肝斑
1. 定義と特徴
肝斑は、顔面の日光露出部位に対称的に現れる後天性の色素沈着です。よく「地図上に広がる」と表現されるように肝斑の境界は比較的明瞭で、また他のシミと混在することがあります。まぶたには現れないことが肝斑の大きな特徴です。 この症状は主に妊娠可能年齢の女性に発症しますが、まれに男性にも現れることがあります。
2. 原因
肝斑の発症には複数の要因が関与しています。遺伝的素因が基盤にあり、そこに紫外線曝露、ホルモンの影響(妊娠や経口避妊薬の使用など)、さらには皮膚の炎症が加わることで発症します。これらの要因が複雑に絡み合うことで、メラニン産生が過剰になり、肝斑が形成されると考えられています。
3. 生活への影響
肝斑は生命に関わる疾患ではありませんが、顔面に生じる色素斑のため、患者の生活の質に大きな影響を与えます。外見的な問題から自尊心の低下や社会活動の制限につながることがあります。慢性的な経過をたどり、治療に抵抗性を示すことが多いため、長期的な管理が必要となります。
4. 治療法
肝斑の治療には様々なアプローチがあります。
⚪️外用薬では、ハイドロキノン(単独または三剤配合クリーム)が最も効果的とされています。その他にもアゼライン酸、コウジ酸、トラネキサム酸、システアミン、レチノイドなどが使用されます。
⚪️ケミカルピーリングもよく用いられる治療法で、グリコール酸、サリチル酸、トリクロロ酢酸などが使用されます。
⚪️レーザー・光線療法では、低出力Qスイッチ Nd:YAGレーザー、ピコ秒レーザー、高強度パルス光(IPL)などが治療に使われています。
⚪️近年、経口治療も注目されており、特にトラネキサム酸が中等度から重度の症例に有望とされています。
多くの場合、これらの治療法を組み合わせた複合的アプローチが最良の結果をもたらします。
5. 予防と管理
肝斑の予防と管理において最も重要なのは、適切な日光からの防御です。広域スペクトルの日焼け止めを日常的に使用することが推奨されます。
6. 今後の課題
肝斑治療の大きな課題は、治療中止後の高い再発率です。また、最適な治療戦略を決定するには、長期的なフォローアップを含むさらなる厳密な研究が必要です。特に新しい治療法の有効性と安全性を確立するためには、大規模な臨床試験が求められます。
7. 結論
肝斑は依然として治療が難しい皮膚疾患ですが、治療法の進歩により管理の選択肢は増えています。現在のところ、外用ハイドロキノンと複合的なアプローチが最も効果的とされていますが、経口トラネキサム酸などの新しい治療法も期待されています。今後の研究により、さらに効果的で持続可能な治療法が開発されることが期待されます。
肝斑の治療
日本人の肌に適した世界標準治療を
肝斑の世界標準の治療といえば3剤併用療法(トレチノイン、ハイドロキノン、ステロイド)が有名ですが、治療が長期にわたることを考えると、副作用が懸念されるステロイドは使いにくい。
2剤併用療法(トレチノイン、ハイドロキノン)をベースにして、補助療法としてトラネキサム酸の内服、ビタミンCの外用を用いるのが、もっとも日本人の肌に合った肝斑治療と言えるでしょう。
院長コラム 〜日本人にも世界標準治療を〜
当院の肝斑治療は、特殊なものに映るかもしれませんが、世界に目をやればこれこそ標準的であって、レーザートーニングとトラネキサム酸内服に依存しすぎた日本の肝斑治療こそスタンダードを大きく逸脱していると非難されるべき。
個人的にはレーザートーニングを完全に否定しているわけではありませんし、アジアでは一般的な治療であることくらいは承知していますが、まずは当院で行っているようなスタンダードな治療をきちんと行って、それでも効果がないときにやむなく(!)選択すべきだと考えています。
なお、肝斑治療にビタミンCやビタミンEをトラネキサム酸と併用して内服させるのは、日本のローカル・ルールであることを最後に付け加えておきます。
こちらのブログ記事もお楽しみ下さい
日光からの防御
治療の大前提
肝斑において、日光対策は治療の大前提。
肝斑の発症・進展には、日光暴露が重要な役割を果たしています。「肝斑は光老化のひとつの症状である」という見方すらあるほど。
これまでの対策で不十分だったからこそ、肝斑が発症しているという現実をまず認めたうえで、もう一段強化する必要があります。
- 対策が不十分だったから、肝斑ができたことを認識する
- 紫外線量の多い時間帯(10時〜14時)は外出しない
- 止むを得ず外出するときは、その前に日焼け止めを塗る
- 日焼け止め以外の対策(日傘、帽子、衣服、サングラスなど)も取り入れる
もし、ここまでは無理と思われたら、治療せず、肝斑はメイクでカバーすることを考えた方がいいでしょう。
肝斑治療における日焼け止め
肝斑治療における日焼け止めの重要性は非常に高く、以下のような点が重要です:
1 予防と治療の基本:
⚪️日焼け止めは肝斑の予防と治療の両方において最も基本的で重要な要素です。
⚪️UVAとUVBの両方から保護する広域スペクトルの日焼け止めを使用することが推奨されます。
2 SPF(Sun Protection Factor)とPA:
⚪️SPF30以上、PA+++以上の日焼け止めを選択することが望ましいです。
⚪️より高いSPFとPAの製品を使用することで、さらなる保護効果が期待できます。
3 可視光線からの保護:
⚪️最新の研究では、可視光線も肝斑の悪化に関与する可能性が示唆されています。
⚪️酸化鉄を含む色付きの日焼け止めは、可視光線からも保護する効果がありますが、日本で製造販売される日焼け止めは酸化鉄を含んでいても可視光線防御には十分ではなく、この意味で推奨できる日焼け止めはありません。
⚪️可視光線からの保護のためには、抗酸化療法(ビタミンE+Cなど)を推奨します。
4 適切な使用方法:
⚪️顔全体に十分な量(顔+首で1/2ティースプーン)を塗布することが重要です。
⚪️2-3時間おきに塗り直すことが推奨されます。特に、汗をかいたり、水に触れた後は必ず塗り直しましょう。
5 年中使用の重要性:
⚪️肝斑は季節を問わず悪化する可能性があるため、一年を通して日焼け止めを使用することが大切です。
⚪️曇りの日でも紫外線が降りそそぐため、毎日の使用が推奨されます。
6 他の治療法との併用:
ハイドロキノンやトレチノインなどの外用薬と併用することで、治療効果を高めることができます。
7 物理的な日焼け対策:
日焼け止めだけでなく、帽子やサングラス、日傘の使用も併せて行うことが効果的です。
8 敏感肌への配慮:
敏感肌の方は、肌に刺激を与えにくいミネラルベースの日焼け止めを選択しましょう。
9 定期的な受診:
定期的に皮膚科、美容皮膚科を受診し、肝斑の状態をチェックすることが大切です。
適切な日焼け止めの使用を肝斑治療の中心に据えることで、より効果的な治療と再発予防が可能となります。
こちらのブログ記事もご覧下さい
「2剤」併用療法
日本人のゴールドスタンダード
肝斑の色をうすくするもっとも有効な美白剤はハイドロキノン。そして3剤併用療法(トレチノイン、ハイドロキノン、ステロイド)として使用するのが、世界的にはスタンダードであり、もっとも有効な治療法とされています。
ただし、ステロイドを長期に使用すると、酒さ様皮膚炎(ステロイド酒さ)が生じるリスクがあります。そのため当院では、ステロイドを除いた2剤併用療法(トレチノイン、ハイドロキノン)を肝斑治療のベースにしています。
ハイドロキノンやトレチノインは、いずれも刺激性があり、医師の適切な指導の下で使う必要があります。
肝斑治療におけるトレチノインの文献的考察
トレチノインは肝斑治療に広く使用されている有効な治療法の1つです。
メカニズム:
⚪️チロシナーゼ転写の抑制
⚪️表皮ケラチノサイト代謝と turnoverの促進
⚪️メラノソームの輸送とメラニン損失の減少
⚪️他の外用薬の経皮吸収促進
単剤での効果:
⚪️0.1%トレチノインクリームで68%の患者が改善(24週間使用後)
⚪️0.05%トレチノインでMASIスコアが32%改善(10ヶ月使用後)
合剤での効果:
⚪️ハイドロキノン、コルチコステロイドとの3剤併用療法(TC)が最も効果的
⚪️TCで77%の患者が完全またはほぼ完全に改善(8週間使用後)
副作用:
⚪️紅斑、落屑、灼熱感、乾燥、そう痒などの刺激症状が高頻度で出現
⚪️0.05%に比べ0.1%でより強い副作用
他の使用法:
⚪️ハイドロキノンとの2剤併用でも効果あり
⚪️ケミカルピーリングとの併用も効果的
トレチノインは肝斑に対して高い効果を示しますが、濃度や使用法を適切に選択し、副作用に注意しながら使用することが重要です。
肝斑治療におけるハイドロキノンのの文献的考察
1 ハイドロキノン単独またはレチノイドとコルチコステロイドとの併用(トリプルコンビネーション)が、最も効果的でエビデンスの高い治療法とされています。
2 ハイドロキノンは4-5%の濃度で使用され、チロシナーゼ阻害により色素沈着を抑制します。
3 トリプルコンビネーション(ハイドロキノン4%、トレチノイン0.05%、フルオシノロンアセトニド0.01%)は、単剤よりも効果が高く、8週間で26%の患者で完全な消失が見られました。
4 ハイドロキノンの主な副作用は刺激感で、まれに外因性組織褐変症のリスクがあります(注:日本人では発症例はありません)。
5 他の治療法(化学ピーリング、レーザー、経口トラネキサム酸など)も検討されていますが、ハイドロキノンほど効果や安全性のエビデンスは確立していません。
6 日焼け止めの使用は非常に重要で、可視光線からの保護も推奨されています。
7 維持療法として、ハイドロキノンを週2回程度に減量したり、他の薬剤と組み合わせる方法が提案されています。
したがって、ハイドロキノンを含むトリプルコンビネーション療法が、現時点で最も効果的な肝斑の治療法と考えられています(注:当院ではステロイドを抜いたハイドロキノン+トレチノインの2剤併用治療を勧めています)。
こちらもご参照下さい
補助療法
トラネキサム酸内服
肝斑の病態の特徴と言えるのは、多くの経路を介してメラニン産生が刺激されていることですが、トラネキサム酸(トランサミン)は、数ある刺激経路の中でも、肥満細胞、血管系を介した刺激経路を抑制します。
トラネキサム酸(トランサミン)の内服は、位置づけとしては補助療法ですが、肝斑治療には欠かせません。
トラネキサム酸の投与量は、世界的に見てもっとも標準的な1回1錠(250ミリグラム)、1日2回。投与期間は6ヶ月を一応の目安として、3~6ヶ月の休薬期間を置くよう指導しています。
価格(税込) | |
---|---|
トラネキサム酸(1日500mg 28日分) | 1,320円 |
肝斑治療におけるトラネキサム酸(トランサミン)の文献的考察
トランサミン(トラネキサム酸)は、近年世界的に肝斑治療において注目を集めている薬剤です。元々は抗線溶薬として開発されましたが、その色素沈着抑制効果が発見され、肝斑治療に応用されるようになりました。
肝斑治療におけるトランサミンの主な作用機序は以下の通りです:
⚪️プラスミノーゲン/プラスミン系の阻害:これにより、メラノサイトの活性化を抑制します。
⚪️メラニン生成の抑制:チロシナーゼ活性を直接的に阻害します。
⚪️血管新生の抑制:肝斑部位の微小血管を減少させる効果があります。
⚪️抗炎症作用:皮膚の炎症を軽減し、間接的にメラニン生成を抑制します。
トランサミンは経口投与、局所塗布、マイクロニードリングやイオン導入などの経皮的投与など、様々な方法で使用されます。
経口投与に関する研究結果:
●Del Rosarioらの研究(2018年)では、1日500mgの経口トランサミン酸を12週間投与した結果、プラセボ群と比較して有意なMASI(Melasma Area and Severity Index)スコアの改善が見られました。
●Karnらの研究(2012年)では、1日500mgの経口トランサミン酸投与で、12週間後にMASIスコアが70%改善しました。
●Tanらの研究(2017年)では、経口トランサミン酸とトリプルコンビネーション療法(ハイドロキノン、トレチノイン、ステロイド)の併用で、69%のMASI改善が見られました。
局所塗布やその他の投与方法に関しても、いくつかの研究で有効性が報告されています。
トランサミンの利点:
⚪️比較的安全性が高く、重篤な副作用が少ない。
⚪️経口投与が可能で、使用が容易。
⚪️他の治療法と併用可能。
注意点:
●血栓症のリスクがあるため、血栓性疾患の既往がある患者には禁忌。
●長期使用の安全性に関するデータがまだ十分ではない。
●妊娠中の使用に関しては慎重な判断が必要。
トランサミンは単独療法としても、また他の治療法(外用治療やレーザー治療など)との併用療法としても有望な選択肢となっています。しかし、個々の患者の状態や他の健康上の問題を考慮し、医師の指導のもとで適切に使用する必要があります。また、肝斑治療においては、日焼け止めの使用など、適切な紫外線防御策を併用することが重要です。
ビタミンC外用
ビタミンCの効果は、ハイドロキノンには劣るものの、副作用が少なく使いやすいため、ハイドロキノンが使えない場合の代替薬というのが、最近の総説の評価。
肝斑治療の外用薬は、レチノイドにしてもハイドロキノンにしても刺激性があるため、使いやすいビタミンC製剤があれば、それを外用薬のベースにすることをおすすめします。
肝斑治療におけるビタミンCの文献的考察
ビタミンCの局所使用は、肝斑治療の選択肢の一つとして検討されています。主な要点は以下の通りです:
⚪️ビタミンCは銅イオンをキレート化することで、メラニン生成を抑制する作用があります。
しかし、肝斑治療における有効性については研究結果が一定していません:
●Huh et alの研究では、ビタミンCイオン導入と蒸留水イオン導入を比較し、有意な改善は見られませんでした。
●Espinal-Perez et alの研究では、5% L-アスコルビン酸と4%ハイドロキノンを比較し、ハイドロキノンの方が優れた結果を示しました(93% vs 63%の改善)。
●ただし、副作用はハイドロキノン群の方が多く見られました(69% vs 6%)。
⚪️ビタミンCは単独使用よりも、他の美白成分と組み合わせて多くは使用されています。
⚪️マイクロニードリングとビタミンCの併用療法は、単独使用よりも効果が高い可能性が示唆されています。
以上より、ビタミンCは肝斑治療の補助的な選択肢として考えられますが、単独での効果は限定的な可能性があります。他の治療法との併用や、副作用の少ない代替治療として検討する価値はあります。
ビタミンC製剤はこちらをお勧めします
よくいただくご質問
肝斑はどんなシミですか?
肝斑は、主に30~40代の女性に多く見られる後天性の色素斑です。
典型的には、顔の頬骨のあたりを中心に「地図状」に境界が比較的明瞭に広がるのが特徴です。「左右対称性」に現れるとされますが、片側性のこともあります。
頬だけではなく、額や口周囲にも見られます。
肝斑の原因は?
A 紫外線
B 女性モルモン
C 遺伝的素因
A 紫外線
肝斑を光老化の一症状とする考え方もあります。
B 女性モルモン
妊娠、出産、また女性ホルモン製剤の内服を契機にできることがあります。
C 遺伝的素因
肝斑は家族内発生することが知られています。ただし、原因遺伝子は特定されていません。
⚪️肝斑の発症には、ホルモンバランスの乱れが大きく関与しています。特に妊娠や経口避妊薬の使用は、女性ホルモンの変動を引き起こし、色素細胞の活性化を促進します。これにより、過剰なメラニンが生成され、肝斑が形成されます。また、ストレスもホルモンバランスを崩す要因となり、肝斑の症状を悪化させることがあります。
⚪️紫外線は肝斑の発症や悪化に寄与する重要な要因です。日光に含まれる紫外線は、皮膚のメラノサイトを刺激し、メラニンの生成を促進します。特に夏場や日差しの強い日には、日焼け止めを使用することが不可欠です。さらに、UVカットの帽子や日傘を利用することで、紫外線から肌を守ることができます。日常的に紫外線対策を行うことで、肝斑の悪化を防ぐことが可能です。
⚪️肝斑の悪化を防ぐためには、スキンケアで摩擦刺激を避けることが重要です。洗顔やメイクの際に肌を強くこすったり、過度にマッサージを行ったりすると、皮膚にダメージを与え、肝斑を悪化させる可能性があります。優しく洗顔し、化粧品を塗布する際も、肌に負担をかけないように心掛けましょう。
皮膚への摩擦刺激で肝斑は発症しますか?
しません。
摩擦刺激で発症するのは色素沈着です。
ただし、肝斑の部位ではバリア機能が障害を受けているので、日常のスキンケアにおいて摩擦刺激は避けなければなりません。
どのようにして肝斑はできるのですか?
肝斑では、さまざまな経路からメラニン形成が刺激されます。少なくとも主要な経路が真皮由来であることは間違いありません。
真皮由来の経路として、
1)線維芽細胞
2)血管系
3)肥満細胞
4)女性ホルモン
5)酸化ストレス
を介した刺激でメラニンが形成されることが知られています。
問題は、この経路が複雑に絡み合って、一筋縄ではいかないこと。
現在の研究では、分子レベル、遺伝子レベルまでさかのぼっての反応経路の全容の解明に力が注がれている状況で、どうしたらこの刺激経路を全体的に抑え込むことができるかまでに至っていません。
肝斑の治療法にはどのようなものがありますか?
肝斑治療には複数のアプローチがあり、当クリニックでは世界標準治療に基づいた日本人の肌に適した治療を行っています。
【基本治療】
2剤併用療法:トレチノイン+ハイドロキノン(ステロイドを除いた安全な組み合わせ)
補助療法:トラネキサム酸内服(1回250mg、1日2回)、ビタミンC外用
【その他の治療法】
ケミカルピーリング:グリコール酸、サリチル酸、トリクロロ酢酸
レーザー・光線療法:低出力Qスイッチ Nd:YAGレーザー、ピコ秒レーザー、IPL
ハイドロキノンとはどのような薬剤ですか?
ハイドロキノンは肝斑治療において最も効果的な美白剤とされています。
4-5%の濃度で使用され、チロシナーゼ抑制効果によりメラニン色素の生成を阻害します。
世界的には3剤併用療法(トレチノイン+ハイドロキノン+ステロイド)が標準治療ですが、当院では長期的な治療になることを考慮し、副作用が懸念されるステロイドを除いた2剤併用療法(トレチノイン+ハイドロキノン)をベースとした治療を推奨しています。
主な副作用は刺激感で、日本人ではきわめて稀な外因性組織褐変症の発症例はありません。
トラネキサム酸の効果について教えてください。
トラネキサム酸は肝斑治療において欠かせない補助療法です。数あるメラニン産生刺激経路の中でも、肥満細胞、血管系を介した刺激経路を抑制する作用があります。
【作用機序】
◎プラスミノーゲン/プラスミン系の阻害によるメラノサイト活性化の抑制
◎血管新生の抑制
◎抗炎症作用
【投与方法】
1回250mg、1日2回(世界標準用量)
投与期間:6ヶ月を目安とし、6ヶ月の休薬期間を設けています
*血栓症リスクがあるため、女性ホルモン補充療法を受けている方、血栓性疾患の既往がある方は禁忌です
肝斑治療でレーザートーニングは有効ですか?
◉レーザートーニングは肝斑治療の選択肢の一つですが、当院では慎重な姿勢を取っています。
◉世界標準治療では、まず外用薬による治療(ハイドロキノン+トレチノイン)を十分に行い、それでも効果が不十分な場合に考慮すべき治療法と考えています。
◉レーザートーニングとトラネキサム酸内服に過度に依存した日本の肝斑治療は、世界標準から逸脱していると言えるでしょう。
肝斑とシミが混在している場合、同時に治療できますか?
肝斑とシミが混在している場合、治療の順序が重要です。
【肝斑の症状が中等度~重度の場合】
まず肝斑治療を優先
肝斑のコントロール後にシミ治療
【肝斑の症状が軽度の場合】
悪化しないよう注意しながら並行治療が可能
シミ治療(レーザー・光治療)は、肝斑を悪化させる可能性があるため、肝斑治療も併用させる必要があります。
肝斑治療における日焼け止めの重要性について教えて下さい。
肝斑治療において日光対策は治療の大前提です。肝斑は「光老化のひとつの症状」という見方があるほど、紫外線曝露が重要な役割を果たしています。
【推奨される日焼け止め】
◎SPF30以上、PA+++以上
学術文献では可視光線から保護する「色付き」の日焼け止めが推奨されますが、日本では入手困難なため、「色付き」を選ぶ必要はありません(日本の「色付き」は可視光線対策になっていません)。
【使用方法】
◎顔+首全体に1/2ティースプーンの量を塗布
◎外に出ている時は2時間おきに塗り直し
◎年中使用(曇りの日や室内でも)
【その他の対策】
◎紫外線量の多い時間帯(10時~14時)の外出を控える
◎日傘、帽子、サングラスの併用
肝斑のエビデンス(Xへの投稿)
- 肝斑(1)
なぜ肝斑ができるかわかりきっていないが、リスクファクターとして
・紫外線や可視光線への暴露
・遺伝的素因
・妊娠 ・女性ホルモンの投与
が挙げられる。
Am J Clin Dermatol.
2020;21:173-225 (2022年11月21日)
- 肝斑(2)
肝斑の症状は慢性に経過し、治療も難しい。治療を中断したり、日光への暴露でしばしば再発する。
Am J Clin Dermatol.
2020;21:173-225 (2022年11月22日)
- 肝斑(3)
(完治を目指すのではなく)今の症状を少しでも改善すること、そして再発を防ぐことを治療のゴールとすべき。
Am J Clin Dermatol.
2020;21:173-225 (2022年11月23日)
- 肝斑(4)
美白剤は肝斑治療のゴールドスタンダードとされ、ハイドロキノンがもっとも多く用いられ、また世界中でエビデンスが積み重ねられている。
Am J Clin Dermatol.
2020;21:173-225 (2022年11月24日)
- 肝斑(5)
美白剤
臨床試験ではハイドロキノン3~4%で結果が出ているが、日焼け止めを併用することの重要性も示されている。
Am J Clin Dermatol.
2020;21:173-225 (2022年11月25日)
- 肝斑(6)
美白剤
20%アゼライン酸は、4%ハイドロキノンとの比較試験で同等の結果を出している。ただし刺激症状はアゼライン酸の方が強いという評価。
(補足:刺激反応はアゼライン酸の方が強いというのは意外!)
Am J Clin Dermatol.
2020;21:173-225 (2022年11月26日)
- 肝斑(7)
美白剤
ビタミンCのイオン導入は、精製水を使った導入と効果は変わらなかった。
Am J Clin Dermatol.
2020;21:173-225 (2022年11月27日)
- 肝斑(8)
美白剤 5%ビタミンC外用液は、ハイドロキノンより副作用の出現は少ないが、効果は4%ハイドロキノンに劣った。
Am J Clin Dermatol.
2020;21:173-225 (2022年11月28日)
- 肝斑(9)
美白剤
ルシノールは基材との比較で、8週間使うことで肝斑の色味の改善が報告されている。リポソームでくるむことで、刺激症状は緩和された。
Am J Clin Dermatol.
2020;21:173-225 (2022年11月29日)
- 肝斑(10)
レチノイド
レチノイドは、メラニンの合成と表皮細胞への分配を阻害する。また表皮ターンオーバーを促進することで、メラニンの排泄を早めるとともに他の外用剤の浸透を高める。
Am J Clin Dermatol.
2020;21:173-225 (2022年11月30日)
- 肝斑(11)
レチノイド
0.1%トレチノインを40週使用した試験では、68%で肝斑は改善を示した。ただし、24週までは改善を認めず、88%で刺激症状の副作用を生じた。
Am J Clin Dermatol.
2020;21:173-225 (2022年12月1日)
- 肝斑(12)
レチノイド
アダパレン0.1%(ディフェリン)と0.05%トレチノインの肝斑に対する比較試験では、効果は同等で、トレチノインの方が副作用が強かった。
Am J Clin Dermatol.
2020;21:173-225 (2022年12月2日)
- 肝斑(13)
レチノイド
2種類のレチノールを含むコスメ、ネオレチンの肝斑への効果を見る臨床試験では、74%で改善を認め、また副作用の出現は28例中3例にとどまった。
Am J Clin Dermatol.
2020;21:173-225 (2022年12月3日)
- 肝斑(14)
紫外線だけでなく可視光線まで防ぐ日焼け止めを4%ハイドロキノンと併用した群の方が、紫外線だけを防ぐ日焼け止めをハイドロキノンと併用した群より、肝斑は見た目だけでなく組織検査でも改善していた。
(補足:肝斑なら、「色付き」日焼け止め!)
Am J Clin Dermatol.
2020;21:173-225 (2022年12月4日)
- 肝斑(15)
トラネキサム酸外用(塗り薬や皮内注射)は、最近研究が進むが、結果はさまざま(効いたとするものもあれば、無効とするものもある)。
Am J Clin Dermatol.
2020;21:173-225 (2022年12月5日)
- 肝斑(16)
トラネキサム酸外用(塗り薬や皮内注射)での、マイクロニードリングと皮内注射の比較では、有意差はないが、マイクロニードリングの方が効果的かもしれない。
Am J Clin Dermatol.
2020;21:173-225 (2022年12月6日)
- 肝斑(17)
トラネキサム酸外用(塗り薬や皮内注射)の副作用は、ハイドロキノンよりはマイルド。
Am J Clin Dermatol.
2020;21:173-225 (2022年12月7日)
- 肝斑(18)
3剤併用療法(ハイドロキノン、レチノイド、ステロイド)は、肝斑に対する安全で効果的な治療とされる。
Am J Clin Dermatol.
2020;21:173-225 (2022年12月8日)
- 肝斑(19)
3剤併用療法(ハイドロキノン、レチノイド、ステロイド)は、3剤のうちのどの2剤の組み合わせより有効(どれも欠かせないということ)。3剤では77%で肝斑は完全ないしほぼ消失したが、2剤の組み合わせでは最大47%。
Am J Clin Dermatol.
2020;21:173-225 (2022年12月9日)
- 肝斑(20)
569例で3剤併用療法(ハイドロキノン、レチノイド、ステロイド)の安全性と効果を検証した12ヶ月の臨床試験で、副作用のために試験を中断した人は2.5%だった。
Am J Clin Dermatol.
2020;21:173-225 (2022年12月11日)
- 肝斑(21)
ほとんどの肝斑の臨床研究では、客観的な評価ができていないため、議論がまとまらない。
Am J Clin Dermatol.
2020;21:173-225 (2022年12月12日)
- 肝斑(22)
ケミカルピーリング
グリコール酸ピーリングの臨床研究がいくつかあるが、外用療法以上の結果は残せていない。
Am J Clin Dermatol.
2020;21:173-225 (2022年12月13日)
- 肝斑(23)
ケミカルピーリング
グリコール酸ピーリングを肝斑治療に加えた場合、色素沈着のリスクが増えることに留意。
Am J Clin Dermatol.
2020;21:173-225 (2022年12月14日)
- 肝斑(24)
ケミカルピーリング
サリチル酸ピーリングでは有意な治療効果は得られていない。
Am J Clin Dermatol.
2020;21:173-225 (2022年12月15日)
- 肝斑(25)
ケミカルピーリング
サリチル酸とマンデル酸を組み合わせたピーリングは、敏感肌、色の濃い肌タイプの人にとってより安全な選択肢になる。マンデル酸は分子量が大きく、皮膚への浸透が安定しているため、刺激になりにくい。
Am J Clin Dermatol.
2020;21:173-225 (2022年12月16日)
- 肝斑(26)
ケミカルピーリング
トリクロロ酢酸(TCA)ピーリングは、色の濃い肌タイプの人に使われているが、ランダム化比較試験のエビデンスがない。
Am J Clin Dermatol.
2020;21:173-225 (2022年12月17日)
- 肝斑(27)
IPL
肝斑に対する光治療の効果を見る臨床試験の結果はさまざま。再発を防ぐためにハイドロキノンまたは3剤併用療法と組み合わせるのがよい。
Am J Clin Dermatol.
2020;21:173-225 (2022年12月18日)
- 肝斑(28)
レーザートーニング
最近、低出力のヤグレーザー、「レーザートーニング」と称される、が肝斑治療によく使われるようになった。
(補足:レーザートーニングという言葉が総説にも登場。)
Am J Clin Dermatol.
2020;21:173-225 (2022年12月19日)
- 肝斑(29)
レーザートーニング
トラネキサム酸の内服と組み合わせた方が、トーニング単独より効果的。
Am J Clin Dermatol.
2020;21:173-225 (2022年12月20日)
- 肝斑(30)
レーザートーニング
低濃度のハイドロキノンより効果は高いが、白斑のリスクがある。
Am J Clin Dermatol.
2020;21:173-225 (2022年12月21日)
- 肝斑(31)
パルス色素レーザー
肝斑の再発率を抑えた唯一の治療。肝斑の血管病変をターゲットにしている。
(補足:肝斑の血管を叩くことは、より病態の本質に迫っているのかもしれない。)
Am J Clin Dermatol.
2020;21:173-225 (2022年12月22日)
- 肝斑(32)
トラネキサム酸内服
標準的な外用療法が効かない時に最も効果を発揮する。
Am J Clin Dermatol.
2020;21:173-225 (2022年12月23日)
- 肝斑(33)
トラネキサム酸内服
内服量は1日500~1,500mg。最も一般的なのは1回250mg、1日2回。
Am J Clin Dermatol.
2020;21:173-225 (2022年12月24日)
- 肝斑(34)
トラネキサム酸内服
副作用で多いのは、胃腸障害、過少月経、頭痛、筋肉痛など。
Am J Clin Dermatol.
2020;21:173-225 (2022年12月25日)
- 肝斑(35)
トラネキサム酸内服
深部静脈血栓症のリスクがあるため、血栓傾向のリスクファクターをチェックすべき。
Am J Clin Dermatol.
2020;21:173-225 (2022年12月26日)
- 肝斑(36)
トラネキサム酸内服
組織学的検査から、表皮ではメラニン(色味)の減少、真皮では(炎症に関わる)肥満細胞、血管の減少が証明される。
Am J Clin Dermatol.
2020;21:173-225 (2022年12月27日)
- 肝斑(37)
トラネキサム酸内服
最近のメタ分析では、有効性は、トラネキサム酸の内服>皮内注射>外用の順。
Am J Clin Dermatol.
2020;21:173-225 (2022年12月28日)
- 肝斑(38)
飲む日焼け止め(ファーンブロック)
ランダム化比較試験では、有効性は示せなかった。
Am J Clin Dermatol.
2020;21:173-225 (2022年12月29日)
- 肝斑(39)
レビュー論文の結論!
ハイドロキノン外用は、もっとも幅広く検証され、理論的には副作用もあるが、多くの臨床試験で高い安全性が実証されている。
Am J Clin Dermatol.
2020;21:173-225 (2022年12月30日)
- 肝斑(40)
レビュー論文の結論!
3剤(ハイドロキノン+トレチノイン+ステロイド)併用療法は、もっとも効果的な治療法であり続けている。少なくとも12ヶ月までの使用の安全性は確立されている。
Am J Clin Dermatol.
2020;21:173-225 (2022年12月31日)
- 肝斑(41)
レビュー論文の結論!
再発率は、治療開始時の肝斑の重症度にもっとも関連している。
Am J Clin Dermatol.
2020;21:173-225 (2023年1月1日)
- 肝斑(42)
レビュー論文の結論!
肝斑の治療には、SPF30以上の日焼け止めを使うことは必須。
Am J Clin Dermatol.
2020;21:173-225 (2023年1月2日)
- 肝斑(43)
レビュー論文の結論!
肝斑の治療には、可視光線も防御できるよう酸化鉄を含む日焼け止めを使うことが推奨される。
Am J Clin Dermatol.
2020;21:173-225 (2023年1月3日)
- 肝斑(44)
レビュー論文の結論!
トラネキサム酸の外用はハイドロキノンと比較して有用性を示せていないが、トラネキサム酸を併用したマイクロニードリング(ダーマペン)では有望な結果が出ている。
Am J Clin Dermatol.
2020;21:173-225 (2023年1月4日)
- 肝斑(45)
レビュー論文の結論!
ビタミンCの外用は、ハイドロキノンが使えないとき、代りとして使うことができる。
Am J Clin Dermatol.
2020;21:173-225 (2023年1月5日)
参考文献
1) Melasma Treatment: An Evidence-Based Review.
McKesey J,et al
Am J Clin Dermatol
2020;21(2):173-25
2) Melasma treatment: a systemic review
Nicoleta Neagu, et al.
J Dermatolg Treat
2022;33(4):1816-1837
3) An update on new and existing treatments for the management of melasma
Christian Gan, et al.
Am J Clin Dermatol
2024;25:717-733
4) Update on melasma - Part I: Pathogenesis
Espósito ACC, et al.
Dermatol Ther
2022;12:1967-1988
5) Update on melasma - Part II: Treatment
Daniel P Cassiano, et al.
Dermatol Ther
2022;12:1989-2012
6) Melasma: Updates and perspectives.
Kwon SH,et al.
Exp Dermatol
2019;28(6):704-708
7) Melasma pathogenesis: a review of the latest research, pathological findings, and investigational therapies.
Rajanala S,et al
Dermatol Online J
2019;25(10):1-6
8) Future therapies in melasma: What lies ahead?
Sarkar R,et al
Indian J Dermatol Venereol Leprol
2020;86(1):8-17
9) Oral Tranexamic Acid for the Treatment of Melasma: A Review
Bala HR,et al
Dermatol Surg
2018;44(6):814-825
10) Melasma treatment: A novel approach using a topical agent that contains an anti-estrogen and a vascular endothelial growth factor inhibitor.
Cohen PR
Med Hypotheses
2017;101:1-5
11) New oral and topical approaches for the treatment of melasma
Grimes PE,et al
Int J Womens Dermatol
2019;5:30-36
12) Near-visible light and UV photoprotection in the treatment of melasma: a double-blind randomized trial
Castanedo-Cazares JP,et al
Photodermatol Photoimmunol Photomed
2014;30(1):35-42
13) Defective barrier function in melasma skin
Lee DJ,et al
J Eur Acad Dermatol Venereol
2012;26(12)1533-1537
14) メラニンからみた美容皮膚科学 美白剤の展望
芋川弦爾
Aesthetic Dermatology
2014;24:17-34