2023.06.20更新

この文章は、私にシフトワーカーの健康問題を考えるきっかけを下さった、あるお客様に捧げます。看護師をされていたそのお客様と、この話題になった時、何もアドバイスできないばかりか、冗談めかして「早く婦長さんになって、この状況から脱却するしかないですよ!」としか言えなかったことが、今も痛恨の思いとして心に残っています。答えとして不十分ですが、今も考え続けていることをお伝えしたい。


ここ数十年くらいで日本の社会では急激に24時間化が進みました。

それ以前から生きている私は、家の近所にセブンイレブンができて、名前の通り朝の7時から夜の11時まで営業することに衝撃を受けたことを覚えています。社会が24時間化してから生まれ育った人には、「セブンイレブンの衝撃」は決して理解できないでしょう。

最近は人手不足の影響で、一部のコンビニが24時間営業でなくなったりしていますが、ではみんな「セブンイレブン」に戻るかと言えば、それも無理な話。最近、さまざまな「多様性」が議論されていますが、社会の24時間化が実現させているのは、生活、生き方の「多様性」。これからもそれを尊重する方向に社会は進歩していくはず。

ただし、24時間営業の現代社会を支えるシフトワーカーには、大きな身体的負担がかかっています。


シフトワークが睡眠障害をはじめ、肥満、脂質異常症、高血圧、糖尿病など生活習慣病や心筋梗塞、脳卒中、乳がん、前立腺がんなどの疾患リスクを上昇させることが多くの疫学研究から示されています。

なぜシフトワークが健康に悪いか・・不規則な生活は身体に悪いに決まっていると言えばそれまでですが、ではなぜそうなのでしょう?

人に限らず、地球上の生物には、体内時計が備わっています。地球の自転によって、およそ24時間周期で昼夜の環境が変化する地球上で生存競争に勝ち抜くために不可欠なシステムです。

体内時計を調整するメラトニンというホルモンは、驚くべきことにヒトはもちろん動物でも植物でも微生物でも共通。いかに生命にとって根源的なシステムであるかがわかります。体内時計は地球上生命体全般において、普遍で不変!な進化をとげたのです。

そして、そのシステムに従って、睡眠覚醒、代謝、ホルモン分泌などさまざまな生理現象が調節されています。

だから人はシフトワークのように地球の自転を無視した生活には適応できないのです。これが体内時計を研究する医学分野である「時間医学」的な解答になります。


「時間医学」


その「時間医学」の新しい知見として、マウスの実験ではありますが、だんだん活動期を遅らせていくのと早めていくのでは、遅らせていく飼育条件の方が順応しやすいことが報告されています。

マウスの結果をヒトに当てはめるのも性急すぎますが、無理やり当てはめるなら、ヒトでも数日おきに活動時間をずらす、それも遅寝遅起きの方向にずらすのなら身体への負担も少なくできるかもしれません。

具体的には、日勤、準夜勤、深夜勤という3交代制のシフトワークでは、必ず数日おきに日勤→準夜勤→深夜勤の方向へずらしてシフトを組むのです。

不規則な生活を強いられるシフトワーカーですが、「規則的」に不規則な生活なら、まだ健康を害するリスクは小さくできる可能性があります。


今日も真夜中の街ではいろんな職種の方がシフトワーカーとして勤務されています。そのおかげで、社会は24時間稼働して、いつでも時間に関係なく好きなように生活することが可能になっています。

シフトワーカーの健康を守る取り組みは、差し迫った課題なのです。

 

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投稿者: 美容外科・美容皮膚科 青い鳥

2022.08.15更新

正直に白状すれば、私は有酸素運動が好きではありません。ジムでバイクをこいだり、ランニングマシンで走っていると、ハムスターになったようで人間性を否定された気分になるし、単調さに耐えかねて「この時間を本や論文を読む時間に使った方が、自分の残された人生において有益ではないだろうか・・」というバカげた疑問に真剣に悩むことになります。

しかし、それでも有酸素運動には同情(?)するところもあって、それはほんとうのスゴさが十分に知れ渡っていないこと。有酸素運動のメリットというとたいてい心肺機能を強化できるとか、インスリン抵抗性や動脈硬化が改善するというのですが、そんな説明では人の心に響くわけがない。

有酸素運動のほんとうのスゴさは、今が健康だろうが、闘病中だろうが、長生きできるようになること。


米国には身体活動のガイドラインがあって、成人では週に有酸素運動を中強度(ウォーキングなど)なら150分以上、高強度(ランニングなど)なら75分以上、加えて筋トレを週2回以上することが推奨されています。

米国人はネコも杓子もランニングしている印象がありますが、実際にガイドラインを満たす身体活動をしているのは、成人全体の16%。有酸素運動だけ満たしたのは24%、筋トレだけは4.5%だとか。

そしてここからがスゴいのですが、50万人の成人米国人を対象に調査したところ、ガイドラインを満たす運動をしていた人は、全ての死亡原因をまとめた比較で、運動をしていない人に比べ、死亡率が40%、有酸素運動だけでもしていれば29%も減少していたのです。

死因を癌、心血管系、事故・ケガなどと8つの原因別に分けたとき、有酸素運動はすべての原因別死亡率を減少させていました。

そして、付け加えればこの効果は、健康人より基礎疾患のある人でより大きかったのです。


日本人でのデータもあります。それは糖尿病患者を対象にした研究ですが、1日30分程度のウォーキングで、なんと死亡率はほぼ半減しました。

この研究では、当初は心臓病による死亡率が減ることで、全体の死亡率を減少させるだろうと予想を立てていたようですが、実際は心臓病での死亡はそんなに減っていなくて、それではなぜ死亡率が半減までしたのかよくわからないという、何とも締まらない結末になるのですが、それにしても半減とはスゴい。

日頃、医者というのは、わずかな人数を対象にした研究で、吹けば飛ぶような数値の差を、統計式をこねくりまわして有意差があるとかないとかで大騒ぎしているのですが、それを思えば、何千、何万人単位で30%とか50%の差なんて、開いた口がふさがりません。

ここまで来ても、意気地のない私なんか「あまり膝に負担をかけると、膝関節症になるから・・」と駄々をこねたくなるのですが、最近講演で聞いた話では、ランニングしている人の方が、何もしていない人より膝関節症になりにくいとのことなので、残念ながら心配無用のようです。

「あんまり時間が・・」という最後の粘りにも、それなら筋トレは置いといて、まずは有酸素運動だけでもすべきというのが、エビデンスに基づく冷徹な結論。文献を読み過ぎたせいか、どうにも逃げ場がなくなって困ってしまいます。あとは朝の犬の散歩を何とか有酸素運動と呼べないかと、どこまでも図々しく考えているのですが、チンタラ歩いているだけなので、呼べるワケがない・・・。


有酸素運動とはいえないか!?


 

(参考文献)

1) Physical Activity Guidelines for Americans 2nd edition
https://health.gov/sites/default/files/2019-09/Physical_Activity_Guidelines_2nd_edition.pdf

2) Recommended physical activity and all cause and cause specific mortality in US adults: prospective cohort study
Zhao M, et al.
BMJ
2020;370:m2031

3) Leisure-time physical activity is a significant predictor of stroke and total mortality in Japanese patients with type 2 diabetes: analysis from the Japan Diabetes Complications Study(JDCS)
Sone H, et al.
Diabetologia
2013;56:1021-1030

 

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投稿者: 美容外科・美容皮膚科 青い鳥

2020.10.25更新

必要なのはバイオレットライト

 

私が子供の頃は、虫歯のない子供の方が珍しく、毎年の学校検診が終わると皆いっせいに歯医者さんに通院したものでした。ところが最近では子供の虫歯は劇的に減っています。


それとまったく正反対に激増中!なのが・・・近視です。


都内のある有名中学では、生徒の95%が近視だとか。この現象は日本特有ではなく、世界的にも近視は増えており、アジア諸国ではパンデミックの様相を呈しています。


メガネやコンタクトで視力を矯正すれば日常生活に支障がなく、またそれ以上問題にはならないと思われてきたこともあって、近視はこれまで軽視されてきました。しかし実際には、重度の近視は大人になっても進行して、網膜剥離などの眼疾患も引き起こし、失明の原因にもなります。日本以上に若年者の近視が問題になっている中国では、いずれ近視が失明原因のトップになることが確実視されています。


近視が爆発的に増えている背景には、現代社会の生活習慣があるようです。中高年の方なら、自分たちの頃と比べ今の子どもたちの生活が圧倒的にインドアになっていることにお気づきでしょう。


近視は、本来球形であるはずの眼球が扁平化してしまって、目に入ってくる光の焦点が合わなくなる疾病。こうした眼球の変形を防ぐには、太陽光に含まれるバイオレットライト(紫色の波長の光)が必要ですが、室内にはバイオレットライトは存在しません。実際に1日2時間の屋外活動で近視の進行が止められることが臨床試験で実証されています。


バイオレットライトの作用機序の研究からは、クロセチンというクチナシの花など植物に含まれる黄色の色素は、内服するとバイオレットライトを浴びるのと同じ効果を発揮することが見出されていて、すでにいくつものメーカーからサプリメントとして発売中です。


臨床試験では子供には1日7.5mgのクロセチンで近視の進行が抑制されたのですが、それを踏まえて製品化しているのが、ロート製薬。子供用に飲みやすい形状ですから、近視が進行しているお子さんにおすすめです。


私自身はDHCから出ているサプリメントを利用しています。メーカーは1日2錠(11mg)を推奨しています(私は自己判断で1日4錠!)。ドラッグストアには置いていないので、ネットで買っています。私のように、いまだに運転免許の更新の際の視力検査にびくびくしている方に強くおすすめします。


*本記事は第20回日本抗加齢医学会総会での講演に基づいて作成しました。

(メルマガ10月8日号を加筆修正)

 

 

 

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投稿者: 美容外科・美容皮膚科 青い鳥

2018.11.16更新

 

イビキはオジサンだけの特権(?)じゃありません。女性も歳とともにイビキをかく人の割合が増えます。
イビキと加齢

(グラフは参考文献から)

 

なぜ人は加齢とともにイビキをかくようになるのでしょうか?

イビキについてずいぶんといろんな文献を読みあさりましたが、なかには「日本人の顎は小さいから」といういい加減な(?)記述まである始末で、明快な答えが見つかりません。

ただ、「加齢とともに下顎が小さくなる」ことは間違いなく原因のひとつです。

頭蓋骨の骨粗鬆症


残念ながら下顎が歳とともに小さくなるなんて美容医療に携わる医者でなければ知りません。だから「日本人は顎が小さいから」などと言ってしまうのでしょう。ただそうなると、すぐに解決策は見つかりません。現状では頭蓋骨の骨粗鬆症(変形・縮小)の進行を予防する手段はないので、もっぱら睡眠中に気道が狭くならないよう工夫するしかありません。

ヒトがサルから進化して、大きく発達した脳と退化した下顎を持つようになり、頭からノドの構造が間延びして気道が長くなって、イビキをかきやすくなったと考えられています。高等生物の証拠なのだと自分をなぐさめるしかないのかもしれません。


(参考文献)
たかがいびき、されどいびき
東北大学保健管理センター
保険のしおり30号(2001年)

 

 

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投稿者: 美容外科・美容皮膚科 青い鳥

2018.09.17更新

 

酒は「百薬の長」と昔から言われ、飲み過ぎはダメだとしても、適度な飲酒なら健康に良いというのがこれまでの常識。ビールなら中瓶1本、ワインなら軽めの2杯が適量とされ、とくに赤ワインはアンチエイジング的にもいいともてはやされてきました。

ところが、お酒とアンチエイジングをこよなく愛する人にはとんでもない論文が発表されました。掲載されたのは世界でも指折りの権威ある雑誌「ランセット」で、単なる臨床研究ではなく、これまで発表された195の国と地域で行われた臨床研究の総まとめです。

なんと!!お酒は適量ならむしろ健康にいいというのは間違いで、一番健康によい摂取量はゼロ(飲まない方がよい)!!というのが衝撃の結論。

 

飲酒と疾患リスク
(出典:参考文献より)

これらは女性のアルコール摂取量と疾患リスクの関係を表したグラフです。黒い線で見て下さい。横軸がアルコール摂取量、縦軸が疾患リスクです。右が虚血性心疾患(狭心症、心筋梗塞など)の場合で、右に向かっていったん下がってから上昇カーブを描いています。つまり少量の摂取ならむしろリスクを下げる効果が認められています。

しかし左側の乳癌ではただ右肩上がりに疾患リスクが上昇しています。飲めば飲むほど乳癌リスクは高くなるというわけです。


そして・・こちらがその衝撃のグラフ

アルコール摂取量と死亡リスク
(出典:参考文献より)

これがアルコール摂取量と死亡リスクの関係を表したグラフです。さまざまな死亡をすべてまとめると、残念ながら(!)グラフは右肩上がりになってしまうのです。つまりアルコールは飲めば飲むほど死亡リスクを高め、健康的な飲酒などなく、一番健康的な摂取量はゼロ!だということを示しています。

アルコールの適量を巡る論争はこれからも続くでしょうが、今回の論文は相当にインパクトがあります。研究グループは世界中でアルコールの摂取に関するコンセンサスを見直す必要があるとコメントしています。



(参考文献)
Alcohol use and burden for 195 countries and territories,1990-2016:a systematic analysis for the Global Burden of Disease Study 2016.
GBD 2016 Alcohol Collaborators.
Lancet
2018 Aug23.

 

 

 

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投稿者: 美容外科・美容皮膚科 青い鳥