2022.08.15更新

正直に白状すれば、私は有酸素運動が好きではありません。ジムでバイクをこいだり、ランニングマシンで走っていると、ハムスターになったようで人間性を否定された気分になるし、単調さに耐えかねて「この時間を本や論文を読む時間に使った方が、自分の残された人生において有益ではないだろうか・・」というバカげた疑問に真剣に悩むことになります。

しかし、それでも有酸素運動には同情(?)するところもあって、それはほんとうのスゴさが十分に知れ渡っていないこと。有酸素運動のメリットというとたいてい心肺機能を強化できるとか、インスリン抵抗性や動脈硬化が改善するというのですが、そんな説明では人の心に響くわけがない。

有酸素運動のほんとうのスゴさは、今が健康だろうが、闘病中だろうが、長生きできるようになること。


米国には身体活動のガイドラインがあって、成人では週に有酸素運動を中強度(ウォーキングなど)なら150分以上、高強度(ランニングなど)なら75分以上、加えて筋トレを週2回以上することが推奨されています。

米国人はネコも杓子もランニングしている印象がありますが、実際にガイドラインを満たす身体活動をしているのは、成人全体の16%。有酸素運動だけ満たしたのは24%、筋トレだけは4.5%だとか。

そしてここからがスゴいのですが、50万人の成人米国人を対象に調査したところ、ガイドラインを満たす運動をしていた人は、全ての死亡原因をまとめた比較で、運動をしていない人に比べ、死亡率が40%、有酸素運動だけでもしていれば29%も減少していたのです。

死因を癌、心血管系、事故・ケガなどと8つの原因別に分けたとき、有酸素運動はすべての原因別死亡率を減少させていました。

そして、付け加えればこの効果は、健康人より基礎疾患のある人でより大きかったのです。


日本人でのデータもあります。それは糖尿病患者を対象にした研究ですが、1日30分程度のウォーキングで、なんと死亡率はほぼ半減しました。

この研究では、当初は心臓病による死亡率が減ることで、全体の死亡率を減少させるだろうと予想を立てていたようですが、実際は心臓病での死亡はそんなに減っていなくて、それではなぜ死亡率が半減までしたのかよくわからないという、何とも締まらない結末になるのですが、それにしても半減とはスゴい。

日頃、医者というのは、わずかな人数を対象にした研究で、吹けば飛ぶような数値の差を、統計式をこねくりまわして有意差があるとかないとかで大騒ぎしているのですが、それを思えば、何千、何万人単位で30%とか50%の差なんて、開いた口がふさがりません。

ここまで来ても、意気地のない私なんか「あまり膝に負担をかけると、膝関節症になるから・・」と駄々をこねたくなるのですが、最近講演で聞いた話では、ランニングしている人の方が、何もしていない人より膝関節症になりにくいとのことなので、残念ながら心配無用のようです。

「あんまり時間が・・」という最後の粘りにも、それなら筋トレは置いといて、まずは有酸素運動だけでもすべきというのが、エビデンスに基づく冷徹な結論。文献を読み過ぎたせいか、どうにも逃げ場がなくなって困ってしまいます。あとは朝の犬の散歩を何とか有酸素運動と呼べないかと、どこまでも図々しく考えているのですが、チンタラ歩いているだけなので、呼べるワケがない・・・。


有酸素運動とはいえないか!?


 

(参考文献)

1) Physical Activity Guidelines for Americans 2nd edition
https://health.gov/sites/default/files/2019-09/Physical_Activity_Guidelines_2nd_edition.pdf

2) Recommended physical activity and all cause and cause specific mortality in US adults: prospective cohort study
Zhao M, et al.
BMJ
2020;370:m2031

3) Leisure-time physical activity is a significant predictor of stroke and total mortality in Japanese patients with type 2 diabetes: analysis from the Japan Diabetes Complications Study(JDCS)
Sone H, et al.
Diabetologia
2013;56:1021-1030

 

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投稿者: 美容外科・美容皮膚科 青い鳥