でもヒアルロン酸が中心になっています。



ヒアルロン酸で美肌治療というのも不思議に思われるかもしれません。


実は皮膚ではヒアルロン酸が代謝されることで皮膚の再生を支えています。ヒアルロン酸代謝が止まると皮膚は急速にしぼんでしまいます(ステロイドを塗っていると、皮膚が萎縮するのがこの例)。 



ただし、皮膚の再生に役立つヒアルロン酸は特定の分子量に限られます。中分子量のヒアルロン酸が、受容体と結合したときのみ、真皮でコラーゲンやヒアルロン酸の産生、さらには表皮の分化・増殖、つまりは皮膚の再生が起こるのです。



 




ハリを求める治療のメンテナンス 〜レチノイド療法〜


⚪️レチノイドは、細胞外マトリックス(ECM)治療など肌のハリを求める治療の効果を補強する重要な役割を担います。

⚪️レチノイドは皮膚内でのヒアルロン酸の合成を促進する作用があります。ヒアルロン酸は細胞外マトリックス(ECM)の主要な構成成分であり、皮膚のハリの維持に不可欠です。

⚪️そればかりか、レチノイドはヒアルロン酸そのものと、それを受け取る受容体の両方を増やす(文献1)ことで細胞間の連携を密にし、細胞外マトリックス全体の機能を高め、治療効果をサポートします。

⚪️ヒアルロン酸受容体の発現は皮膚の再生や修復に寄与することが示唆されています(文献2)。

⚪️細胞外マトリックス(ECM)治療など、肌のハリを求める治療にはレチノイドが欠かせません。


【参考文献】

1) UVA and UVB decrease the expression of CD44 and hyaluronate in mouse epidermis, which is counteracted by topical retinoids
Emel Calikoglu, et al.
Photochem Photobiol
2006 Sep-Oct;82(5):1342-7

2) Hyaluronic acid: redefining its role. 
G Abatangelo, et al.
Cells
2020 Jul 21;9(7):1743

 



レチノイド療法の紹介




よくいただくご質問

Q

肌の「ハリ」とは具体的にどのような状態を指しますか?

A

⚪️医学的には、肌の「ハリ」は粘弾性(viscoelasticity)という複合的な特性を指します。

⚪️これは、肌に力が加わったときに変形に抵抗し、力が取り除かれると元の形に瞬時に戻ろうとする「弾力性(elasticity)」と、ゆっくりと形を保とうとする「粘性(viscosity)」を合わせた性質のことです。

⚪️小ジワや肌痩せは、この粘弾性の低下によって現れる典型的な症状と言えます。

Q

肌の「ハリ」はどのように測定されるのですか?

A

⚪️肌のハリは、キュートメーター(Cutometer)と呼ばれる専門機器を用いて客観的に評価されます。

⚪️この機器は皮膚を吸引し、その変形量や回復速度を測定することで、皮膚の硬さや弾力性を数値化します。例えば、R0(皮膚の硬さや伸展性)、R2(総弾性率)、R7(純弾性率)といったパラメータが算出されます。

Q

肌の「ハリ」は、皮膚のどのような構造によって生まれていますか? 

A


⚪️肌のハリは、主に真皮層に存在する細胞外マトリックス(ECM)という緻密なネットワーク構造によって生み出されています。

⚪️ECMは主に以下の要素で構成されます:
• コラーゲン線維: 肌の構造を支え、強度と安定性を与える「鉄骨」のような役割を担います。
• エラスチン線維: コラーゲン線維を束ね、ゴムのように伸び縮みして弾力的な復元力を生む「バネ」の役割を担います。
• ヒアルロン酸: コラーゲンやエラスチンの隙間を埋めるゲル状の物質で、大量の水分を保持し、肌を内側からふっくらと持ち上げる「保水クッション」として機能します。
これらの成分はすべて、真皮に存在する線維芽細胞によって産生・維持されています。

Q

肌の「ハリ」を保つ上で「細胞外マトリックス(ECM)」とは何ですか?

A


⚪️細胞外マトリックス(Extracellular Matrix; ECM)
とは、皮膚の真皮層の構造で、組織の形を保ち、細胞同士のコミュニケーションの場ともなる重要な構造体です。

⚪️肌を建築物に例えるなら、ECMはその基礎、鉄骨、内装のすべてを担う存在と言えます。肌のハリ、弾力、潤いを維持する上で、コラーゲン、エラスチン、ヒアルロン酸といったECMの主要成分のバランスが非常に重要です。

Q

加齢とともに肌の「ハリ」が失われるのはなぜですか?

A

ハリが失われる現象は、「内因性老化」と「外因性老化」の二つのメカニズムが複合的に作用して起こります。

内因性老化(避けられない生理的衰退): 線維芽細胞の機能低下や数の減少により、コラーゲン、エラスチン、ヒアルロン酸といったECM成分の産生能力が著しく低下します。特に女性では、閉経後のエストロゲン減少がハリの低下を加速させます。

外因性老化(ダメージの加速因子): 紫外線(光老化)、喫煙、糖化、大気汚染などが原因で、既存のECMが破壊されたり変質したりします。

Q

紫外線は肌の「ハリ」にどのように影響しますか?

A

⚪️紫外線は外因性老化の最大の原因であり、光老化を引き起こします。

⚪️紫外線は肌の奥深くの真皮層に到達し、活性酸素種(ROS)を大量に発生させます。これがマトリックスメタロプロテアーゼ(MMPs)というコラーゲンやエラスチンを分解する酵素の産生を促進し、同時に新しいコラーゲン合成を抑制することで、真皮の構造を破壊し、ハリの喪失を加速させます。

Q

喫煙や食生活も肌の「ハリ」に影響しますか?

A

⚪️はい、喫煙は強力な皮膚老化促進因子です。

⚪️喫煙は体内に酸化ストレスを誘導し、コラーゲン合成を阻害し、エラスチン線維を変性させます。また、血行不良を引き起こし、皮膚に必要な栄養素の供給を妨げます。

⚪️高糖質食による糖化(glycation)も重要な因子で、過剰な糖がコラーゲンなどのタンパク質と結合し、終末糖化産物(AGEs)を生成します。AGEsはコラーゲンネットワークを硬くし、弾力性を失わせ、肌の黄ぐすみの原因にもなります。

Q

「細胞外マトリックス治療」とはどのような治療ですか?

A

⚪️細胞外マトリックス(ECM)治療は、肌のハリや弾力を支える細胞外マトリックス(ECM)という土台を、注射によって再生・活性化させる新しい美容医療のアプローチです。

⚪️従来のフィラーのように単にシワや凹みを一時的に埋めるだけでなく、肌が本来持つ再生能力を引き出し、肌を内側から若返らせることを目指す、エイジングケアの新たなスタンダードとして注目されています。

Q

従来のヒアルロン酸フィラーとは何が違いますか?

A

⚪️従来のヒアルロン酸フィラーは、主に特定の部位にボリュームを加えて深いシワを修正したり、顔の輪郭を形成したりすることを目的とします。

⚪️一方、ECM治療製剤は、ヒアルロン酸が主成分である点は似ていますが、肌そのものを若返らせることを目指す点が異なります。ECM治療は、ECMを再生することで肌全体の質感を改善し、より自然な若返り効果を提供します。

Q

従来のレーザー治療などの美肌術とは何が違いますか? 

A

⚪️従来の美肌術では、レーザーなどで皮膚に侵襲を与え、創傷治癒反応を惹起させてコラーゲンを増やす、いわば「ムチ」のアプローチでした。

⚪️これに対し、細胞外マトリックス(ECM)治療は、皮膚幹細胞や線維芽細胞といった肌再生の主要な細胞の生存環境を整える「アメ」のアプローチを取ります。これにより、線維芽細胞の働きを最大限に発揮させ、コラーゲンだけでなくECMの構造そのものを再構築して「ECMリモデリング」を実現します。

Q

医療用保湿剤について

A


皮膚科診療で病的な乾燥肌(ドライスキン)を治療するさい、「化粧水をたっぷり使いましょう」と指導することはありません。

医療用保湿剤を使うことをおすすめします。

適切に保湿剤を使用していると、使用を中止しても1週間ほど保湿効果が続くようになります。保湿剤の効果が表面だけでなく深部にまで及ぶからです。これを角層療法(コルネオセラピー)と呼びます。