■こんな専門家も・・
室内にいるときでも、窓から日光が入るから、日焼け止めを塗っておいた方がいいと勧める専門家がいるらしい。確かに「紫外線の中でもUVAは波長が長いから窓ガラスを貫通して室内に入り、肌を老化させる・・」と書かれた文章を見かけることは多い。
■しかし・・
室内の光線量を実際に調べたわけでもないし、文献的な裏付けをしっかりおさえているわけでもないので、強くは言いづらいのですが、それはやりすぎではないだろうか、本当はいらないのでは?
■こんな調査が・・
そうした判断を支えているのは、数年前に講演で聴いた話。子供の近視が激増している原因は、外で遊ぶ時間が短くなって、太陽光に含まれるバイオレットライト(ブルーライトの近縁)が目に入らなくなったからという話。
この学説を唱えた慶応大学眼科の調査研究によると、都内の学校の教室内ではまったくバイオレットライトを検出できなかったといいます。窓からも入らなければ、照明にも含まれていない。ついでに言えば、メガネのレンズもバイオレットライトを通さない(だからメガネをかけると近視が進行するのかも)。
バイオレットライトすらないなら、それより波長の短いUVAがあるわけない。窓ガラスは紫外線のうちUVBはシャットアウトするけど、UVAは通してしまうとされてきたわけですが、それは昔の板ガラスの話で、現代建築のサッシ窓ならUVAもシャットアウトしている可能性がある。
■車内と室内
アンチエイジング医学の領域で、光老化の例としてよく使われるトラックドライバーの写真があって、これは顔の右半分だけが顕著に肌が劣化しているのですが(運転中に顔の右側にだけ日光を浴びている)、ガラスを通してでも光老化が進行する一つの実例になっています。
でも、車内と室内を同一視するのはさすがに強引。車内というのはガラスと人の位置が数十センチの距離に固定されている特殊な状況。室内で言えば、窓ガラスにずっとへばりついているようなもので、そんな過ごし方をする人はいない。
■可視光線からの防御は難しい
日光憎し(?)で凝り固まった方の中には、紫外線(UVA)はともかく、窓ガラスから光が入るなら可視光線は通してるはずで、可視光線でもブルーライトは日焼けの原因になるではないかと反撃してくるかもしれません。
しかし、それをいうなら市場に出回るほとんどの日焼け止めでは、どんなにSPFやPAが高くてもブルーライトなど可視光線の防御にはならないから、そう簡単に「室内でも日焼け止めを!」と言うなと反論したい。
■海外では・・
米国皮膚科学会は、外出前に、できたら15分前までに日焼け止めを塗るよう推奨しています。たぶん世界中探しても、室内での日焼け止めの使用を推奨しているガイドラインなどはないでしょう。ただ、さすがにそれを確かめてくれとは言わないでいただきたい。ないものをないと証明するのは難しいですから。
■たまにはお肌に楽をさせてあげて
吹けば飛ぶような話を大げさにして、がんじがらめのスキンケアを推奨するのが専門家の役目とはとうてい思えません。「室内でも日焼け止めを!」なんて、そんなスキンケアは窮屈すぎます。室内ではスキンケアも最小限にして、お肌を少しでも負担から解放してあげてはいかがでしょうか。
(参考文献)
1) How to apply sunscreen
https://aad.org/public/everyday-care/sun-protection/shade-clothing-sunscreen/how-to-apply-sunscreen
2) Photoprotetion: clothing and glass
Almutawa F, et al.
Dermatol Clin.
2014;32(3):439-448
3) Photoprotection by window glass, automobile glass, and sunglasses
Tuchinda C, et al.
J Am Acad Dermatol.
2006;54(5):845-854
4) The role of glasses as a barrier against the transmission of ultraviolet radiation: an experimental study
Duarte I, et al.
Photoimmunol Photomed.
2009;25(4):181-184
5) Visible light Part II: Photoprotection against visible and ultraviolet light
Geisler AN, et al.
J Am Acad Dermatol.
2021;84(5):1233-1244