室内で過ごすときも、肌の老化や皮膚がんのリスクを考えて「日焼け止めは必要なのか?」と疑問に思う方は少なくありません。インターネットやメディアでも「室内でも紫外線を浴びるから日焼け止めを塗ったほうがいい」という情報が多く見られます。では、本当に「日焼け止めは室内でも必要」なのでしょうか?室内用に肌に優しい日焼け止めを探す前にお読み下さい。
日光、特に紫外線について
日光に含まれる紫外線は、大きくUVA(波長320~400nm)とUVB(波長280~320nm)に分けられます。UVBは主に表皮に作用し、日焼けや皮膚がんの原因になる強いエネルギーを持っています。炎症や赤みを引き起こしやすい特徴があります。一方、UVAは波長が長く、真皮にまで到達してコラーゲンやエラスチンを損傷し、皮膚の弾力低下やしわ、たるみなどの「光老化」を進める原因になります。
注目すべきは、UVAの多くは窓ガラスを透過し、室内にいても皮膚に到達する可能性がある点です。
窓ガラスはどれくらい紫外線を通すのか?
私たちが日常的に使用している建築用のガラスでは、UVBのほとんどはカットできます。しかし、古い単板ガラスや一般的な複層ガラスの住宅ではUVAの透過率は50%を超えます。
最近普及している高機能ガラスではUVA透過率が低下し、防犯対策に用いられる合わせガラスでは、UVAもほぼ遮断できます。しかし、いずれの場合も完全にゼロにはならないため、「室内だから安全」とは一概に言えません。そのため「日焼け止めは室内でもおすすめ」といった情報がよく見られますが、この問題はもう少し詳細に検討する必要があります。
窓からの距離と紫外線量の関係
見落とされがちな重要な要素は「窓からの距離」です。
紫外線は窓際に近いほど多く浴びることになりますが、窓から1メートル以上離れるだけでも、その量は急激に減少することが研究でわかっています。「日焼け止めは室内でも必要」という結論に飛びつく前に、まずは自分の行動パターンを確認することが大切です。
車内と室内は同じ状況ではない
有名な例として、トラックドライバーの顔の片側だけが著しく光老化している写真があります。これはガラスがあってもUVケアにならない例としてしばしば取り上げられます。しかし、車内と一般的な室内環境を同一視するのは適切ではありません。
車内は、ガラスと人の位置が数十センチの距離に固定されている特殊な状況です。それに対し一般的な室内生活で窓ガラスに長時間密着して過ごす人はほとんどいないでしょう。 したがって、トラックドライバーのような状態が、そのまま「室内の日常生活」で起こる可能性は低いと考えられます。
世界の専門機関の見解
米国皮膚科学会(AAD)の公式サイトでは、「日焼け止めは毎日使いましょう」と推奨していますが、それはあくまで「外出前に塗る」ことを指しています。さらに、オーストラリアがん協議会(Cancer Council Australia)や英国皮膚科学会(BAD)などは、「室内にいる場合は日焼け止めは不要である」と明確に示しています。
総合的なリサーチを行っても、「日焼け止めは室内でも積極的に塗るべき」と推奨している国際的な専門機関は見当たりません。 結論として、世界的なスタンダードは「屋外活動時に日焼け止めをしっかり塗る」ことであり、室内で過ごす場合にまで塗るのは過剰と言えるかもしれません。
日焼け止めを塗るデメリットも考慮しよう
「室内でも日焼け止めは必要か?」を考えるうえで、日焼け止めを塗るデメリットにも注目する必要があります。日焼け止めは肌への刺激やアレルギー反応を引き起こす可能性があります。また、室内にいるときも日焼け止めを塗ったり、塗り直したりすればコストや手間もかかります。 したがって、日焼け止めの使用は、「リスク(デメリット)とベネフィット」を天秤にかけて判断することが重要です。
まとめ~室内で日焼け止めが推奨されるケース
以上を踏まえると、一般的な室内生活では必ずしも「日焼け止めは室内でも必要」とは言い切れません。しかし、以下のような状況に当てはまる方には、室内で過ごす際も日焼け止めの使用が勧められます。
1 窓のすぐそば(1メートル以内)で毎日長時間(合計数時間以上)過ごす習慣がある方
◦ 特に使用している窓ガラスのUVカット性能が不明、あるいは古い単板ガラスなどが使われている場合
2 皮膚の色が白い(Fitzpatrick I–II型)方、皮膚がんの既往歴や家族歴がある方
◦ 皮膚がんのリスクが高い人では、日常的にUVAケアを意識したほうが安心です
追加:日焼け止め以外の対策も有効
室内での紫外線対策は、日焼け止めだけに頼る必要はありません。たとえば、次のような方法も効果的です。
• 窓から離れた場所で過ごす
◦ デスクやソファの位置を少し窓から離すだけでも、紫外線量は大幅に減少します
• UVカットフィルムを貼る
◦ 窓ガラスに後付けで貼れるUVカットフィルムがあります。比較的安価で手軽に導入できるため、「室内でも日焼け止めは必要?」と悩む前に検討する価値があります
• カーテンやブラインドの活用
◦ 日差しが強い時間帯だけ閉めるなど、窓からの紫外線を遮断できます
• 衣類で肌を覆う
◦ 長袖のシャツやUPF(紫外線保護指数)表示のある衣類を着用することで、肌への直接的な紫外線曝露を抑えられます
(参考文献)
1) How to apply sunscreen
https://aad.org/public/everyday-care/sun-protection/shade-clothing-sunscreen/how-to-apply-sunscreen
2) Photoprotetion: clothing and glass
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2014;32(3):439-448
3) Photoprotection by window glass, automobile glass, and sunglasses
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2006;54(5):845-854
4) The role of glasses as a barrier against the transmission of ultraviolet radiation: an experimental study
Duarte I, et al.
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2009;25(4):181-184
5) Visible light Part II: Photoprotection against visible and ultraviolet light
Geisler AN, et al.
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2021;84(5):1233-1244
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制作・執筆:坂田修治(医師:美容外科・美容皮膚科 青い鳥 院長)
(最終更新日:2025年5月5日)